キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
渓谷での大戦果から数時間、秦国が誇る二つの新星千人隊は、ついに昌平君から命じられた天険の要塞『黒狼城(こくろうじょう)』の麓へと到達していた。
「……ありゃあ、一筋縄ではいかねえな」
飛信隊の信が、愛馬の鞍上で顎を突き出しながら不敵に、しかし警戒を孕んだ視線で前方の城を見上げる。
二人の千人将の前に姿を現した黒狼城は、切り立った黒い岩山の山頂と完全に一体化するように築かれた、文字通りの不落の要塞であった。城壁は魏国特有の、硬質な黒色岩を隙間なく積み上げた重厚な造り。その上には、秦軍の接近を察知して、青い甲冑に身を包んだ無数の魏兵が、隙間なく弓矢や弩(おおゆみ)を構えて周囲を睨みつけていた。
「周囲の斜面は急峻、正面の狭い登城道からしか攻め込めない構造だ。普通に攻めれば、本隊が到着する前にこちらが干からびるな」
穿紅軍の軍師・梁が、木札を弾きながら冷汗を流す。河了貂も「うん、力任せに突っ込んだら、城壁からの矢の雨と落石で千人隊なんて一瞬で消えちゃうよ」と同意した。
「だが、総司令の命令は本隊到着前の『隠密制圧』だ。時間をかけて包囲する猶予は無いぞ」
貫が左腕の『超螺旋・流星管』を静かに撫でながら言った。その時、黒狼城の巨大な城壁の頂に、一人の男が姿を現した。
その男が姿を現した瞬間、城壁を包む魏兵たちの士気が、爆発的に跳ね上がるのが麓まで伝わってきた。
男の体躯は、副将の鉄すら一回り上回るほどの巨躯。全身を魏国最上級の分厚い鉄甲羅のような重装甲で固め、その背には、大男の胴体ほどもある巨大な「大斧(たいふ)」を軽々と背負っている。
その男は、麓に陣を敷く穿紅軍と飛信隊を、まるで虫ケラでも見るかのような冷徹な瞳で見下ろすと、渓谷の奥にまで響き渡るような、大地を震わせる咆哮を放った。
「秦国の雛鳥どもが、よくも我が先遣隊を蹂躙してくれたな! だが、この黒狼城に辿り着いたのが貴様らの運命の尽きよ!」
男が大斧を背から引き抜き、城壁の床へドォンと叩きつける。その衝撃だけで、城壁の石片がパラパラと崩れ落ちた。
「我が名は魏竜(ぎりゅう)! 元・趙国三大天、現・魏国が誇る生ける伝説、廉頗(れんぱ)大将軍が四天王――介子坊(かいしぼう)将軍の直弟子にして、この黒狼城を守護する千人将なり! 廉頗軍の、そして介子坊流の『圧倒的な破壊の武』、その身に刻んであの世へ行くがいい!!」
「介子坊の、直弟子……!?」
信の顔つきが、一瞬にして変わった。馬陽の戦いで煮え湯を飲まされた趙国の英雄・廉頗。その右腕たる介子坊の遺伝子を継ぐ猛将が、この城を統括している。
「廉頗四天王の息がかかった将か。相手にとって不足はない」
新たなる強敵の出現。しかし、貫の瞳に宿る『流水岩砕拳』の静謐なる穿光は、微塵も揺らがなかった。
千の軍勢を率いる将として、そして伝説の系譜を継ぐ猛将の挑発を真っ正面から受けるべく、貫は愛槍『積層流星槍』を天へと掲げ、戦場全体を劈くような、淀みのない声を響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、そして『積層流星槍』を以て、貴様が誇る廉頗の武、介子坊の重装甲ごと、その正面から跡形もなく穿ち砕く。魏竜とやら、貴様のその大斧が勝つか、我が穿紅軍の進化した『矛』と『盾』が勝つか、この不落の城塞を舞台に、白黒つけようではないか」
貫の傲る高ぶることのない、しかし「廉頗の遺伝子」すら正面から呑み込むような、絶対的な王者としての覇気をはらんだ自己紹介。
城壁の上の魏竜は、その若き将の放つ凄まじい威圧感に一瞬だけ目を見張ったが、すぐに凶悪な笑みを浮かべた。
「ほぅ……威勢のいいガキだ。面白い、登ってこい! 貴様らの血で、この黒狼城の岩肌をさらに黒く染め上げてくれるわ!」
「貫、あいつの首は譲らねえぞ!」信が闘志を爆発させ、大剣の柄を握り直す。
「分かっている。だが信、まずはあの堅牢な城壁と、魏竜の防陣を崩さねば話にならない」
城壁の上で待ち受ける、廉頗直系の猛将・魏竜。
天険の要塞を前に、若き二人の千人将、そして穿紅軍の梁、鉄、雷、拓は、不落の城を陥落させるための、次なる命懸けの策略を練り始めるのだった。
次回:第37話 天険を穿つ、超螺旋の咆哮
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