キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。あとAI生成の挿絵を作ったので後から載せます。


第3話:装甲戦車の脅威と赤き不屈

蛇甘平原の空気は、いよいよ逃げ場のない熱気と鉄の匂いで満たされていった。魏軍の騎兵隊を退けたのも束の間、秦軍の歩兵たちの前に現れたのは、大地を文字通り踏み鳴らし、削り取りながら進軍してくる魏の誇る装甲戦車隊であった。二頭、あるいは四頭の巨馬に引かれた頑強な木製の車体。その車軸の左右には、触れるものすべてを肉片へと変える巨大な鉄の刃が突き出ている。それが何十、何百と列をなし、地平線を埋め尽くすようにして迫ってくる光景は、歩兵にとって悪夢以外の何物でもなかった。

 

周囲の秦兵たちからは、次々と絶望の叫びが上がっていた。まともにぶつかれば、肉の壁など一瞬で粉砕され、車輪の刃で微塵切りにされる。誰もが本能的に死を察知し、足がすくんでいた。

 

「おいおいおい、嘘だろ……。あんな化け物、どうやって止めりゃいいんだよ!」

 

雷は槍を握り締めながら、引きつった声を上げた。その額からは、先ほどの戦闘とは明らかに違う、冷たい汗が大量に流れ落ちている。

 

「戦車……。あれはただの乗り物じゃない、動く城壁であり、大量虐殺の兵器だ。正面から受け止めた伍は、一瞬で消滅する」

 

梁が冷静に、しかしその声をわずかに震わせながら戦況を分析した。彼の頭脳は必死に生き残る確率を計算していたが、導き出される答えはどれも絶望的な数値ばかりだった。

 

「ひぃっ、あんなの、僕の盾じゃ絶対に防げないよ……! 主人公……いや、貫(かん)! どうしよう、どうしたらいいの!?」

 

拓は壊れかけた盾を胸の前に抱え込み、必死に貫の姿を探した。彼の唯一の救いは、どれほどの絶望を前にしても、決して揺らぐことのないその背中が目の前にあることだった。

 

「落ち着け、拓。深呼吸しろ。雷も梁も、まだ俺たちの足は動く。生き残る手段は必ずある」

 

貫は静かに告げると、左手の竹の管を確認した。先ほどの戦闘で入ったひび割れが、痛々しく走っている。これ以上の無理な連発は、管そのものを完全に破壊しかねない。しかし、この窮地を脱するためには、己の持つすべての技術を出し切るしかなかった。

 

「貫、その管……もう限界だろ。俺の刀の鞘を削って、補強の当て木をしてやる。一分、いや、三十秒だけ持ちこたえろ!」

 

鉄が自身の腰に視線を落とし、素早い手つきで刀の木鞘を剥ぎ取ると、懐から取り出した紐で、貫の竹の管のひび割れ部分に硬い木片を括り付け始めた。長年戦場を生き抜いてきた鉄の手際は、驚くほど正確で迅速だった。

 

「すまない、鉄さん。助かる」

 

「気にするな。お前の槍が折れたら、俺たちの命もそこで終わりだ。……よし、これで少しは強度が戻ったはずだ。だが、過信はするなよ」

 

鉄が紐をきつく縛り終えた瞬間、前方の地面が大きく跳ね上がった。ついに、魏軍の戦車隊の第一陣が秦軍の歩兵防陣へと激突したのだ。

 

凄まじい衝撃音が平原に轟いた。鉄の刃が秦兵の体を容赦なく両断し、絶叫が上がる暇もなく、凄惨な血飛沫が舞い上がる。戦車が通り過ぎた跡には、原型を留めない肉塊と、へし折られた武器だけが残されていた。まさに圧倒的な蹂多。魏兵の御者たちは、狂気的な笑みを浮かべながら鞭を振るい、さらに速度を上げていく。

 

一台の戦車が、猛烈な速度で貫たちの伍へと進路を向けてきた。正面から迫る四頭の巨馬。その巨体が引き起こす風圧だけで、息が詰まりそうになる。左右の車軸から伸びる大刃が、草木をなぎ倒しながら迫ってくる。

 

「散るな! 敵の引きつけてから左右に躱すんだ!」

 

鉄が怒号を上げるが、戦車の速度は想像以上に速い。躱そうとしたところで、横に突き出た大刃の餌食になるのは明白だった。

 

「みんな、俺の後ろから絶対に離れるな!」

 

貫が叫ぶと同時に、その肉体が弾かれたように前へと飛び出した。

 

突進してくる戦車に対し、真っ向から距離を詰める。その無謀とも言える行動に、魏の御者はせせら笑った。

 

「死ね、生意気な歩兵めが!」

 

御者が鞭を鳴らし、馬の速度を最大に上げる。四頭の馬の蹄が、貫の体を踏み潰さんと振り下ろされた。

 

しかし、貫の身体能力と、その脳内に刻まれた『流水岩砕拳』の極意は、その絶望的な暴力を完全に予測していた。貫は迫り来る馬の胸元へと、自らの体を滑り込ませた。

 

硬い馬肌と、そこから放たれる圧倒的な推進力。貫はその凄まじいエネルギーの奔流に対し、自らの両手を円を描くように動かした。流水岩砕拳の「受け流し」の真髄。まともに受ければ全身の骨が砕ける衝撃を、貫は自らの関節を極限まで柔らかく使うことで、ぬるりと横方向へと受け流した。

 

「な……に……!?」

 

御者の目が驚愕に見開かれた。

 

四頭の馬のうち、最も左側にいた巨馬の進路が、貫の手の平によってわずかに内側へと捻じ曲げられたのだ。並んで走っていた馬同士の体が激しく衝突し、戦車の均等なバランスが劇的に崩れる。猛烈な速度で走っていたがゆえに、わずかな軌道のズレが、車体全体に猛烈なガタつきを生じさせた。片側の車輪が地面から浮き上がり、戦車が大きく傾く。

 

「今だ、管槍(かんそう)――!」

 

貫の左手の管が、激しい摩擦音を立てた。鉄が補強してくれた木片がきしみ、悲鳴を上げる。

 

右手で引き絞られた安物の槍が、管の内側を滑り、驚異的な初速をもって放たれた。狙うは馬でも車輪でもない。戦車の上で必死に手綱を引いている、魏兵の御者その人だった。

 

シュバッ!!!

 

空気を鋭く引き裂く閃光。

 

槍の穂先は、大きく傾いた車体の上で体勢を崩していた御者の眉間を、正確無比に撃ち抜いた。頭蓋が砕ける鈍い音が響き、御者は手綱を離して車外へと吹き飛んでいく。

 

「御者が死んだぞ! 馬を止めろ!」

 

背後で見ていた雷が叫び、槍を手に走り出した。

 

主を失い、さらに貫によって進路を乱された馬たちは、パニックに陥って完全に暴走を始めていた。車体は横転しかけ、左右の鉄の刃が虚しく空を掻いている。

 

「雷、拓、梁! 右側の馬の足を払え! 鉄さんは左側を!」

 

貫の指示が飛び、伍のメンバーが電光石火の如く動いた。

 

雷がその持ち前の俊足を活かして戦車の側面に回り込み、横転しかけている車体の隙間から、馬の膝裏へと鋭い突きを放った。梁が的確にその死角を補うようにして、もう一頭の馬の目を槍で突く。

 

「うおおお! これでも、喰らえ!」

 

拓が怪力を振り絞り、大きな岩を戦車の車輪の進路へと投げつけた。傾いていた車輪が岩に乗り上げ、凄まじい破壊音と共に木製の車体が完全に粉砕された。

 

どがしゃぁぁぁん!!

 

巨木が倒れるような大音響と共に、魏の装甲戦車が一台、平原の泥の中に完全に沈黙した。

 

「やった……! やったぞ、戦車を倒したんだ!」

 

雷が槍を掲げて歓声を上げた。周囲で戦車隊の恐怖に怯えていた他の秦兵たちも、その信じられない光景を目撃し、「おおお!」と地鳴りのような歓声を上げ始める。歩兵が単独で、しかも傷者を出さずに戦車を完全に大破させたのだ。それはこの戦場における、小さな、しかし決定的な奇跡だった。

 

「ふぅ……。貫、お前、本当に人間か?」

 

鉄が額の汗を拭いながら、呆然と貫の左手を見た。鉄の木鞘で作った補強材は、先ほどの一撃の衝撃で完全に消し飛んでおり、竹の管にはさらに深い亀裂が入っていた。

 

「この管は、もう次の突きには耐えられないな」

 

貫が苦笑しながら管を外すと、拓が真剣な表情でその管を受け取った。

 

「貫、次はもっと凄いものを作るよ。鉄でも、青銅でもいい。君のその、岩をも砕くような力に耐えられる、最高の管を僕が絶対に作ってみせる。だから、それまでは……死なないでよ」

 

臆病だったはずの拓の瞳には、今は明確な職人としての、そして戦友としての強い決意が宿っていた。

 

「ああ、約束する。……だが、戦場全体を見ろ。喜んでいる暇はまだないぞ」

 

梁が厳しい表情で前方を指差した。

 

彼らが一台の戦車を仕留めたとはいえ、平原全体を見渡せば、秦軍の歩兵線は魏の戦車隊によって各所でズタズタに引き裂かれていた。数多の悲鳴が響き渡り、戦況は圧倒的な劣勢のままだった。

 

「伍長、次の指示を」

 

貫が鉄を見つめると、鉄は深く息を吸い込み、刀を魏軍の本陣へと向けた。

 

「敵の戦車隊の勢いを止めるには、本陣の指揮官を叩くか、こちらの後方にいる騎兵隊と合流するしかない。……貫、お前のその槍と拳、まだ動くか?」

 

「当然だ。腕が千切れるまで、俺の槍は止まらない」

 

貫の言葉に、雷がニカッと白い歯を見せて笑い、梁が静かに頷き、拓が盾を強く構え直した。

 

「よし、行くぞお前ら! 貫の赤い布に続け! この地獄を、俺たちの手で穿ち抜くんだ!」

 

鉄の号令と共に、五人は再び走り出した。戦場を駆けるその赤い閃光は、崩壊しかけた秦軍の前線において、いよいよ無視できない巨大な存在へと成長しようとしていた。




次回:第4話 壊れた管と、猛る拳
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