キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
「ば、馬鹿な……! 我が重装鉄騎の突撃が、たった一枚の盾に押し返されただと!?」
自慢の漆黒の津波を正面から完全に受け止められ、それどころか数倍の斥力で先遣隊を木端微塵に砕かれた光景を目にし、魏軍の副将・馬剛(ばごう)の顔が驚愕と屈辱で歪んだ。人馬一体の超質量が、鉄の『流水反衝・巨鉄盾』の前に完全な静止へと追い込まれたのだ。
「全軍、攻勢に出るぞ! 足の止まった鉄屑どもを一人残らず突き刺せ!」
貫の鋭い号令とともに、穿紅軍の突撃隊長・雷が双剣を振るって側面から魏兵の首を次々と撥ね、鉄の背中で息を呑んでいた九百の新兵たちも、勝利を確信した狂おしいほどの雄叫びを上げて槍を突き出す。
「おのれェェェ! 舐めるなァ、秦国の小着どもがァ!!」
退路を断たれ、完全に孤立した馬剛の瞳に、介子坊軍の意地としての狂乱の火が灯った。馬剛は馬の腹を激しく蹴り上げると、大人の胴体ほどもある巨大な棘付き鉄球を、太い鉄鎖の音をジャラジャラと響かせながら頭上で猛烈に振り回し始めた。その風圧だけで、周囲の砂塵が渦を巻き、近づこうとした穿紅軍の兵士が二人、凄まじい衝撃波で弾き飛ばされる。
「我が一撃は、城壁をも粉砕する破壊の化身! 貴様らの小細工ごとき、まとめて消し飛ばしてくれるわ!!」
馬剛が咆哮し、超高速で回転する巨大な鉄球が、まずはその正面にいた貫の頭部を目がけて、空間を激しく引き裂きながら放たれた。
「――貫、下がれ! 貴様の槍ではその質量は受け止めきれん!」
横合いから王賁が叫び、自身の愛槍を構え直す。だが、貫の瞳に宿る『流水岩砕拳』の静水のごとき穿光は、一寸の揺らぎもなかった。左腕の『超螺旋・流星管』が、キィィィンと高周波の駆動音を響かせ、限界を超えた超高速回転へと移行する。工匠の拓が、魏竜の流星鉄を組み込んでさらに最適化した、穿紅軍の最強の「矛」。
迫り来る死の鉄球を真っ正面に見据え、新たなる千人隊を率い、玉鳳隊の誇る王賁の目の前で真の武の極みを示す者として、貫は馬上、淀みのない声を平原へと響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、あるいは『積層流星槍』を以て、介子坊軍が誇る猛将・馬剛、貴様の放つ城壁破壊の重撃、その芯へと繋がる鉄鎖ごと、正面から跡形もなく穿ち砕く。王賁、玉鳳の槍が至高ならば、その目で確かめるがいい。我が穿紅の槍が、いかにしてこの『破壊の重量』を無へと帰すかを」
貫の傲る高ぶることのない、しかし世界の質量をもねじ切る絶対的な自己紹介の激。その瞬間、貫の右腕が神速で突き出され、積層流星槍が流星管へと叩き込まれた。
(流水岩砕拳・剛流奥義――超螺旋・流星一点穿・鎖断)
ドガァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
流星管の内部で極限まで圧縮された超螺旋の回転エネルギーが、一本の収束された光の矢となって放たれた。貫の放った一撃は、迫り来る巨大な鉄球そのものではなく、それを繋ぐ、激しく回転する「鉄鎖のわずかな一点」へと、寸分の狂いもなく正確に着弾した。
超高速回転する槍の穂先が、魏国特製の頑強な鉄鎖と激突した刹那、凄まじい金属の摩擦火花が爆発する。だが、拓の施した螺旋の破壊力は、鉄鎖の分子結合そのものを強引にねじ切り、文字通り「粉砕」した。
「な、何ぃぃぃっ!?」
馬剛が絶叫する。
遠心力を失い、制御を失った巨大な鉄球は、馬剛の頭上を虚しく通り過ぎ、遥か後方の地面へと激しく激突して岩盤を爆発させた。鉄球を失い、完全に体勢が崩れた馬剛の胸元には、分厚い装甲だけが無防備に晒されていた。
「――仕留めろ、王賁!!」
貫の鋭い声が戦場を駆ける。
「言われなくともッ!!」
王賁の瞳が鋭く輝いた。貫の作った、これ以上ない一瞬の絶技。玉鳳の誇り高き千人将は、その隙を寸分の遅れもなく己の槍へと乗せた。馬を疾走させ、風を切り裂きながら放たれたのは、玉鳳隊の至高の極み――。
(槍術極意――龍指)
ブシュゥゥゥゥゥッ!!!!
王賁の放った電撃的な一突きは、馬剛が身にまとっていた魏国最上級の分厚い重装甲の隙間、その喉元へと正確無比に突き刺さった。槍の穂先が首の後ろへと突き抜ける。
「が、はっ……我が、装甲が……介子坊様の、軍が……」
馬剛は口から大量の血を吐き出し、その巨躯を馬上の上からどさりと地面へと崩れ落とした。
「敵副将、馬剛! 穿紅軍の貫、玉鳳隊の王賁が討ち取ったりィィィ!!!」
番陽が歓喜の声を上げ、玉鳳隊と穿紅軍の全兵士から、山陽の平原を震わせるほどの地鳴りのような大歓声が沸き起こった。副将を失った重装鉄騎兵の残党たちは、完全に戦意を喪失し、散り散りになって敗走を始めた。
「フン、見事な目利きだ、貫。まさかあの速度で回転する鉄鎖の芯を正確に射抜くとはな」王賁が槍を引き、冷徹な中にも、確かに好敵手としての強い敬意をはらんだ視線を貫へと向けた。
「貴殿の『龍指』の速度がなければ、私の超螺旋も無意味だった。見事な一突きだ、王賁」
貫は左腕の流星管をカチャリと鳴らし、静かに息を整えた。
介子坊軍の誇る先遣隊二千、ならびに重装鉄騎兵五百を、競い合い、そして電撃的な連携を以て完全に壊滅させた二つの千人隊。しかし、勝利の余韻に浸る彼らの前に、地平線の彼方から、これまでのものとは比較にならないほどの、天を衝くような漆黒の「将気」の嵐が立ち上りつつあった。本番の戦いは、ここから始まるのだ。
次回:第43話 巨頭、現る
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