キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
馬剛の巨体が砂塵に沈んだ瞬間、魏軍の先遣隊は完全に崩壊した。
「馬剛様が討たれたぞ!」「退け! 退却だ!」と青き装甲の兵たちが蜘蛛の子を散らすように敗走していく。
「追撃だ! 一兵たりとも逃すな!」
玉鳳隊の番陽が興奮気味に槍を掲げ、穿紅軍の雷も「へへっ、手柄の山をさらに積み上げてやるぜ!」と双剣を血に染めて笑う。千人隊となった二つの部隊の士気は、まさに天を衝く勢いであった。
しかし、その勝利の歓声を、大地の底から響くような「不気味な地鳴り」が強引にかき消した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
「……ッ!? 全軍、追撃を止めろ! 陣形を戻せ!」
貫が『積層流星槍』を横一文字に構え、鋭く叫ぶ。王賁もまた、即座に愛馬の手綱を強く引き、表情を極限まで引き締めた。
平原の彼方、敗走していく魏兵たちの背後から、立ち込める土煙を文字通り「割る」ようにして、秦軍の全将兵の肌を粟立たせるほどの、圧倒的な質量を持った漆黒の軍勢が姿を現した。
その数、およそ二万。地平線を埋め尽くす魏国の軍旗の中心には、血のように赤い文字で『介子坊』と大書された巨大な総大将旗が、不気味に翻っている。
軍勢の先頭で黒い巨馬に跨るその男は、全身を岩盤のような漆黒の重装甲で固め、王騎将軍をも彷彿とさせる底知れぬ巨躯を誇っていた。男がただそこに佇んでいるだけで、平原の空気が何倍にも重くなったかのような、凄まじい「将気」の嵐が吹き荒れる。
元・趙国三大天、廉頗が四天王の筆頭――破壊の巨頭、介子坊本人が、ついに牙を剥いたのだ。
「我が副将・馬剛、ならびに黒狼城の魏竜を討ち取ったのは、そこの小癪な雛鳥どもか」
介子坊の放つ低く地響きのような声が、戦場全体に響き渡る。その瞳には、愛弟子たちを失ったことへの、静かだが奈落の底のような深い怒りが燃え盛っていた。
「数だけの雑兵ならいざ知らず、廉頗軍の、そしてこの介子坊の直属二万に包囲されて生き残った者は中華に一人として存在せぬ。……全軍、包囲せよ。秦国の新星ごと、跡形もなく踏み潰してくれよう」
介子坊の手が静かに上がった瞬間、二万の魏軍が左右へと一斉に広がり、鶴翼の陣を以て、わずか二千足らずの穿紅軍と玉鳳隊を完全に「絶望の檻」へと閉じ込めにかかった。
「……これが、旧三大天の片腕。本物の怪物の『気配』か」
王賁の額から、一筋の冷汗が流れ落ちる。玉鳳隊の精鋭たちも、あまりの数の差と圧倒的な威圧感に、槍を握る手がわずかに強張っていた。
だが、二万の軍勢が放つ絶望の包囲網を真っ正面に見据え、穿紅軍の全将兵の前に立ち塞がる絶対の将として、貫は左腕の『超螺旋・流星管』をカチャリと鳴らし、淀みのない声を平原へと響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、あるいは『積層流星槍』を以て、廉頗四天王が筆頭・介子坊、貴様が率いる二万の漆黒の軍勢、その絶望の包囲網ごと、正面から跡形もなく穿ち砕く。王賁、玉鳳の誇りが折れていないならば、我が穿紅軍の『流水の防陣』とともに立ち向かうぞ。これほどの巨頭、討ち取る価値は中華のどこよりも高い」
貫の傲る高ぶることのない、しかし二万の絶望を前にしても一歩も退かない、絶対的な覇気をはらんだ自己紹介。
その凛とした声を聞いた王賁は、ふっと不敵な笑みを浮かべ、愛槍を正眼に構えた。
「フン、異なことを。我が玉鳳の槍が、介子坊の首を前にして退くはずがなかろう、貫!」
「鉄さん、梁! 防衛陣形を構築しろ! 飛信隊と楽華隊が横合いから動くまでの時間を稼ぐぞ!」
貫の鋭い大号令が下る。
「おうともさァ! 新兵ども、盾を並べろ! ここが俺たちの、絶対に崩れぬ不落の壁だァ!!」
副将の鉄が『流水反衝·巨鉄盾』を地面へドォンと突き立て、九百の新兵たちがその左右へと綺麗に鉄壁の防陣を敷く。軍師の梁も素早く旗を振り、玉鳳隊の槍陣と完璧に噛み合う「剛柔一体の防衛陣法」を瞬時に完成させた。
「ふん、小賢しい防陣を。……踏み潰せ」
介子坊の冷徹な号令とともに、二万の黒き鉄流が一斉に津波の如く押し寄せる。
かつてない圧倒的な戦力差、そして最強の四天王を前に、若き双璧――貫と王賁の、生き残りを懸けた最大級の不落の防衛戦が、今まさに幕を開けるのだった。
次回:第44話 防陣の極み、剛柔一体