キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
「これ以上の小細工は無用。我が自ら、その雛鳥どもの首をねじ切ってくれよう」
魏軍二万の大軍勢の後方から、大地を割るような重厚な声が響き渡る。
漆黒の巨馬を駆り、ゆっくりと最前線へと進み出てきたのは、廉頗四天王筆頭――介子坊(かいしぼう)本人であった。彼が身にまとう底知れぬ「将気」の暴風は、近づくだけで周囲の秦魏両軍の兵士たちの動きを恐怖で硬直させる。
その手に握られているのは、男の胴体ほどもある巨大な大刀。
介子坊が一太刀、無造作にそれを横一文字に振るう。
ズバァァァァァァァンッ!!!!
それだけで、前線で奮闘していた玉鳳隊の騎兵三人が、乗っていた軍馬ごと真横に一刀両断され、凄惨な血飛沫が平原を染めた。王王から受け継いだ王道とも言える、すべてを力任せに圧殺する「破壊の武」。その一振りの前に、貫の超螺旋で一瞬持ち直したはずの防陣が、再び恐怖のどん底へと突き落とされる。
「ひ、ひえぇぇっ……! 化け物だ、あんなの人間じゃねえ!!」
穿紅軍の新兵たちが、あまりの次元の違いに盾を構えたままガタガタと震え、後退し始める。
「退くなと言っているだろうが、新兵どもォッ!!」
その絶望の前に、文字通り「壁」となって立ちはだかったのは、副将の鉄(てつ)であった。
鉄は愛馬の腹を激しく蹴り、介子坊の凄まじい進撃の軌道上へと割り込むと、工匠の拓が流星鉄を鎔解して極限まで鍛え上げた『流水反衝・巨鉄盾(りゅうすいはんしょう・きょてつじゅん)』を、両手でガチリと正面に構え直した。
「おいおい、魏の総大将サマが直々のお出ましだ。だがなぁ、この穿紅軍の戦列にいる限り、お前のその大刀の一振り、我が将・貫の後ろへは一寸たりとも通させんぞ!!」
鉄の全身の筋肉がミシミシと音を立てて膨れ上がり、彼の肉体から立ち上る『流水岩砕拳』の剛流の気が、巨鉄盾へと完全に収束していく。盾の表面の竜鱗積層が、かつてないほど激しく真っ赤に熱を帯び、重厚な機械構造が極限の緩衝状態へと移行する。
「ほう。我が一撃を受け止めようという盾か。……小癪なッ!!」
介子坊の瞳に凶悪な光が宿る。巨馬の加速とともに、城壁をも一撃で爆破する怪物の破壊の重量が、鉄の巨盾へと真っ正面から振り下ろされた。
ズゴォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!
戦場全体がひっくり返ったかのような、凄まじい爆音と衝撃波が炸裂した。
激突の刹那、鉄の乗る軍馬の四肢が、あまりの重量に耐えかねて岩盤ごとバキバキと砕け散る。しかし、鉄自身は馬が潰れ、両足が地面の土へと深く埋まりながらも、その肉体は一歩も後方へと退いていなかった。
「ぬうぅぅぅぅぅっ……!! がはっ!!」
鉄の口から大量の血が噴き出す。だが、彼の眼光は死んでいない。介子坊の放った数万斤の重撃は、巨鉄盾の内部の反衝ギミックによって、辛うじてそのすべてが内側へと吸い込まれ、圧縮されていた。
「何だと……!? この介子坊の一撃を、正面から耐え切る盾が中華に存在するか!」
介子坊の顔に、初めて本物の驚愕が走る。彼の大刀は、鉄の盾の表面に深く食い込んだまま、強烈な斥力の拒絶によって完全に動きを止められていた。
「――いま……今だ、貫様ァァァッ!!」
鉄が血反吐を吐き散らしながら、命を賭して介子坊の動きを完全に縫い止めた。
「見事だ、鉄さん。……貴殿の命の盾、決して無駄にはせん!」
開いた絶好の勝機。青き流星の如き気迫をまとった穿紅軍の千人将・貫が、愛馬を疾走させ、介子坊の完全に無防備となった横腹へと突撃する。左腕の『超螺旋・流星管』が、キィィィンと天を劈くような高周波の駆動音を響かせ、その銃身から白煙が噴き出す。
新たなる千人隊を率い、廉頗四天王筆頭という中華の巨大な壁を正面から穿ち砕く秦国の新星として、貫は馬上、淀みのない声を戦場へと轟かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫(かん)だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、そして『積層流星槍』を以て、廉頗四天王筆頭・介子坊、貴様の誇る圧倒的な武の重量ごと、その正面から跡形もなく穿ち砕く。鉄さんが築いた不落の壁の前で、貴様の伝説もここまでだ。我が槍の放つ穿光の中に、消え去るがいい!!」
貫の傲る高ぶることのない、しかし怪物の命を確実に奪う絶対的な将としての自己紹介の激。
その瞬間、貫の右腕が爆発的な速度で突き出され、積層流星槍が流星管へと叩き込まれた。
(流水岩砕拳・剛流奥義――超螺旋・流星一点穿)
ドガァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
極限まで圧縮された超螺旋の回転エネルギーが、一本の破壊の光条となって放たれ、介子坊の分厚い漆黒の胸甲へと真っ正面から着弾した。
激しい火花と金属の削れる絶叫のような音が響き渡り、介子坊の頑強な重装甲が、螺旋状にバリバリと音を立ててねじ切られ、砕け散っていく。
「ぐふぅっ!?」
介子坊の巨躯が、その凄まじい衝撃波によって馬上の上から強引に数歩後方へと弾き飛ばされ、胸元から大量の鮮血が舞い散った。
「――そこを退け、介子坊ォォォッ!!」
さらにその開いた致命的な隙へと、白銀の閃光――王賁の放った至高の『龍指』が、介子坊の喉元を目指して猛然と襲いかかる。
副将・鉄の命懸けの「不落の盾」が呼び込み、貫の「超螺旋」が切り拓いた、怪物の陥落の瞬間。秦国の若き新星たちが放つ怒濤の連撃は、山陽の平原に、これからの歴史を大きく塗り替える一筋の巨大な穿光を刻み込もうとしていた。
次回:第46話 双竜、怪物を穿つ