キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜   作:キング・クリムゾン!!

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続きです。ゆっくりしていってね。


第5話:岩を砕く拳、戦場を裂く

五台の装甲戦車が並列し、地響きを立てて迫り来る光景は、まさに動く鉄と木の城壁だった。左右の車軸から突き出た大刃が、荒野の泥や死土を巻き込みながら狂ったように回転している。その刃に触れれば、鎧ごと肉体が消し飛ぶことは疑いようもなかった。

 

秦の歩兵たちは誰もが腰を抜かし、ある者は祈りを捧げ、ある者は絶望のあまり武器を落としてその場にへたり込んでいた。

 

その絶望の最前線に、武器をすべて失った貫が、ただ一人で立っていた。

 

肩に巻かれた赤い布が、戦車の巻き起こす凄まじい風圧に激しくたなびく。貫は静かに息を吸い込み、両膝をわずかに落として、両手を胸の前で円を描くように構えた。流水岩砕拳、その真の構え。

 

「死ねや、狂人がァ!!」

 

先頭の戦車を操る魏の御者が、顔を血走らせて鞭を打った。四頭の巨馬が、その太い蹄で貫の頭上を文字通り踏み潰さんと迫る。

 

馬の鼻息が顔に吹きかかるほどの超至近距離。その瞬間、貫の肉体が爆発的な速度で駆動した。

 

貫は正面から迫る巨馬の突進に対し、逃げるのではなく、自らその懐へと滑り込んだ。最初の一頭が放った、時速数十キロにも達する蹄の蹴撃。それを貫は、自らの前腕を滑らせるようにして接触させた。

 

流水岩砕拳の神髄は、いかなる巨大な力をも「受け流し」、その軌道を歪めることにある。

 

衣服が激しく擦れる音と共に、巨馬の強烈な脚力が、貫の円運動によって完全な横方向の力へと変換された。突進のエネルギーをそのまま横へと受け流された巨馬は、自らの重さに耐えかねてバランスを大きく崩し、隣を走る二頭目の馬へと激しく衝突した。

 

「なっ……馬が、圧し合っているだと!?」

 

魏の御者が驚愕の声を上げたが、それはまだ地獄の入り口に過ぎなかった。

 

二頭の馬が絡み合ったことで、戦車の直進のバランスが完全に崩壊する。車体が激しく傾き、右側の車軸が地面に深く突き刺さった。火花を散らしながら、木製の車体が悲鳴を上げる。

 

貫はその横転しかけた戦車の車体へと、間髪入れずに踏み込んだ。今度は防御ではない。『岩をも砕く』破壊の拳の解放だった。

 

貫は流水の如き滑らかな動きから、一転して全身のインナーマッスルの力を一点に集約させ、傾いた車体の中央に向けて、掌底を力強く叩き込んだ。流水岩砕拳の勁撃(けいげき)。

 

凄まじい衝撃音が平原に響き渡った。

 

貫の掌が触れた瞬間、戦車の頑強な木製の装甲が、まるで内側から爆発したかのように粉々に弾け飛んだのだ。衝撃波は車体を突き抜け、上に乗っていた魏の御者と二人の兵士を、骨をズタズタに砕きながら天空へと吹き飛ばした。

 

一台目の戦車が、たった一撃の素手によって、文字通りの木っ端微塵へと変えられた。

 

「う、嘘だろ……。戦車が、拳一つで弾け飛びやがった……」

 

背後でその光景を見ていた雷が、あまりの衝撃に顎が外れんばかりに目を見開いていた。槍を握る指が、恐怖ではなく興奮と信じられないものを見た戦慄で激しく震えている。

 

「ただ受け流すだけじゃない……。戦車が突進してきたその膨大な運動エネルギーを、貫は自分の体の中で綺麗に反転させて、そのまま敵の車体に叩き返したんだ。……信じられない。人間の肉体であんな芸当ができるなんて」

 

梁が泥にまみれた地面に膝をつきそうになりながら、その戦慄の光景を脳裏に刻み込んでいた。彼の持つ知識のどれを当てはめても、目の前で起きている「素手による戦車破壊」という現象を説明することは不可能だった。

 

しかし、戦場は貫の無双を称賛する猶予など与えない。左右から残る四台の戦車が、仲間を粉砕されたことに激昂し、貫を包囲するようにして大刃を回転させながら迫ってくる。

 

「まとめて来い。お前たちの力が増せば増すほど、俺の拳は強くなる」

 

貫は冷酷に呟くと、次なる標的を見据えた。

 

左側から迫る二台の戦車。その車軸から伸びる鉄の刃が、貫の胴体を両断せんと同時に襲いかかる。

 

貫は流水の如き歩法で、その二つの刃のデッドゾーンへと自ら飛び込んだ。刃の回転によって生じる風圧が、貫の肌をピリピリと刺激する。貫は迫り来る一枚目の大刃に対し、自身の履いている軍靴の底を、絶妙な角度で接触させた。

 

キィィィィィン!!!

 

鼓膜を突き刺すような金属摩擦音が響き渡る。

 

大刃の回転力を利用し、貫はその場で独楽のように鋭く身を翻した。流水岩砕拳の応用。刃の回転エネルギーを自らの回転力へと同調させ、さらにその勢いのまま、二台目の戦車の車軸へと向けて、己の右脚を回し蹴りの軌道で叩き込んだ。

 

バキィィィン!!!

 

貫の脚撃が直撃した瞬間、二台目の戦車の鉄の刃が根元からへし折れ、その破片が猛烈な速度で一台目の戦車の御者の胸元へと突き刺さった。御者は絶命し、手綱を失った一台目の戦車が暴走を始め、二台目の戦車の横腹へと激しく激突した。

 

互いの車体が激しく噛み合い、轟音を立てて二台同時に横転していく。激しい砂塵と木片の雨が周囲に降り注いだ。

 

「信じられん……。あの若者、本当に化け物か……。魏の誇る戦車隊が、まるで子供の玩具のように壊されていく……」

 

救出された秦の千人将は、自らの剣を握る力も忘れ、ただ呆然とその圧倒的な蹂躙劇を見つめていた。数々の修羅場をくぐってきた彼にとっても、目の前の光景は神話の一幕を見ているかのようだった。

 

残る戦車は二台。しかし、その御者たちは、完全に恐怖に支配されていた。

 

「ひ、化け物だ! 退け! 馬を戻せ!!」

 

魏の御者たちが必死に手綱を引き、戦車の進路を変えようとする。だが、猛烈な速度で突撃していた巨馬たちが、そう簡単に止まれるはずがなかった。

 

「逃がすか。ここで叩き潰しておかなければ、後ろの仲間たちが死ぬ」

 

貫の瞳に、一切の容赦はなかった。

 

貫は地面を強く蹴り上げると、逃げ腰になった戦車の一台へと自ら肉薄した。流水岩砕拳の連撃が、暴走する馬たちの脚へと叩き込まれる。

 

「流水・砕岩撃――!」

 

鋭い掛け声と共に放たれた拳と掌の乱打は、目にも留まらぬ速さで馬の関節を正確に捉えた。ボキボキと鈍い音が連続して響き、四頭の巨馬が同時に悲鳴を上げて前のめりに転倒する。その勢いのまま、車体は大きく宙を舞い、地面へと叩きつけられて大破した。

 

最後の一台は、完全にパニックに陥った馬たちが自陣の方へと暴走を始め、味方の魏兵たちを踏み潰しながら荒野の彼方へと去っていった。

 

五台の戦車隊が、完全に壊滅した。

 

平原に、一瞬の静寂が訪れる。風が砂塵を吹き飛ばした中央には、無数の戦車の残骸と、その中心で静かに両拳を下ろす、赤い布を巻いた若者――貫の姿だけがあった。

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

貫はその場に膝をつきそうになるのを、強靭な精神力で踏みとどまった。

 

流水岩砕拳の完全解放。それは間違いなく中華の常識を超えるチート能力だったが、それを生身の肉体で行った代償は軽くなった。全身の筋肉が熱を持ち、まるで万力で締め付けられているかのように激しくきしんでいる。特に、戦車の衝撃を直接受け流した両腕の関節は、鈍い痛みを訴えていた。

 

「貫!!」

 

拓が盾を放り出し、真っ先に貫の元へと駆け寄ってきた。その顔は涙と泥でぐしゃぐしゃになっていた。

 

「大丈夫!? どこか怪我は!? うわあ、両腕が真っ赤に腫れてるじゃないか!」

 

「心配するな、拓。筋肉が少し驚いているだけだ。骨は折れていない」

 

貫は強がって見せたが、その声には明らかな疲労が滲んでいた。

 

「貫……お前、本当に凄かった。だけど、もう二度とあんな無茶はしないでくれよ」

 

雷がやってきて、貫の背中を、今度は気遣うように優しく叩いた。

 

「ああ。……だが、これで終わりじゃない。鉄さん、千人将、今のうちに秦軍の本隊がある後方へと移動しましょう」

 

貫の言葉に、鉄は深く頷き、千人将もまた、己の誇りを取り戻したように力強く応じた。

 

「その通りだ。あの若者が作ってくれたこの最大の勝機、無駄にはできん。全軍、撤退中の味方をまとめつつ、後方の主戦線へと合流するぞ!」

 

千人将の号令の下、生き残った数十人の秦兵たちが、一丸となって移動を開始した。

 

その行軍の最中、拓は貫の隣を歩きながら、腫れ上がった彼の右腕をそっと見つめていた。そして、自身の小さな作業道具が入った袋を強く握り締め、誰にも聞こえないほどの小さな、しかし不抜の決意を込めて呟いた。

 

「木や竹じゃダメだ……。貫の力は、世界で一番強いんだ。だったら、僕が作る管も、世界で一番強くなきゃいけない。鉄……いや、それ以上の、どんな化け物の一撃を受け止めても、絶対に壊れない『最高の管』を、僕がこの手で絶対に作ってみせる」

 

それは、後に中華全土の戦場を震え上がらせる最強の武器『鋼鉄の管槍』が、真に産声を上げた瞬間でもあった。

 

砂塵の向こう、蛇甘平原の主戦線からは、さらに巨大な怒号が響いてきていた。秦の怪鳥・王騎将軍や、第四軍の縛虎申千人将、そして後に貫の最大の戦友となる信たちの戦いが、すぐ近くまで迫っている。

 

若き穿光・貫と、その仲間たちの伝説は、この大戦の渦中でさらに激しく輝きを増していく。




次回:第6話 うねる戦場と、交錯する若き光
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