VTuberショック!!〜絶望の未来へ飛ばされた俺は、最推しのVTuberの歌と力で世界を救う〜   作:ゴマ醤油

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いざ、世界を救いに

 第一ラボを後にし、無事にマンホールの隠れ家への帰還を果たした愛斗達。

 勝利と生還。得た多くの成果を、或いは失った重み。

 それぞれがこの数日で得た多くの収穫を噛みしめながら、隠れ家では愛斗の備蓄にて些細な宴が開かれた。

 

 ──そうして夜は明け、ついに旅立ちの朝は訪れた。

 

「本当に行っちゃうの? せっかくお日様があるのだし、もう少し休んでいけばいいのに」 

「はい。やること決まった以上、一秒も無駄には出来ないですから」

 

 彼方まで広がる分厚い雲の壁。

 その一部に開いた穴。昨日愛斗によって穿たれた穴より差し込む、温かな太陽の光の下。

 四次元バッグことつめるくんMarkX(テン)を背負った愛斗は、残念がるアリスの目を真っ直ぐ見据えながら、はっきりとそう告げる。

 

 この街を終の地と決めており、もうどこかへ離れる気はない田中。

 引き続き第一ラボの調査を行いたいアリス。

 せっかくの太陽なのでと、満足いくまで日光浴に勤しみたいらしいもぐら。

 そして二人の護衛として、一人で離れるつもりはない久遠。

 

 それぞれの理由から、進むことを決めた愛斗とはここで別れることとなった。

 ちなみにアリスは愛斗に付いていこうとも考えたが、熟慮の末、自身のすべきことを優先した。決断は割とギリギリだった。

 

「道中、くれぐれも気をつけるといい。人間を嫌う者、物資を狙う者、心が擦切れ荒んだ者。戦地とまでは言わないが、今の日本はスラム街のようなものだ。信じないのではなく、信じる相手はしっかり選ぶ。いいね?」

「……何からなにまでありがとうございます。田中さんのおかげで、俺は死なずに済みました。俺にとって、貴方は立派な恩師です」

「お互い様だよ。……無色君、君は必ず成し遂げる。二度も救われた俺が言うのだからきっと間違いはない。いずれ来るその瞬間を、この街で心待ちにしているとも」

 

 深々と頭を下げる愛斗。

 田中はそんな愛斗へ苦笑を零しながらも、優しく肩を叩き、それから小さな手で握手を交す。

 そんな二人へ、久遠は

 

「はっ、とっとといなくなってくれるなら清々するわ。

「もう! 久遠ちゃん、最後くらい普通に挨拶しなさい! そういうのめっ、よ!」

「うるせえ。どこまでいこうが俺は純人間が嫌いだ。今更生き方を変えてやれるものかよ」

 

 アリスの叱咤を受けた久遠だったが、鬱陶しげに顔を歪め、肩をすくめて軽く流すのみ。

 そんな久遠の態度を愛斗は別段疎むことなく、それどころかただただ申し訳なさそうに苦笑するばかり。

 

 ……今日の久遠が心なしか不機嫌そうに顔をしかめているのは人間嫌いが故ではない。

 発端は昨夜のこと。

 ナーゾちゃんの知っているとつい漏らしてしまった久遠と愛斗が、ナーゾちゃんを話題にして

 

 久遠はナーゾちゃんを知ってはいたし好んでもいたが、所詮は囓っただけのエンジョイ勢。

 対して愛斗はガチ勢筆頭。更に言えば最低限の理性を備えていたが故に、語る機会に恵まれなかったタイプのガチ勢。

 そういう普段は抑えるタイプが一度語り始めてしまえば、歯止めが効かなくなるのは道理。

 

 最初こそ、敵対心がそこそこ抜けたいい感じの雰囲気であったとしても。

 如何に愛斗が自重を心がけようとしていたとしても。

 流石に夜明け手前まで途切れることがなければ、一般エンジョイ勢の久遠が辟易するのは仕方ないこと。むしろその程度の不満で収めてくれたのは、つまりはそういうことだった。

 

「……まあでも、世界を救ったら礼くらいは言ってやるさ。あんだけ馬鹿みたいに語ってみせたナーゾちゃんの名前を汚しでもしたら、真っ先に俺が殺しに行くけどな」

「……ああ。そうならないよう全力で務めながら、久遠が頭を下げるのを楽しみにしているよ」

「……ふん」

 

 忌々しげに、けれどほんの少しだけ嬉しそうに。

 微笑を返しつつ手を伸ばした愛斗に、久遠は軽く鼻を鳴らし、伸ばされた手を軽く叩いてからそっぽ向いてしまう。

 良く響いた音に反し、弾かれた愛斗の手のひらにさしたる痛みは広がらない。

 行動が口よりも正直だなと。久遠の背中を見つめる愛斗は、どこか楽しそうに微笑んでしまった。

 

「もう久遠ちゃんったら、相変わらず意地張りねぇ。こんな世界じゃ再会なんてないかもしれないんだから、もっと素直になればいいのにぃ」

「久遠ーはあれででふぉなのでは? ああちなみにもぐらからは特にないですのでどうかご了承を。強いて言えば風邪には気をつけてとか辛いときは穴を掘って1日籠もって落ち着きましょうとかそれくらいですね。愛斗ーは久遠ーと同じで色々溜め込む難儀なタイプでしょうしストレス発散は大事ですよ大事。はげやらなちゅらるはもぐら界隈でも点数低いですよもぐ」

「えっと……アリスさんももぐらさんもお元気で。それじゃ、また」

 

 そうしてアリスの、そしてもぐらの手をガッシリと握り。

 彼らに背を向け、愛斗は手を振りながら歩き出し、徐々に足を速めていく。

 

 

「……幻装(キャスト)。なぞなーぞ!」

 

 

 唱えた直後、愛斗は白い光に包まれ、やがて黒髪の美少女──ナーゾちゃんへと姿を変える。

 ぽん、と手の中へと出現させた箒に跨り、走る勢いのままに地を蹴り、空へと飛翔する。

 

「なぞな~ぞ♪ それじゃ世界を救いに、元の時代に帰るためにレッツゴー!」

 

 まるで自らの目的を、世界に宣言するように。

 空の上で高らかに叫んでみせた愛斗は、鼻歌を歌いながら、広がる大空を進んでいく。

 

 目指す目標は、かつて国会議事堂であった場所。

 分厚い雲さえ突き抜ける巨大な塔へ。遮るものなどなしと、箒は縦横無尽に空を駆けた。

 

 

 

 

 

 派遣個体、消失を確認。

 観測完了。未登録V粒子構成体、登録完了。塔は当個体を脅威度高。警戒度高と断定。

 

 結論。

 ……結論、計画に支障なし。脅威に対する特別措置、現時点で必要なし。

 塔は依然、役割完遂のため尽力すべし。本調査を終了し、遂行のため、通常作業を継続する。

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