VTuberショック!!〜絶望の未来へ飛ばされた俺は、最推しのVTuberの歌と力で世界を救う〜   作:ゴマ醤油

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東京コロニー編
ナーゾちゃん、東京ナウ


 2035年。日本は世界より隔絶され、分厚い灰色雲の壁に覆われて久しく。

 

 欠け、崩れ、瓦礫と化した多くの建物。

 穴が開き、至る所で抉れ割れ、自動車や電柱などと言った他種の残骸の放棄された大道路。

 

 2028年の大強襲を境に、かつて繁栄を東京はなど見る影もなく。

 かつて日本の首都であったはずの地上には、最早人にとっての安寧はない。

 

「ひいぃ!! 来ないでくれよぉ、おっかねえよぉ!」

 

 そんな世界で、絶叫を発しながら、必死の形相で道路を走る青年が一人。

 ニット帽を被り、スキーウェアを羽織っている童顔の青年。

 そして青年を追っているのは、目も鼻も口もない、機械染みた動きをした複数の黒の進軍。

 

 ドーベルマンほどの体躯をした、真っ黒な四足の獣型。

 平均的な男性の体格ほどの身体をした、真っ黒な二足の人型。

 

 いずれにも共通するのは、頭の上で存在感を醸す白い天輪と塗り潰したような真っ黒な全身。

 天使と、そう呼称された何か。

 2028年に起きた大強襲を皮切りに、突如世界に現われ、生命を狙うようになった存在であった。

 

 徐々に速度が落ち、ついには道路の窪みに足を引っかけ、そのまま転倒してしまう青年。

 立ち上がることは出来ず。

 必死で身体を起こそうとするも、体勢を変えてしまえば──天使の群れはもう、すぐそばに。

 

「ひえぇもう駄目だぁ。おらは、おらはもう、ここで死んでまうんだぁ……」

 

 一歩、また一歩。

 標的が停止したのを確認したせいか、走るのを止めた天使達は、青年へ確実に近づいていく。

 

 青年は知っている。知っているからこそ、歯をカチカチと鳴らすほどに恐怖する。

 

 天使という名の死神の行進。可視化された、残された死までの猶予。

 

 彼らに触れられた人や動物──生命がどうなるのか。

 彼らに狙われたVTuberが捕まってしまえば、どのような末路を迎えるのか。

 

「誰か、誰かぁ……」

 

 死にたくない。

 人もVも関係ない、原初の感情。感情ある生き物であれば、まず抱いてしまう絶対の執着。

 

 だからこそ青年は、助けを呼んでしまう。

 こんな終わりかけの世界で、名前も知らない誰かが助けに来るわけがないと知りながら。

 希望ではなく本能で。死にたくない、怖い、嫌だという恐怖から。

 

 

『任せて、なぞな~ぞ♪』

 

 

 ──けれど。そんな消え入りそうな願いは、助けをもとめた青年の声は、彼女へと届く。

 

『さあ、箒に跨り飛びだそう! 誰も知らない、私らしい一歩を』

 

 はきはきと、よく通った可憐な歌声。

 不思議と耳に馴染み、心を包む声音にて紡がれる、場違いなほど優しくも楽しい音の羅列。

 

 青年は恐怖を置き去りに、呆然と空を仰ぐ。

 変わらず雲に覆われた空。──けれど、そこにはいつもと違い、人がいた。

 竹箒に跨り、ふわふわと空を漂いながら、黒と白のコントラストが特徴な魔女服を着た黒髪の美少女が。

 

『目を輝かせ、追い続けよう! 数多の謎を、無限の可能性(まほう)を』

 

 パチンと指を鳴らし、きゃるんとウィンクをしながら、彼女の歌は紡がれていく。

 音に呼応するよう、地上に無数の白い光が溢れる。

 はてなマークの白い光。淡く優しく、そして温かさを感じてしまう、そんな光。

 

『みんなにとっての最後の謎、そんな私になれたらいいな』

『なんてね♪』

 

 再びの指パッチンを合図に、はてなマークの白い光は弾け、触れた天使達をポンと消し飛ばす。

 けれど青年には何も影響はない。……否。

 直に枯渇しようとしていた自身の構成要素──VTuberの源たるV粒子が、充ち満ちていく。久しく覚えていなかった充実が、心に落ち着きを取り戻させていく。

 

「天使……?」

 

 青年は空を仰ぎながら、見惚れてしまった歌声の主──空を舞う少女へ、ぽつりと独り言つ。

 

 大強襲以降、最早本来の意味ではなく黒い怪物を言い表すようになった、その響きを。

 2028年以前のニュアンス。或いはそれ以上の神秘を込めて、空上で高らかに歌う彼女へ。

 

「なぞな~ぞ♪ 大丈夫ですか? 怪我はないかな?」

 

 瞬く間に歌は終わり、周囲の天使は一掃された後。

 未だ立ち上がることさえ、立ち上がろうとするのを忘れてしまっていた青年の下へ。

 ゆるりと空から舞い降りた魔女服姿の少女は、汚れのない白い手を躊躇いなく伸ばし、微笑んでみせる。

 

「あな、たは……?」

「私? ふふん、よく聞いてくれたね。お礼に、君の謎にきっちり白黒付けてあげる♪」

 

 伸ばされた手を掴むのを忘れながら、魔女服姿の美少女へと尋ねる青年。

 魔女服姿の美少女は小首を傾げるも、すぐににこりと笑みを浮べながら、パチンと指を鳴らしてみせる。

 

「なぞな~ぞ♪ 全国津々浦々の謎っ子ちゃん一同、こんにちはそしてこんばんわ♪ 私はナーゾちゃん。無限の可能性を持つ、あらゆる謎の探求者。人呼んで、謎っ子ナーゾちゃんだよ♪ よろしくね?」

 

 右の手で作ったVサイン目元に当てながら、ぱちりとウィンクしてみせる魔女服姿の美少女。

 

 頭に乗せた大きな三角帽。

 はてなマークのブローチを左胸に付け、白黒交じる魔女服に身を包み。

 そしてギリギリで絶対領域を死守するフリル付きミニスカートに、滑らかな黒ニーソ。

 

 彼女の名は、謎っ子ナーゾちゃん。

 無限の可能性を持つ、あらゆる謎の探求者。正体不明、神出鬼没の白黒魔女っ子。

 

 ──またの名を、或いは真の名を無色(むしき)愛斗(あいと)

 幼馴染である天才、天野(あまの)一与(いよ)によって十年後の未来へと送られた大学生。

 自称世界一と心の中で思っているだけで、決して本物などではない、謎っ子ナーゾちゃん推しのリスナーである。

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