VTuberショック!!〜絶望の未来へ飛ばされた俺は、最推しのVTuberの歌と力で世界を救う〜 作:ゴマ醤油
「みなさんお願いします。どうか、ライブに協力してください。お願いしますっ!」
北区画にて週に一度、生存者を集めて行われる定例報告にて。
管理者である萩原が話し終えた後、終了から解散するまでの一瞬の間に飛び出した
一度目開催を決めた直後、それぞれにライブへ来てくれるように頼み、全員に断られた。
そして愛斗もまた、いざ開催すれば客は来ると高を括り──見事なまでに、失敗した。
だから今度は来てくれるよう頼むだけではなく、助けてくれと願う形で。
愛斗の秘密──ナーゾちゃんへの変身がバレるリスクさえ度外視して。
どんな形でもいい。一緒にライブを作り、東京コロニーを盛り上げようと打算抜きの直向きさで。
「……止めなさい無色君。前も言いましたが、北区画の責任者として輪を乱す行為は肯定出来かねます。さあみなさん、今日は労働日です。早々に移動を開始してください」
だがそんな愛斗に、萩原は苦々しげに眉をひそめ、手を叩いて一同を解散させる。
同情。侮蔑。嫌悪。或いは、興味。
十数人十数人色。愛斗の頼みに誰もが異なる反応を見せながら、誰もが声を掛けることなく去っていく。──ただ一人を除いて。
「……実はさ。俺もあのライブ、見に行ったんだ。制限かかってたから、久しぶりに地上から回ってさ」
その場に残った、ただ一人。
頭を下げていた愛斗の肩を優しく手で叩き、ぽつりぽつりと語り始めた鈴木に、愛斗はつい勢いよく顔を上げてしまう。
あの場にいたことに対する驚きもあった。
だがそれ以上に驚かせたのは、地上へ出たという鈴木の発言にであった。
人間が地上に出る。それはVTuberが地上に出るのに比べ、わけが違う。
地上に蔓延る黒い異形。天使は何かしらの動機がない限り、VTuberを狙うことはない。
けれど人間は別。肉ある生命たる彼らは認識されただけで追われてしまう。日本を壊滅までに追い込んだ怪物達にとって生来の獲物でしかない人間は、地下に隠れ潜むしかないの最善であり限界。
鈴木は大強襲以後の七年を生き抜いてきたのだから、愛斗以上に地上を歩く危険を理解している。
なのに、鈴木は外に出た。
コロニーのほとんどに望まれていない、よく知らないVTuberのライブのために危険を冒した。その事実は、愛斗にとって、何より驚くに値するものであった。
「久しぶりの地上にはさ、ほんのちょっぴりだけど光があった。ずっと遠くの、点みたいに小さかったけど。それでも、確かに光ってた。だから震えるくらい怖くても、進もうと思えた」
鈴木は天井を見上げながら、ゆっくりと語っていく。
その瞬間僅かに見えた、分厚い灰の天蓋に開いた穴から零れる光を、再び拝むかのように。
「客なんてほとんどいない。レスポンスだってほとんどない。……それでもステージの上で歌っていたアイドルは笑ってた。まるで満員のドームでライブしてるみたいに、空にあった小さな光みたいに、記憶にあるどんな星よりも輝いてた。……直視出来ないくらい、感動しちまったんだよ」
そう言いながら、潤んだ瞳を愛斗へ向けた鈴木は、勢いよく頭を下げて手を伸ばす。
「ごめん無色。今更どの口がって感じだろうけど、俺にも、手伝わせてくれないか?」
「……遅いなんてことあるかよ。ありがとう、一緒に頑張ろうぜ。鈴木」
まるで告白の返事を待つかのように、鈴木は愛斗へ答えを待つ。
そんな鈴木に愛斗は一瞬、目から熱い何かが零れそうな感覚を覚えてしまいながらも堪え。
手の代わりと背中を叩いてみせた愛斗は、頭を上げた鈴木に笑顔を向ける。鈴木は憑き物が落ちたみたいに、涙ぐみながら、笑い返してみせた。
「……ところでさ、もしかして、気付いてる?」
「その、あんなに練習してたら隠すのは無理だと思うぜ。そういう抜けてる所、高校の頃から天野にそっくりだよな」
そうして、愛斗とかみさまとウェザ子。
三人だけで始まった、誰に賛同されることもなかった試みは、鈴木という協力者を得た。
──そして協力すると頷いてくれたのは、鈴木だけではない。
「え、もちろん協力するよぉ。でへへっ、なんかこういうのは初めてで、嬉しいなぁ」
ライブも見終わったし、そろそろ旅立とうと考えていた斉藤もまた、二つ返事で了承する。
北区画は鈴木、そして南区画は斉藤。
それぞれの区画の現地民という協力者を得た愛斗は、レッスンを打ち込みながら、宣伝やコロニー内の活動や清掃を率先して手伝い、少しずつ地元の人との絆を培おうと努力を続けた。
そして初ライブより次の週。二回目のライブに集まった観客は、両種含めて十人にも満たない程度。
それでも、零ではなく。
決して全員ではないけれど。ライブの終わりには笑顔で拍手してくれるVTuberだっていた。涙を流す人間だっていた。その事実は、成功という小さな実りは、愛斗達にとって何よりの糧となった。
──それだけじゃない。
「……ちっがーう! 無色君、君は呑み込みは早いが、変に意識しすぎて機械になってる。もっと力を抜いて。考えて動くのではなく、曲に身体を反応させる意識を持つんだ。思考を乗せるのはそれが出来てから。はい、もう一回通しで行こうか」
「はい!」
北区画で暮らしていた一人。
フリーでダンストレーナーをしていたと自ら語る、マッチョの名残ある四十代。
高橋が練習に使っていたスペースに顔を出し、率先してレッスンを付けてくれるようになったり。
「あの、バックダンサーとか……必要でないですか? こう見えてボク、昔ダンス部で、ナーゾちゃんの曲とか練習してたんです!」
「わたしお花の妖精なんですけど、演出なら、少しは手伝えます!」
「な、ナーゾちゃんの大ファンだったんです! だから、えっと、サ、サインくださいっ!」
斉藤の人柄の良さのおかげか、或いはナーゾちゃんの知名度故か。
どちらにせよ、南地区から勇気を振り絞って出てきてくれたVTuberが協力を申し出てくれたり。
「えーいいじゃん。あーしも歌いたいから参加でよろ。え、遺恨? まーいいじゃんそういうの。あ、
「……何故俺まで。本当に、困った女だ」
四人組の紅一点、ミズキが軽いノリで無理矢理参加してきたり。
更にはミズキに引き摺られる形で寡黙を貫いていた男、シュンギクもスタッフと参加したりと。
人間とVTuber。
遺恨はあれ。軋轢は変わらず深けれど。
それでもぽつりぽつりと、確かに賛同してくれる人が増えていく。
観客として。スタッフとして。共演者として。
それぞれの形は違えど、ライブという目的一つに少しずつでも集っていく。東京コロニーが、一つにまとまっていく。
そして三度目越えて、四度目のライブ。
中央への通行制限は、三度目の時点で既に意味を為さず。
既に謎っ子ナーゾちゃん単独ライブから、東京コロニー総合ライブへと名を変えた催しに集まったのは三十と数人。
東京コロニーに残る生存者、百十数人。そのうち三分の一がライブ会場に集まり──一回目と比べて大成功と言っていいほど、大いに盛り上がりを見せた。
「ふぉっふぉっふぉ。まさかここまでとは……儂も踊っちゃおうかのう?」
「え、おじいちゃん踊れるの?」
「実はたまに練習しておったんじゃ。ウェザ子ちゃんや、若者に触発されるというのは存外に心地良いものじゃな。ふぉっふぉっふぉ、ふぉっふぉっふぉ!」
ステージ裏にて機材を弄りながら微笑むかみさまに、ウェザ子はやれやれと首を横へ振る。
憂いていた者達が、少しずつ顔を綻ばせ。
少しずつ、少しずつではあるが、終わりを待つだけだった東京コロニーの空気が変わっていき。
「えーみなさん、お知らせがあります。恐らくですが、次で変身パワーがなくなります。どうしましょう。」
そして五、六回目飛んで、ついに七回目に向けた緊急会議にて。
謎っ子ナーゾちゃんを軸とした東京コロニーライブスタッフ一同は、他ならぬ無色愛斗によって、最大の問題を告げられた。