VTuberショック!!〜絶望の未来へ飛ばされた俺は、最推しのVTuberの歌と力で世界を救う〜   作:ゴマ醤油

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Ms.トレジャー ver.いかづち

 旧東京駅跡地にて行われたライブは、まさに大盛況と、そう表せるほどの盛り上がりをみせた。

 

 更には主役のナーゾちゃんは当然として、共演者達もそれぞれ十全なパフォーマンスの発揮。

 滅ぶ前の世界ではまず怒られるであろう、騒音度外視なほどの派手且つ煌びやかな演出の数々。

 

 そんなライブの音楽や歓声に釣られたのか。

 そうでなくとも、何か心変わりをしたのか。

 或いは偶然にも東京へと訪れた者が、ライブの音を耳にし興味を持ったのか。

 

 過去六回とは比較にならない最大規模。

 そんなライブを続ける最中、地上の観客の数は少しずつだが増加していき──終盤を迎える頃には、会場に集まった人の数は実に九十を超えるほどにまで到達を果たす。

 

 数にすれば、東京コロニーに暮らす者達の八割以上。

 それだけの人達が、ライブというただ一つの娯楽のためであったとしても、自らの意志で地上へ上がることを決心させた。

 その事実こそ、彼らに上を向かせ突き動かした熱こそが、紛れもない成功の証。

 そして観客の数だけではない、会場一帯を満たす淡く白い光のエネルギー──大量のV粒子が、何よりも成功を裏付ける成果であった。

 

「みんなー♪ 今日は本当に、来てくれてありがとー♪」

 

 かくしてライブは大いに盛り上がり、ついに最後の曲を終えた。

 ナーゾちゃん──愛斗が歓声溢れる観客席に手を振りながら、ステージ端へと捌けていく。

 

 手を振りながら、終わりを惜しむ者。

 全身を震わし、涙を流しながらナーゾちゃんの名を叫ぶ者。

 

 満場の拍手に包まれる会場は十人十色。

 各々が抱き露わにする感動の形があった。成功であると誰もが頷く、確固たる反応があった。

 

 ──けれど、ライブは未だ終わっていない。

 盛り上がったライブには最後の先。真に観客が望んだ場合にのみ行われる、最後の最後が存在する。

 

「……アンコール。アンコール、アンコール! アンコール!」

 

 終わりを受容しようとしていた空気の中、誰かが一人、大きく手を叩きながら口を開く。

 一人、また一人と同調の声が上げる。観客達の心が歌姫の再来という熱望で一つにまとまっていく。

 

 一応の保険として、斉藤含めた数人ではあるが、アンコールを促すサクラの用意はあった。

 だが、真っ先に声を上げたのは役割を負った者ではない、何も知らない観客の一人。

 

 こんなにも愉しい一時が、まだ終わって欲しくないと。

 もっと熱に浮かされていたいと。謎っ子ナーゾちゃんの歌と踊りを、一秒でも堪能したいと。

 

 誰かの胸に願いを抱かせ、声を張り上がらせた。

 終わりの先が見たいと、多くの者へ心の底から強く願わせ──ナーゾちゃんへと、届けたのだ。

 

「……すごい。みんなの声が、こんなにも。みんなが、ナーゾちゃん()を求めてくれている」

 

 そんな観客達の声に、願いを前にしたナーゾちゃん──無色愛斗はぽつりと、まるで自分のことのように噛みしめ、独りごちる。

 

 愛斗の行った過去七度のライブにて、アンコールが上がったことは一度もない。

 だからこそ、観客達の声が、叫びが強く胸を震わす。

 魅入らせる側であるはずの自らが行動による結果に、左胸付近へと手を当てながら、目を奪われてしまう。

 

「なあに愛斗君? もしかして、ハマっちゃった?」

「……うん、とっても。ウェザ子ちゃん。求められるって、こんなにも心がときめくんだね♪」

 

 からかいの混じったウェザ子に、愛斗は素直に頷いてみせる。

 そんな愛斗へウェザ子は微笑みながら、送り出すかのように軽く背中を叩く。

 

「……よし、それじゃあ行ってきなよ歌姫! そして魅せてよ! 伝説のVTuber、謎っ子ナーゾちゃんの輝きを! 貴方が望んだ、本当の大成功ってやつを!」

「……もちろん♪」

 

 満点の笑顔で応えた愛斗が、自らの腕を天へと掲げ、パチンと指を弾く。

 指の音はマイクを通さずに、まるで何かの合図とばかりに、ライブ会場全体へと響き渡る。 

 

 百人弱の観客達の歓声が、たった一つの音に奪われる。

 そして次の瞬間、まるで弾かれた音が合図とばかりに暗転する。

 今までステージを照らしていた照明が、まるで役目を終えたかのように、一斉に消失し──眩い一筋の白い光が、ステージ中央へと降り注ぐ。

 

「……」

 

 白い光に乗って現れた愛斗はステージの中央に立ち、微動だにせず。

 言葉もなく。音もなく。僅か一つの震えさえないまま、まるで何かを──雨さえ降っていない地上で、一筋の雷でも落ちてくるのを待っているかのように。

 

 曲を始めることもなく。

 何一つ動きを見せることのないナーゾちゃんを、観客達は固唾を呑んで見守る以外にない。

 

 緊張は、けれどやがて困惑へと変わる。

 何をしているのか。何を始めようとしているのか。──何の意味があるのか、或いはないのか。

 皮肉にも、その謎こそがナーゾちゃんへの関心を引きつける。ステージ上の偶像をより偶像たらしめる、最大の演出であった。

 

「は──」

 

 けれど、静寂が一分を過ぎた頃。

 緊張に耐えかねてか、誰かが抗議の言葉で静寂を打ち破ろうとした。

 

 まさに、その瞬間だった。轟音が轟いたのは。

 ステージを照らす照明さえ霞むほどの雷光が、愛斗の立つライブステージへ奔り──落ちたのは。

 

 鼓膜を容易く破り、心臓さえ破裂しそうなほどの震撼。

 正しく静寂を切り裂いた一筋の稲妻に、動くことはなけれど、ナーゾちゃんさえ目を奪われる。

 

 雷の落ちた先には、少女が一人。

 今宵麦わら帽子は頭にも首にもなく、けれど綺麗な青緑の髪と真っ白のワンピースは健在。

 そして何よりも、全身より微弱に弾かせる、青緑の火花──閃電。

 

 いかづちちゃん。

 言わずと知れた東京コロニーにおける最強。生ける天災、誰とも連むことなき孤高。

 そんな彼女が、ライブの余韻さえ吹き飛ばす落雷に、観客の、そしてステージ裏のスタッフ達は息を呑む。

 

 ステージ上で見合う二人の間に、言葉はない。

 視線を合わせること数秒。やがて片方──誘った側が、ニコリと笑みを浮かべながら頷くのみ。

 愛斗が誘い、いかづちちゃんは応えた。それこそが返答であり、それ以上は無粋にしかなり得ない。

 

 故に、やるべきことは一つ。

 ギターを出現させたいかづちちゃんは、一つ深呼吸をし、愛斗を目を合わせ──弦を弾く。

 

 グシャリと心を鷲掴む、雷鳴の如き電子音。

 いかづちちゃんはリハーサルなんてものには、当然ながら参加していない。

 彼女はただ試すのみ。自らをアンプとし、観客など意に介さず、ステージ上の共演者──愛斗を見据えながら奏で始める。

 

 ──わたしをここまで引っ張り上げたのだから、付いてきてみろよと。

 

「──衣替え(コスチェンジ)♪」

 

 紡がれ始めるイントロに、いかづちちゃんからの挑発染みた挑戦に、愛斗もまた指を鳴らす。

 艶やかな夜空色の髪は、たちまち淡雪のように白く。

 そして身につける三角帽や魔女っ子服、更にはパンツやニーソの色までそれぞれ入れ替わっていく。

 

 ……ところで、謎っ子ナーゾちゃんには、七つの衣装が存在するのはご存じだろうか。

 

 かつて一年のみ活動していた伝説のVTuber、謎っ子ナーゾちゃん。

 素性不明。出所不明。一つ確かなのは、企業に属さず個人で活動していたくらい正体不明。

 そんな彼女はなんと、七種類の衣装を所持していて、日頃の気分でコロコロと変えながら活動していた。

 

 現実に出現し、人より変貌──転生したVTuberの容姿は、活動時期の衣装数に依存する。

 ナーゾちゃんの場合、内包している数は当然七つであり、愛斗が変身したのはその中の一つ。

 デフォルト且つ彼女の代名詞たる黒髪の姿とは、何もかも対極でありながら同質の衣装。

 

 謎っ子ナーゾちゃん、白魔女スタイル(ホワイトウィッチ)

 どこまでも呑み込む黒を謎とするならば、どこまでも染める白もまた謎たらん。

 

「ねえ、あなたはどうしてそこにいるの?」

 

 愛斗は──ナーゾちゃんは、語りかけるように、口を開き歌い始める。

 

 曲の名はMs.トレジャー。

 ナーゾちゃんが投稿した中では三曲目に該当し、愛斗含めた大勢のファンに息を呑ませた一曲。

 

 誰にも知られず片時も離れない、霧のような宝物。

 本来であれば苛烈と対極に位置する、惑う静けさと歪んだ自己問答が相為す調べ。

 明るく軽やかをベースとした一曲目と二曲目から空気を一変させた、世界観重視の楽曲。

 

 しかしいかづちちゃんの派手な旋律により、曲はガラリと意味合いを変える。

 自問自答は心の叫びへ。背後への問いかけは、目の前への問いかけへ。

 激しいスタートから切なさを両立させた旋律に乗せられた歌声は、観客の視線を嫌が応にも引きつけ──揺らす。

 

「彼女の名前は、Ms.トレジャー」

「近づけば薄れてしまう、霧のような宝物」

 

 前フレーズに激しい溜めのあと、サビへと入る。

 アドリブ全開にもかかわらず、まるで長年コンビを組んでいたかのように以心伝心で。

 微笑み合う二人は今、繋がっていた。二人の世界が、稲妻のように、観客達の心を震わした。

 

「きっとあなたは、わたしなの」

「だから、お願い」

「出会ったあの日から、わたしが薄れるその日まで」

「離れないで、離さないわ」

 

 ラストフレーズは、残る気力全てを絞り出すかのように。

 静かに曲は終わり、互いが手を握り、頷き合い──白と青緑の混じった光は、雷と化し空を昇る。

 

 雷は灰雲へと突き刺さり──阻まれることなく、穿ち抜ける。

 かつて愛斗が地元にて、ナーゾちゃんの力で起こした奇跡。

 空の穴の大きさは比較にならず。夕暮れが差し込み、幾重の虹を描きながら、ライブ会場を容易く光で満たした。

 

「今日は本当に、来てくれてありがとーっ!」

 

 夕日と虹の下、愛斗は大きく息を吸い、今日一番の大きな声で感謝を述べる。

 この一言は、果たして誰へ向けたものだったのか。答えはきっと、叫んだ彼女だけが知っている。

 

 2035年、第七回東京コロニーライブ。

 多くの者の協力にて地上で行われるに至ったその一回は、まさしく大成功と呼ぶべき一日だった。

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