VTuberショック!!〜絶望の未来へ飛ばされた俺は、最推しのVTuberの歌と力で世界を救う〜 作:ゴマ醤油
ライブ終了より、三日の後。
ようやく落ち着きを取り戻してきた東京コロニー内にて、愛斗はかみさまに呼び出されていた。
「というわけで、なんと三つも出来ちったんじゃよね。てへっ♡」
「うわっ」
「うわっは流石にガチすぎないかのう?」
かつての駅員室、現在のかみさまの私室にて。
ウェザ子の本気の幻滅に落ち込むかみさまより、愛斗は簡単に
渡されたのは、手のひらサイズの銀色の円形。
勲章というよりかは、バッジが近い。
どちらとも取れるしどちらでも良さそうな小物を、愛斗はどこか感慨深げに見つめる。
先のライブにて発生したV粒子は、かみさまの想定していた量の遙か上であった。
愛斗の指輪──ナーゾちゃんへの変身エネルギーを満タンにするだけではなく、内より崩壊を始めるほど枯渇していたかみさまの存在さえ十全以上に補強してみせるほどの量であった。
その結果、回復したかみさまはより高いパフォーマンスにて、全能の
過剰に稼いだからこそ、結果として消耗を抑える形となる。かみさまでさえ予想していていなかった、思いがけない幸運による結果が、三つ作成するに至った経緯であった。
「これが、あの壁を越えるアイテム……」
「さよう。これを身につけていれば、あの不可侵壁を通り抜けられる。厳密には壁を壁としなくなると言うのが正確なんじゃが……まあ、細かい理屈はいいじゃろう。儂も何となくしか分かってないから、噛み砕いて説明出来る気がしないからのう。ふぉっふぉっふぉ」
陽気に笑うかみさまに、愛斗は苦笑せざるを得ない。
今後の参考として、出来れば理屈を聞いておきたかったが、説明出来ないのであれば仕方ない。
作れはするけど説明は下手。そんな幼馴染──
「……あの、流石に二つ受け取るわけには──」
「ああ、いいんじゃいいんじゃ。何せ元より愛斗君の成果なんじゃからな。というか儂らは十分おこぼれを受け取っておるし、遠慮されると逆に困っちゃうんじゃよね。ふぉっふぉっふぉ」
愛斗が申し訳なさそうに一つ返そうとするが、かみさまは両手で大丈夫だと突き返す。
「……まあ本当なら三つとも渡すつもりだったんじゃが、持ってかれちゃったから仕方ない──」
「ちょっと、おじいちゃん?」
「おっと、これ以上は無粋だったのう。ふぉっふぉっふぉ」
ウェザ子に遮られたかみさまは、
愛斗は若干気になりはしたものの、深く詰める気はなく。
ありがとうございます、と。
丁寧に頭を下げてから、受け取ったバッジの一つを懐へ。
そしてもう一つは、背中に背負ったバッグの中へと優しく入れ、いつかのためにと保管した。
「さて愛斗君。ここでの目的を果たしたということは……もう、行ってしまうのかのう?」
「ええまあ。……少し長くいすぎましたからね。今日はしっかり休んで、明日発つ予定です」
かみさまの問いにはっきりと頷いた愛斗は、自らのこれからを語る。
暦は既に十月。
東京コロニーに二ヶ月近く経過しており、愛斗の着ているジャージは万能故に実感しにくいが、太陽の遮られたこの世界はかつての冬と大差ない平均気温へと下がってしまっている。
世界の滅亡については、愛斗は具体的な情報を持っていない。
故に多くの生物にとっての大敵、本格的な冬を迎える前に何かしらの蹴りをつけたいと。
一与の予言した2035年を終える前に、何かしらの解決をしておきたいと。
愛斗の心には、少しの焦りがあった。
多忙でライブ活動中は目を背けることが出来ていた本題に、再度直面させられていた。
「そっかぁ。お姉さん、愛斗君のこと気に入ってたんだけどなぁ。……やっぱり私もついて行っちゃおうかな?」
「ふぉっふぉっふぉ。ウェザ子ちゃんや、どうか儂を捨てないでおくれ」
「はいはい。まったくもう」
わざとらしく嘆いてみせるかみさまに、ウェザ子は苦笑しながらもまんざらでもなく。
そんな二人に、愛斗は穏やかに──けれど寂しげに、見つめるのみであった。
かみさまの部屋を離れた愛斗は、最後の挨拶と深く関わった者達を回ることにした。
順番自体に、別な意味はなく。
ただ回りやすそうだなと、まずは北区画でもっとも親しかったであろう知古。鈴木を見つけ──どうしてか、軽くサッカーボールを蹴り合っていた。
「そうか、行っちまうのか。……寂しいな、こんな世界じゃ昔の知り合いなんてそういないからよ」
「……悪い」
「いいって、気にすんなよ。こんな世界だからこそ、お互い後悔しないようにやらないとな」
誰も来ない隅っこにて、ゴロパスをしながら別れを惜しむ鈴木。
去ることに少し罪悪感を抱いてしまう愛斗へ、少し強めのパスを送った鈴木は笑みを作る。
「それにさ、今度ここでフットサル大会やるんだ。まさかVTuberと試合なんて……何が起きるか分からないもんだよな、人生ってのは」
「……体育みたいにやりすぎるなよ。経験者」
「へへっ、サッカーで手を抜いちゃおしまいよ。守護神なんて呼ばれちゃうぜ?」
まるで体育の授業中みたいに軽口を叩き合いながら、暫しの間、パスは続き。
やがて鈴木と別れた愛斗が次に訪ねたのは、北区画の責任者──萩原の下であった。
「……そうですか。それは少し、残念です」
愛斗に旅立ちを告げられた萩原は、別段表情を変えることもなく、けれど静かに惜しむ。
可もなく不可もない、最低限の距離感なのだから予想通りの反応だと。
自身もまたお世話になった人への挨拶、はっきり言えば社交辞令の一環でしかないのだからと切り上げ、次へと向かおうとした。
けれど萩原は、立ち去ろうとした愛斗を呼び止め、どうしてか静かに頭を下げた。
「……無色君。私は君に、謝らなくてはならない。本当はライブの前に済ませるべきだったのに、今まで切り出せなかった。申し訳ございませんでした」
綺麗な四十五度。整然とした姿勢。
言動だけで推し量るのであれば、紛れもなく偽りではないと気圧される程度の謝罪。
「……頭を上げてください。謝られると、逆に困ります」
そんな萩原に、愛斗はほんの一瞬だけ動揺するも、顔に出すことさえなく首を横に振る。
何に、と。
愛斗が問うことはない。何となくではあるが、思い当たる点がないわけではなかったからだ。
「萩原さんは、ここの人達のために頑張ってただけじゃないです。無茶を始めたのは俺の方で、迷惑かけたのは俺の方で、だから協力してくれて……俺を受け入れてくれて、ありがとうございます」
だからこそ、愛斗もまた頭を下げる。
きっと、自分の知らない所で色々な柵があったはず。
もしかしたら人間を嫌うVTuber──特にカケルなどから圧をかけられていた、そんな想像だって難くない。
成功で終わったからいいものの、自分の行動全てが、北区画全体に対して迷惑をかけていた。
自らがそうすると決めたのだから、決して後悔はないものの。
そういう自覚、負い目がなかったと言えば嘘になる。だからこそ、愛斗は謝罪を受けるのではなく返した。例え萩原が困惑しようと、決して譲るつもりはなかった。
「……これからも、頑張って下さい。萩原さん」
「……あなたも。これからの幸運を願っています」
頭を下げ合う珍妙な場面を十数秒経た二人は、握手を交してから別れる。
次に愛斗が訪れたのは、共用スペース越えた南区画──の入り口付近。
流石に中には入れないからと、呼びだしてもらったのは、ニット帽にスキーウェアのVTuber。東京コロニーに来るより前に知り合い協力してくれた、斉藤であった。
「そっかぁ。……でへへっ、そろそろまた旅を再開しようと思ってたんだぁ。お揃いだなぁ」
愛斗が旅に出ることを伝えると、斉藤は自分も同じであると。
首に手を置いて頷き、でへへと照れくさそうに頬を緩める斉藤に、愛斗は「そっか」と静かに頷く。
愛斗にとって、斉藤は友人であるのと同時に恩人である。
初ライブのとき、もし彼が来てくれなかったら心が折れていたかもしれない。
折れておけと言葉で刺してきたいかづちちゃんへ違うと、心から首を振ることが出来なかったかもしれない。
勇気をくれ、心を繋いでくれた恩人。
そんな斉藤が再び旅に出ることを祝福したいと思いつつ、危険な旅へと戻ってしまう斉藤を止めたいという気持ちを抱いてしまうのは妥当であった。
「……色々ありがとう。斉藤も頑張れよ。今度会ったら、デズニーの写真見せてくれよ?」
「もちろんだよぉ。でへへっ」
けれど。
愛斗は自身の心配よりも、送り出すための笑顔を作り、約束とばかりに握手を交して別れる。
そのままの足で、愛斗が最後に訪れたのは地上。
ライブ会場とは少し離れた場所。いつかの夜よりいかづちちゃんと話していた場所だった。
「……いないか」
けれど、いつものように壁に寄りかかる彼女はおらず。
ギターの音もなく、バチリと弾ける火花の音さえもない。雷の気配は、何一つとて感じられない。
「最後にお礼を言いたかったけど……まあ、仕方ないか」
愛斗はいつもいかづちちゃんの定位置を見下ろし、ふと彼女の姿を幻視してしまいながら。
会えないのなら仕方ないと、踵を返して立ち去る他なかった。
──その姿を錆びた信号機の上より見下ろす一人の少女に、気付くこともないまま。