永劫火継神話 アノール・ロンド -深淵の騎士-   作:海月マル

7 / 8
太陽

「アルトリウス。……あのサーヴァントについて知りたいなら、知ってる限りは教えるのだわ」

 

 

 エレシュキガルの言葉に、藤丸とマシュの表情は僅かに硬くなる。対してシグルドとキルケーは平静にマスターの応答を待っていた。あのサーヴァントへの疑念はもとより持ち合わせていた故に。

 

 

「……お願い、エレシュキガル」

 

「わかったわ。と言っても、私もあんまり詳しくは知らないのだけど」

 

「それなのに背中を任せてたのかい? アルトリウスの話だと、きみとも仲間として付き合ってたみたいだが」

 

「し、仕方ないじゃない! なぜだか知らないけど、私以外はアルトリウスのこと最初から信頼してたし! それについて聞いてみてもよくわからなかったから、私も深くは考えて無かったのだわ!」

 

「そういえば、サーヴァント以外の仲間もいるんだよね?」

 

 

 藤丸の声にハッ、とエレシュキガルが表情を戻すと、咳払いをして立て直し。

 

 

「ええ、そう。人間の戦士が二人いて、私たちに協力しているわ」

 

「人間と言っても、この土地のことを考えれば"英雄の生前"である可能性は高い。戦力にはなるんだろうが……どこにいるんだい?」

 

「祭祀場の中にはいるはずですので、この後に私から紹介させていただきますね」

 

「そっか、マシュとシグルドはもう会ってるんだね」

 

 

 話題が少しずつ逸れていくと、コホン、とエレシュキガルが咳払いをして四本の指を立てる。不思議そうにそれを見つめると、藤丸の目を見て女主人は語り始めた。

 

 

「グウィン王の四騎士については教えられたのね?」

 

「うん、そこはアルトリウスに」

 

「じゃあ、その内訳……具体的なメンバーについては?」

 

「……あ」

 

 

 そういえば、そこまでは口にしていなかった。襲撃してきた暗殺者、王の刃キアランが四騎士の一人であるということも、アルトリウスが口にしなければわからなかったはずだ。

 

 

「しまった……周囲やアルトリウス自体を警戒してたせいで、話の違和感には気づけなかった。間違いなく、意図的に伏せていたはずなんだが」

 

「一応言っておくけど、騙したり危害を加えるために隠した訳ではないわ。その話をするとややこしくなるし、より怪しくなるだけだから伏せた……といったところかしら」

 

「話を隠されたことで余計怪しくなってる気もするけどね。それで、王の四騎士のメンバーについてきみが教えてくれるのか?」

 

「もちろん。あのサーヴァントに関係なく、この特異点で戦うなら必須の情報になるわ」

 

 

 そう言うと、エレシュキガルは人差し指を立てる。どうやら、王の四騎士のそれぞれを指を数えるように説明するようだ。全員が注目したのを確認して、妙に似合う説明口調でエレシュキガルは解説する。

 

 

「まず一人目。竜狩り、オーンスタイン。王の四騎士の長で、異名通り竜を狩る力に秀でた槍使いよ。銀騎士及び四騎士の指揮官はこいつでしょうね」

 

「竜狩りとは。当方も竜殺しとして気になる相手ではあるが……」

 

「アナタの逸話に出てくる竜と、このオーンスタインが狩っていた竜はまったく別物ね。オーンスタインはワイバーンのような雑竜から巨大な竜。さらに言えば、かつてこの世界の支配者だった岩の古竜までを相手にした正真正銘の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 

「一匹の巨大な竜を討ったのではなく、質問わず竜とされるものを殺し尽くしたが故に竜狩り(・・・)というわけか」

 

 

 竜狩りオーンスタイン。この世界の竜に会ったことはないが、竜と呼ばれるものの脅威をカルデアは十分に理解している。

 それを「狩る」騎士となれば、その実力は言われるまでもない。

 

 

「ああそれと、王の四騎士はそれぞれ大王グウィンから獣の名と姿を持つ指輪を与えられているの。オーンスタインが与えられたのは「獅子の指輪」。だから、獅子を模した甲冑を纏ってるらしいわよ」

 

「詳しいね、戦場で見かけたとか?」

 

「王の四騎士が不死街の戦いに姿を見せたことは一度も無いのだわ。だから、私が姿を見たわけじゃないの。全部聞いた話だしね」

 

 

 もう一つの指を立てて、エレシュキガルは言葉を続ける。

 

 

「次は、鷹の目ゴー。こいつは巨人で、「鷹の指輪」を与えられた弓使い。注意すべきは巨人の怪力と狙撃の合わせ技………巨大な弓矢で、柱みたいな矢を射ってくるって話よ」

 

「弓兵の狙撃は常に警戒すべきもの。狙われた時はマシュ殿にマスターを任せる他ないが」

 

「はい、全力で先輩を守らせていただきます!」

 

「三人目は、王の刃キアラン。こいつについては私以上に知ってることも多いはずね」

 

 

 小ロンド遺跡で行われた奇襲が脳内に浮かぶ。キアランの動作は流れるように鮮やかで、曲剣と短刀の二刀流は捉えどころのない影の剣と呼ぶに相応しいものだった。

 二刀流と言っても武蔵ちゃんやディルムッドとは違う、身体全体で飛ぶように攻めてくる動きが特徴的だったように思う。

 

 

「四騎士唯一の女性で「雀蜂の指輪」を与えられた暗殺者。光を放つ曲剣と猛毒を持つ短刀、それにさまざまな道具を使うという話だけど……どうだった?」

 

「まさしく、その道具捌きにいっぱい食わされたよ」

 

 

 思い出すのもイヤだ、と表情で語るキルケーに笑いを誘われるが、実際キアランの強みは目的のため全てを使う……という点にあるのだろう。彼女にとって二振りの刃さえ道具の一つに過ぎず、必要とあらば容赦無く手離して命を奪ってくる気迫が感じられた。

 

 

「最後を語る前にもう一人。四騎士には数えられていないけど、同格の実力を持つ騎士がいるわ。こいつも召喚されてるらしいから、しっかり聞いておくべきね」

 

「同格なのに、四騎士にはなれなかったんだ?」

 

「酷薄な気性ゆえ、と言われているわ。名前はスモウ。巨大なハンマーで罪人を磨り潰す処刑人。身体も巨人並みに大きいらしいわよ」

 

 

 騎士と呼ぶには恐ろしい逸話から、四騎士に数えられなかったというのも納得できる。脳裏に相撲の二字を浮かばせながら、藤丸は四騎士の最後のメンバーについて話を聞く。

 おそらく、最も重要なその騎士の名前を。

 

 

「王の四騎士の最後は────深淵歩き、アルトリウス」

 

 

 エレシュキガルの落ち着いた声は直に魂を掴むように、その名を藤丸の中で響かせた。アルトリウス。それは、森で二人を助けた騎士の名だ。

 

 

「……覚悟はしていたが。まさか、同名の別人っていうのを信じろって?」

 

「話は最後まで聞くものよ。アルトリウスは「狼の指輪」を与えられた、王の四騎士随一の英雄。狼や猫を友とし、大剣と大盾を駆使して無双を誇ったと伝えられる。深淵───闇そのものと言えるような底無しの空間を歩けたことから「深淵歩き」と呼ばれたらしいわ」

 

「するすると逸話が出てくるね。……ん?」

 

 

 眉を顰めたキルケーと同じく、藤丸も疑問が浮かぶ。

 エレシュキガルの語る「アルトリウス」は、確かに藤丸たちが知るアルトリウスと似ている部分は多い。大剣と大盾を扱い、四騎士のキアランと知人のようで、よくは見ていないが指輪も付けていた気がする。

 しかし──────

 

 

「私たちの知るアルトリウスにしては、盛られすぎてるね?」

 

「うん」

 

 

 王の四騎士随一の英雄、無双の大剣使い────と言われると疑いが出てくる。アルトリウスは経験豊富で剣技も熟達していたが、他の英雄と比較すればまだ「人間離れ」の範疇だ。人外かと見紛うほどの技、能力を発揮していた覚えはない。

 

 それに、王の四騎士キアランと戦った際、アルトリウスは間違いなく劣勢だった。最後にダレイオスが割り込んでいなければ、確実に命を失っていたと言えるほどに。

 それでは、王の四騎士随一の英雄とは呼びにくい。

 

 

「それだけじゃないのだわ。私の仲間───ロードランを知る人間や神が言うには、騎士アルトリウスは三メートル以上の巨体の英雄とのことよ」

 

「先ほど会ったアルトリウスさんの身長は、大きめに見ても二メートルも無かったように見えました……」

 

「ということは────偽物?」

 

 

 藤丸の答えにエレシュキガルが苦い顔をする。あーわかるわかる、と目の色が言葉を発しているようで、実に微妙な表情だった。

 

 

「私もそう思ったんだけど……ここからがややこしいのよね」

 

「実は本物ってわけでも無いだろうに、何がややこしいのさ」

 

「私が「じゃあ偽物なの?」って聞いたら、みんなは「アルトリウスに間違いない」なんて言うのよ。グウィン王に仕える四騎士アルトリウスではないけど、あいつも紛れもなくアルトリウスだ……とか。それで本人に聞いても何も言ってくれないし、私も正直よくわかってないのだわ!!」

 

「???」

 

 

 訳のわからない話に混乱する。アルトリウスは二人いるということだろうか? あるいは、アルトリウスという名称に何かしら意味が───?

 

 

「うーん……まあ、とにかく。敵ではないんだね?」

 

「それは私が保証するわ。それに、敵だなんてもともと思っていないでしょ?」

 

「そりゃ、敵なら杜撰すぎるしね。キアランが襲ってきた時に裏切らない理由も無い」

 

「それに────アルトリウスは命を賭けて、俺たちのために戦ってくれた」

 

 

 それだけは誰が何を言おうと否定できない、あのアルトリウスの真実だ。彼は無双の英雄ではない。だが人を助ける英雄なのだと、他でもない藤丸立香が証明できる。

 その言葉に、エレシュキガルもマシュもシグルドもキルケーも、同じ笑みで応えた。これより後、アルトリウスを疑うことはもう無いだろう。

 

 

「それなら、もう言うことはありません。アルトリウスは周囲の警戒でもしているだろうから、会いに行くなら─────」

 

「おお、話は終わったようだな! では、話に割り込ませてもらおう!」

 

 

 広場を見下ろす位置、いくつかの段差の上に立った男が、エレシュキガルの声を遮った。

 木漏れ日を背にした男の声は明るく、快く、燦々と広場に響く。つまり、その男は──────太陽のようだった。

 

 

「俺はアストラのソラール、太陽の戦士ソラール! 人間として君たちに協力する、この地に生きる騎士の一人だ!」

 

 

 バケツに赤羽を刺したような鉄兜からよく通る声が放たれる。同時に彼が「Y」と両腕を上げてポーズを取れば、その瞬間、彼の服に描かれた太陽が眩く輝いたかに見えた。

 ……その勢いに多少押されつつも、藤丸は口を開く。

 

 

「Y……つまり、ローマ……??」

 

「む、やはりその反応か。このポーズは太陽を讃美するものでな、そのローマとやらとは何の関係も無いのだ」

 

「ロムルスさん以外にあのポーズを取る方がいるとは、私も思いませんでしたが……ソラールさんはローマ英霊の方々に似て大変元気な方なんですよ!」

 

「太陽たらんとするなら元気なのは必須だからな! それで、貴公が噂に聞くマシュ殿の先輩だな?」

 

「藤丸立香です。よろしくお願いします、ソラールさん」

 

 

 固い握手を交わすと、その手には強靭な人の強さが滲んでいた。圧倒的な力・知恵を持って切り開くのではなく、泥臭く足掻いて勝利をもぎ取る。そのような人間らしさがソラールにはあった。

 

 

「ソラールさんは、サーヴァント……ええと、エレシュキガルやアルトリウスとは違うんですよね?」

 

「ああ、ただの人間だとも。少し前なら、特殊な人間と言えたかもしれないが……今となってはな」

 

「?」

 

「個人的な話だ。だが、敵が銀騎士やこの地の化け物と言うなら役に立つ自信はあるぞ!」

 

「はい、ソラールさんの知識と立ち回りには何度も助けられました。剣だけではなくロードラン特有の魔術も扱えて……」

 

「俺の雷は奇跡と呼ばれるもので魔術とは一応区別されるのだが、まあ似たようなものだな。銀騎士連中には大して通じないが!」

 

 

 ははは、と豪快に笑うソラール。つまり、サーヴァントではなく現地の人間ではあるが、その実力と知識をもって戦力に数えられているということか。

 会話の様子を唸りつつ眺めていたキルケーは揺れるソラールの兜をじっと見つめて、

 

 

「変人奇人の類に見えるが、実力は確かみたいだね。まあ、英雄っぽくは無いが……」

 

「その通り、俺は変人の類だとも。この地に生きていると、俺のような変人でも剣を握らねばならんことは多くてな」

 

「……それは、ソラールさんがここで戦っていることにも関係してる?」

 

 

 そう聞くと、ソラールは兜を掻くように手を頭の後ろに回す。はは、と兜の奥から短い笑い声が聞こえると、

 

 

「そうだな、変人ゆえに大王グウィンとその騎士たちに抗う、なんてことができているのかもしれない。それに……」

 

「それに?」

 

「……かつて、俺を笑うことなく背を預けてくれた友がいた。その友がこの地にいれば、きっと同じことをしただろう。それだけだ」

 

 

 堂々とした声色。サーヴァントではない、真っ当な英雄でもない。ただ人間の騎士として神と対することに、ソラールは一切の恐怖を抱いてはいなかった。

 と、藤丸の肩をエレシュキガルの指が優しく叩く。

 

 

「どうしたの、エレシュキガル?」

 

「噂のサーヴァントが帰ってくるみたいよ。ほら、上を見なさい」

 

「上?」

 

 

 噂のサーヴァントとは、先ほど話題になった神霊───アノール・ロンドを攻撃しているという協力者のことだろう。

 言われた通りに頭上を見上げれば、空の彼方───青く澄んだ景色にいくつもの影が浮かんでいた。

 

 目を細めて影を見る。

 空を飛ぶ影は小さなものだが、近くまで寄れば人を遥かに超える大きさであろうことはすぐに理解できる。

 

 

「マシュたちもまだ会っていないんだよね」

 

「はい、私たちが祭祀場に着いた時には既に出立されていたので────え?」

 

「────あれは」

 

 

 マシュ、そしてサーヴァントの二人……特にシグルドが目の色を変える。人を凌駕した視力は彼方の影をいち早く認識させたのだろう。藤丸もよく目を凝らして空を見て────理解する。

 

 

「竜だ」

 

 

 浮かぶ影は、次々と数を増やしていた。

 巨大な翼を羽ばたかせて空を駆けるモノ、その姿はフランスで見たような雑竜(ワイバーン)とは違っていたが、印象は似通っている。

 竜殺しの英雄たるシグルドが強く反応するのも頷ける。空を埋めるほどの飛竜の群れは、話を聞いた上でなお本能が危機を訴える圧を纏っていた。

 

 そして。

 飛竜の群れ、その中心にさらに巨大な「竜」が在り─────その背には太陽の威をカタチとする「王」が在る。

 

 その姿を認識した後、口を開く者は誰もいない。飛竜を束ねる竜と王は一直線にこちらに向かい────竜の背を離れた王のみが、祭祀場へと落下する。

 超高度からの落下にも関わらず、衝撃も土煙もほとんど無い。だというのに、その場にいるすべての者はソレに「落雷」を想起した。

 

 巨大な竜が飛竜のほとんどを引き連れて谷へと降下し、祭祀場に落ちた王は悠然と歩みを進める。

 その視界に、すべての者を収めながら。

 

 

「数が増えたな」

 

 

 一言で場を制するほどの威厳……圧倒的なカリスマを発揮する王を前に、冥界の女主人と太陽の騎士のみが唇を開く。

 

 

「今日合流したサーヴァントたちよ。二人は不死街で拾って、もう二人はアルトリウスが連れてきたの」

 

「四者とも信頼できると俺は主張しよう。大王との戦いに大いに役立つはずだ!」

 

 

 両者の声を聞き、王はカルデアのサーヴァントと人間───藤丸立香に意識を向ける。

 雷を思わせる剣槍を手に王は藤丸の前へと立ち、声を発する。厳かな神として────あるいは、太陽の如き王として。

 

 

「我は名を消されし神、故に「無名の王」を名乗る者」

 

「星を見る者、大王に抗う彼方の人よ。───その参陣、心より受け入れる」

 

 

 火の時代の伝承に曰く。無名の王は、神を追われた神。

 竜狩りの戦神でありながら古竜と友誼を結んだことで神を追われ、一切の記録を失うも古竜の同盟者となり頂きに君臨した者。

 

 太陽の光の王グウィンの長子────竜を束ねて大王に対する、もう一つの太陽である。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。