【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
エステル・シルバリオとの許嫁を解消されて四年。齢十四を迎え、まだ幾分か幼さがありつつも立派な長身の銀髪美少年と化していたクー・ズーハルトは、今日も呑気に茶を嗜んでいた。
「……ララよ。今日も良い天気だな。ララの淹れてくれたお茶も、実に良い味わいをしている」
「そうですか。クー様の将来を象徴するような曇天ですが、お茶が美味しいのなら何よりです」
クーはララの厳しい一言を苦笑で流す。空はララの言うとおり、分厚い灰色に覆われ、今にも雨が降り出しそうな模様をしていた。
「マリアナめに追放を言い渡されて早四年。育った屋敷でララと寛げるのも残り一年を切ったわけだが……ククッ、月日が経つのは早いものだな」
「そうですね。あんなに可愛げのあったクー様が、今じゃすっかり大人びてしまって。ララめの身長を抜いてしまったばかりか、それにあんなに苦手だった紅茶の味まで分かるようになってしまうとは……本当に、早いものです」
そばに立ちながら感傷に浸るララ。クーは別段振り向くこともなく、ただ茶を一口へと流す。
「それでララ。突然ではあるが、追放宣告より四年の間にてこのクー・ズーハルトの稼いだ額。その全てとただ今の現状を、甘い言葉で包み隠さずに言ってみてくれ」
「かしこまりました。この四年でクー様が稼いだり減らしたりした額は、大体ですが金貨百枚ほど。学園卒業までに必要な学費はおおよそ金貨千枚で、入学の際に払う一年分の学費だけだとしても金貨約二百枚。つまりはっきり申し上げますと、まったくもって足りていません。このままでは、例えクー様が受験に合格しようと、学園には通う未来はありません」
「はっはっは! 本当に開けっ広げだな! ちょっと手厳しすぎて俺泣いちゃいそうだぞ! はっはっは!」
ララの残酷な宣告を聞いたクーは、屋敷中に響き渡るほどのやかましさで高笑うしか出来ず。
「……補助生制度を狙ったりはしないのですか? 今のクー様であれば、問題なく滑り込めるかと」
「ククッ、それでは実力とは言えないだろう? このクー・ズーハルト、どうせ入るのなら借金ではなく正々堂々と憂いなく入学したい。そう思うのは、当然の話だろう?」
「前もそれ聞きましたけど、そんな悠長に宣ってるからこんな現状なんじゃないですか?」
「はっはっは。はーっはっは!」
またララの厳しすぎる指摘にクーは返す言葉がなく、ただ笑って誤魔化すしか出来なかった。
(単純な試験の成績による合格ではなく、見込みのありそうな学生に学園側から直接声を掛け、場合によっては補助金を出してくれる補助生制度。まあその際に生じる補助金は卒業後に返さなくてはならない、所謂奨学金なのだが……今年はなんとたったの二枠しかない。なんていうか、色んな事情を感じさせるよな)
色々とツッコミ所のある制度なので、クーはつい大人の事情の一端を、しみじみ痛感するしかない。
(そしてそのたった二枠しかない補助生制度なのだが……その内一枠はご存じ【めがゆりTS】の主人公がほぼ内約済み。つまり俺が枠を
学ぶための場に何しに行こうとしているとしているのか。この期に及んでも舐めきった私情全開なクーだったが、彼にとっては何より大事なことなので、どうしようもなかった。
(それに奨学金ってさ、嫌な思い出あるんだよな。あれはそう、奨学金で無理矢理大学に通いはしたけれど、紆余曲折あって退学になり、見事借金だけ残ったクーになる前の大学生活のこと……ううっ、思い出したくないからこれ以上はなしで。泣いちゃそうになる)
そしてもう一つの理由もやっぱり私情だった。思い出せば未だ辛い気持ちになってしまう、そんな苦い思い出と奨学金への苦手意識がクーにはあった。
「まあそんなわけで最早崖っぷち、まさしく背水の陣なわけだが……やはりユリユリドリームくじ。ユリユリドリームくじにて夢を買い、一発逆転を果たすしかないのか?」
「正直に言っていいのであれば、そういう胡乱な可能性に懸ける方がまだ希望があると。……慰めではなく、ここ四年のクー様の躍進は目を見張るものだったとララめは断言いたします。ですがそれでも届くことはない。校風として機会平等を謳ってこそいますが、入学前も入学後も身分の差を痛感させられる。貴族以外にとっての学園とはそういう場所ですとも」
ララは若干の哀れみを言の葉に乗せながら、空になったカップへ茶を注ぎ直していく。
「……あの、別にそこまで急がなくてもいいんじゃないですか? 入学に年齢規制はありませんし、余裕が出来たら入学すればいいと思うのですが」
「嫌だ。来年入れない学園に意味なんてないもん。福神漬けのないカレー、わさびのないお寿司みたいなもの。わかる?」
「何言ってるかさっぱりです。というか、学園なんざいつ入ったって変わりませんよ」
クーはやれやれと頭を抱えるララを流しつつ、つい思い浮かべてしまったカレーやお寿司に食欲を刺激され、ちょっぴりだけ後悔してしまう。
「……ああでも、このままではエステル様との約束、破ってしまうことになりそうですね」
「そうならないために今、こうして茶を嗜みながら頭を捻っているんじゃないか。はむっ」
そう言いながらクーは茶菓子のクッキーを食べ、目を閉じてから糖分を得た頭を回してみるも、やはりユリユリドリームくじ以外に良いアイデアは浮かんでくれない。そも少し考えた程度で思いつきようであれば、既に十分な金額稼げているはずだろう。
「……そういえばララよ。話は変わるが、使用人達の転職状況はどうなっている?」
「クー様の仕事量を減らし、転職に注力させる方針のおかげか大体は恙なく。この機に籍を入れる者や旅に出るなどと言った者など、差はあれど皆前向きに進めそうです」
「そうか。……今の俺には全員を面倒見てやる財力も、望む職場を斡旋してやれる人脈もない。だからまあ、憂いなく送り出せそうで良かったよ」
クーは静かに頷き、注がれた二杯目の茶の香りを楽しんでから、ゆっくりと口を付ける。
「……ちなみにララ。お前はどうするんだ?」
「そうですね。貯蓄はありますし、クー様の学園入学を見届けてから、どこか田舎にでも隠居しようかと」
コトリとカップを置き、背後へ振り向いたクーに問われたララは、特別隠すことなく今後について話す。
「……そうなのか。いくら爪を隠そうと、お前ほどの女あれば本邸が呼び止めないわけがないだろう?」
「お言葉ですがクー様、このララめが忠を捧げるのはミーア様、そして唯一血縁であらせられる貴方様のみ。たかだかズーハルトの家風情に首輪を付けられてやるほどの情など持ち合わせていませんとも」
ララは笑みを作りながらはっきりと、そして不遜にも言ってのける。心の底からの本音だと、ララには珍しいほど分かりやすい声音だと、クーはどこか納得した。
「そういえば、ララは結婚しないのか? ほら、お前もいい年だ──」
「ぶっ飛ばしますよ? それとクッキーは没収します」
「ごめん、本当ごめんって。あーちょ、本当に持っていかないで! ……って、雨降ってきた雨! あーもうぐだぐだ! ちょっとララー! ララー!」
クッキーの皿と共に颯爽と消えていったララを呼び止めようとしたとき、バタバタとお茶の片付けを始めるクー。結局雨は待ってくれず、ララも帰ってきてくれず、片付け終わった頃にびしょ濡れだった。