【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~   作:ゴマ醤油

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試練境、妖精の箱庭

 妖精の作った扉に落とされたクーとルルラルルは、森から空高くへと投げ出されていた。

 

「お、おーちーてーるーっー!!」

 

 落ち行く最中、ルルラルルの耳を劈くような絶叫を隣に、クーは冷静に内の魔力を上げていく。

 

天よ(デヴァ)抱き留めろ(プラミカ)

 

 冷静に発動された魔法の風は、二人優しく包み込み、緩やかに地面へと着地させる。

 

「あ、ありがとクー君……お空が近すぎて、もう駄目かと思っちゃったよぉ……!! おおん……!!」

「はっはっは、もっと存分に褒めていいぞ。……あと離れて、服びしょびしょになっちゃうから。思春期にとっての毒も当たっちゃってるから」

 

 泣きべそ掻いたルルラルルに抱きつかれたクーは、若干嬉しそうな顔をしながらも、けれどちょうど身体に当たってしまう柔らかな感触を優しく引き離していく。

 

(それにしても……一面エメラルドの空。クレヨンで描いたような白雲。同じ森でこそあるものの、先ほどまでいたエルキドの森とは何もかも……いや、先ほどまでいた世界とも、クーになる前の世界とも雰囲気が違う。例えるのなら、写真が絵本に変わったような世界……そうか、そういうことか)

 

 クーはルルラルルを剝がしながら、エメラルド色の空を仰ぎ、周囲を一瞥し見当を付けていく。

 

「……なるほど。ククッ、ここがかの試練境(しれんきょう)。妖精が気まぐれに気に入った人間を招く箱庭か。喜べよルルラ。どうやら俺達はあの妖精のお眼鏡に叶ったのか、噂の英雄試練とやらに(いざな)われたようだぞ」

「ズビビーっ! しれんきょう? しれんきょう……試練境って、え、ええーっ!!」

 

 鼻をかんだルルラルルは、クーの不敵な笑みでの宣告に、脇目も振らずの大声で叫んでしまう。

 

(試練境。別名妖精の箱庭だったり英雄試練だったりと、ご存じ【めがゆりTS】に登場する妖精の気まぐれ。原作では四巻で主人公達も巻き込まれ、クリアすれば必ず成果がある。前の世界風に言えば神隠しと、或いはゲームで偶然迷い込んでしまった高難度裏面と、そんな具合に当てはめるのが正解か)

 

 クーはルルラルルの驚き顔を見て満足しながら、【めがゆりTS】内での試練境についての言及を思い出す。

 

「そ、そんなぁ……。せっかく助けたのに、妖精さんに連れてこられちゃったの……? 酷くない……?」

「ククッ、妖精の機微は人のそれとは違うからな。あれに悪意などなく、本当に感謝で連れてきたのだろうよ」

 

 項垂れるルルラルルに、クーはくつくつと笑ってみせる。

 

「それにルルラよ。そんな弱気では天下無双の名が泣くぞ。偶然だが、後生に名を残す英傑達と同じ試練に挑めるんだぞ? 滾ることはあれど、憤っていては俺達の器もたかが知れているというものだろう?」

「……そうかな、そうかも、そうだね! 確かに妖精の箱庭、英雄試練は強くなるためには絶好の一歩! あたしの憧れる『ランサー』は一人で三回も攻略したって話だし、天下無双を目指すあたしは幸運に思わなくちゃ! あっははー!」

 

 すぐに気を取り直すルルラルル。そんな彼女の切り替えの早さに、クーは満足と頷いてみせた。

 

「……あ、でもララさんどうしよう? どうしてか一緒に来られなかったみたいだけど、大丈夫かな?」

「ククッ、恐らく意図的に招かれなかったのだろう。妖精とは何かしらの因縁があるようだったからな。……まあ心配いらないとも。それよりも自分の身だ。何が起こる変わらないし、互いに自身を最優先にしつつ、気張っていこう」

「了解! えいえいおー、だね! あっははー!」

 

 クーの断言に、ルルラルルもすぐに頷き、試練境を挑むべく森に続く一本道を歩き始める。

 

「……あれだね、なんか平和だね。妖精の試練なんだから、もっとこうバアーって襲われると構えてるん

「むしろその方が厄介だと俺は思うぞ。敵を倒せば終わりなら幾分かマシ。現状道なりに沿っているとはいえ、当てもなく歩いているのと代わりないからな」

「そうだねー。あたしも飢え死には勘弁かなー、あははー!」

 

 歩けど変わり映えのしない森の中。二人は無理のない範囲での警戒を続けながらも、たわいもない雑談をしながら、ただただ真っ直ぐ歩き続ける。

 

「あ、クー君あれ! もうすぐ出口じゃない!? やったー!」

「あ、ルルラ! ……まったく」

 

 木々の終わり、森の出口が見えてきたと走るルルラルル。クーは制止しようとするも既に手遅れな彼女の背に少しの呆れを持ちつつ、置いていかれまいと駆け足になって森から脱出する。

 

「……森を抜ければ、そこは高い芝生の迷路というわけか。ククッ、試練としては実に定番よな」

 

 そして森を抜けた先、クー達の目に入ったのは、高い芝生の壁によって出来た迷路の入り口であった。

 

『↑』

「矢印……? ねえクー君、これどういう意味なんだろう? 入れってことなのかな?」

「さあな。ともかく進んでみよう。何はともあれ、止まっていては何も始まらないからな」

 

 入ってすぐの正面。左右の分かれ道に壁に掛けられた矢印の看板をいぶかしみながらも、とりあえず左へと二人は進んでいく。

 

「こんな狭いと槍振りにくそうだなー。あ、そうだ! ちょっと上から覗いてみよう──あだぁ!?」

「あ、ちょ!」

 

 名案を思いついたと。クーが止める間もなく跳躍したルルラルルだったが、何故か天井があるみたいに空に頭をぶつけ、そのまま墜落してしまう。

 

「いったーい!」

「……芝生のてっぺんと同じ位置に見えない天井があるようだと。今し方魔法で確かめたから話そうと思ったのだが、まあ手遅れだったな。……なんか、ごめん」

「うーん、もうちょっと早く言って欲しかったな、もー!」

 

 頭を擦るルルラルルに、クーは申し訳なさそうに謝罪し、ズルはなしだと大人しく進んでいく。

 

「あ、あれ? 戻ってきちゃった。一方通行……だったよね?」

「ああ。分かれ道は最初の一つのみで一本道。そして景色から考えると、曲がらなかった方から入り口に帰ってきたと見るのが妥当。……体感だが、ぐるりと大回りして戻ってきたという感じだな」

 

 進んだ先、看板のある入り口へと戻ってきてしまった二人は戸惑いつつも、再び迷路に潜ってみるが何も変わらない。

 

「さ、三周したけど何にも変わらない……。左から進んでも右から進んでも駄目。どうなってるのこれぇ……」

「どうやら仕掛けがあるようだな。解けねば朽ちるまで迷う……ククッ、らしくなってきたじゃないか」

 

 入り口前にて貴重な軽食と共に一息つく最中、落ち込むルルラルルをよそに、クーは楽しそうに頭を悩ませていく。

 

(高い芝生の壁。入り口にある矢印の看板。分かれ道は最初のみ。罠はなし。見えない天井。出口のない迷路。……何かあるとすれば、芝生の壁に通路が隠されているのが定番だが、歩きながら一通り壁に触れて確かめたのでそれはないが……)

 

「……矢印?」

 

 そこまで考えた後、ふと何かを思いついたクーは、座りながら軽く魔力を練り上げていく。

 

天よ(デヴァ)壁を撫でてみろ(プラミカ)。……ククッ、クックック、はーっはっは! はーはっはっはぐえごほっ、ごほっ、ごほっ」

「ど、どしたのクー君? ほら、よしよーし」

 

 確信を得たのか、勢いよく立ち上がって高笑いし出すクー。だが咽せてしまった彼の背を、ルルラルルは怪訝そうに首を傾げながらも、よしよしと優しく撫でて落ち着かせてくれる。

 

「あ、ありがとう。では改めて……ククッ、はーっはっは! 謎はするっと解けたぞ、ルルラ!」

「解けたの!? すごいクー君! 流石クー君! よっ、クー君天才!」

「くるしゅうない、くるしゅうないぞルルラ。はっはっは、はーはっは!」

 

 ルルラルルの素直な褒め言葉を受け、試練境全体に渡らせたいのかと思えるほど、腹の底から笑いをあげるクー。このやり取り、実に茶番極まりないが、二人で盛り上がると大体こんなノリなので今更だ。

 

「ではではクー君! 

「いやな、あの看板の矢印の意味を考えていたときにふと閃いてしまってな? 風で軽く撫でてみたら……見事正解だったというわけだ。いやはや、やはり謎を解いた瞬間というのは昂ぶって仕方ない! 昔テレビのクイズ番組でIQ200の難問を親より早く解いてしまったときのような、そんな清々しさだな!」

「?? テレビ……? アイキュー……? ともかくすごい、やったー! あっははー!」

 

「……で、結局どういうことなの?」

「うん、見ていろ見ていろ~。つまりは……こうだ!」

 

 きょとんと首を傾げたルルラルル。そんな彼女へ見せびらかすかのように、クーが矢印の看板の真下へと思いっきり手を突き立てるが──芝生の壁は、彼の腕を阻まない。

 

「わ、わぁ! クー君の腕が、芝生の壁を突き抜けちゃった……!!」

「どうやら見えるものだけに囚われすぎていたようだ。壁は壁、芝生は芝生。最初から道は示されながら、固定観念で考える限り道が拓かれることはない。実に妖精の悪戯らしい試練だ」

 

 すかすかと、まるで靄のように霞む芝生の壁を弄びながら、クーは饒舌に説明していく。

 

「さあ行くぞ。タネさえ割れてしまえばただの一本道だ」

「だね!あっははー!」

 

 二人は意気揚々と芝生の壁を突き抜け、そして真っ直ぐ進んだ先、ついに迷路の出口が現われる。

 

「よーし到着……ってあれ? ねえクー君? もしかしてだけど、戻ってきちゃってない?」

「……戻ってきちゃってるな。あれぇ?」

 

 けれどどうしてか出口は入り口で。勝ちを確信していたクーは、呆然と首を傾げるばかりだった。

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