【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
妖精の箱庭。英雄試練たる試練境を突破したクー達は、完全におまけ扱いになってそうな依頼の品ことシンカゲの果実の採集も無事に完了させ、アンマルの街へと帰還した。
「いやー、何かすっごい久しぶりって感じじゃない? 二日くらいしか空けてないはずなんだけどね。あっははー!」
ギルドへ納品を終えた三人。お疲れ様会で使う馴染みの店への道を歩く最中、これまた馴染みの売店を目にしたクーは、目を輝かせながら一人店へと立ち寄っていく。
「どうも店主。いつもの、十口ください」
「あいよ! そろそろ大きいの、当たるといいね!」
ふくよかなおばさんにくじを手渡されたクーは、笑顔で受け取り二人の下へと戻っていく。
「ユリユリドリームくじ……クー君よくそれ買ってるよね。当たったことあるの?」
「はっはっは。聞いて驚け。なんと四等、金貨一枚に二回当選したことあるぞ! はーはっはっ!」
「おおー! ……おおー?」
自慢げに微妙な戦果を語ってみせたクー。しかしルルラルルは驚きと困惑を併せ持つ、如何ともしがたい感じの困った表情を浮かべてしまう。
(今回こそは当たる気がする。何たって妖精の試練を乗り越えたんだからな! はっはっは!)
そんなルルラルルをよそに、クーはまさに今、ここ四年で一番の期待で胸を弾ませていた。だからララの冷たい視線に気付くことはなかった。
「……ん? ザッカーの店が何やら騒がしいな。どうしたんだ?」
くじを買い、もうじき馴染みの店へと到着しようという頃。通りがかった中々に立派な店を前に、どこか繁盛とも違う喧騒が、クー達の目に嫌が応にも入ってしまう。
「ザッカー商店……ルルラ、先に行って席取っといてくれ。ちょっと覗いてから合流するよ」
「おっけい! 早く来てね! あんまり遅かったら先飲み始めちゃうから!」
びしっと敬礼したルルラルルは、羽を思わせるほど軽やかなステップで街中へ消えていく。
「お願いします! どうか、どうかお願いします……!!」
「ど、どうか頭をお上げくださいお客様……。そのような話を急にされましても、こちらとしては如何ともしがたく……!!」
クー達が人混みを掻き分け店に入っていけば、目立つ場所で店主たるジクロ・ザッカーが、老人にせがまれている光景を認識する。
(物乞いか。或いは商談か。ザッカーほど大きく色々取り揃えた店であれば、泣き落としでどうこうしようと足掻く客も出てくる。……ショーウィンドウの前でおもちゃをねだる、幼い頃は俺もやったな)
どこか見当違いな気がしなくもない過去を懐かしく思い出しながら、ジクロのそばへと歩き寄っていく。
「どうもジクロさん。どうしたんですか?」
「困りますってお客さ……おお、クー様! いやはや、申し訳ありませんが今少し取り込んでましてな……」
クーに気付いたジクロが、困ったように挨拶しながら老人を振り解こうとしたが、がっしりと動けない。
「どうしたんですご老人。ここは俺がお世話になっている方の店。あまり騒がれ悪評でも立つようであれば、こちらとしても困るばかりなのですが」
「お願いします、お願いします……!! もう時間がないのです……! どうか娘のために、テンテン病の治療薬を……!!」
「テンテン病……ああ、そういう……いや、薬屋に行くべきでは?」
「そんな貴重品扱ってなどいないと。可能性があるとすれば、よその街から様々な賞品を仕入れているザッカー商店だけだと。ううう……」
クーに尋ねられた老人は、くしゃくしゃの形相にて、嗚咽混じりに騒動の事情を説明していく。
(テンテン病。名の通り全身に斑点が蝕むように増え、いずれ死に至るのが大体とされるこの世界特有の難病。進行速度は早く、発症原因は体質と魔力がどうとかこうとか言われているが詳しくは未だ不明。……そして残念ながら、唯一の治療薬もまた入手困難。薬屋にないとなれば、アンマルにて残された可能性はこのザッカー商店のみ。……藁にも縋る思い、というやつだな)
病床の娘を助けるために目の前の必死な老人へ、クーは一度目を閉じて同情を抱きつつも、それでもすぐに目を開け、切り替えるように冷静を顔に貼り付ける。
「ジクロさん。実際あるんですか? テンテン病の治療薬は」
「……残念ながら。以前は一つあったのですが、それは二年ほど前に他の街の商談にて活用してしまったのです。それに仮にあったとして、担保もなしに無償で与えるなど、とてもとても……」
ジクロは自分が非情だと自覚しているのだろう。仮にあっても渡すことは出来ないと、目を伏せながら残酷な宣告を告げると、老人は更に顔を絶望に染めてしまう。
「ジクロさん。仮に手元にあったとして、相場はいくらくらいになりますか?」
「そ、そうですな。金貨五十枚が最低に、そこからは交渉と言った次第になるでしょうな」
「そうですか。……それは高いな。少なくとも、市民が一朝一夕で用意出来る額じゃあない」
クーは四年であくせく稼いだ金の半分を想像し、軽く首を横へと振ってしまう。
「ララ。今手元にいくらある?」
「……残念ですが、肩代わり出来る額では。そも品がないのであれば、どうしようもないです」
「だろうな。金は大事だが、それじゃ人は救えない。嗚呼、実にその通りだよ」
まるで覚えがあるというかのように、クーは億劫げに嘆息し、けれどすぐに口角を上げてみせる。
「ククッ、これもまた運命か。金があれど人は救えぬが、金なしで薬があるのなら仕方ないな。そう思わないか、ララ?」
「……クー様? い、いけませんクー様! そのような、そのそれは他人にかける慈悲には、あまりに大きすぎます!」
「だろうな。どんな馬鹿でもやらない愚行でも分かることだ。だがなララ、だからこそだよ」
不敵な笑みを浮かべたクーの問いに、意図をすぐに察したララ。しかしクーはララの目を真っ直ぐ見つめながら、むしろはっきりと否定してしまう。
「なに、所詮はあぶく銭だ。俺にとっては、試練で得た学びの方が遙かに価値だ。……それにな、あんまり時間をかけるとルルラが拗ねるからな。ほら、あれは拗ねると酒癖が悪いだろう? 俺にとってはそっちの方が面倒極まりない。文句は?」
「……ありませんとも。それは他ならぬクー様の勝ち取った物。貴方様の決定に、ララめが口を挟む権利がどこにありますでしょうか」
肩をすくめるクーに、ララは一瞬何かを言いたげにしながらも、一切を呑み込み深々と一礼してみせた。
(本当は保険に取っておきたくはあったが、まあ別にいいだろう。所詮は急に増えた残機が元に戻っただけ。……ククッ、いつか必要になってしまったとき、この日の選択を悔いなきゃいいな)
実は内心結構惜しみながら、それでもクーは今は後悔なきままに、懐から小瓶を取り出す。
「ご老人。この店に薬の在庫はなく、これ以上は時間の無駄です。この場は運が良かったと、どうかこの一瓶でお引き取り願いたい」
「こ、これは……?」
「世にも珍しい、大体の病を癒やせる妖精の水です。実は機会があり、たまたま手元にありましてね。大丈夫、効果は先日実証済みですとも」
老人のそばへ膝を突き、同じ目線になりながら、手のひらに置いた小瓶を差し出すクー。その小瓶の登場にらジクロと老人は目を大きく見開いてしまう。
「そ、それはまさか……な、なりませんぞクー様! そのような、高価な品を無償で提供するなど、あまりに度が過ぎております!」
「はっはっは。何を言うんだジクロさん。俺はたまたま身体にいい水が手元に持っていて、たまたま気が向いたから一つ差し上げようと思っただけ。つまり、この店の商いとは無縁なのですよ。はーはっは!」
慌てて止めるジクロ。しかしクーは高笑いで全部流してしまう。
「どうした? 嘘と躊躇うか? 上から目線の施しと跳ね除けるか? ならば仕方ない。これはジクロにでも売りつけるとしましょう。嗚呼、もっともその場合、ご老人の懐ではどう転んでも手が届かないのは確かだと思いますが?」
「本当に、本当によろしいのですか……? 私には返せる当てなど、何一つ差し出せるものなど、どこにも……」
「くどいぞ。既に解は出した。運が良かったな、とな」
老人の問いに、クーはまさにここにこそ相応しいと。別にする予定ではなかった渾身のゲス顔を、これ以上なく完璧に披露してみせる。
「ありがとう、ありがとうございます……!! どうかお名前を、この恩は必ず、必ずや……!!」
「気にせずともいい、所詮は貰い物だ。……それよりこの幸運、無駄にしてくれるなよ?」
しかし残念ながら老人は歓喜で見ていなかったらしく。手を握り、何度も何度も感謝の言葉を告げ、小瓶を持って店から走り去ってしまう。
「……まったく、クー様には負けますな。その器、私なぞとは段違いですとも」
「はっはっは! 好きに嘲って構わないですよ。俺は世話になってる店の迷惑客を払うために無駄遣いしたに過ぎないのだから。……まったく、挨拶に来ただけだったのに高い買い物をしてしまったものだ! はっはっは、はーっはっはぁ!」
馬鹿みたいな高笑いと共にザッカー商店から去り、ルルラルルの待つ店への歩みを再開させる。
「……きっと今日この瞬間、クー様は世界で一番、追随を許さないほどダントツの愚か者でしょうね」
「ククッ、また随分と手厳しいな。……そんな俺を見損なったか、ララ?」
「……残念ながら。クー様が途方もないバカだというのは、このララがこの世界の誰よりも知っていますので」
ニヤリと笑みを浮かべたクー。そんな主にララは心の底から呆れたとため息を吐いてしまいながら、それでもどこか嬉しそうに口元を緩めてみせる。
「それでどうするのですか? どう頭を働かせても、あの薬が学費への最後の希望であったと思うのですが」
「はっはっは。……どうしようねまじで。うん、本当にどうしよっか」
ララへ振り向き、苦笑するクー。彼の笑みは実に硬く、額には冷や汗さえこびり付いてしまっていた。