【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~   作:ゴマ醤油

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何はともあれって感じ

 妖精の試練は既に過去、刻限まで残り一月を切った頃。クー・ズーハルトは別邸の自室にて、優雅に新聞に目を通す──ことが出来ず、見事なまでに目を見開かせてしまっていた。

 

「四、三、七、七、二、七。四三七、七二七……あ、あ、あた、あた、あただたたっ!?」

 

 クーは何度も何度も、新聞と自分の手に持つ紙切れを、丁寧に指でなぞりながら必死に見比べ続けるが、別に書いてあることが変わることなどない。

 

「……合ってる。水よ(アル)抓って(プラミカ)──いでででっ!! ……ふむ、夢じゃないぞ?」

 

 新聞の数字と紙切れの数字。クーは魔法を唱えて水で自分の頬を抓るが、どうも夢ではなかった。

 

「……ふむ。……ごほん、当たったー! いやっふー!」

 

 一瞬の沈黙。無駄に冷静に喉を落ち着けたクーは、次の瞬間、歓喜の絶叫を屋敷中に轟かせる。

 

「当たった当たった当たったー! 当たったー!」

 

 椅子から跳び上がったクーはそのまま自室から飛び出し、仮にも貴族とは思えないように喜びを露わにしながら、屋敷をひた走って厨房へ直行する。

 

「ララ、ララっ! ララいる!?」

「やかましいですよクー様。それでどうしました? お茶でしたら、今から庭へとお運びしますが……」

「違うの! ねえこれ、これ見て! ねえ、ねえねえねえ!」

 

 厨房でテキパキとお茶の準備をしていたララに、クーは勢いよく新聞を突きつける。

 

「なんですかって……新聞? えっとなになに……ああ、巷を騒がせていた怪盗ゼニゲバが無事に捕まったのですね。流石にユリユリ公国全ての銀行から金の延べ棒一本を盗むなんて宣言、どう頑張っても達成不可能でしたか。ああ、もしかしてファンでした?」

「そっちじゃない! 右下の小さいやつ! というか怪盗ゼニゲバって誰!?」

 

 見当違いの問いにクーは地団駄を踏み、半ば勢い任せに呼んで欲しい新聞の右下で指で示す。

 

「右下……ああ、ユリユリドリームくじ。あまりに切羽詰まってるせいで一等でも当たる夢でも見ました?」

「違う! はいこれ!」

「はあ。今週の一等は九四三七、七二七。クー様のは七四三七、七二七……んんっ!?」

 

 クーの差し出した一枚のくじを受け取ったララは、紙面に掲載されていた当選番号と照らし合わせ、そして珍しく変な声を上げてしまう。

 

「七四三七七二七……下六桁一致。当たってますね、二等」

「そう、当たってるんだよ! 二等! 二等!」

「……お、おめでとうございます! 二等ですよ、クー様!」

 

 二人が顔を見合わせ、数秒の沈黙。そして次の瞬間、ララもまた歓喜に顔をほころばせ、気持ち声を弾ませながら当選を祝福する。

 

「……ごほんっ、取り乱しました。しかしこういうの、ちゃんと当たるんですね。てっきり胴元と一部の金転がしでしかないと、割と本気で思ってたので驚きです」

「ほんとほんと! 俺も当たるとは思わなくてびっくりしちゃったよ!」

「……当たらないと思っていたのなら、どうして四年もコツコツ買っていたのですか?」

「えっ、趣味」

「ええ……」

 

 あっけらかんと口にしたクーに、ララは唖然としてしまうも、すぐに我に返り周囲を窺い出す。

 

「クー様。ひとまず落ち着きましょう。とりあえず、こういうのは公言しないのが常識ですよ」

「……あっ」

 

 ララの指摘に、クーもそういえばと気付き、今更ながら口を手で塞ぐなんて真似をしてしまう。

 

『クー様、ドリームくじの二等当たったんだって』

『あら、良かったわね~。これで学園通えるようなったってことじゃない~』

『二等って辺りが最高にクー様らしいですよね。何にせよ、これでひとまず安心ですよ』

 

 まあ実際はクーがそれはもう騒いだあとなので手遅れだったが、意外にも目の色を変える人はいなかった。別邸といえど一応ズーハルトの使用人ではあるのでそれなりに給金が良く、また【めがゆりTS】の原作と違って使用人達との関係も良好だったので、あんまりがめつい人がいなかったのだ。良かったね。

 

「……とりあえず、お茶でもして落ち着きながら、今後をお部屋で話しましょうか」

 

 ララの進言によりひとまずはと自室に戻ったクーは、香り豊かな紅茶と共にひとまず落ち着きを取り戻しつつ、テーブルの上に置かれた一枚のくじについて改めて思考を巡らせる。

 

「それでクー様。当てたはいいですが、その二等のくじ、如何なされるのですか?」

「いやー、金貨一千枚か。何買おっかなー、杖かなー、魔導書かなー……あ、いっそ全額突っ込んで一等狙っちゃう!?」

「馬鹿なんですか?」

「冗談だって。顔怖いよ。どうどう」

 

 額に青筋立たせ、こめかみをピクピクさせたララに、クーは少し震えながらも窘める。

 

「……うーん。とはいえなー、真面目な話、ぶっちゃけ当たると思ってなかったしな。そういえばララ、換金って何歳からだっけ?」

「換金は十五歳から。そして高額当選の換金の際は売り場ではなく、公都の銀行本部にてのみ。つまり残念ながら、クー様では例え一等を当てたとしても、来年の入学費として賄うことは不可能です」

「でしょう? 大金の手形も認められなきゃ所詮紙くず。さて、どうしたもんかなー?」

 

 くじを手に取り、ぼんやりと眺めながら適当な口調で悩んでいる素振りをみせるクー。

 

(……いや、本当にどうしよう。大金が降って湧くと頭回らないから準備が大事って、クーになる前に友達だった昭人君が株だかFXで大金掴んだときに言っていたのは本当だったんだな。あのときは金持ちマウントとか思っちゃってごめんな)

 

 実は素振りではなく心の中でかつての友人の一人に手を合わせつつも、本当に悩んでいた。

 

「……これがくじではなくエリクサーの現物であれば、即決で金貨千枚出す貴族や商人もいたでしょうね」

「ぐぬう。終わった話を持ち出すの性格悪いぞララ」

「結構。あれは紛れもなく、クー様の人生における一生ものの美談でしょうね」

 

 まるで矢にでも刺されたみたいに呻くクーに、ララはどこか皮肉交じりに、けれどどこかからかうように優しげにくすりと微笑んだ。

 

(にしても本当にどうしよう。……いや、まだ抗えるはずだ。よく考えろクー・ズーハルト。何か、何か起死回生の策は……あっ」

 

 悩み、悩み、そしてまた悩んだ末。驚くほどあっさりと答えに辿り着き、つい声を漏らしてしまう。

 

「……なあララ。代わりに二等(これ)受け取ってさ、学費分だけ払ってくれない?」

「…………はあっ」

 

 クーの恐る恐ると言った提案に、ララは数秒の沈黙の後、大きな大きなため息が室内へ響く。

 

「一応言っておきますが、このララめも来年からはズーハルト家からはお役目を解かれる身。つまり女従でなくなるのです。クー様に顎で使われる理由も、冒険の供をする必要もなくなるのですよ?」

「分かってる。それでも頼む。色々考えなくたって、一番信頼出来るのはお前なんだよ。ララ」

 

 クーは真っ直ぐとララの目を見つめながら、一切の茶化しなく、彼女への信頼を断言する。

 

「……もし仮に頷いたとして、ララがお金を持ち逃げしたらどうするつもりです?」

「そこはもう仕方ない。人を見る目がなかったと、路頭でマッチでも売って生活するよ。冬でもないのなら、案外いい夢見られそうだ」

 

 ククッ、といつものように笑うクー。それからしばらく、クーの部屋は静寂に包まれてしまう。

 

「……はあっ、条件が三つあります。それが聞けないのであれ──」

「いいよー」

「……条件が、三つ、あります。飲めないのであれば、この話はなかったことに。いいですね?」

「いいって言ってるのに……あい、ごめんなさい。ちゃんと聞かせていただきます」

 

 やがて諦めたように提案しようとしたララ。クーは聞くまでもなく快諾しようとしたが、ララの今にも刺されてしまいそうなほど冷たい眼差しに、肩をすくめながら姿勢を正すしかなかった。

 

「まったく。では、今一時は商談相手としての振る舞いを。正面、座ってもよろしいですか?」

「ああ。……ククッ、なんか新鮮だな。ララと面と向かってお茶するなど」

 

 一礼し、正面の椅子に腰掛けるララ。いつもと少し違う、長年の付き人としてでない女従の気配に、Lクーはどこか緊張しながらも楽しげに笑ってみせる。

 

「まったく……まず一つ目。この当選金は、ひとまずララめが受け取ります。その中からクー様の学費、教材費、生活費、お小遣い、その他諸々の全てを差し引き、卒業後に余った額を契約遂行の報酬としてララが懐に収める。文句ありませんか?」

「当然だな。というか色々を考えるとララの報酬、少なすぎない?」

「問題ありません。ぶっちゃけこのララ、お金なんぞには困っていませんので」

 

 一つ目の条件、金銭関係については特に問題なく。

 

「二つ目、クー様はこのララの養子となってもらいます。学園は保証人がいなければ入学できません。なので本当に……本当に嫌で嫌でたまらなく仕方ありませんが、このララめがクー様の保護者となることで解決とします。卒業後に縁組を破棄するのは自由ですが、在学中はララの庇護下です。いいですか?」

「……いいの? 俺にとっては至れり尽くせりだけど、育ての母や乳母扱いされるの、ララは嫌だったはずだろ?」

「適当な保証人を立てられても困りますから。……それに、この忌避感はあくまで個人的な感傷というか意地のようなもの。別にクー様が嫌いだからとかそういうわけではありません。それだけは、どうか勘違いなさらないでください」

 

 二つ目の条件、権利云々についてもむしろララが折れたので、問題なく。

 

「そして三つ目。如何なる理由であろうと、学園の途中退学は許しません。退学死亡などもってのほか。絶対に卒業してもらいます。……個人的にこれが一番大事ですが、守れますか?」

「えっ」

「どうしてそこでえっ、なんて言えちゃうんですか。当たり前のことですよ。分かってます?」

 

 そして何故か、学生にとって当たり前で簡単なはずの三つめの条件に、どうしてかクーは言葉に詰まってしまう。

 

「クー様がどうしようもないほど刹那的で享楽的な方だというのはこのララ、誰よりも身近にいた者として、世界の誰よりも理解しています。なのでもし学園よりも優先すべき理由が見つかれば、ほっぽり出してそちらにかまけるのは目に見えてますとも」

「ララは俺を何だと思ってるんだ?」

「エリクサーを無料で他人にあげてしまう、その日の気分で動く女心の分からない大馬鹿者。違いますか?」

「ぐう……」

 

 何もかも見透かしたようなララの言葉に、クーはぐうの音は出てしまったけど、ぐうの音も出なかった。

 

(……ほんと、よく分かってる。()()()()()()()()()()()()()()()()と、そこまで悟られているわけではないだろうが……ククッ、流石はララ。伊達に俺のそばにいたわけではないな)

 

 クーは目の前のメイドを感服する。だからこそ、どうしたものかと悩んでしまう。

 

「クー様の悲願である固有魔法。その創造において、この国で学園ほど有用な場所はありません。どうせ通うのであれば、学べるものは全部吸収する努力をしてもらう。仮にも御身を預る者として、ミーア様の忘れ形見の幸福を願う者として、そこは絶対に譲れません」

「……ちょっとくらい譲歩とか……ない?」

「ないです。というか入る前から辞めること考えないでください」

 

 クーがちょっとあざとい感じに頼んでみるも、ララは毅然と拒否する。一応ラノベでもイケメンに分類されるフェイスなのだが、子供の頃から成長を見てきた相手にはまるで効果がなかった。

 

「どうですか? 素直に首を縦に振ってくだされば、ララはクー様個人との契約を結びます。これ以上駄々をこねるのであれば、ララめとクー様の縁も今月限り。はっきり言って、こんなの悩むまでもありませんよね?」

「…………うーん。うーん、うーーん?」

「えっと、悩む理由あります? 自分で言うのもあれですが、常に成績一位じゃなかったら即退学とか、卒業後は一切の自由を許さないとか、向こう十年の収入の九割を徴集するとか、そういう難題ではないと思うのですが」

 

 腕を組み、うんうんと唸りながら悩むクー。そんな姿に、ララは怪訝そうに首を傾げてしまう。

 

(どうしようか。……ま、いっか。別に進んで死にたくはないし、難易度一つ上がるくらいだろ。へーきへーき)

 

 しばらく悩んだ末、クーはまあいいかと悩んだとは思えないほど浅く納得し、ゆっくりとララへと手を差し出す。

 

「ま、いいか。それじゃ、改めてよろしく。ララ義母上(ははうえ)?」

「普通にララでお願いします」

「えー、仕方ないなぁ。……じゃあ改めて、よろしく、ララ」

「……ええ。よろしくお願いします。クー様」

 

 そうして軽口を添えながら、二人は新たな関係の構築と握手を交した。

 

「……ところでララ。宝くじの換金ってさ、一月で間に合うのかな」

「公都まで行くのにも結構かかるので無理ですね。ですが心配ありません。ララのポケットマネーでその程度の額、ちょちょいのちょいです」

「……もしかして、最初からララにお金借りれば解決だった?」

「クー様が努力したからこそです。そうでなければ、ララめはとっくにお暇をいただいていましたとも。ええ、はい。嘘じゃありませんよ?」

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