【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~   作:ゴマ醤油

26 / 27
新居ゲッツ

 魔霊が取り憑いているらしい、怪しげな物件を紹介してもらえたクー達。一行は一度紹介してもらった宿に荷物を降ろしてから、ザイコの案内の下、件の事故物件とやらの下見のために足を運んでいた。

 

「売りに出されたのは一月ほど前。前の持ち主がその……少々外で言うには憚られる理由で亡くなりましてね。なので私の下へ話が回ってきたのですが……如何せん家の主の魔霊が、少々厄介でしてね……」

 

 道すがら、ザイコは少々疲れを伴った声色ながら、その家について二人へと説明していく。

 

(魔霊は本人の霊というわけではない。あくまで残留思念が『魔出』により浮き出てしまっただけの何か。残留思念をレコードとすれば、魔力が針の役割を担ってしまったことで再生されているだけに音に過ぎない的なことをギンガロウから習ったな。うん、よく勉強していて偉いぞ俺)

 

 サンキューギンガロウ。フォーエバーギンペディア。長々と説明してくれていたザイコには悪いが、クーの心境は今、魔法の師である老人でいっぱいだった。

 

「魔霊の浄化の主な手段は根気よく霊の心を解すか自然消滅を待つ、或いは光属性魔法(アラテ)による強引にの三択が定石。お二方ならご存じかと思いますが、光属性魔法(アラテ)の使い手は珍しく、教会所属の者が多いため、依頼すると少々割高になってしまいます。この家のように中級魔法(マディ)まで必要になる場合、相応に価格も上がってしまうため、どうしても自然消滅を待つ形になってしまうのです」

「……自然に消えるなら、待てば問題ないのでは?」

「魔霊は意思疎通が出来ようと、あくまで魔出ですからね。外見に異変がなくとも魔力汚染における建物の劣化は進んでおり、居座った期間が長ければそれだけ資産価値は落ちてしまうものです。これはあくまで目安ですが、一年以上憑かれていた家が買い取られた場合は建て替えやリフォームを推奨するというのが、界隈では一般的なのですよ」

 

 ようやくギンガロウが頭から離れたクーの疑問に、ザイコは少々困ったような苦笑で答える。

 

(なるほど。あくまで安いのは購入費だけか。前の世界にはわざわざボロ物件買ってリフォームの様子で銭を稼ぐ動画投稿者なんかもいたが……まあ、ビフォーアフターが出来るのは金持ちか時間のある物好きだけか。生々しいな)

 

 クーはどうでもいいことを考える。どこに生々しさを感じているのかも、さっぱりだった。

 

「……到着しました。こちらになります」

 

 そうこうしていると、三人は件のお家へと到着する。見取り図のとおり、少し細長い気もするが目立った外傷もない、程良く良い感じな二階建ての一軒家だった。

 

「……確かに何かいるな。感覚的は妖精のそれに近いが……まあ別物、所詮は紛い物だな」

 

 クーは家から漂う気配を最近覚えた感覚と比較し、内心落胆しながらも独り言ちつつ、臆すことなく扉へと近づきノックをする。

 

「……ベルがあるのに、何故?」

 

 ザイコはわざわざノックを選んだクーの後ろ姿に困惑で首を傾げてしまったが、残念ながら、その疑問に答えてくれる者は誰もいなかった。

 

『暮らしてまーす』

「おお」

 

 三度のノックの直後、まるで外が見えているかのような速度で、男の拒絶がクーへと届く。

 

『入ってます』

「おお」

 

 更にノックをもう三回。男の声はちょっと不機嫌になりながらも、きちんと拒絶がクーへと届く。

 

『……新聞は間に合ってるんで結構でーす』

「おお」

 

 更にノックを三回。若干投げやりだけど、それでもまだ理性的な拒絶がクーへ届く。

 

『うるせえなごらぁ! 舐めてんじゃねえぞ面のいいクソガキがよぉ!? 俺とハニーを引き裂こうってんならぶっ殺すぞ!?』

「おお!」

 

 更に三回ノックを──しようと扉へ触れる寸前。ついに堪忍袋の緒が切れたのか、家から漂わせるおどろおどろしい魔力の発露が一層強まりながら、激昂を飛ばした。

 

「……と、こんな調子なのです。この忠告を無視し、強引に踏み入ろうとした者もいたのですが、見事なまでに返り討ちに遭ってしまう始末でして。どうしたものやらと」

「ククッ、見事なまでに幽霊屋敷よな。ララ、どう思う?」

「どうして相手の煽るような真似をするのです。いいですかクー様。こういうときこそ平和的交渉、言葉という女神様に与えられた恩恵で手を取り合うべきなのです」

 

 笑うクーに、ララは額に手を当てながら首を振り、澄ました顔で扉の前へと歩き寄っていく。

 

「申し訳ございません。ご迷惑かと思いますが、こちらの物件の下見をさせていただきたく──」

『来るんじゃねぇ若作りババア!! その行き遅れたけど私恋愛重視してませんからと必死に取り繕う恋の負け組特有なくっさい加齢臭を俺のハニーに移そうとすんじゃねえ!!』

「……戯言風情が。どうやら消滅よりも前に、入念なしつけが必要なようですね。死にたくなるまでぶっ殺してやります」

「わーわー! 落ち着いてララ。ララはまだ若いよー、十代にも負けてないよー。どうどう、どうどーう」

 

 プチリと、何かの切れた音の直後、能面のような顔で短剣を抜こうとしたララ。そんな今にも暴れ出しそうな従者を、まだ一応主であるクーがどうにか羽交い締めにして押さえ、購入前に家が全壊するなどという悲劇を迎えさせずに済んだ。

 

「それで……如何いたしましょうか? 半年もいただけるのであれば、他にも良い物件を確保出来ると思いますが……」

 

 一息ついた後、ザイコは身を縮こまらせ、申し訳なさそうにどうするかを二人へ尋ねる。

 

「ふむララ。俺は中々気に入ったが、ここで問題ないか?」

「ララは家にこだわらないので、クー様が気に入ってくださるのならどこでも。中に致命的な欠陥があれば、そのときはいくらでも進言させていただきますけど」

「決まりだな。なればまずは内見のために、この魔霊には立ち退いてもらうとしよう」

 

 クーはララの返事に満足そうに頷いてから、再び扉まで近づき、ゆっくりと手を翳す。

 

光よ(アラテ)魔霊を祓え(プラミカ)

 

 目を閉じて一瞬、そして開いたクーが唱えた直後、彼の手から生じた真っ白な光が家へ奔る。

 

『ぐわぁぁぁ消えるぅぅう!!! 消えたくないぃぃい!! 愛しのハニーと結婚式を交して完璧な初夜に勤しむまでは消えてなるものかぁぁぁ──あっ』

 

 無駄に大きな断末魔。そして最期は実に呆気ない声と共に、魔霊は姿さえないまま消失した。

 

「……その無念は大いに理解出来る。だからこそ、せめて安らかに眠るがいい」

 

 ただの家となった建物を前に、クーはただ静かに祈る。クーになる前もなってからも、一応許嫁こそいたものの、恋人には無縁だったからこその、心からのお悔やみであった。

 

「終わりましたよ。これで昔ちょっと曰くがあっただけの、すこぶつお手頃価格な家の完成です」

「……驚きました。初級魔法(プラミカ)であのクラスの魔霊を浄化を……」

「はっはっは、魔法も使い手次第ということです。まあ真っ当な魔法使いの中級魔法(マディ)には及ばないでしょうけどね」

 

 二人の下へ戻ったクーは、ザイコの感嘆に機嫌を良くすると、上機嫌そうに笑ってみせる。

 

「いやはや、お見それしました。流石はララ様のご子息です。これほどであれば学園への入学も、きっと容易に果たされるのでしょう」

「はっはっは、そんなに褒めないでくれ。もっと欲しくなるから」

「よっ、希代の天才! 世界の至宝! いつか美少女ハーレムを築く男!」

「はっはっは、はっはっは! はーっはっはぐえ、ごほごほっ……」

 

 咽せるクー。ララの視線は酷く冷たく、背中を撫でてくれるとか、そういうのは一切なかった。

 

「あんまり調子に乗るからですよ。その悪癖、いい加減直してください」

「ククッ、これは悪癖でなく愛嬌なのだとも。それでララ。俺は受験申請のついでにちょいと街で遊んでくるから、あとのことはよろしく頼むぞ」

「……かしこまりました。夕食はいかがします?」

「合流したら一緒に食べよう。よーしっ、頑張って、良い店見つけちゃうぞー!」

 

 頭を下げるララに軽く手を振ったクーは、そのまま街へ繰り出そうとして──どうしてか止まり、振り返る。

 

「あ、そういえばザイコさん。先ほどの魔霊の恋人の方はどこにお住まいかご存じですか? 直接の関係はないとは思いますが、それでも事の顛末くらいは──」

「ああいえ、調べによりますとそのような間柄の方はいないようですので、その必要はないかと」

「……じゃあ、ハニーって?」

「愛用していた人形の名ですな。せめて安らかにと、今は共に眠っておりますのでご安心を」

「……ええ」

 

 何が安心すればいいのだろうかと。クーは告げられた衝撃の事実に、何とも言えない顔をせざるを得なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。