【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
ついに【めがゆりTS】の主人公──ステラ・ワンダーとの邂逅を果たしたクー。パンを持ちながら、まるでこの世の終わりでも予言されたかのように落ち込む少年の前へ、クーは颯爽と躍り出た。
(ふむふむ。どっちみち中性的ではあるが……見たところ、
クーの内心はそれはもう昂ぶっていた。買った新作ゲームのクリア耐久でエナドリ五本目を一気飲みしながら徹夜二日目にへと突入した大学生のような、そんな理解不能な高揚を抱えていた。
「ククッ、何を俯いているんだ? 明るい髪色に反し、消沈を漂わせる少年よ」
クーが見下ろしながら声を掛ければ、数拍の後、橙髪の少年はゆっくりと力なく顔を上げる。その目は今日のようなポカポカとした快晴の下、長閑な緑ある中庭には相応しい顔とは呼べないものだったが、クーは別段動揺することはなかった。
「……えっと、君は?」
「名前なんて些末なことだ。互いに合格すれば、名などいずれ分かるのだから。違うか?」
「……すごい、自信だね。そういうの、羨ましいなぁ」
項垂れるステラ。そんな悲観に暮れる少年を前に、クーは別段許可を取ることなく、我が物顔で隣へと腰を下ろす。
「それでどうした? こんな晴れやかな空の下、そんなしけた顔をしていては、せっかく手にある美味しそうなパンもただの残飯同然だぞ?」
「……喉をね、通ってくれないんだ。頑張って食べようとしてるんだけど、どうしても駄目なんだ。なんでだろうね……」
ステラはぼそりと呟いたあと、虚勢でしかない力ない笑みを顔に貼り付けてみせる。憤りか、惨めさか。右手に握るパンをほんの少し潰し、震えさせながら。
「なるほど。筆記試験、あまり芳しくなかったようだな。落ち込むのも当然だ」
「……分かるの?」
「分かるとも。例え分からずとも、察するには十分だろう?」
クーは笑いもせず、哀れみもせず。ただ頷きながら、ぼんやりと空を仰ぐ。
(あるある、ちょっと長い休憩とか挟んじゃうと心折れちゃうの。特に理系科目は次の日のときに文系科目で大ポカやらかすとさ、その後の全部が真っ白になっちゃうんだよね。ご飯が喉を通らないし、お風呂とか入ったかもあやふやになっちゃう……うーん、思い出したら嫌な気持ちになってきた)
実はこのクーの中身。クーになる前は国立の大学にも挑戦して見事に撃沈した経験があるので、途中で折れることに関しては、それなりに理解があるタイプの人間だった。
(原作ではこの後、隠された地下に迷い込んで女神の眷属──つまり女の子に変えられ、実技試験で「えっと私……やりすぎちゃいました?」くらいの頭角を現すから放置でもいいのだが……出会ってしまった手前、目の前で落ち込まれ続けるのもあれだしなぁ。……あ、そうだ)
少々悩んだクーだったが、頭の電球が点いたとばかりの妙案を浮かばせ、ステラへと顔を向け──手を差し出す。
「そうだ、握手をしよう。少年」
「へ……?」
「いいから、握手だ。軽い手慰みなんだがな、この俺が見極めてやるとも」
なんかよく分からないこと言い出したクーに、ただただ呆然とするステラ。けれど、恐る恐るだが空いていた左の手を出し、そしてついに握り合う。
「──良い手だな。剣を振り続けた者しか得られない、少々硬い立派な手だ」
クーはただ、ありのままを感想を述べる。手の感触を──そこから伝わる、少年の熱について。
(本当に良い手だ。柔らかく、されど硬い。剣を振り続けた者にしか為し得ぬ手。あのステラ・ワンダーの、いつか百合ハーレムを築く【めがゆりTS】の主人公の手。……うーん、生きてて良かったぁ)
……握手にはちゃっかり私情が混じっていたが、まあ些末なことだろう。多分。
「俺の師曰く、鍛練とは強さではなく日常らしい。……ククッ、実のところ俺も武芸の才はからっきしでな。だからこそ、鍛練は成果ではなく過程を重視するようにしている。そんな俺からすれば、この手はまさに百点をくれてやれる手だとも」
そう言いながらクーは握手を解き、そしてそのままステラの手を彼の胸元まで寄せていく。
「誇るといい、自らの研鑽を。自信に変えるがいい、今日までの自分を精進を。さすればお前の硬い手は、お前の胸の鼓動は。何者にも揺らがされぬ力となるはずだと、他ならぬ俺が断言しよう」
クーは真っ直ぐと、ステラの琥珀色の瞳を覗き込みながら、自信を分けるみたいに笑みを浮かべてみせる。
(まあこのステラ・ワンダー、女神にTSさせられたらチート張りに開花するけどそれはそれ。力の制御とか出力以外の面とか課題は無数に増えるけど、眩しいほどに一歩ずつ成長していけるからな。……いつか頭打ちになるでであろう俺としては、羨ましいものだ)
クーの心には嫉妬と羨望があった。けれどそれ以上に、彼を理解しているが故の情景があった。
「ククッ、悪くない
ステラの顔に生気が戻る。再び熱を取り戻した瞳を目にし、くーは満足げに頷いてから立ち上がる。
「……ああそれと、一つ小耳に挟んだ話ではな。この試験、真に肝心なのは実技の方らしい。度肝を抜かされるほどの大番狂わせ、期待しているぞ?」
「う、うん……!! あの、ありがとう……! 午後、一緒に頑張ろうね……!!」
「ククッ、また会おう。名乗るその日を心待ちにしているぞ、立派な
クーは振り向くことはなく手を振り、そして中庭に高笑いを響かせながら、去っていく。
(ククッ、あれがステラ・ワンダー。今はまだ芽さえ出ていない種だが、必ず芽吹く可能性の星。……それにしても少年状態で会えたのはラッキーだったな。一回四百円なガチャガチャのシークレット枠くらいには貴重な瞬間だった。庭でお弁当食べたのナイスだぞ俺、流石だぞ俺!)
移動の最中。主人公、ステラ・ワンダーとの出会いに、今にも小躍りしそうなほど内心盛り上がるクー。
(……でもなんかさ。こういうのはクー・ズーハルトの役割とは根本から違う気がするんだけど……ま、いっか! 正直とても楽しかったし、一度こういうのやってみたかったんだよね。少年とか言っちゃう謎の人物ってやつ。くぅー!」
けれど少し経って冷静になり、少しだけ不安を抱いてしまうも、やはりクーの内心は適当だった。そして感激のあまり声にまで出てしまっていたので、先ほどまでの格好付けの一切はこの一瞬で台無しも同然だった。
「お待たせいたしました。これより実技試験の方、始めていきたいと思います」
そうして集合場所に移動したクーは、待ち望んでいたとばかりに実技試験へと挑んでいく。
(実技試験は基礎テスト。そして魔法、武芸の二つから選ぶ選択科目。……俺は当然魔法だな)
呑気にもこの後を考えながら、クーを含めた受験生は基礎テストを受けていく。ちなみに基礎テストで測る内容は握力、筋持久力、柔軟性、敏捷、持久力、投擲能力の六つ。たいした捻りもない、学生にとってお馴染みであろう体力テスト的なあれである。
「……ふう。ま、悪くない」
全てを終え、周囲の多くが疲労を隠せていない中、クーは軽いストレッチで身体を整える。別に魔法の類が禁止されていないとはいえ、多くの受験生が疲労困憊になるほどの基礎テスト。けれどバルバリアンの鍛練、そして冒険者家業を経たクーにとって、魔法を使わずとも超えるのは困難ではなかった。
「では、選択科目の方へ移ります。それぞれ事前に申請した場所への移動をお願いします」
(魔法試験はシンプルに、遠くに離れた大的に魔法を当てる。威力、精度、練度を示すための場。ただ当てるだけではなく、過程も加点要素になるコンテスト方式。……ククッ、原作通りの如何にもよな)
「次、受験番号三百七十七番。前へ」
「はい。……
自身の順番を待つ最中。実技の試験官を凜々しく務めている、紫髪のツインテールの童顔教師に番号を呼ばれた生徒の魔法が、会場に今日一番の歓声を上げさせる。
(……ほう。随分と荒削りだが、それでも
当然見ていたクーはその生徒に、そしてなおも健在な大的に素直な称賛と手を叩く。
「次、受験番号四百二十一。前へ」
それからしばらく。ついに自分の番号を呼ばれたクーは、意気揚々と指定場所の白線へと躍り出て、静かに目を瞑る。
(集まる注目。訪れる静寂。程良い緊張。……嗚呼、たまらない。こういうの、嫌いじゃないな)
暫し感傷に浸りながら自らを整えるクー。まだたったの数秒だというのに、すっかり自分の世界に入ってしまっていた。
「……どうしましたか? 四百二十一番、始めてください」
訝しげに首を傾げ、試験官の女性による催促。彼女の声のせいか、それともクーが満足したからか。いずれにしても、クーはゆっくりと目を開け、左の手のひらを大的へと向け巣。
「……
詠唱と共にクーの魔力が満ちる。周囲の
「興が乗ったぞ。
とびきりのゲス顔を晒すクーの手のひらの中で、炎が、水が、そして風が練り混ざり──脈動し続ける、三色の一つと重なる。
「どうかご笑覧あれ。我が魔法、
放たれた三色の魔力は、混ざりうねりながら放物円を描き、軌跡を残しながら大的の中心へと直撃する。
『と、
見事中心のみを正確に打ち抜かれた大的。騒ぐ周囲。順番を控える受験生が、そしてすぐそばで見ていた試験官が、それを目にした者の顔は、等しく驚愕に染め上げられる。
「……ククッ、はっはっは! 嗚呼、やはり的は壊してこそのテンプレよなぁ! はーっはっは!」
そんな空気の中でクーは笑う。笑ってみせる。この瞬間、クーはまさに絶頂の最中だった。