【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
無事に公都での受験を終えたクー。彼は一度別邸へと戻り、暫しの休暇に勤しんでいた。
「うーん、やっぱりよく温まった我が家は最高だ。このスコーンもすこーんって胃に入ってくれる。優しい味でいい……」
ストーブを焚いた自室にて。鍛練を終えたクーは、紅茶とスコーンを嗜みながら一息つく。後ろのララはどうしたことか、一瞬だけ少し寒そうに身体を抱いてしまっていたが、クーが気付くことはなかった。
「しかし……もうすっかり冬だな。今年は雪、積らないかなぁ」
「雪ですか。別にあって良い物でもないのですが、公都よりもう少し北へ行かないと難しいかもしれませんね。この辺りの気候はユリユリ公国の中でも、温暖な」
ズーハルト領はユリユリ公国の南部に位置しており、立地の都合から比較的冬の影響を受けにくい。少なくとも、クーが新生クーとなってからの数年間、かまくらやら雪だるまを作って遊べるほどの白雪が別邸に積ったことは一度もなかった。
「……いっそクー様が、ズーハルト領でも積る雪の魔法でも開発してしまえば?」
「ちっちっち、雪は自然に降るから楽しいんだよララ。自分で起こした雪なんて、ただ白い灰と大差ないじゃないか」
「はあ。そういうものですか」
よく分からないと首を傾げるララ。そんな女従にクーは微笑しつつ、一つスコーンを咀嚼する。
「それより、学園の入試からもうじき十日経つわけだが……来ないなぁ、合格発表。十日前後で来るって言ってたはずなのにな、合格発表」
テーブルに置いていた一枚のカード。受験証を手に取ったクーは、何の変哲もない一枚を仰ぎ見つつ、大きなため息を零す。
「合格発表は各自通達とだけ説明されていたが……なあララ。掲示板に張り出して受験番号を照らし合わせるスタイルでないのなら、どう発表されると思う?」
「さあ。ただ天下のリリー学園なのですから予想を超えてくれるものであると、実はララめも期待してしまっています」
ちょっとそわそわしてみせるララ。クーは相変わらず些細な挙動が可愛いよなと思いこそしたが、遠くない未来義母になる相手に言うのもあれだと思ったので、口を噤むしかなかった。
「発表までの間、受験証を死守してください……か。これが何なのやら……んぅ!?」
ぼんやりとクーが受験証を見つめていた、まさにそのときだった。手に持つ一枚の突如として淡い光を放ち始め、クーがつい驚きから受験証を放り投げてしまったのは。
『学園からのお知らせが届きました。数分時間をいただきますので、周囲の状況を確認し、都合がよろしくなったときに再生ボタンに触れてください』
「……ククッ、クククッ! なるほど、そういうことか。学園め、粋な演出組み込んでくれるじゃあないか」
機械的な音声によるガイドが室内へ響く。数秒の後、ようやく理解したクーが楽しげに笑いを零す。
『よろしいですか?』
「よろしいぞ」
受験証を拾い上げたクーは、後ろにララがいることを一切気に留めず、受験証に新たに浮かんできた『再生』のボタンを一回タッチする。
『本当によろしいですか?』
「よろしいよ」
大切な二重確認。クーも大事なことだなと、うんうん頷きながらもう一回タッチする。
『ほんとにほんとにほんとにほんとに問題ないですね? いーいーでーすねー?』
「くどいなぁ。これ絶対ふざけてるだろ」
続く三度目は間違いなく遊び心の賜物。今そんな気分じゃなかったクーが若干強めに再生ボタンに手を掛けた──その瞬間、突如受験証から一筋の赤い光が弱い花火のように弾け、目の前にて人の形となる。
『フォッフォッフォ。誰じゃって? もちろん儂じゃよ』
受験証から投影されて柔和な笑顔をみせたのは、小さく丸いレンズの老眼鏡をかけた、人の良さそうな老人。
「……リドルバス・ドアヴォルブル。あの大賢者リドルバス、リドルバス・ドアヴォルブルか……!!」
名乗りの一つさえしない老人の登場。だというのに、その姿を見たクーでさえ「誰だよ」と冷笑気味のツッコみが冴えることはなく、ただ目を輝かせながら、無意識にその名を口に出してしまう。
(リドルバス・ドアヴォルブル。性別不詳、年齢三百とはてな歳、その他一切の個人情報不明。リリー学園学長にして大賢者と称される、この国で最も偉大であろう魔法使い。十三の固有魔法を取得。七の魔出関連病治療薬の開発。十八の魔法理論の最終証明。国際魔法競技の優勝回数、歴代最多。国民名誉賞授与経験ありなどなど、掘れば掘るほど出てくる功績の数々が彼という人間の実力を如実に示している。そんなリリー公国の平和を盤石たらしめる由縁の一つたる、生きながら教科書に載るほどの大偉人が直々にお言葉をくれるとは……ククッ、学園め。高々合格発表だというのに、随分と盛り上げてくれるじゃないか……!!)
今を生ける大賢者の登場は、クーの心を大きくざわつかせる。それは【めがゆりTS】の原作キャラだからというだけではなくこの世界、このユリユリ公国では知らぬ者の方が少ないくらいの有名人故だった。
『驚いたか。驚いてくれたかの? 実はな、毎年こうやって受験生一人一人にメッセージを送っておるのじゃよ。これが老い先短い老人の、細やかな楽しみというやつじゃ。フォッフォッフォ』
(どこが老い先短いだよ。俺が死んでも同じように笑ってそうじゃないか)
まるで悪戯が成功した子供のようにお茶目に微笑んでみせるドアヴォルブル。そんな老人の姿に内心悪態をつくクーだったが、もしかしたら聞かれてしまうかもしれないとか脳裏に浮かんでしまったため、それを口に出すことは決してなかった。
『さて、もったいぶるのは老人の悪癖だと自覚しているので本題に入ろうかの。──おめでとう、クー。君は見事合格じゃ。総合成績六位と、上位五人には入らなかったものの、実に優れた結果じゃったよ』
ドアヴォルブルが優しげに合格を告げる。クーは密かに右手強く握り、合格を噛みしめる。
『特に実技試験での
ドアブルヴォルが柔和に微笑む。偉大な魔法使いの讃辞を聞いたクーは、心の中は跳ね回ってしまうほどに歓喜していたものの、なるべく顔には出さないよう必死にニヤリと笑みを作っていた。
『どんな結果であれ、どのような裏があれ。それでも合格は自らが努力し、そして勝ち取った成果じゃ。故に君達は合格出来なかった者の分まで存分に学び、己を育んでいく責務がある。……まあ、これ以上は野暮かのう。何にせよ、直接顔を見られる日を楽しみにしておるぞ。フォッフォッフォ』
ほんの一瞬、同じながら質の違う声色にて引き締めさせた老人。決して優しいだけの老人ではないと、クーは暗に理解させられていると、元の調子に戻った老人は挨拶を締めくくる。
『……ああそれと、合格者の受験証は爆発などせんが、入学まではしっかり持っておくことじゃ。例年一人はいるんじゃ。浮かれてなくしてしまって入学を取り消されてしまう子がの。フォッフォッフォ】
最後に軽く手を振った直後、パンと、花火のように弾ける老人の投影。
「……不合格者は爆発するのかな。どう思うララ──うげっ」
疑問を尋ねるつもりで、気軽にララへと振り向いたクー。けれどどうしてかニコニコと──怒っているときの顔だとすぐに察したクーは、せっかく合格発表直後だというのについ顔を歪めてしまう。
「……クー様」
「はい」
「まずは合格おめでとうございます。ここまでの苦難、よく乗り越えましたね。このララ、貴方様の女従として、これ以上誇らしいことはありませんとも」
「ありがとう。じゃあこの話はこれで終わりということで。あ、ちょっぴり身体でも動かしてこようかな──」
「クー様」
ガシッと、すぐに部屋から逃げようとしたクーの肩を掴むララ。ミシミシと、痛くないけど何故か痛い。まさに絶妙と言っていい、神業が如き掴み加減だった。
「それでクー様。合格に水を差すようで大変心苦しいのですが……六位とは、なんです?」
「ひいぃ!?」
すぐさまララの正面に躍り出たクーは、前の世界から持ち込んだ謝罪チートたる伝家の宝刀──土下座待ったなしな完璧な正座の姿勢になって、ララとの対話へと臨まんとする。
「……いやあの、怒ることなくない? だって六位だよ六位。上から六番目! 合格だよ合格! ……すごくない?」
「確かにすごいです。一年目にして狭き門と知られる学園の試験に合格、その上位六人目というのなら、もちろん誇っていいことです。……ただし、貴方様が一般市民であったならですがね」
上げて落とす。見下ろしながらのララの切り返しに、一瞬だけ希望を抱けたクーの瞳は、すぐさまどんより雲が差したように曇ってしまう。
「いいですかクー様。貴方様は仮にもこの別邸にて、貴族の水準でしっかりと教育を受けてきたわけです。つまり本来であれば他に追随を許さぬほどの結果、まあ例外を込みにしても三指に入っていなければおかしいのです。それをどうして、どうしてよりにもよって筆記の方で他に遅れを取ってしまうのですか? まさか回答欄を一つずらしてしまった、なんて古典的なミスでも犯したんですか?」
「いやー、別に失敗など一つもなく、紛れもない実力だとも。しかしみんなすごいよなー。あ、もしかしたら例外がたくさんいたのかもしれないぞ? 俺と似たような境遇で受験に臨んだとか……ありそうじゃない?」
「ないです。こんな境遇で前向きに学費を集めて受験に臨めるガッツをお持ちの問題児など、クー様の他に二人も三人もいてたまるものですか。ええ、いるはずがありませんとも」
褒めてるんだか叱ってるんだか分からないララのお言葉に、クーはどう反応していいか掴みあぐねつつ、それでも返す言葉がなかったので相槌を打つばかり。
(……まあ実際、否定は出来ないんだよね。こんな別邸に隔離されていたとはいえ、それでもお勉強自体はしっかりさせてもらっていたのだから、少なくともトップ三には入ってないと先生方や下に申し訳が立たない。成績が低かった所ではなく、そういう意識の部分を怒ってくれているんだろうな)
長い付き合いだからこそ、クーはせっかくの合格に盛り下げるような説教でも甘んじて受ける。
「いいですかクー様。ララめはあと半年で付き人ではなくただの保護者に成り下がってしまいます。つまりこうやって口を酸っぱくし、貴方様に進言出来る機会も道理も失われるわけです。そこの所、分かっておられるのですか?」
「うん……うん? いや、一般的には一使用人より義母の方が口うるさいものじゃ……」
「親と保護者は違います。ララではクー様の保護者になれたとしても親にはなれません。今この瞬間、女従だからこそ言える言葉が数多くあるのです。
クーにはララの言ってることがよく分からなかった。ただどこか寂しそうだなと、彼女の顔と言葉を素直に捉えたクーは、何故かそう思えてしまった。
「……ララにもし子供がいたらさ、きっと愛が伝わりきらなくて反抗期すごかったろうな」
「生憎クー様以外に子供を作る予定はないので大丈夫です。それより、話を逸らさないでください」
「はい。すみません。はい」
クーは自分から正座して、素直にララのお説教へ相槌を打ち続ける。ちなみにララの説教なんて日常の一つに過ぎないので、使用人一同が何か気にすることはない。別邸は今日も平和そのものであった。
「……まあ、これくらいでいいでしょう。出過ぎた発言と無礼、心より謝罪いたします」
「いいって。そういうララだから、俺は安心して一緒にいられるんだから」
九十度に頭を下げたララに、痺れる足でどうにか立ち上がったクーは、大丈夫だと告げる。
「……ごほんごほん! さて、何はともあれ無事に合格は決まったわけだ。おめでとう。そして見事最大の試練を乗り越えたわけだが……ククッ、これで心置きなくやり残しを消化出来るというものだ」
お説教の後に素早く切り替え、ドサリと椅子へ座り直したクー。ララが素早く淹れ直した紅茶を一口楽しんでから、残り一つのスコーンに手を付ける。
「……何をなさるおつもりで?」
「なに、どうせならアンマルで済ませてしまいたくてな。……一つ訊きたいんだが、ララ。どうせ身につけるのなら、銅より銀だとは思わないか?」
ニヤリと、訝しむララへと愉しげに笑ってみせたクーは、そのままスコーンを口へと放り込んだ。