【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~   作:ゴマ醤油

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vs相棒

 闘練場。名の通り戦いの鍛練に励む場として、或いはギルドが昇格試験に用いるために用意された場の中央にある武舞台にて現在、鍛練の域など優に超えた緊張が充ち満ちていた。

 

「ぶっちゃけよ、どう見る? 仕事取られちまったアンマル最優、シレンナさんよ」

「うるさい、そして馴れ馴れしいですよ」

「ひぇー相変わらずお堅いー」

 

 遠巻きに見つめる集団の一つ。アンマルで活動する冒険者の上位たるシルバーランク三人、そしてクーの女従たるララの四人の固まったグループにて、プラチナブロンドの美人ことシレンナが武舞台を見据えながら、ダル絡みしてくるゴリラコンビを軽く流す。ちなみにララは無言である。

 

「……冒険者ギルドが掲げるシルバーランク昇格試験。その実技科目の内容は試験官が胸に付けるバッジの奪取。……つまり、実質的に言えば正面からの戦闘の強制。なので前提としてクー君の勝機は限りなく薄いでしょう」

 

 とはいえシレンナは生真面目な性分なので、コンビの振ってきた話題にぽつりと答え始める。優しい。

 

「確かにあの若さで恐るべき魔法の技量を誇る少年ではありますが、それでも典型的な魔法使い。対してルルラルルさんは純粋な、それも戦闘に祝福されたと言っていいほどの才覚を有する戦士。正面から見合わせ、合図と共に戦闘を始める形式であるこの試験は、限りなく不利と言っていいでしょう」

「ああ。ことタイマンにおいてだけなら、今のルルラルルはこの街で最強の冒険者かもしれねえ。あたいらよりもシレンナ、あんたより上かもな。……ララさんは、どう見ます?」

「大方仰る通りです。ルルラルル様は強い。今のララが正面から相対するのであれば、決して手を抜ける相手ではありません。基本的に戦闘の才能に欠けたクー様の勝利は、恐らく困難を極めるのは間違いないです」

 

 それぞれが各々の見解を、ただし結論は等しく、一切の容赦なくクーの敗色濃厚を告げる。

 

「……なんか、ちょっと可哀想と思うのは、侮辱なんだよね」

「そうだぜリラリ。これは冒険者の試験。同情こそ最大の侮辱。あいつらだって望んじゃねえぜ」

 

 コンビの片割れたるリラリが少々いたたまれないといった顔をしてしまえば、相棒でありパートナーでもあるラリラはポンと肩に手を置きながらもはっきりと肯定する。

 

「冒険者ギルドが求める人材はいつだって臨機応変、フラットな条件にいながらいつでも力を発揮出来る人間です。魔法使いと言えど、この鉄則は曲がらない。同じ土俵でありたいと願うのであれば、自らの力で乗り越えるしかありませんよ」

 

 ララはただ女従としてではなく、子を想う母親代わりとしてでもなく。冒険者の先達として残酷にそう宣告しながらも、武舞台にて真剣な顔つきで構える主たるクーを、どこか祈るように見つめ続ける。

 

「戦いは二つのどちらかになるはずです。──一瞬か、それとも長引くか。いずれにせよ、クー君には厳しい試練になるでしょうが、私達はただ見守るばかりです」

 

 最後にシレンナがそう締めくくり、そして見守る。始まりから終わりまで、その全てを見逃すまいと。

 

 

 

 

 

 武舞台の上。互いに十歩離れた指定位置にて杖を構えるクーは、向かい合う戦友の姿に感嘆を抱く。

 

(……よく研ぎ澄まされた、槍と見紛うほどに鋭い闘気。いつもは肩を並べ、前を任せていたから気付かなかったが……嗚呼、正面から見たお前はそんなにも強大な存在だったのか。ルルラ)

 

 普段とはまるで違う、敵として相対した金の髪の槍使い。彼女の向ける闘志には一切の手心などなく、むしろいつも組んでいるとき以上の、クーがルルラルルに初めてぶつけられる感情だった。

 

(正面からではまず勝ち目はなく、光明を見出す一手があまりに遠い。……ククッ、ブラッディボアから逃げるだけだったあの日の女が、よくもまあ強くなったものだ。数年相棒を務めていた者として、これ以上なく誇りに思うぞ)

 

 だがクーに一切の恐怖はなく。目の前の脅威への警鐘に負けじと、称賛や歓喜、そしてこの状況への興奮など笑みを浮かべるばかり。

 

(……空へ逃れ、距離を取る。それが魔法使いがヨーイドンで戦う際の常道。それだけが、今の俺にとって唯一勝ちの目を拾える手立て。……戦闘の組み立てが致命的に遅い、戦いの才なき俺が取らなくてはならない、たった一つの答え)

 

 クーは浮つきながらも冷静に、自分の唯一であろう王道の勝ち方へと辿り着く。戦闘の最中における思考速度、あまり機転の利かないクーにとって、それだけが正解であった。

 

(……だが、それでは何一つ面白くない。前のめりで行かなければ、きっとこの花開きかけた英雄の喉元に届くことなど出来ない。……ククッ、初めてレオネに勝った頃から何も成長してないな。俺は)

 

 ──だが辿り着いた正解を。恐らく唯一であろう想像出来る勝機を、クーは嘲笑い、かなぐり捨てる。

 

(何より、もしかしたら最初で最後かもしれない相棒の、あの美少女からの誘いだぞ? ここで腰が引けているようじゃ男の子としては下の下……無粋でしかないだろう?」

 

 この期に及んでもなお私情。つい思考が声として漏れてしまうくらいには、クーはいつまでもどこまでも、クー・ズーハルトになったあの日より何一つとして変わらぬ性根で生きていた。

 

 武舞台を緊張が覆う。互いの視線が交錯する。──ルルラルルの瞳が、何かを捉える。

 

「それでは、始めッ!!」

「──黒光よ(アラテ)

 

 試合開始の合図の瞬間、ほぼ同時。ルルラルルは地を蹴り、そしてクーは黒い光を弾かせた。

 

 ──黒光の止んだ瞬間、武舞台には結果だけがあった。決着はシレンナの読み通り、一瞬だった。

 

「……何故、分かった?」

「うーん、勘かな。何か企んでるな、何かするなって。それだけで、何となく?」

 

 男は杖を。女は槍を。互いに突きつけ合い、自らの喉元に寸止めされた穂先の感触に追いついたクーは、ようやく認識が追いついたとばかりに冷や汗を流しながら尋ね、返された答えに気が抜けてしまう。

 

「あと、信じてたから。クー君なら退いたりしないなって。あっはは!」

「……まったく、敵わないなぁ。本当に」

 

 ルルラルルのにっこり笑顔を前に、毒気を抜かれたとばかりに息を零しながら手を下ろすクー。ちなみにクーの使った杖は案の定、今の一瞬で崩れてしまっていた。杖もどきは今のクーがちゃんと魔法を行使した場合、最早一回しか耐えられないおもちゃでしかなかった。

 

「勝負あり! 結果は()()()()……否、試験内容を達成したクー様の合格となります!」

『う、うおおおおっ……!!!』

「え、えぇー!?」

 

 試験官を務めていた職員の宣誓。一拍の静寂の後、とりあえず叫んどけな観客の歓声と、そして霞んでしまってはいるが確かにクーには伝わってくる、ルルラルルの驚愕の声が闘練場へと響き渡る。

 

「あ、嘘っ!? いつの間に!?」

「はっはっは。別に負けたなんて言っていないからな。このクー、転んでもただでは起きないことで有名なのでな! はーっはっは!」

 

 ルルラルルの目の前で、手の中にあるバッジをこれ見よがしに踊らせてみせるクー。実はこのクー。自らが出した黒い閃光の最中、合格に必要なバッジをルルラルルの胸元からちゃっかり奪取していたのだ。目聡いやつ。

 

(まあ、本当はルルラを戦闘不能にしてから取りたかったが……やっぱり無理で、途中から切り替えただけだけどな。……嗚呼、まったく敗北というやつは、本当に悔しいな)

 

 内心では心底悔しがっていたが、クーは涙をみせず笑ってみせる。だって男の子だもん。

 

「おめでとうクー君。二人とも素晴らしい試験でした。ところでクー君、先ほどの黒い光は一体……?」

「ああ、火属性(アグ)地属性(ブミ)の応用です。良い感じでしょう?」

「……そういうものか。いやはや、魔法使いというのはいつも発想の外にいる。称賛する他ないですね」

 

 寄ってきたシレンナの問いを受け、クーは実に流暢に、けれど全力で誤魔化した。実際はクー特有の光魔法(アラテ)でしかないのだが、何とかバレないよう、それはもう全力で誤魔化した。

 

「お疲れ様ですクー様。試合に負けて、勝負に勝ったと言うべきですか?」

「……意地悪な女だ。勝ちたかった方に負けた。残念ながら、俺にとっては敗北も同然だとも」

 

 ララの心の内を見透かしているとばかりの皮肉を受け。クーは嘆息してみせる。ララ以外の誰も気付きはしなかったが、下げた手に作られていた拳は、小刻みに震えてしまうほどに強く握られていた。

 

「おっしゃ! 今日は飲み行こうぜ! クーの昇格と、若者二人の旅立ちに祝してよぉ!」

「……あのー、盛り上がってる所申し訳ないのですが、クーさんはこの後筆記と面接試験もあるので……その……連れられると職員的に困ると言いますか……」

「じゃあその後だな! 店確保しておくから、とっとと済ませろよクー! おらシレンナ、行こうぜ!」

「え、あ、私もですか……!?」

 

 シレンナの肩を抱き、拉致するように去っていくラリラ達。ルルラルルも「後でね!」と笑顔で告げて、彼女達の背に続いていく。クーはその背が消えるまで、敗北の苦さを胸に刻みつけるかのように、ずっと見続けていた。

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