【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
年は開け、季節は巡り、冬はようやく終わりを迎える。そしてクーがクー・ズーハルトである最後の日──自身の家であった別邸を去る運命の期日が、ついに訪れた。
「エーエー。今までありがとう。まさか最後に挨拶する使用人がお前になるとは思わなかったよ」
「私は他の方々と違って少々今後に余裕がありましたから。……ご健勝、心よりお祈り申し上げます。クー様」
門の前にて最後に握手を交した後、深く一礼したエーエーは屋敷から去っていく。そうして別邸に残る人はクーとララのみ。二人だけとなってしまった屋敷からは、すっかり静まりかえってしまっていた。
「……随分と静かになったな。こんなにも、こんなにも閑散としていたのか。この家は」
クーは別邸を見つめ、この数年の出来事を思い出しながら、どこか寂しげに呟いてしまう。
「色々ありましたからね。クー様が反抗から壁に穴を開けてしまったり、物置に立てこもってしまったり……嗚呼、基礎魔法しか教えてくれないギンガロウ様の大切な老眼鏡を踏んづけて割ってしまったなんてこともありましたね。実にお懐かしい」
「……ねえそれ知らないんだけど。俺、ギンガロウ先生にそんな失礼なことしていたの? ねえララ?」
クーがくるりと首を向けて尋ねるも、ララは愉しげに微笑むばかり。ちなみにどれもクーの中の人が変わる前の話なので、今のクーが知るわけがないことだった。
「……さて。色々聞きたいことがあったりするし、ずっと眺めていたいほど名残惜しくはあるが、いつまでも感傷には浸っていられまい。公都へ向け、俺達もそろそろ旅立つとしよう──んん?」
しばらくおセンチになってしまいながら、それでも屋敷に背を向け歩き出そうとしたクー。だがそんな彼らの行く手を遮るように、一代の馬車が別邸の門前へと来訪する。
(あの馬車はズーハルトの……ああ、そういうことか)
来訪者の予定がなかったはずだと。クーはどこか訝しげに馬車を見つめるも、車室の壁に入っていた見覚えのある紋章──ズーハルトの家紋を目にし、何となくだが察しを付ける。
「よっと。久しぶりだね、お・に・い・さ・ま? ボクのこと、当然ながら覚えてるよね?」
「……一応、たった一人の妹を忘れるほど薄情者じゃないつもりだぞ。レオネよ」
車室の戸を豪快に開け放ち、飛び出してクーの前に着地したのは短い金髪の美少女。クーの妹であるレオネ・ズーハルトが、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮べてみせた。
「……また少し大きくなったな。それでラービ母上ではなく、お前がわざわざ見送りに来てくれるとは……どういう風の吹き回しだ?」
「べっつにー? 血を分けた兄の旅立ちなんだから、見届けに来たって不思議じゃなくない?」
淡々とした物言いのクー。そんな兄のそっけない対応に、レオネはわざとらしく口を窄め、足下の小石を軽く小突きながら言葉を返す。
「ま、鍵を受け取りに来たって理由もあるんだけどね。ここ、遠からずボクの別荘になるからさ」
「……なるほど。ララ、鍵を」
戯けてみせたレオネに、クーは一つため息を吐き、ララから屋敷の鍵を受け取るとレオネの正面へと寄っていく。
「仮にも俺の家だった場所だ。少しくらいは大事に扱ってくれよ……おいレオネ、手を出さないと渡せないぞ」
鍵を手渡そうとするクー。だがレオネは鍵を受け取りに来たと自分から言ったにもかかわらず、手を差し出すこともなく、依然笑顔でクーを見上げるのみ。
「……なんだ? お小遣いなら無理だぞ? 今持ち合わせが少ないんだ」
「ボクの方がお金持ってるのに? ……ねえお兄様。それを受け取って欲しかったらさ、ボクと最後に一戦やらない?」
「却下だ。今日はそういう気分じゃないんだ。それじゃあな」
手を合わせ、あざとい片目ウインクでのレオネの申し出を脊髄反射で突っぱねるクー。
(やだよ。前回が本当に限界って感じだったし、あんなに考えた数十の対レオネ用戦略プランもとっくに底を突いてるし。せっかくの旅立ちを黒星で飾りたくないよ俺は)
次やったら確実に負ける。そんな確信があるからこそ、クーは絶対に首を縦に振りたくはなかった。
「……どいてくれ」
「いや」
「レオネ」
「いーや!」
話は終わりだと、クーが横を通り抜けようとするに遮るレオネ。クーがサッカーやバスケのように抜き去ってやろうと試みるも、レオネは巧みなブロックで道を遮り、少女らしく駄々をこねる。
「お願いお願い! ボクは魔力なし、お兄様は制限なしでいいから! お願い!」
殊勝にも頭を下げ、必死に頼み込んでくるレオネ。初めてだと思えるほど切実なお願いしてくる妹を前に、クーは足を止めて彼女を見下ろす。
(言動こそあれだが、それでも頼み自体は真剣。……こいつも、どこか思う所があるのだろうか)
クーはレオネの内心を推し量ることなど出来ない。けれどそれでも、ただこの頼みを聞いてやれなければ兄を名乗ることは出来ないと。血を分けた妹を前に、そう感じずにはいられなかった。
「……ララ」
「クー様次第です。時間には余裕がありますので、どうぞお好きなように」
「……ククッ、お前は最後まであれだな。優しいようで厳しい、良く出来た付き人だとも」
変わらず答えるララに、クーはくつくつと、少し嬉しそうに笑いを零す。
「……最後に妹の我が儘に付き合ってやるのも兄の務めか。兄とは実に難儀な生き物だと、そうは思わないか? 妹よ」
「っ!! じゃあ!!」
「ただし条件がある。やるからには俺も魔力なしのステゴロのみ。そして勝った方には……そうだな、一万勝分にしよう。俺が勝てば一万と三十三勝三敗。お前が勝てば一万三勝、三十三敗。この施しに耐えられるか?」
せめてもの抵抗なのか。白々しいため息を一つ吐いてみせたクーは、バッと顔を上げたレオネへと、とびきりのゲス顔を披露してみながら条件を提示してみせる。
「なにその面白い顔。……いいの? ボクに有利過ぎるし、そのルールだとボクが絶対に勝っちゃうけど?」
「……勝負に絶対はないぞ。そもハンデなぞ、もらうより与える立場に回るのが兄である者の業。点数に関してはそうだな……俺が負けたとして、勝ち越しなしではちと盛り上がりに欠けてしまう。違うか?」
渾身のゲス顔を面白い顔と言われてしまったクーは、実はちょっとショックを受けながら、それでも表に出すことなく問いかけてみせる。
(何故自分から首を絞めるのか。馬鹿なのかな俺……馬鹿だから仕方ないか。昔から何も変わってないな、俺は)
内心ではそれはもう自分を嘲笑っていたが、恐らくララにもその内心を知られることはなかった。
「さあ庭に出ろ。兄妹として最後の喧嘩だ。長年の決闘の日々にけりをつけるとしようか、妹よ」
親指で屋敷を示しながら、不敵に微笑んでみせるクー。レオネはそんな兄へ、満面の笑みを向けながら頷いた。