【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
これはクー・ズーハルトが別邸を去った頃より少し遡り、学園の受験が終わった数日後のこと。
リリー学園、大円卓の間。
中央に置かれた大円卓。それ以外に何もなく、何者の通さない失われた魔法の壁を貼られた部屋。
学園所属であろうと一部の者しか立ち入る資格を持たない、学園の今後を左右する議題を扱うための神聖なる場。
設立当初こそそんな扱いだったものの、魔法技術が進歩した今ではちょっとリッチな会議室。そんな場所に複数人の教師──知る人が聞けば腰を抜かすであろう、錚々たる顔ぶれが一同に会していた。
「それでぇ? 今年の筆記はどうだったんよ、ソウソウせんせっ。目を通した限りだとさ、今年はいつもより難しかったって受験生の声が多かった気がすっけど?」
一人。挑発するような軽口を発するのは灰桜色の髪を上げ、額にヘッドバンドを巻いた美男。
ファイブ・リョスク。
齢二十八にして、既に空間魔法の研究にて確かな実力を示す魔法使いは、ちょうど自身の隣に座す筆記担当である白髪の少女へ語りかける。
「……ファイブ先生。私はあくまで公平に問題を作っているつもりだ。受験生が難しいと感じたのなら、彼らの知識と努力が足りていないだけだよ」
「かぁー手厳しいぃ! やっぱり一味違うねぇ、学園の守護霊様は!」
次に一人。黒猫を膝に乗せながら話すのは、癖ある白い長髪を持つ、精巧な人形のように表情を変えない完成された女性。
ソウソウ・フェルーリン。
年齢不詳。大賢者ドアヴォルブルでさえ、いつから学園に勤めていたかも定かではない彼女。その有り様から学園の妖精と陰で囁かれる女性は、ファイブへ淡々と抑揚なしに言葉を返す。
「Mr.リョスク。厳しいと言うのであれば、Ms.フェルーリンの試験問題ではなく基礎と武芸の実技の方です。今年は明らかに生徒に求めるハードルが高かったと、そのように窺えますが……その辺りをどうお考えですか、Mr.ジェルク?」
次に一人。紫色のツインテールが特徴的である小柄な美少女。
サリア・ペンサカ。
凜々しい表情とは裏腹に、今年で三十六になりながら、学園の入学における下限な十五に遜色ない若く見えるほどの彼女。魔法史学の担当あらせられるファイブの話に割り込みながら、正面に座る濡羽色の男性へ不満げに問いを投げる。
「そうは言いますがな、ペンサカ先生。こと実技試験において、貴女の担当する少々易しめな魔法実技を除いた全てを一任されているのはこの私。私の裁量に意義を申し立てたいのであれば、それは私ではなく、私に権限を与えたドアヴォルブル学長に直接というのが筋ではないですかな?」
「不満ではなく限度があると言ったのですよ、Mr.ジェルク。困難を強いるばかりが試験ではないと、そう話しているのです。貴方の尺度のままに失態を繰り返そうというのであれば、ええ、何度でも言葉にしてあげましょうとも」
「……失態とは、随分なご意見ですな。そういう貴女こそ、自身への戒めのつもりかは知りませんが、少々緩めすぎなのでは?」
サリアの詰問を肩をすくめながら流すのは、濡羽色の髪を伸ばした、黒いローブの男性。
ネスティル・ジェルク。
数少ない属性反転を専攻としている魔法研究者。自身の研究の過程にて、指定魔出難病とされていた『ブルブル病』の治療薬開発させたこともある彼とサリアは暫し睨み合い、そして同時に立ち上がり──。
「まあまあお二人とも。そんなにいがみ合わないでください。互いに言い分はあるでしょうが、既に終わってしまったものはどうしようもありません。ここはひとまず怒りを抑えてくださいよ。お二人の相性が悪いのは重々理解していますが、決闘でもなく学園の教師が杖を向け合うなど、それこそこの国における魔法の権威を地に落とす愚行そのもの。違いますかな?」
残る一人。金と焦げ茶のツートンカラー。
唯一円卓の椅子ではなく、空飛ぶ絨毯の上に腰掛けながら、煙の出ないパイプを吹かす男。
シキ・ハクレイ。
空に愛された男とまで称されるほどに飛行魔法においての実績を上げる彼は、パチンと指を鳴らした後、飄々とした表情にて二人をやんわりと窘める。
数秒の緊張。円卓の間に奔る、冷たい沈黙。
さして関係ないファイブとソウソウの二人も成り行きを見守る中、剣呑な雰囲気であった二人は上げようとした杖を収めた。
「フォッフォッフォ、どうやら儂が最後のようじゃな。道中で会ったオッキー先生との話が少々弾んでしまってのう。遅くなってしまってすまんかった」
──その瞬間だった。張り詰めた空気を逃がすように、大円卓の間の扉が開いたのは。
まるで狙い澄ましたかのように、最後に部屋へと入ってきた、小さな丸い老眼鏡をかけた老人。
リドルバス・ドアヴォルブル。
ユリユリ公国では……或いはこの世界、ユリツナーグにて知らぬ者少なき大賢者。魔法使いでなくても憧れ敬いを示すほどの老人の登場に、ソウソウを除く教師一同は立ち上がり、先ほどまでの空気を霧散させながら礼を取る。
「なんというか、相変わらず硬いのぅ……。もう少しこう気軽に、散歩中に公園のベンチでたまに世間話老人くらいの親しさで接してくれてもいいんじゃよ?」
「何を仰いますかな。貴方様は大賢者、魔法使いにとって遙かなる高み。その価値を多く知る者ほど、そのような物言いは出来ますまい」
礼をしながら発されたネスティルの言葉に、ドアヴォルブルよよよとわざとらしく悲しんでみせる。
「うーん、そうは言ってものう。これでも付き合いは長いはずなんじゃがのう……。儂がよく散歩で通る八百屋のご婦人なんか、儂のことなどちょっとのほほんとしたおじいちゃんくらいで楽──」
「リドルバス学長、いいからとっとと始めようよ。私お腹空いてきたから、とっとと帰りたいんだよね」
「フォッフォッフォ。そうじゃのう。時間すなわち宝。皆の宝をこれ以上奪ってしまうのは、儂も流石に気が引けてしまうからのう」
ドアヴォルブルの指をツンツンさせながらの小さな憂いを遮ったのは、この場に集った教師の中で唯一起立せず、黒猫を撫でていた白髪の少女。
一切表情を変えることのない、澄ました仏頂面なソウソウの物言いに、他の教師は思い思いの反応を示すも、当のドアヴォルブル自身は軽く微笑み、用意されていた特別席へと腰掛ける。
「さて、それでは会議を始めようと思うのだが……その前に、まずは感謝を。今年も恙なく受験を執り行い、何事もなく終えることが出来た。多忙の中、新たな生徒の選定の役割に尽力してくださった先生方には、この場で改めてお礼申し上げるとしよう」
ドアヴォルブルはかける小さな丸い老眼鏡のレンズを光らせながら、小さく頭を下げる。
学園の入試。
通常業務ではない追加案件としての仕事であり、毎年その学年の担任となる教師が担当するのが習わし。今回はサリア、ネスティル、そしてシキの三人がその対象となっている。
ちなみにソウソウは毎年筆記試験を担当してこそいる故に会議へは参加を強制されているものの、学年の教室の退院を受け持つことはなく。
更にファイブについては一切関係ないので仕事の休憩代わり、暇潰しと情報収集の一貫でしかないのだが、そんな授業参観くらいには自由意志による参加も可能な緩い会議であった。
「それで今年の入学生じゃが……うむ、中々に逸材が揃っているようじゃ。ただ貴族クラス含め……ぴったり百名。例年に比べれば、ちと数が少ないのが難点じゃがのう?」
ちょいちょいと、老眼鏡の縁を軽く小突きながら、ネスティルを一瞥するドアヴォルブル。
ただし老人の微笑に怒りはなく、表情から真意を覗くことは叶わない。
そんな飄々とした大賢者の態度に、サリアは反論とばかりに手を挙げると、ドアヴォルブルは優しく「どうぞ」と手のひらを差し出す。
「学長。今年度のMr.ネスティルの試験内容、少し問題があったと私は思いますが──」
「不満を持つのは分かるがのう、サリア先生。確かに例年に比べ厳しくはあったが、それでも試験の領分ではあったと儂が判断し、ネスティル先生の申請を通したのじゃ。……悔やんでも悔やみきれぬことというのは、それこそ生きている限り無数に生じてしまう。だが必要以上に囚われ、目を曇らせてはならん。そうなってしまえば、次に悲劇を招いてしまうのは、他ならぬサリア先生かもしれんからのう?」
捲し立てるように苦言を呈しかけたサリアを優しく、けれど淀みなく窘めるドアヴォルブル。
毒気抜かれたのか、この場はひとまず溜飲を降ろすべきと判断したのか。
サリアはまだ些かの不満を表情から漏らし、何か言いたげではあったが、それでも「申し訳ありませんでした」と言葉を呑み込み、姿勢を正す。
そんなサリアの姿へ満足げに頷いた老人の顔はやはり優しい笑み。怒りも失望もなく、それが正しく真意であるのなら、どちらの意見も尊んでいるかのようだった。
「善き哉善き哉。様々な意見あってこその円卓じゃからのう。ただ……残念ながら、既に今年度の試験は終わってしまっておる。ここからどうするなどというのは、世界へ刃突き立て、時に逆らうでもしない限りどうしようもないことじゃ。故に今は、いつもより少々狭くなった門を越えた者達の健闘の未来のために考えるとしようかの。フォッフォッフォ」
数度頷き、それから笑ってみせるドアヴォルブル。
そんな陽気な老人に、今度は灰桜色の髪の青年──この場で唯一完全な部外者と呼んでもいい教員、ファイブ・リョスクが挙手を示す。
「がくちょがくちょ。それで今回はどんな期待株がいるんですかい? こちとら教え甲斐のある生徒を求めてんですが……勿体ぶってないで教えてくださいよぉ?」
「うむうむ、それは儂も知りたかった所じゃ。ではネスティル先生。まずは貴族クラスじゃが……今年はどんな調子かのう?」
ファイブに同調するよう微笑みネスティルへと尋ねるドアヴォルブル。
期待に胸が弾んでいそうな大賢者の問いに、ネスティルは顎に手を当てて吟味し、そしておもむろに口を開く。
「別途で行われた茶番……失礼、試験にて合格を約束された貴族クラスの生徒達。今年は平均的と言えましょうが……何人か、抜きんでておる者がおります。マキシム家の長女やかのアーム・デュプリ・ジュニア、言わずと知れたアイオライトの聖女……ですが挙げるとすれば、やはりシルバリオのご令嬢でしょうな」
「かぁー! シルバリオのご令嬢! 四大貴族、ついに入ってきちったかー!」
シルバリオ。その名が出た直後、ファイブがわざとらしく、そして大げさに両手を挙げてみせる。
貴族クラス。
一般受験を行わず、別途で合格を約束される貴族身分の生徒達。
貴族と一般受験生の大半では、前提となっている教育に大きな差がある。故に貴族の受験生も含めた入試にしてしまえば合格者が著しく偏る結果に繋がり、結果として可能性を狭めてしまう。
故に入学予定の貴族は別途で用意された軽い試験……という題目の通過儀礼のみで入学を許される。そして別個で用意された教室で、一般受験生の配属される優秀クラスと普通クラスとは別の貴族クラスにて教育を受けることになるのだ。
……ただ、そのような理由は所詮建前に過ぎない。
その背景には学園外からの圧力。学費に添えられた
この風習こそ、学園内に身分と権力を持ち込まないという理念に何よりも反してはいる。
それでも教師一同は、それぞれに最良を導かんと尽力している。大賢者リドルバス・ドアヴォルブルが学長に就任して以来の学園は、そんな長い長い変革の最中にあった。
「ふーん、また四大貴族が揃うんだ。何か騒がしくなりそうだね。前回は確か……三十年前くらいだったかな? 懐かしいね」
「らしいっすよソウソウせんせ。お馴染み、三年のホワイトライトとベルブラック。二年のゴールディア。そしてどういうわけか、自主的に一年遅れで入学してきたシルバリオのご令嬢! ……なんていうか、なんか起きそうっすよね。四大貴族四家共に揃う代とか、残業量増えそうでたまんねえわ! アッハッハ!」
うんうんと腕を組み、かつてを懐かしむ様子を見せるソウソウ。
そんな彼女に同調するように、ファイブが言葉をとは裏腹に、ニヤリと歯をむき出して笑ってみせる。
「……Mr.リョスク。貴方はこの学園の教師。生徒を導く立場なのですから、あまりそういった小言を表に出すのはお止めください。貴方の軽口が問題の火種となった事例を今ここで挙げても構わないのですよ?」
「へいへい。この適当な口が悪うござんしたね、サリアせんせ?」
「そういう所ですよMr.リョスク。思えば貴方は生徒の頃からそのような態度でした。これを機に少しは身の振り方を改めては如何ですか?」
まるで他人事のような軽薄な態度で笑うファイブを、顰めた面にて咎めるサリア。
愛らしい顔に合わぬ眉をひそめるサリアに、ファイブは「おー怖っ」と肩をすくめてみせる。
「フォッフォッフォ。学園の中くらいは貴族の柵や身分の差を抜きにして勉学と鍛練に打ち込んで欲しいと願ってはいるのじゃが……こればかりは儂ではなく、生徒やそれを取り巻く環境に起因する。深い根の改革にはまだ時間が掛かりそうでのう……」
「そうは言いますがな学長。長きに渡る学長の取り組みは、学園の校風に甚大な影響を与えていると私はもちろん教師一同思いますがな。その辺り何かお言葉をいただけますかな、フェルーリン先生?」
「そうだね。リドルバスが学長に就く前の学園なんて、それこそ貴族が箔を付けるだけの、勉学なんてお飾りでしかないつまらない場所だった。私が部屋から出てきて授業をしようと思えるほどには、ましにはなっていると思うよ」
唐突にネスティルに話を振られたソウソウ。
彼女は顔を上げることなく、変わらず膝に乗せている黒猫の頭を、白磁のように美しい手で優しく撫でながら淡々と答える。
「フォッフォッフォ。ありがとうネスティル先生、それとソウソウ先生。とはいえ、今はまだ不完全。そしてサリア先生の仰るとおり、上手く導き手綱を握るのが教師の務め。この場にいない先生方もそうじゃが、如何に良き家柄の者が相手であったとしても、どうか毅然とした対応をお願いしたい。……ああもちろん、正当に評価をする分には、多少の贔屓は目を瞑るがのう?」
フォッフォッフォ、と。
この場に集う教師の顔を軽く見回したドアヴォルブルが軽く指を擦りつつ、穏やかな笑みを浮かべる。
教師達は別段動じることもなく、粛々とただ座するばかり。
機会と教育こそ平等公平を謳う彼らだが、それでも彼らの中で優劣という差異は存在する。
彼らは常に待っている。探求者として、何時如何なるときでも、己の魔法を高めるに至る才能を。
「さて。貴族クラスについてはそれくらいにしておくとしてじゃ。今日深く尋ねたいのは、一般の受験生の方なんじゃ。試験を務めた先生方の中で、光る物を見出せた者はおるかのう?」
話題は変わり、今度は一般受験生の中での逸材について、ドアヴォルブルは教師達に問う。
「がくちょも相変わらずですねぇ。俺のときから変わらず、偉大なる大賢者が合格生一人一人にメッセージを送るなんて大盤振る舞い。人によってはそれだけで号泣
「フォッフォッフォ。若人を言祝ぐことは、年寄りの些細な楽しみなのでな。何より、頭の体操にもなるのでのう。一石二鳥というやつじゃな」
ファイブの軽口にドアヴォルブルは微笑んでみせる。
合格者への通知は、例年変わらずドアヴォルブルが直々に言葉を贈る。これはドアヴォルブルが学長となった年から欠かさず行われていることである。
試験に関連した教師に集まってもらったのはそのため。今回の会議の議題の大部分は合格のときにどんな言葉を添えるかの情報集めであり、これもまた試験の時期にはお馴染みの流れであった。
ちなみに不合格生には学長の投影はなく、シンプルな自動音声と受験証の自動崩壊だけである。
学生証はそれ自体は魔法で組まれた道具。受験以外の用途で使用される可能性を考慮した結果であり、真の所有こそが合格者だけに与えられた特権である。再発行が許されないのは、そういった面からでもあった。
「それでどうじゃろうか。誰か、なんかないかのう? ……なんでもいいんじゃよ?」
「そうだね。じゃあ期待株を挙げるのなら、私からは一人かな。今回の筆記試験で唯一満点で、ちゃんと合格まで行けたらしい子がいてね。特に最後の記述がよく整っていて、字も綺麗だったから私的には好印象だ」
いの一番に声を上げたのは、猫を撫でる手を止め、小さく手を挙げたソウソウ。
白髪を揺らしながら、珍しくほんの少し口角を綻ばせ、お眼鏡に叶う生徒の名を話す彼女に、ドアヴォルブルは顎髭を触りながら小さく頷く。
「あのソウソウ先生がそう仰るのであれば申し分ない。あとで儂も答案に目を通させてもらおうかのう。それで実技試験はどうだったかのう。ネスティル先生、そしてサリア先生や?」
「そうですな……基礎、武芸試験で優秀さを窺えたのは二人。華奢な身ながらにメイド服で試験に参加しながら基礎試験の総合一位となった少女に、使用した土人形を大剣で一刀両断した青年。そんな所でしょうな」
「それはすごいのう。ネスティル先生の作り出した土人形は中々に手強い。それを一刀両断とは、実に見事な戦果と言えよう」
今度はネスティルがしげしげと語り、ドアヴォルブルは感心したように頷いてみせる。
ネスティル・ジェルクの作り出す土人形。
それ自体は普遍的な魔法に過ぎないが、学園の教師を務めるほどの彼が行使すれば脅威に他ならない。試験用と調整されていたとはいえ屠るというのは、それこそ一角の冒険者や騎士であっても簡単ではない。それ故の称賛であった。
「なるほど、なるほどのう。……魔法試験はどうじゃったかのう?」
「そうですね。私の目を引いたのは三人。実に見事な炎の不死鳥を見せたバーラ・クリアボム。私でさえ見惚れてしまうほど洗練された
サリアは最初二人を心なしか自慢げに、けれど残る一人をどこか不安げに語ってみせる。
「ステラ・ワンダー……確か今年の補助生の一人ですな。優秀であり、可能性を秘めているが故の補助生。サリア先生の懸念というものが、今ひとつ理解出来かねますが?」
「
ドアヴォルブルがお願いすれば、サリアはこくんと一つ頷きを返し、静かに語り始めた。
「ステラ・ワンダ-。彼の試験結果は筆記実技共に平均以下。本来であればまず合格には届き得ないのですが……魔法試験の際に見せた固有魔法。まだ未完成のようでしたが、その威力は用意された大的を粉々に粉砕するだけに留まらず、学園の壁を復元機能込みで破壊してしまうほど。……受験生が学園の壁を崩すなど前代未聞。あれを制御する術を持たずに外に置くことは逆に危険だと判断し、今期の補助生として推薦した次第です」
「へえー、すげえっすねそいつ! 入試の段階で壁壊すとか初めて聞きましたよ。いやー、俺は無難に合格しちまったから、そういうのチャレンジしてみりゃ良かったなー!」
サリアの説明が終わり、まずファイブが口笛を吹いて称賛してみせる。
学園の壁は魔法で強化された材質を用いており、生徒の魔法程度であれば、例え
そして更に自動復元機能さえ有しているため、破壊されようと数日も経てば元通りに修復される……はずだったのだが、ステラ・ワンダーの放った魔法は、その機能さえ破壊してしまうほどであった。
「筆記は微妙で制御さえままならない固有魔法使い……正直言って、私はあんまり興味が湧かないかな。さっき言っていた
ソウソウは無関心。猫の背に手を置きながら、どうでもいいと切り捨てるのみ。
「なるほど、つまりは特級の爆弾というわけですな。是非とも爆発しないことを願うものですな」
ネスティルは静かに頷いてみせたものの、その存在自体を爆弾に例えるほど疎ましげに憂う。
「ほう。非行に走らず、飛行に興味を持ってもらいたい……傑作だなこれ!」
そしてシキはくだらないギャグを呟き、それがツボにでも入ったのか、一人勝手に笑っていた。
「彼の成績から鑑みるに、本来であれば普通クラスに置き、ゆっくりと基礎から学んでいくのが適当なんじゃがな。こういった事情から例外的に優秀クラスへ配属し、より早く魔法を制御する術を身につけてもらうことになったのじゃよ」
「ほう。この場の教員全員、他ならぬ学長の判断であれば、決して意見など挟みますまい。しかし……大丈夫なのですか。今年は少々癖の強い生徒が多く、サリア先生では手に余ってしまうのでは?」
「心配いただきありがとうございますMr.ジェルク。ですがご安心ください。貴族クラスにご迷惑をかけることのないよう、私がしっかりと監督いたしますとも」
ネスティルの皮肉げな物言いに、サリアは貼り付けたような笑顔にて、口元をひくつかせながら否定。
視線のみで、バチバチと火花を散らす両者。先ほど同様、或いはそれ以上に空気が張り詰め──。
「まあ心配いりませんよネスティル先生。仕事量の都合上、普通クラスの担任が学年主席を担うものですから、いざとなったら私がフォローしますんでどうぞご安心を」
「……それはとても喜ばしい。ハクレイ先生がそう仰るのであれば、私も貴族クラスの担任に専念出来るというものです。安心ですな」
──ようとした矢先だった。
ドアヴォルブルが窘めるより早く、シキがパイプ片手に軽くそう言ってのけたことで、場の空気は平静を取り戻す。
「フォッフォッフォ。来年は何かと楽しくなりそうじゃな。あ、そうじゃ。ついでに来年度の入学式についてなのじゃが……」
ドアヴォルブルが話題を切り替え、そうして会議は恙なく進んでいく。
所々に諍いや確執はあれど、彼らの尽力のおかげで、今日も学園は変わらぬ平和を見せていた。