【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~   作:ゴマ醤油

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いざ決闘

 クーとレオネは決闘のため、屋敷の外に出て庭へと移動していた。

 

「クー様? ララめは言いましたよね? 穏便に、波風立てないようにと。言いましたよね?」

「はっはっは」

「……はあっ。まったくこの人は、どうしてこの一年で、ここまで変わってしまったんでしょうかね」

 

 ラジオ体操で身体を解しながら高笑いで誤魔化すクーに、ララは最早呆れ果てたと頭に手を当て唸ってしまう。

 

「それでララよ。俺とレオネの戦績、その全てを包み隠さず言ってみるがいい」

「三戦三敗。……レオネ様が五歳になられてから始まった決闘は、いずれもなすすべなく、完敗です」

「三戦三敗か。……ククッ、十歳にして既に黒星四つとは、自分で言うのもあれだが、散々たる戦績だな」

 

 言い淀みながら告げた残酷な勝率に、クーはやれやれと他人事のように首を横に振る。

 

「確かに俺は二つ離れた妹相手に、まるで歯が立たぬと惨敗を喫し続けた。偉大なるズーハルトが積み重ねた固有魔法、その圧倒的力故にな」

 

 準備体操を終えて、羽織っていた上着を一気に脱ぎ、上へとララへと投げ渡す。

 

「だが今回、試金石となるのは果たしてどちらか。……ところでララよ。一つ問いたいんだが──別に、今日は勝ってしまっても構わないよな?」

「駄目です。……もしかすれば、今のクー様ならば可能性が零とは言えませんが、それでも、マリアナ様のご不興を買うのは、得策とは言えません。どうか、どうかお堪えを」

「……ククッ、何も聞こえなかったな。では、行ってくる」

「クー様!? クー様ぁ!?」

 

 手を伸ばすララをよそに、クーは笑みを浮かべながら前へ進み、先に準備を済ませていたレオネと向かい合う。

 

「来たねお兄様。ボクね、また一年で強くなったんだ。だから去年の十五秒からどれだけ縮められるか、とっても楽しみなんだ」

「酷い言い草だ。まるで今からやるのは戦いではなく、魔法の実験台でしかないようじゃないか」

「違うの?」

 

 クーの悪態に、レオネは戦いなど無縁そうなあどけない顔で、こてんと小首を傾げる。

 

(出来損ないの兄を下と格付けさせ、手頃なサンドバックとして魔法の実践とレオネのストレス発散を目的とした恒例行事。妹の教育によろしくないのは事実だが……それでもまあ、戦力という意味ではその通り。屋敷の者達の言っていたかつての、魔法に固執していたクー・ズーハルトでは、健闘さえままならないのは変えられない事実だとも)

 

 クーはそう思考しながら、レオネの奥にいるマリアナへとチラリと目を向けてみる。

 

「……ちっ」

 

 扇子で口元を隠しながら嘲笑を浮かべるマリアナは、目が合ってしまったクーに、見下しを隠さない目で嘲笑っていた。

 

(観客はまちまち。境遇への同情はあれど、俺が弟に勝つ可能性があると思っている者は一人も……いや、後ろにいたか。……まったく、勝つなと自ら言っておきながら、困った女よな)

 

 後ろからたった一つ。背中に伝わる信頼の籠もった視線が、クーにはどうも心地良かった。

 

「違わないな。だからこそ、あえて豪語しよう。──今年の俺は一味違う。楽しむといい、妹よ」

「へえ、じゃあ今年は簡単に終わらないでよね! お兄様!」

 

 笛の合図と共に戦いの火蓋は切られる。真っ直ぐに駆け出したのは、レオネだった。

 

(獣化(ズーハルト)。五属性からなる基礎魔法とは異なる、人の身体に獣へ変身する固有魔法。初代ズーハルト家当主たるパーク・ズーハルトが編み出した、人の知と獣の力のかけ算を成立させた神秘。……登場が一期の範囲でなかった故にアニメ作画で見る機会はなかったが、まさか映像化より実写化が先とはな。びっくりだ)

 

 二足から四足へ。人から幼い獅子へと姿を変えたレオネに、クーは感動しながら魔法を組む。

 

「さあ獣狩りだ。──炎よ(アグ)布と化せ(プラミカ)

 

 まるでクーの唱えに呼応するように、両手へ握るように現われ出でるのは、橙の炎で編まれた布。

 

「火属性? とても澄んだ、橙の炎。話には聞いていたが、まかさそこまで……!」

 

 ラービは驚嘆する。クーの見せた火属性魔法の練度、何より、固有魔法以外を是とした意識の変化に。

 

「闘牛ならぬ闘獅子だ。ほれ、ひらりっ」

 

 クーはまるでスペインの闘牛のように、ひらひらとはためかせた炎布を用いて、若獅子の攻撃を紙一重でいなし続ける。

 

「ぐ、くそぉ……!! 別に、布を追ってるわけ、じゃないのに……!!」

「クククッ、熱いだろう? ジリジリと削られるだろう? 三度負ければ獲物とて学ぶ、兄からの教訓だぞ?」

 

 腕を振ろうと、噛みつこう牙を剥くも、獅子となったレオネの攻撃の全てを、クーは不敵に笑いながらあしらってしまった。

 

「どうした妹よ。掛け値なしの自慢だが、兄も少しは成長しただろう?」

「はあっ、はあっ……いいもん。もう怪我したって知らないからね! 編獣(アドビス)ッ!!」

「いけない、レオネッ!!」

 

 クーの笑みに顔に怒りで染めたレオネは、後ろに跳んで距離を取り、片母であるラービの制止も聞かず、苛烈に魔力を昂ぶらせ、姿を変えていく。

 

編獣(アドビス)、比率を変えたか。より荒々しく、力に特化した獣の形態。齢一桁で使用出来るだけ流石麒麟児と言うべきなのだろうが、下手に長引かせれば、俺より妹の身体への負担が大きいか)

 

 より大きく、より獣に近くなったレオネを観察しながら、クーは解けかけた炎布を散らし、目を閉じて意識を研ぎ澄ませる。

 

「愉快な一時だったが、ここらで幕引きだな。炎よ(アグ)。──そして水よ(アル)

 

 開眼したクーは、左手に炎の矢を、そして右手には水の弓を形作る。

 

「く、クー様が二つの魔法を、同時に……!?」

「すごい、まるで別人みたい……!!」

 

 決闘を観戦していた使用人達は、クーの起こした魔法に騒然としてしまう。

 

「馬鹿な、二属性の同時使用ッ!? 中級クラスでさえ容易ではない併用を、あの出来損ないがなんでっ!?」

 

 そしてクーの魔法を目にしたマリアナは、信じられないと椅子から飛び上がり、声を荒げる。

 

「すげぇ、綺麗……」

「複合魔法、水弓炎矢(ディブル・プラミカ)。──遠慮なく向かってこい、妹よ」

「……行くよ、お兄様ッ!!」

 

 兄の声に笑顔で頷いたレオンは、強く強く地を蹴り、クー目掛けて突進する。

 

「うおおおおッ!!!」

 

 水弓にて放たれた炎の矢。そして獅子は交差し、激しい衝突音を、ズーハルト家の庭へ轟かせた。

 

「きゅう……」

「見事だった。俺もお前も、素晴らしい」

 

 立っていたのは、クー。今回の決闘の勝者は、なんとクー・ズーハルト。

 

「く、クー様が勝った……!! クー様が、固有魔法相手に勝ってしまったぞ……!!」

「……奇跡だ、奇跡だ! まさに!」

 

 周囲のざわつきをよそに、疲労しながらも倒れた弟へ寄り添うクーの顔に、勝利の喜びは少ない。

 

(しかし、受け流しも最後の衝突もギリギリだった。クーになった頃に比べれば、我ながら中々に成長したと自負していたが……流石は固有魔法の使い手、流石はズーハルトの麒麟児。才あれど非凡には届かぬこのクー・ズーハルト。現実に浮かれず、成長に驕らず、例のシーンをより完遂するため、まだまだ精進しなくてはな。とても勉強になったぞ)

 

 震える両手を止めるように握るクーの心にあったのは、己が驕りへの反省と、二つ下ながらここまで苦戦を強いられた強い妹への称賛だった。

 

「ば、馬鹿な……。そんな、馬鹿な、私のレオネが、出来損ない風情に、土を付けられた……?」

 

 呆然と立ち尽くすマリアナの、自らの息子の敗北を受け止め切れていない声が、クーの耳に入ってくる。

 

(……そうだ。本来のクーのせめてもの詫びだ。一年の練習の成果の披露、ここで見せるとしよう)

 

 どうであれ人生を奪ってしまった元クーのために、そしてふと良案を思いついたと、クーはゆっくりとマリアナの方へと顔を向けていく。

 

「……如何でしたか、義母上(ははうえ)? このクー・ズーハルト。お気に召す結果であれば、嬉しいのですが」

 

 クーは一年間練習した渾身のゲス顔と共に、勝ち誇ったようにマリアナへ皮肉を口にする。

 

「ぐ、ぐぬぬ、出来損ないの、分際で……!!」

 

 マリアナは激昂するも、それ以上を堪えるように、手に持つハンカチをグッと噛む。

 

(ククッ、決まった。惚れ惚れするほど決まってしまった。本番でないのが惜しいくらいだ)

 

 そんなマリアナの様子などどうでもよさそうに、クーはこの瞬間の達成に歓喜していた。小学生が傘を片手に練習していた必殺技を友達の前で披露する、そんなテンションだった。

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