【名誉クズ】転生~百合ハーレム系ラノベの百合に挟まろうとするかませイケメンになってしまったので、やりたいことのために全力で頑張ってみようかなって~ 作:ゴマ醤油
無事賊を退け、ララのお説教を済ませたクー一向は、馬車での移動を再開していた。
「いやはや、賊に襲われたときはどうなることか思いましたが、貴方様は私どもの命の恩人です。この感謝、どう返せばいいか」
「お気になさらず。道すがらのゴミ掃除というやつです。それより手狭な馬車なので、少々ご不便をかけてしまっていることをお詫びしたい」
「いえいえ、そんな滅相も! 命を救っていただいたのみならず! 足を失ってしまった我々を乗せていただけているのですから、これ以上何を求めることがありましょうとも!」
クーが満足に足さえ伸ばせない、ぎゅうぎゅう詰めな馬車の惨状を謝ると、身なりのいい壮年の男は両手を振って否定する。ちなみに、護衛であった女戦士は外で御者の隣にいる。
「改めまして、私めはジクロ・ザッカー、そしてこちらは妻のネキマと申します。アンマルにて雑貨を中心とした商いを営んでおります。ザッカー商店と言えば、もしかしたら耳に挟んだことがあるやもしれませぬな」
壮年の男改めジクロが、妻と共に深々と礼をしながら、自らについてを語ってくれる。
(ザッカー商店……聞いたことないな。ララ、どのくらい有名?)
(有名ですよ。ズーハルト領でも名の上がる、中々の規模の店を構えている商人です)
(……多分だが、結構有名なんだろうな。そんな目をしている)
刹那のアイコンタクト。クーはララの伝えたいことの三割くらいだが、何となく理解出来た。
「ご丁寧にどうも。クーです。そしてこっちが付き人のララ、どうぞお見知りおきを」
「クー様……失礼ですが、もしや貴方様は──」
「それ以上は。どなたと勘違いされているのか分かりませんが、私はしがないクーですので」
「……失礼いたしました。クー様、ララ様。再三になりますが、この度の件、心より感謝いたします」
名うての商人としての勘で何かを察したのか、ジクロはわざとらしく人差し指を口元で立てたクーへ、それ以上踏み込まもうとはしなかった。
「それでクー様。アンマルへは、いかな用向きで?」
「恥ずかしながら出稼ぎです。個人の稼ぎが必要になりまして、ひとまず街へ繰り出し思索してみようかと。そちら様は、如何な用向きで街の外へ?」
「実は隣街のリーガルにて商談がありましてな。そこまで距離はなく、腕利きの冒険者一人で事足りると思いましたが……やはり油断はなりませんな。一人ならいざ知らず、妻もいる身で浅慮を痛感しましたとも」
大体こんな感じで、ほのぼのとした空気での団らんしばらく。四人乗せるには狭い以外不満のなかった馬車は、やがて街へと到着した。
「それでは私達はここで失礼を。何か必要になれば、何卒ザッカー商店へお越しください。このザクロ、全霊を以て貴方様方の力にならせていただく所存です」
「ええ、そのときは頼らせていただきます。どうかお気を付けて、それでは」
頭を下げ、護衛の女戦士と共に去っていくザッカー夫婦へ、クーは暫し手を振って見送った。
「……敬語、ちゃんと出来たのですね」
「?? 何か驚くことでも? ズーハルトの家で勉強してきたではないか?」
「そういう意味では。ただ普段とあんまりにも違うので、少々面食らってしまっただけです。ついでに言えば、マリアナ様の前でも取り繕っていただければ、学費なんぞ稼ぐ必要はなかったのになと」
「ククッ、いつにもまして手厳しい。お前も街に降りて調子が上がってきたのではないか?」
ララはしらーっと睨みながら結構はっきりと、それでいて容赦なく皮肉を口にするが、クーはむしろそれでこそと言わんばかりクツクツと笑ってのける。
(まあララの言うとおりだけど、我慢は毒だし仕方ない。……学費、本当に稼げるかなぁ)
ちなみにクーの内心は、言動に反して結構不安を持っていた。
「さて、開幕からイベント尽しだったが……ここがズーハルト領、アンマル。別邸育ちの箱入り故、初めて人里に降り立ったわけだが……ククッ、実に活気豊かで何より! はーっはっは!」
「クー様。お上りな馬鹿だと思われるので、喚き騒ぐのはお止めください」
「辛辣だな。せっかくのスタートなのだからいいではないか。ぶうっ」
ララの冷たい視線に、クーは頬を膨らませながら、街中へと繰り出していく。
「ララ、ララ! あっちでバナナの果実が売ってるぞ! 南国でもないのに不思議だな! 一本買おう!」
「バナナではなくナババです。最近はずっと間違えますけど、もしやわざとです?」
「わざとだぞ? だってナババはバナナだからな!」
道中、別に南国でなくても栽培出来るバナナもどき、通称ナババの露店を見かけ購入したり。
「へっへっへ。そこな育ちの良さそうなお坊ちゃん。どうだい、一つお母さんに……ひっ!」
「ククッ、悪いな店主。俺の後ろの美女はな、母親やら乳母扱いされるのが大っ嫌いなんだ」
「お、おう。とにかく、す、すまねえなごふ……ひいっ!」
悪意なくともララの地雷を踏んだ露店の店主へ、クーが心の底からの同情を抱いたり。
「ララよ。お召し物を変えましょうと提案したのはお前だが、何故変わらずメイド服を?」
「生憎これがララの一張羅ですので。戦地であっても、死地であっても、湯浴みであろうと、夜伽であろうと、脱がないのが誇りです」
「……流石に風呂では脱ごうよ。それと十歳相手に夜伽発言はどうなのさ?」
「お言葉ですがクー様。貴族たる者、籠絡手段は情操教育の一環。動じる方が恥ですよ」
当然のように話すララに貴族の厳しさを実感させられつつ、クーの恰好が街中向けにファッションチェンジしたり。
「ユリユリドリームくじ、一等は……おお。なあララ、記念に一口買お──」
「いけませんよクー様。たかが一枚で確率一千万分の一など超えられるはずありません。あとそもそも、未成年は購入、換金の両方が禁止です」
道端にあった、一等を当てれば学園に十回は通えるほどの賞金のついた宝くじを見つけたものの、ララにぴしゃりと止められてしまったりと。道中でさえ、まあ色々。
「それでクー様。街に降りて学費を工面するとのことですが、一体どちらへ趣こうとしておられるので?」
「気になるか? もちろん我らが定番たる冒険者ギルドだ。ククッ、実は一番楽しみであったのだ。冒険者ギルド。【めがゆりTS】でなくともお馴染み、テンプレの一つよな」
ニヤリと笑みを浮かべながら答えたクーだが、それを聞いたララは露骨に顔をしかめてしまう。
「……いけませんクー様。あんなゴロツキばかりで汗と酒臭いだけの場所、クー様には相応しくありません。ララめはすぐにでもクー様を馬車へと連れ込み、屋敷へと強制送還も辞さない覚悟ですが、考え直していただけませんか?」
「ククッ、それはちょいと遠慮したい。だがなララよ。ここで一つ問いたいのだが、元手もツテも閃きもない十のキッズが、借金以外の方法で大金を稼げると思うか?」
「いえ、まったく。何なら貸してくれる物好きさえ、この世のどこにもいないでしょう」
「だろう? ならばいっそ前のめり、飛び込む勢いで泥に塗れて稼ごうじゃないか。大体どうせズーハルトから追い出され路頭に迷うのだから、思うままにと示したのはララの方ではないか。ククッ、まさか今更、自身の態度を改める気になったか?」
「……まったく嘆かわしい。屁理屈ばかり達者になって、誰に似てしまったのでしょうか」
まるで誰かを思い出すように頭を抱えるララ。自分を棚に上げているのか、きっとあんまり自覚はないのだろう。
「……なら、せめて魔法ギルドにでも行きましょうよ。こっちより幾分マシなはずです」
「確かにあっちの方が小綺麗でまとまった金にはなるとは思うけど、俺の快進撃が本邸にまで届いてしまうと面倒だからな。最悪、ズーハルトに功績や報酬を持っていかれると思えば、やる気さえなくなるものだ」
「……それならそれで、家に残してもらえるのでは?」
「嫌だ。せっかく家を出られるのだから、残るなんて選択肢は選びたくない。何より、俺はいずれ固有魔法に至る男だ。ズーハルトの、ではなくただのクーとして栄光を得たい。我が儘だと思うか?」
「ええ。恩を仇で返す畜生の発言ですが……まあ、ララは嫌いではないですよ」
ぶつくさと、呪詛のように不満を呟いたララだったが、やがては仕方ないなと諦めたような顔で、大きなため息をはいてしまう。
「……分かりました。でしたらこのララ、地獄までお供させていただきます。ちなみにクー様、この街の冒険者ギルドは東部。そして今進んでいるのは西。つまり、真逆です」
「……そういうの、先に言って欲しかったな」
「最初に目的地を教えてくださらないからです。重要なことを勿体ぶる冒険者は下の下ですよ」
説明は終わったと、再び歩き出そうしたクーは、これが冒険者としての洗礼かと少し落ち込んだ。