オペレーター・スペースマリーン   作:SECOND

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なんでウルトラマリーンに次いでサラマンダーにしたかって?
サラマンダーじゃないとハッピーエンドに持っていけないからだよ(真顔)


滅殺者Ⅲ

 

 サンダーホーク・ガンシップは黒煙を尾のように引きながら夜空を飛行していた。

 

 機体外板には無数の傷が走り、右翼の一部は焼損している。

 左舷側の装甲は大きく歪み、着陸脚の一基は完全に破損していた。主機関こそ正常に作動しているものの、機体全体が断続的な振動を繰り返しており、飛行そのものが辛うじて成立している状態だった。

 

 薄暗い機内では赤い非常灯だけが点灯している。破損した配線から火花が散り、補助機械の警告音が断続的に響いていた。機体内部には焼けた金属の臭いと血の臭いが混ざり合っている。

 

「……それは本当の話なのか? 尊厳の護り手よ」

 

 低い声で問い掛けたのは、サラマンダー戦団第一中隊所属の分隊長、カール・トゥシャンだった。ターミネーターアーマーの巨体を機内の壁へ預けながら、彼は赤いレンズ越しにヴァレリウスを見つめている。

 

「嘘偽り無い事実だ。我々は未知の惑星に転移し、帰還する手立てはない」

 

 ヴァレリウスは短く答えた。

 

 未知の惑星、テラ。

 

 オリジニウムという未知の物質と、それによって引き起こされる感染症とアーツという不可解な力。

 

「未知の惑星、か……」

 

 ダキールが静かに呟く。

 彼の装甲にはティラニッドの酸液による損傷が残り、フレイマーの燃料タンクも半ばまで消耗している。ドラクを置いてきた事実もまた、彼の精神へ重くのしかかっていた。

 

 帝国の管轄下に無い未知の惑星に孤立したという事実や、〈歪み〉由来ではない未知の物質の存在、サイカーとは異なる能力者の存在は少なからずダキールとトゥシャンに小さくない衝撃と動揺を与えた。

 

 一方で、唯一強い興味を示している者がいた。

 

「極めて興味深い」

 

 機体後方で制御盤へ接続していたスキタリ・レンジャー、シグマ=17・ヴァロクスである。赤い光を放つ機械眼が淡く明滅し、義肢の指先がせわしなく動いている。

 

「未知のエネルギー媒体。未知の生体変異。未知の物理現象。極めて価値が高い」

 

 彼の機械音声には僅かな高揚が混ざっていた。

 オムニシアへの奉仕を第一とするアデプトゥス・メカニカスの一員である彼にとって、テラそのものが大きな研究対象だった。

 

 その横で、操縦桿を握っているダキールが彼へ視線を向ける。

 

「スキタリよ。サンダーホークは衛星軌道まで上昇可能か?」

 

 その問いに、ヴァロクスは数秒間沈黙した。

 頭上に浮かぶサーボスカルが複数の数値を投影し、機体各部の状態を解析していく。

 

「現状では不可能だ。より設備の整った場所で修理をすれば理論上は可能だが、非推奨。機体の損傷度から大気圏突破の際に墜落する可能性が大きい」

 

「……そうか」

 

 ヴァロクスの言葉に、ダキールは落胆する。

 彼の言葉は、当面の間自分達がこの惑星から離れることができないことを示していた。

 

「加えて、現在の飛行継続可能時間は数時間が限界だ。動力炉は正常、しかし尾翼及び制御機構への負荷が高い」

 

 ヴァロクスは機体の制御盤を見ながら、そう付け加える。

 サンダーホークの動力は核融合炉であり、燃料切れの心配はない。だが、整備をせず飛び続ければ損傷している尾翼が壊れるか、制御機器が壊れ墜落する可能性が高かった。

 

「尊厳の護り手よ、先ほど述べていた組織――ロドス・アイランドとやらの拠点の位置は開示されていないのか?」

 

「この惑星の都市や拠点は全て常に移動している。正確な把握は困難だ」

 

 トゥシャンの言葉に、ヴァレリウスは腰の耐熱ポーチへ手を伸ばした。

 

「……だが、Aceという兵士から渡されたビーコンがある」

 

 取り出されたのは、小型のビーコンだった。

 ロドスの紋章が刻まれた簡素な装置、ドクター救出作戦前のブリーフィングでAceが彼に手渡したものだ。

 

「これを使えば、大まかな現在地であれば割り出せるかもしれん」

 

 ヴァレリウスはそれをヴァロクスへ渡す。

 スキタリは慎重に受け取り、複数の機械眼で観察した。

 

「……興味深い機構だ」

 

 義肢の指先が装置をなぞる。

 

「未知の技術体系。しかし、座標情報の抽出程度であれば解析可能だ」

 

 サーボスカルが下降し、装置を受け取る。複数のケーブルが伸び、分析装置へ接続されていく。

 ヴァロクスはゆっくりと機械神への祈祷を始めた。

 

「全知なるオムニシアよ。失われし知識へ導き給え」

 

 低い機械音声が機内へ響く。

 装置が起動し、淡い光が浮かび上がる。

 

 テラの夜空の下、傷付いた異世界の航空機は黒煙を引きながら飛び続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ロドス艦内。

 

 ドクターの帰還と異世界の兵士の保護・喪失という二つの状況に直面し、大混乱に陥っていた。更に悪いことに、ケルシーは龍門へ出張しており不在。既存の職員やオペレーターのみでの対処を迫られていた。

 

 Aceは生存したが、Scoutは死亡。

 他のオペレーターも数人が亡くなっている。それに加えて、ヴァレリウスの喪失は痛手となった。

 

 現段階で死亡したかどうかは不明だが、仮に生き残っていたとしても、タルラやその他複数の幹部と交戦した後に移動しているロドスに帰還できるとは到底考えられなかった。

 

 よって、ロドスは当面の間ヴァレリウスを行方不明扱いとすることになる。

 

 そして、次に議題に挙がったのがハルト伍長の扱いだった。

 彼はドクターらと共に無事に帰還し、今もなおロドス艦内に留まっている。身体能力こそ低いが未知の強力な武器やある程度の指揮能力など、戦力として見れば申し分ない。

 

 そして何より、彼自身がロドスへの加入を望んでいるのだ。

 

 アスタルテスは名誉の為に生き、自らの戦団や文化に最も存在価値を見出す。一方で、ハルトはただの一般兵だ。

 ウルトラマー宙域のマクラーグ出身の彼は当然ながら故郷への誇りや郷土愛を持ち合わせていたが、一度あの地獄(第一次ティラン戦役)を経験した後、テラの文化に触れれば戻りたくないと感じるのも無理はないだろう。

 

 ロドスとしては心強い助っ人ではあるのだが、危惧していたのは価値観の違いだ。あまりにも価値観の乖離した異世界からやってきた彼が、このロドスで安定した人間関係を築けるかどうかが問題視されていた。

 

 だが、それは杞憂であった。

 

「わわっ……!! ち、ちょっとコレ止まんないんだけど!?」

 

 食堂の一角から慌てた声が響く。

 

 振り返れば、補給物資の整理中に見つかった一本のチェーンソードを両手で抱えたブレイズが、唸りを上げる刃を前に慌てふためいていた。

 駆動音と共に回転する鋸刃が空気を裂き、彼女は思わず腕を突っ張らせる。

 

「だから、そこは押すなと言っただろう!」

 

 ハルトが慌てて駆け寄る。

 

「全く……貸せ。始動した後はこの安全装置を戻して、それから出力を落とすんだ」

 

 彼はブレイズの手からチェーンソードを受け取ると、慣れた手付きで操作レバーを戻し、轟音を立てていた刃を静かに停止させた。

 

「おお……止まった」

 

 別の日には。

 

「美味いな……!!」

 

 ハルトは思わず声を上げる。

 

「ロドスでは毎日これが食べられるのか!?」

 

 目の前に並んでいるのは温かいスープに焼き立てのパン、肉料理と野菜。ロドスでは特別豪華とは言えない献立。

 それでも彼にとっては信じ難いほど贅沢な食事だった。

 

「毎日って訳じゃないけどね」

 

 配膳係の職員が苦笑する。

 

「それでも十分だ!」

 

 ハルトは夢中でスープを口へ運ぶ。

 

「温かい……ちゃんと味がある……肉が入ってる……」

 

 あまりにも感動した様子に、周囲のオペレーター達は顔を見合わせる。

 

「そんなに?」

 

「帝国じゃ保存食ばっかだったのか?」

 

「戦場じゃレーションかコープススターチだからな」

 

 その一言で空気が止まる。

 

「……ああ、ごめん。その話はやめよう」

 

「いや、今じゃ俺も思い出したくない」

 

 互いに苦笑し、その場には穏やかな笑いが広がった。

 そして勤務を終えた夜には、食堂の片隅へ人が集まるようになった。

 

「よし、全員揃ったな」

 

 テーブルの中央には小さなコインが積まれている。

 

「今日は俺の故郷で兵隊が暇潰しにやってた賭けを教えてやる」

 

「待ってました!」

 

「今日は負けねぇぞ!」

 

 ハルトの説明に耳を傾けるオペレーター達。

 単純なルールだったこともあり、すぐに勝負は始まった。

 

「おっしゃぁ!」

 

「また負けたぁ!」

 

「ズルしてないだろうな!?」

 

「してないって!」

 

 勝った者は大笑いし、負けた者は頭を抱える。翌日の食事代を賭けた他愛もない遊び。

 

 ハルトもまた腹を抱えて笑っていた。

 自分が惑星防衛軍に志願してから、こんなふうに笑ったのはいつ以来だっただろうか。

 

 アスタルテスは近寄り難く、威圧的で、まさに皇帝の天使と呼ぶに相応しい存在だった。

 

 だがハルトは違う。

 

 戦場では勇敢な兵士だったが、一度武器を置けばごく普通の青年だった。

 

 年齢の近いオペレーター達とも自然と打ち解け、仕事を終えれば食堂で談笑し、時にはカードゲームや賭け事で盛り上がる。帝国の文化を語っては笑われ、逆にテラの常識へ驚いて笑い返す。

 

 そして何より、感染者への接し方がロドスの人々の印象を大きく変えていた。病棟を訪れた時も、彼は感染者の患者や子供達へ一切の偏見を向けなかったのだ。

 

 荷物を運ぶ子供がいれば自然と手伝い、患者から話しかけられれば笑顔で応じる。感染者だからと距離を置くことも、恐れることもない。

 

「伍長さんは……感染者が怖くないんですか?」

 

 ある若いオペレーターが恐る恐る尋ねた。

 ハルトは少しだけ首を傾げる。

 

「怖い?」

 

 そして不思議そうに笑った。

 

「何で怖がる必要があるんだ? むしろ、一番怖いのは病気に罹ってる君たち自身じゃないのか?」

 

 その言葉に、その場にいた誰もが返事を失った。

 

 オリパシーに罹った者は、彼にとっては異端者でも異種族でもない、感染者も非感染者も助けを必要とする市民。それだけだった。

 

 かくして、エドワード・ハルト伍長は正式にロドス・アイランドのオペレーターとして迎え入れられることとなる。

 

 ロドスのオペレーターとなった惑星防衛軍の兵士と、ロドスへの帰還を試みてテラの空を駆けるアスタルテス。

 テラの運命は大きく歪み始めていた。




プロローグ終了です。次話から龍門編が始まります。

人物紹介の方に転移した人たちの詳細や装備が書いてありますので、ぜひそちらもご覧ください。
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