オペレーター・スペースマリーン   作:SECOND

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思いのほか感想を寄せていただき、暗黒の遠未来に生きるドクター達が意外と多いことに驚きました


初接触

 

 プラズマガンの銃口を向けられたまま、Aceは静かに両手を広げた。

 オナーガードの殺気に晒されながらも平静さを装えるのは、流石エリートオペレーターといったところか。

 

「頼むから落ち着いてくれ。俺達に敵意はない」

 

 Aceの言葉に、青い巨人は答えない。赤いレンズの奥から視線だけが向けられる。周囲のオペレーター達は武器に手を掛けていたが、誰一人として動こうとはしなかった。

 

 目の前の存在が、自分達の常識から外れた戦闘能力を持つことは既に理解していたからだ。

 

「……今までのやり取りから察するに、あんたも状況が分かっていないんだろう」

 

 数秒の沈黙。

 

 やがて青い巨人は青く発光する武器――プラズマガンをゆっくりと下ろした。

 腰部のホルスターへ武器を収める。

 

「汝の言葉には理がある」

 

 張り詰めていた空気が僅かに緩む。

 誰かが小さく息を吐いた。

 

 Aceも肩の力を抜きながら続けた。

 

「……感謝する。まず一つ質問させてもらう、お前はなんで天災後の荒野に居た?」

 

「天災、というのは惑星独自の自然現象を示す言葉か? 少なくとも私の知る限り、これらのような生物や鉱石の結晶を生成する自然環境を持つ惑星は存在しない」

 

 Aceの問いに、彼は静かにそう言った。そして一息起き、再び話し出す。

 

「少なくとも今の私に、何故この土地に居たのかという問いに対して明確な回答を行うことはできない」

 

「それは何故だ? 機密事項か?」

 

「否、私も現状を把握できていない。我が故郷の戦場から、原因不明の現象でこの見知らぬ土地に転移させられた、という表現が適切だろう」

 

 オペレーター達がざわめく。

 

 転移。

 

 そんな馬鹿げた話を信じる理由はない。

 だが目の前の存在そのものが既に常識の外にあった。

 

「我が知る星図に、恐らくこの惑星は存在しない」

 

 巨人は続ける。

 

「友軍との通信は途絶。現在位置も不明。故に私自身、状況を把握できていない」

 

 Aceは顎に手を当てた。少なくとも目の前の人物はテラという単語を知っては居たものの、オリジニウムや天災、ウルサスなどを全く知らないようであった。

 

 そして先ほどからの言葉から推察するに、彼はあたかも人類が住んでいる他の惑星があるように話している。

 

(まさか、な)

 

 Aceの頭に荒唐無稽な予測が浮かぶ。

 だが彼はそれを無条件に否定することはできなかった。

 

「なら次は俺達から説明しよう」

 

 Aceは地面に突き出た源石結晶を指差した。

 

「ここはテラだ。そこら中にある鉱石はオリジニウム。俺達はそいつと、それが引き起こす天災や感染症に悩まされながら生きている」

 

 説明を聞き終えた巨人は数秒沈黙した。

 まるで情報を整理しているかのように。

 

「該当する知識はない」

 

 やがてそう結論付ける。

 

「私の知るテラ――ホーリー・テラは我が帝国の首都にして聖地、だが汝のいうテラと、私の知るテラは認識が乖離しすぎている。別物と考えるのが妥当だろう」

 

 Aceは思わず眉をひそめた。

 

「帝国?」

 

「数百万の世界(惑星)を統治する人類の国家だ」

 

 その場の全員が沈黙した。

 

 数百万。

 

 あまりにも現実味のない数字だった。

 しかし青い巨人は冗談を言っているようには見えない。

 

「そう、だな……」

 

 Aceはゆっくり頷く。

 

「どうやら俺達の常識と、あんたの常識はだいぶ違うらしい」

 

「同意する」

 

 短い返答、初めて会話が成立した気がした。

 Aceは一歩前へ出る。

 

「なら提案だ」

 

 後ろで何人かが息を呑む。

 

「一先ず、俺達と共に来ないか?」

 

「え、Ace!?」

 

「正気ですか!!」

 

 Aceがオナーガードに共に行動する提案をしたことに、Scoutをはじめとする周りのオペレーターは声をあげる。

 

 だが彼は目の前の人物が少なくとも理性的であること、そして未知の存在がもしかしたら研究の進展に繋がるかも知れないと宥め、再び正面へ向き合う。

 

「放っておくわけにもいかない。あんたも現状を知りたいんだろう?」

 

 青い巨人はしばらく沈黙した。

 赤いレンズがAceを見つめる。

 

 まるで値踏みするように。

 

 やがて彼は静かに頷いた。

 

「合理的な提案だ」

 

 その言葉に、Aceは内心で安堵する。

 

「感謝する、兵士よ」

 

 巨人は右拳を胸当てに当てた。

 彼は簡単な感謝を述べたのち、Ace達の存在を受け入れた。

 

 未知の戦士を受け入れることとなったロドス。それがどんな影響を及ぼすか、まだ誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、Ace率いる調査部隊はオナーガードを伴ってロドス本艦へ帰還した。

 

 ロドス艦内が騒然となったのは言うまでもないだろう。

 

 全高二メートルを優に超える巨体、青い動力装甲、見たこともない武装。

 しかも変異した大型オリジムシの群れを単独で殲滅したという報告付きである。

 

 警備担当のオペレーター達が武器を構えかける場面もあったが、AceとScoutの説明によって辛うじて混乱は抑え込まれた。

 

 もっとも。

 

 彼らが知らなかっただけで、ロドス本艦もまた別の意味で大混乱に陥っていた。

 

「……何だって?」

 

 帰還報告を終えたAceは思わず聞き返した。

 報告に来た職員も困惑した様子で頷く。

 

「その方を発見したのと、ほぼ同じ時間帯です」

 

「同じ時間帯?」

 

「はい。荒野で倒れている男性を保護しました」

 

 Aceは眉をひそめた。

 

「感染者か?」

 

「違います」

 

「傭兵か?」

 

「それも違います」

 

「じゃあ何者だ」

 

 職員は数秒言葉に詰まり、

 そして静かに答えた。

 

「本人は、自分を『マクラーグ惑星防衛軍所属』だと主張しています」

 

 その瞬間、Aceの脳裏に数時間前の会話が蘇った。

 

 ――我が故郷。

 

 ――マクラーグ。

 

 ――帝国。

 

 偶然にしては出来すぎている。

 

 Aceは無言で振り返った。

 少し離れた場所に立つ青い巨人、彼もまた僅かに反応していた。ヘルメット越しでは表情は分からないが、その沈黙の意味は伝わった。

 

「案内してくれ」

 

 Aceが短く言うと、職員は頷いた。

 

 数分後。

 

 ロドス艦内の保護区画、簡易的な個室の中に一人の男性が座っていた。

 

 年齢は三十代ほど。

 

 軍服らしき衣服はところどころ破れており、胸部や関節部に装着されている装甲――帝国ではフラックアーマーと呼ばれるそれも傷だらけであった。

 彼自身の疲労の色は濃いが、大きな外傷はない。

 

 扉が開く音に男が顔を上げた。

 

「また質問か?」

 

 その声はどこか苛立っていた。

 

「だから俺は何度も説明している。俺は――」

 

 そこまで言って、男は固まった。

 視線の先、Aceの後ろに立つ青い巨人。

 

 ウルトラマリーンの紋章。

 

 黄金の装飾。

 

 そして見間違えるはずのない威容。

 

「――あ」

 

 男の顔から血の気が引いた。

 次の瞬間、彼は椅子を蹴るように立ち上がり、その場で膝をつく。

 

「あ、アスタルテス……!」

 

 震える声。

 それまでの困惑も疑念も吹き飛んでいた。

 

ウルトラマーに栄光あれ……!(For the glory of Ultramar...!)

 

 思わず漏れた祈りに部屋の空気が凍り付く。

 ロドスの職員達は呆然と二人を見比べていた。

 

 Aceですら言葉を失う。

 

 だがその中で唯一、青い巨人だけが静かに男を見下ろしていた。

 

「起立せよ、兵士」

 

 低く響く声。

 男は反射的に背筋を伸ばす。

 

「所属と氏名を報告せよ」

 

「は、はい!」

 

 男は立ち上がる。

 その動作に恐怖などは皆無、あるのは絶対的な敬意のみ。

 

「マクラーグ惑星防衛軍第八突撃連隊所属、エドワード・ハルト伍長であります!」

 

 オナーガードは僅かに頷く。

 

「よく生き延びた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、兵士の目に涙が浮かんだ。

 

 転移してから初めて見る同胞、それはオナーガードにとっても同じだった。

 もちろん彼の表情はヘルメットの奥に隠れているが、今の彼はほんの少しだけ肩の力を抜いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オナーガードと惑星防衛軍兵士――ハルト伍長が出会ってから更に数時間後。

 

 ロドス艦内は大騒ぎだった。明日には行われるはずの、チェルノボーグにおけるドクター救出作戦。ロドスの運命をも左右する大作戦の直前に、異世界からの兵士というとんでもない厄介事が舞い込んできたからだ。

 

 だからといってドクター救出作戦も無碍にはできる訳もなく、逆に素性が不明な存在を艦内にずっと置いておく訳にも行かなかった。

 

 今は保護区の部屋に隔離しているが、何もかもが不明――特に青い巨人の方は、何かがきっかけで暴れられでもしたら大惨事になる。

 

 ケルシーは龍門に出向き不在、となれば対応するのは他のオペレーターや職員達だが、作戦に向けてそれどころではない。どうするかと頭を悩ませていると、Aceが全員を驚愕させる発言をした。

 

 それは、どのような存在かを聞き出し、返答次第ではロドスに受け入れてドクター救出作戦に組み込む、ということだ。

 

 元々ドクター救出作戦は無謀とも言える作戦であり、誰もが犠牲覚悟のものだったが、強力とはいえ素性の分からない存在を作戦に組み込むのは危険であった。だが、Aceの提案と現在の惨状から、一先ずは話を聞き出すこととなった。

 

 そして、現在。

 

 厚い防弾ガラスを挟んで、青い巨人――オナーガードとハルト伍長がアーミヤ、Aceと対面していた。

 

 相変わらず、オナーガードの感情を読み取ることはできない。だが、伍長の方は不満と怒りが混ざりあった表情をしていた。質問攻めにされたこと、そして偉大なるアデプトゥス・アスタルテの精鋭であるオナーガードを軟禁していることへの怒りを、命をロドスに救われたことに対する感謝で押し堪えている様子だった。

 

 アーミヤが着席し、Aceも続いて席に着く。

 

 部屋の外には何かあった時のため、オペレーターが常に待機している。

 

 初接触から約5時間、漸くお互いを理解する機会が設けられた。




次回は帝国側とロドス側がそれぞれの世界について話し合います

・プラズマガン
スペースマリーンだけではなく、帝国防衛軍(アストラ・ミリタラム)異端審問庁(インクイジション)など、多くの帝国組織が利用するエネルギー兵器。銃身にプラズマを圧縮し、それを放出することで高温と共に圧倒的なエネルギーを標的にぶつけることができる。その温度は恒星(太陽)と同等かそれ以上と言われているほど強力な反面、適切な運用をしなければ暴発や事故も多く、非常に危険な兵器となっている。

・マクラーグ
ウルトラマリーン戦団の拠点惑星にして、帝国有数の防御力を誇る惑星。同戦団が規律と理性を重んじる戦団なだけあって、統治体制も非常に安定しており、帝国の惑星の中では非常に整った環境となっている。(無論、それでも帝国の惑星なのでウルサスも真っ青な軍事政権ではある。帝国内では楽園レベルだが)

・惑星防衛軍
各惑星の統治組織がそれぞれので編成する防衛組織。帝国防衛軍(アストラ・ミリタラム)(後に解説)とは区別され、彼らは基本的に敵の侵略から惑星を守り抜くというよりは、帝国の増援が惑星に到着するまでに時間稼ぎをする、というのが主な任務である。装備や質もピンキリで、未だに黒色火薬銃や弓矢を使っているような惑星から、大規模な機甲部隊に軌道艦隊など、正規軍と大差のない惑星まである。
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