サンダーホークが帰還するより先に、ヴァロクスからロドスへ暗号通信が送られていた。
信号源で発見された者は、グレイナイト戦団のジャスティカールとスペースウルフ戦団のグレイ・ハンター。両名とも異世界へ転移した経緯を把握しておらず、現在のところロドスやテラの住民に対する敵意は確認されていない。ヴァレリウスは二人を連れて帰還する意向を示し、ロドス側へ一時受け入れの準備を求めていた。
通信を受け取ったケルシーは、必要最低限の者だけを甲板へ集めた。異端審問庁と強く結びついた戦士がロドスをどのように判断するか分からない以上、好奇心から見物人が集まる状況は避けるべきだった。ヴァロクスもアイゼンヴァルトたちへ、グレイナイトの秘匿性と予想される危険について改めて伝えている。ロドスへの受け入れは決まったものの、それは無条件に行動の自由を与えるという意味ではなかった。
やがて甲板上空へ重い機関音が響き、雲を割って現れたサンダーホークが着艦態勢へ入った。誘導灯が明滅し、整備オペレーターたちが安全区域まで退避する中、機体は噴射口から熱風を吐き出しながら高度を落としていく。装甲脚が着艦甲板へ接触すると艦全体へ僅かな振動が伝わり、推進器に巻き上げられた塵が周囲へ広がった。
後部ハッチの前には、ダキール、アイゼンヴァルト、ヴァロクス、ハルトが待っていた。その少し後方にはドクターとアーミヤ、ケルシーが並び、護衛としてAceとブレイズが左右へ立っている。アーミヤたちには異端審問庁とグレイナイトについて必要な範囲で説明されていたが、具体的にどのような人物が現れるのかまでは知らされていない。
サンダーホークの機関音が弱まり、後部ハッチがゆっくりと開いた。最初に姿を現したのはトゥシャンであり、その後ろからヴァレリウスが続く。二人は甲板へ降りると左右へ位置を変え、兵員区画に残る新たな客人へ道を空けた。
銀灰色の装甲を纏ったヴェイルが、ネメシス・フォースハルバードを手に降りてくる。
グレイナイトの存在を知らされていた者たちでさえ、その姿を前にすると一瞬言葉を失った。装甲の各部には細かな祈祷文が隙間なく刻まれ、胸部や肩には異端を退けるための印章と護符が取りつけられている。戦闘の傷や煤に覆われながらも、それらの聖句は一つも削り取られていない。長大なハルバードからは起動していないにもかかわらず圧迫感が漂い、彼が歩く度に純潔の証が風を受けて揺れていた。
ヴェイルに続き、狼の毛皮を肩へ掛けたストーンファングが甲板へ足を踏み出す。灰色の装甲にはフェンリスのルーンが刻まれ、腰や胸元には牙と骨から作られた護符が並んでいる。右手に持つパワーアックスの刃は厚く、破壊力場を停止した状態でも、通常の人間ならば持ち上げることさえ困難な大きさだった。
二人が甲板へ降り立つと、ヴェイルは足を止めた。
兜の赤いレンズが、アーミヤ、ケルシー、ブレイズ、Aceへ順番に向けられる。
視線だけならば単なる観察の範疇に収まるものだったが、アーミヤは別の何かが自分の身体を通り抜ける感覚を覚えた。冷たく研ぎ澄まされた意識が魂の表面へ触れ、内側にある力の由来を探っている。敵意や悪意は感じられなかったものの、その鋭さに長い耳が僅かに強張った。
ブレイズも異変を察し、自然な動作でアーミヤの前へ半歩出る。背負ったチェーンソーへ手を伸ばしてはいないが、いつでも動ける姿勢を取っていた。Aceも同様にヴェイルの動きを注視し、ケルシーだけが表情を変えずに銀灰色の巨人を見上げている。
「〈歪み〉の痕跡はない。魂への寄生、悪魔の刻印、混沌による肉体変異のいずれも確認できぬ。だが、〈歪み〉と関係なく、これほど明確な生体的差異が人類へ広がっているとは奇妙な世界だ」
ヴェイルが静かに告げた。
彼の視線はアーミヤの耳から、ケルシーとブレイズの身体的特徴へ移った。アーミヤの内側には他の者より複雑で強い力が存在し、幾重もの制御によって抑えられている。しかし、それも悪魔や〈歪み〉へ繋がるものではない。ヴェイルの知識では分類できない以上、現時点で断罪する理由もなかった。
「確かに奇妙ではあるな」
ストーンファングもアーミヤたちを見渡した。狼の意匠に覆われた巨人から凝視され、アーミヤの耳がさらに固くなる。
「だが、異端審問庁の連中よりは遥かに話が通じそうだ。少なくとも、こちらを見るなり銃殺命令を出してくる顔には見えん」
「貴様は一言余計だ、ストーンファング」
「事実を言っただけだ」
ストーンファングはヴェイルの注意を軽く受け流し、アーミヤへ向き直った。
「俺はハルヴァル・ストーンファング、スペースウルフ戦団のグレイ・ハンターだ。世話になるぞ、嬢ちゃん」
「お、嬢ちゃん……?」
アーミヤは予想していなかった呼び方に目を瞬かせた。
これまで出会ったアスタルテスは、それぞれ態度に違いこそあったが、いずれも通常の人間とは隔絶した厳格さを纏っていた。ヴァレリウスは落ち着いていても指揮官としての威厳を崩さず、ダキールとトゥシャンも親しみやすさより戦士としての重厚さが先に立つ。アイゼンヴァルトに至っては、戦いと信仰から離れた会話を交わす姿が想像しにくい。
それに対して、ストーンファングの口調は巨大な体格と凶悪な武器から受ける印象に反して気さくだった。アーミヤだけでなくドクターとAceも反応に困り、アイゼンヴァルトは同じアスタルテスへ向けられたものとは思えないほど怪訝そうな視線を送っている。
「アーミヤです。ロドスの代表を務めています」
困惑から立ち直ったアーミヤが名乗る。
「ヴァレリウスさんから事情は聞いています。すぐに全てを理解するのは難しいと思いますが、ロドスはお二人を敵として扱うつもりはありません」
「結構だ。俺たちも今すぐ敵を増やすつもりはない」
ストーンファングが答えたところで、ブレイズが一歩前へ出た。彼女はスペースウルフの纏う毛皮や牙を眺め、最後にパワーアックスへ目を留める。
「その斧、かなりいいね。刃の厚さも重心も、見た目だけで作った飾りじゃないでしょ? ちゃんと使い込まれてるの、一目で分かるよ」
ストーンファングは一瞬沈黙した後、豪快に笑った。
「見る目があるな! テラへ来て最初に会った現地人が、武器の良し悪しを理解できる者で助かった。こいつはフェンリスで鍛えられ、俺と共にオルクも裏切り者も叩き割ってきた斧だ。お前の背中にある武器も、なかなか面白そうではないか」
「これ? チェーンソーだよ、源石で動かすの。そっちの斧みたいな品の良さはないけど、分厚い装甲ごとまとめて切り裂けるんだから。なかなか頼りになるでしょ?」
「悪くない。戦い方を見れば、もっと詳しく分かりそうだな」
「いいよ、機会があれば見せてあげる」
先ほどまで甲板へ張り詰めていた警戒が、僅かに和らいだ。
ブレイズは数分前まで、異端審問庁と関係の深い戦士が現れれば問答無用で武器を向けられる可能性まで考えていた。実際に降りてきた片方が武器の話だけで機嫌を良くしたため、どう反応すべきか迷いながらも、少なくとも即座に戦闘へ発展する危険は低いと判断したらしい。
「……着艦して数分も経たぬうちに馴染むとは、貴様の無遠慮さも時には役立つようだな」
ヴェイルが呆れた声で言う。
「褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めておらぬのだが」
ストーンファングは気にせずブレイズと武器の話を続けようとしたが、ケルシーがヴェイルの正面へ歩み出たことで口を閉じた。銀灰色の巨人と白い外套を纏った女性の間には大きな体格差があったものの、ケルシーは一歩も退かず、赤いレンズを正面から見返している。
「ロドスの医療部門と艦内運用の責任者を務めているケルシーだ。ヴァレリウスから、君たちの所属と転移前の状況は聞いた」
「アカスティアン・ヴェイル。グレイナイト戦団第六騎士団、ジャスティカールだ」
ヴェイルは自らの状況を簡潔に説明した。
第一次アルマゲドン戦争後の抗争、グレイナイト艦艇へのスペースウルフの襲撃、ワープドライブの暴走、荒野への転移。さらに、テラへ現れてから〈歪み〉とアストロノミカンを一切感じ取れない一方で、サイキック能力だけは変わらず行使できることも伝える。
「我々は現状を把握するため、オナーガードたちに同行した。貴官らの組織へ危害を加える目的はない。ただし、悪魔または混沌の穢れを発見した場合、その排除を妨げられることは受け入れられぬ」
「ロドスには悪魔と呼ばれる存在についての知識がない。君の判断が正しいかを、こちらだけで確認する手段もない」
ケルシーはヴェイルの条件をそのまま受け入れなかった。
「ロドス艦内で何らかの異常を発見した場合、差し迫った危険がない限り、先に私かドクター、あるいはヴァレリウスへ報告してもらう。君個人の判断で患者やオペレーターを処刑することは認めない。精神へ干渉する能力についても、治療や作戦上の必要がない者へ無断で用いるべきではない」
「汚染が確認された者を放置せよと言うのか」
「君が危険と判断した時点で隔離することには協力する。調査も拒まない。だが、ここには君たちの世界とは異なる身体と能力を持つ者が大勢いる。未知であるという理由だけで処分を認めれば、ロドスの組織としての目的が失われる」
ヴェイルはケルシーの顔を暫く見つめた。彼の精神感覚には、彼女が恐怖を隠すために強気な態度を取っているようには感じられなかった。目の前にいる巨人がどれほど危険な存在であるかを理解したうえで、自らが守るべき者のために条件を示している。
「目前で悪魔の顕現または憑依が発生し、一刻の遅れが犠牲を増やす状況であれば、私は即座に行動する」
「その場合まで報告を待てとは言わない」
「それ以外については、貴官らへ通告しよう。未知の変異やアーツだけを理由に、処分を行うつもりもない」
「ならば条件は一致する。ロドスは君とストーンファングを一時的に受け入れる。居住区画と艦内での行動範囲については、後ほどヴァレリウスを交えて決める」
ケルシーはそこで一度言葉を切り、甲板の向こうへ視線を向けた。
貨物用昇降機の周辺では、チェルノボーグ攻略に使用する物資の搬入が始まっている。医療器具、弾薬、携帯食料、源石通信装置が部隊ごとにまとめられ、整備オペレーターは長時間の運用を終えたばかりのサンダーホークへ再び燃料を送り込んでいた。
「本来ならば、君たちの身体状態、装備、転移による影響を検査し、ロドス側にも時間をかけて受け入れ体制を整えたい。しかし、現在はその余裕がない。三十時間後、チェルノボーグの都市中枢区画が龍門へ衝突する」
「四十八時間と聞いていたぞ」
ストーンファングが反応する。
「最初に進路を確認してから時間が経過し、チェルノボーグ側も速度を上げた。最新の予測では三十時間前後だ」
ケルシーの声に冗談の余地はなかった。
「君たちには休息より先に、作戦説明を受けてもらうことになる」
ロドス艦内の大型ブリーフィングルームには、通常より多くの人員が集められていた。
前方の座席は一部が撤去され、アスタルテスが立てるだけの空間が確保されている。ヴァレリウス、ダキール、トゥシャン、アイゼンヴァルトが並び、その横へヴェイルとストーンファングが加わった。赤い外套を纏ったヴァロクスは投影装置の操作盤に接続し、ハルトも治療を終えた胸部を装備の下で固定した状態で出席している。
ロドス側からはアーミヤ、ドクター、ケルシーを筆頭に、Ace、ブレイズを含む作戦参加予定のオペレーターが集まっていた。前線指揮、医療、通信、偵察、工兵を担当する者が部門ごとに座り、後方には各分隊の隊長が並んでいる。
ヴェイルが室内へ入った時、ロドス側の席から小さなざわめきが起きた。
既に複数のアスタルテスを見慣れ始めていた者たちにとっても、全身へ聖句と護符を刻み、長大なフォースハルバードを携えた銀灰色の戦士は異質だった。彼が歩く度に装甲表面の文字が照明を反射し、兜の周囲では目に見えない圧力によって空気が僅かに揺らいでいるようにも見える。
「静粛に。新たに加わった二名については、既に共有した情報以上の詮索を控えてもらおう。質問はブリーフィング終了後、必要な範囲で行う。今はチェルノボーグへの対処を優先する」
ケルシーの一言でざわめきが止まった。
ドクターが前方へ立つと、室内の照明が落とされた。ヴァロクスの接続した投影装置が作動し、巨大なチェルノボーグ中枢区画の立体映像が中央へ浮かび上がる。都市の外周には複数の区画が重なり、底部では巨大な移動機構が稼働している。そこから伸びる赤い進路予測線は、龍門の移動経路と交差していた。
「最新の観測結果を説明する」
ドクターが話し始めた。
「チェルノボーグの都市中枢区画は、龍門の移動に合わせて進路を修正しながら接近を続けている。速度も上昇中で、このまま双方が移動を続けた場合、約三十時間後に衝突する」
投影映像の中で二つの移動都市を示す輪郭が接近する。衝突した瞬間、龍門側の複数区画が赤く染まり、予想される崩壊範囲が周辺へ広がった。
「衝突時の速度と質量から計算した場合、龍門は外周区画だけでなく、動力部と居住区にも甚大な損害を受ける。回避行動を取ってもチェルノボーグが追随して進路を変える可能性が高い。相手の動力を停止させるか、コントロールルームから進路を変更する必要がある」
「龍門の軍を送り込めばよいのではないか? 都市一つを守るためなら、相手が何者であろうと乗り込む理由はあるだろう」
ストーンファングが尋ねた。
「政治的には、それほど単純ではない」
ドクターがチェルノボーグから発信されている識別情報を表示する。
「チェルノボーグは現在もウルサス所属の移動都市として認証信号を発している。レユニオンによって占領されたことも、都市機能を奪われたことも、外部へ正式には伝えられていない。第三者から見れば、龍門へ接近しているのはウルサスの都市だ」
「龍門が正規軍を投入し、チェルノボーグの機関や制御区画を攻撃すれば、炎国がウルサス領へ侵攻したと主張される」
ケルシーが続ける。
「チェルノボーグを止められなければ龍門が破壊される。止めるために武力を行使すれば、ウルサスとの戦争を始める口実を与える。タルラを動かしている者は、そのどちらでも目的を達成できるように状況を作っている」
「つまり、正規軍ではないロドスが汚れ仕事を引き受けるということか」
ストーンファングはすぐに事情を理解した。
「ロドスは国家に所属しない組織だ。龍門の公式な軍事行動から切り離し、独自にチェルノボーグへ侵入した形を取れる。政治的な危険が消えるわけではないが、炎国とウルサスの全面衝突へ直結する可能性は下げられる」
ドクターが映像を切り替えると、チェルノボーグ中枢区画の外周へ複数の赤い印が現れた。対空兵器、監視所、侵入経路を塞ぐ防御陣地、都市内部へ通じる昇降機と整備通路。それらの多くはレユニオンによって要塞化されている。
「ヴァロクスがサンダーホークを用いて複数回の高高度偵察を行った。フロストノヴァとスノーデビル小隊から得た情報も照合し、現在判明している敵戦力を配置したものがこれだ」
「観測情報を補足する。都市外周にはレユニオン兵が複数の防衛線を構築。対空装備及び遠距離アーツ使用者を分散配置し、単一方向からの航空侵入へ集中攻撃を行える構成となっている。人員の大半は通常戦闘員だが、タルラ個人への忠誠度が高い部隊が要所を占有している」
ヴァロクスが操作盤へ接続した機械肢を動かす。
外周から都市内部へ映像が移り、主要道路と制御区画へ続く経路が表示された。
「中層以降では、一般レユニオン兵と比較して装備、統率、身体能力が高い集団を確認。フロストノヴァの証言に基づき、タルラの信奉者及び親衛部隊である可能性が高い。さらに都市中枢へ通じる主要経路の一つには、パトリオットが率いる遊撃隊の反応が存在する」
パトリオットの外見を示す簡略映像が表示されると、アイゼンヴァルトが僅かに反応した。彼は既に彼と交戦し、その戦闘能力を直接知っている。
「この戦士は、以前に貴官が戦った者か」
ヴェイルがアイゼンヴァルトへ尋ねると、ヴァレリウスが答えた。
「ああ、名はパトリオット。レユニオンへ加わる以前から多くの存在と戦い続けてきた老兵だ。肉体は鉱石病によって深く侵されているが、戦闘能力は衰えていない。正面からアイゼンヴァルトを相手にし、互角に近い状態で戦い続けた」
「通常の人間が、アスタルテスを相手にか?」
「テラにおける通常の人間へ分類すべきではない。重装甲、巨大な盾と槍、長年の戦闘経験を持つ。本人の肉体もこの世界の種族として優れ、鉱石病とアーツが能力へ影響している可能性がある」
ヴェイルは映像上のパトリオットを注視した。魂の状態を直接確認していないため結論は出せないが、少なくともヴァレリウスが敵の力量を誇張する理由はない。
「パトリオット遊撃隊は、レユニオン内部でも最も統率された部隊の一つだ」
ケルシーが説明を引き継ぐ。
「フロストノヴァによれば、パトリオット自身も現在のタルラへ疑念を抱いている。しかし彼が感染者のために戦う意志を失ったわけではなく、ロドスを無条件に信用するとも考えられない。説得できる可能性は残るが、作戦計画をその可能性へ依存させることはできない」
映像はさらに都市中心部へ移り、最も高い位置にあるコントロールルームを示した。
「最終目標はここだ」
ドクターが言う。
「チェルノボーグの進路と速度は、都市中枢のコントロールルームから制御されている。タルラもこの区画にいる可能性が高い。外周の防衛線を突破し、都市内部の主要経路を確保したうえで、コントロールルームへ到達する。そこでタルラを無力化し、都市の制御を奪わなければならない」
投影映像の横へ残り時間が表示された。
衝突予測まで、二十九時間五十二分。
「敵の抵抗、都市内での移動、制御装置の解析、進路変更に必要な時間を考えれば、三十時間全てを戦闘へ使うことはできない。遅くとも衝突の数時間前にはコントロールルームを確保する必要がある。実際に作戦へ使用できる猶予は、さらに短い」
ロドスのオペレーターたちの間から、息を呑む気配が広がった。
外周に構築された防衛線だけでも、通常の部隊が正面から攻略するには多大な損害を覚悟しなければならない。その奥にはレユニオンの精鋭とパトリオット遊撃隊が待ち、最終的には龍門の市街を焼いたタルラと対峙することになる。
敵の配置を迂回し、潜入だけでコントロールルームへ到達できる可能性は低い。サンダーホークによる直接降下も、対空装備とアーツ使用者によって阻止される危険がある。防衛線を一つずつ破れば時間を失い、急いで突破すれば後方から包囲される。
重い沈黙が室内を満たしたところで、ドクターが言葉を続けた。
「これまでのロドスの戦力だけなら、作戦は困難を極めただろう」
前方へ並ぶアスタルテスたちに、ロドス側の視線が集まる。
「だが、今は彼等が協力を約束している。龍門での戦闘記録から、アスタルテスがレユニオンの通常部隊を短時間で突破できることは確認できた。彼らの装甲は多くのアーツと火器に耐え、単独でも敵陣の中核へ到達できる。今回の作戦では、その能力を最大限に活用してもらう」
「異論はない。チェルノボーグの衝突を許せば、テラで我々を受け入れた者であるロドスの立場や存続が危ぶまれる可能性がある。タルラの中にいる存在が、我々の転移へ関与している可能性も排除できない。作戦へ協力する理由は十分にある」
ヴァレリウスが答える。
ダキール、トゥシャン、アイゼンヴァルトも反対を示さなかった。ハルトは自分がアスタルテスと同じ突破力を持たないことを理解していたが、それでも帝国側の一員として参加する意思を表すように姿勢を正した。
その時、ストーンファングがヴェイルへ顔を向けた。
「待て。わざわざ全ての防衛線へ正面から突っ込む必要があるのか?」
「何を言いたい」
「アルマゲドンの戦いで、俺は貴様らグレイナイトの戦いを見た。銀色の戦士たちは現実を捻じ曲げ、悪魔の崇拝者の軍勢を飛び越えて戦場の奥へ現れていた。離れた場所にいる敵へ刃を向けることなく、その魂を焼き尽くした者もいる」
ロドス側の席から再びざわめきが起きた。
「悪魔の軍勢?」
「現実を捻じ曲げるって、どういうこと?」
「魂を焼く……?」
オペレーターたちの声が重なり、ブレイズもストーンファングとヴェイルを交互に見る。
「その悪魔っていうのは、さっきから何度も出てきてるけど、具体的には何なの?」
「説明は後だ」
ヴァレリウスとヴェイルの声が、ほぼ同時に重なった。
二人は互いを一度だけ見た後、ストーンファングの提案へ意識を戻す。説明を求めていたロドスの者たちは納得していなかったが、ケルシーが片手を上げたため、ひとまず会話を止めた。
「グレイナイトが同じことを行えるなら、外側の兵士を一人ずつ相手にする必要はないだろう」
ストーンファングは構わず続けた。
「ヴェイルが俺たちをコントロールルームまで運ぶ。そこからタルラとやらと指揮官を叩けば、防衛線は意味を失う。遠隔で魂を攻撃できるなら、レユニオンの指揮官だけを無力化することもできるはずだ」
「貴様は我らの力を随分と都合よく理解しているようだな」
ヴェイルの声には呆れが混じっていた。
「実際に見たことを言っている。アングロンの大逆者どもを相手に、貴様らは行っていたではないか」
「アルマゲドンへ展開したグレイナイトの全員が、同じ能力を持っていたわけではない。貴様が見た大規模な転移の多くは複数の戦闘兄弟が精神を同調させ、力を束ねて行使したものだ。高位のライブラリアンや、長い修練を積んだ騎士にしか扱えぬ能力もある」
ヴェイルはブリーフィングルームにいる者たちへ、自らの立場を説明した。
「我らグレイナイトは全員がサイカーだ。だが、扱える能力と出力には個人差が存在する。私はジャスティカール――制裁長と呼ばれる立場にあり、一般的な軍制へ置き換えれば分隊長に相当する。戦闘時の精神防護、敵へのサイキック攻撃、ネメシス・フォースウェポンへの力の付与、限定的な精神探査ならば単独で行使できる」
「空間転移は不可能なのか」
ドクターが尋ねる。
「完全に不可能とは言わぬ。〈無限の門〉と呼ばれる技法を用いれば、現実へ一時的な通路を開き、自分と周囲の者を離れた地点へ転移させることはできる」
ヴェイルの言葉を受け、投影映像上のコントロールルームへ複数の視線が集まった。
「ただし、私が単独で安定して扱える能力ではない。本来ならば〈歪み〉を介して移動するが、この世界にはその気配が存在せぬ。それにもかかわらず私の力が発動している理由さえ判明していない。力を限界まで解放すれば、通路を開ける可能性はある。しかし、転移先の座標を誤れば構造物の内部へ出現し、肉体が物質と融合する。通路が途中で崩壊すれば、移動する者を現実へ戻せない可能性もある」
ヴェイルはアーミヤたちへ視線を向けた。
「危険に晒されるのは私だけではない。周囲の者を共に運べば、その全員の肉体と魂を私が保持せねばならぬ。ここで行使する〈無限の門〉は、結果を予測できぬ賭けとなる。通常の侵入経路が完全に失われ、他に手段が存在しない状況でなければ推奨できぬ」
「遠隔から魂を破壊する能力については?」
ケルシーが尋ねた。
「サイキック攻撃によって肉体を介さず精神や魂へ損傷を与えることは可能だ。だが、全ての敵を一度に殺せるほど都合の良い力ではない。対象の精神を捉え、自らの意志を相手へ押しつける必要がある。強靭な精神を持つ者や未知の防護を施された者へ行えば、反撃を受ける可能性もある」
ヴェイルはチェルノボーグに配置された敵の印へ顔を向けた。
「私はこの世界の魂とアーツについて、まだ十分な知識を持たぬ。源石に侵された者の精神は、我々の知るサイカーとも悪魔憑きとも異なっていた。無差別に力を放てば、敵だけでなく周囲の者まで巻き込みかねぬ。都市規模の軍勢を単独で沈黙させることもできない」
「加えて、タルラは可能な限り生け捕りにする。彼女の人格を支配している存在の正体、チェルノボーグを龍門へ衝突させる目的、我々の転移との関連を調べる必要がある。タルラ本人の意識が残っているなら、それを救出できる可能性も捨てるべきではない。魂ごと破壊する方法は認められない」
ヴァレリウスが告げた。
「分かった。便利な抜け道にはならんということだな」
ストーンファングは意外なほど素直に引き下がった。
「使える力を使わずに死人を増やす必要はないと思っただけだ。危険が大きすぎるなら、いつも通り斧で道を開く」
「最初からそう言えばよい」
「貴様が自分から能力を説明するとは思えなかったのでな」
「貴様へ説明する義務がなかっただけだ」
二人の間に再び険のある空気が生じたが、ケルシーは意に介さず立体映像の前へ出た。
「グレイナイトの能力を緊急時の予備手段として残すことには意味がある。しかし、作戦の基礎を成功率の不明な転移へ置くことはできない。確認されている戦力と再現可能な能力を用いて計画を組み立てる」
彼女はヴァロクスへ視線を送り、チェルノボーグ外周の防衛線を複数の区画へ分割させた。
「アスタルテスについて得られている情報は断片的だが、龍門での戦闘記録から共通する特徴は把握している。高い防御力と機動力、通常の兵士を大きく上回る反応速度、火力、近接戦闘能力。単独または少数で敵陣へ侵入し指揮官、火力支援、通信設備を破壊する斬首作戦に適している」
外周防衛線の中から、対空兵器、通信所、指揮拠点が強調される。
「基本方針は、アスタルテスを複数の突入部隊へ分け、レユニオンの中核戦力と防衛拠点を短時間で破壊させることだ。敵の指揮系統と対空能力が崩れた後、ロドスの部隊が続いて区域を制圧し、投降者の拘束や負傷者の回収、後方からの増援遮断を行う」
「我々だけで突破し、ロドスが後方を確保するということか?」
トゥシャンが作戦の意図を確認すると、ケルシーが答える。
「それについては少し語弊がある。君たちはチェルノボーグの構造、レユニオンの装備、アーツの特性を完全には理解していない。各突入部隊にはロドスのオペレーターを同行させて進路選定、通信、敵アーツへの対処を担当させる。アスタルテスだけを先行させた場合、突破後に重要設備まで破壊する可能性がある」
ダキールの視線が投影映像へ向く。
「……都市を止めるための機関を、我々が誤って破壊することを警戒しているのか」
「君たちの武器は、テラの構造物に対して威力が高すぎる。動力供給路、制御通信、都市基盤を損傷させれば、コントロールルームを確保しても進路を変えられなくなる。我々の目標は敵の殲滅ではなく都市の停止だ」
「妥当な懸念だ。我々はロドスの案内と情報に従う。攻撃対象と使用する武器についても、区画ごとに制限を定めるべきだろう」
ヴァレリウスはケルシーの判断を受け入れた。
「航空支援はヴァロクスが担当する」
ケルシーが続けると、サンダーホークの進入経路が映像へ追加された。
「作戦開始時は高高度から敵の通信と対空陣地を観測し、地上部隊へ情報を送る。搭載兵装にて大規模な対空戦力を破壊後、アスタルテス含む突入部隊を降下させる。都市機関へ被害を与える重火力は、ドクターまたはヴァレリウスの許可がある場合に限定する」
「命令内容を確認」
ヴァロクスの機械眼が明滅した。
「ターボレーザー・デストラクターを含む高出力兵装は原則使用禁止。対空兵器、敵装甲戦力、密集した増援部隊を優先目標とする。味方部隊及び都市基盤への損害確率が許容範囲を超える場合、攻撃を中止する」
「それでいい」
「コントロールルームへ向かう主力については、敵の配置が更新されてから最終決定する」
ケルシーは映像上のタルラを示した。長い角と燃える剣を持つ姿が表示されると、ダキールの拳が強く握られた。装甲の関節部が軋み、彼の内側で抑えられている怒りが周囲にも伝わる。
「タルラは、龍門で大規模な火災を引き起こせるほど強力なアーツ使用者だ。ヴァレリウスはチェルノボーグで一度彼女と交戦し、近接戦闘における動きと炎を用いた攻撃の一部を把握している」
ケルシーが一通り説明すると、ドクターが引き継いだ。
「ヴェイルは、タルラの中に別の存在がいるかを確認できる可能性がある。フロストノヴァとパトリオットの証言では、現在のタルラは過去の彼女と思想も行動も大きく異なる。単純な心変わりでは説明できない変化がありながら、記憶と知識は維持されている。精神干渉、人格の上書き、あるいは私たちが知らない別の現象が起きている可能性が高い」
「悪魔憑きに似た特徴はある」
ヴェイルはタルラの映像を見つめた。
「悪魔は宿主の記憶を読み取り、本人を装いながら周囲の者を欺くことがある。ただし、これまで聞いた情報には〈歪み〉の存在が関与した痕跡がない。本人へ接触し、魂の状態を直接調べなければ結論は出せぬ」
「だからこそ、タルラを討つ部隊にはヴァレリウスとヴェイルを含める。近接戦闘と炎への対処をヴァレリウス、精神及び魂への干渉の確認をヴェイルが担当する。そこへロドスのエリートオペレーター級の戦力を加え、タルラを殺害せずに無力化する」
ケルシーは二人を見た。
「私も行く」
ダキールが低い声で告げた。
「奴が龍門で行ったことを忘れたつもりはない。あの炎を止めるには、サラマンダーの装甲と我々の経験が役立つ」
「最終的な編成は後で決める。だが、タルラは処刑対象ではない。憎悪によって命令を誤る可能性があるなら、別の防衛線を任せる」
ヴァレリウスが答えた。
「……命令には従う」
ダキールの返答は短かった。
「だが、奴の中にいるものがタルラ本人を完全に食い尽くしているなら、その時は俺が焼く」
「その判断も、本人を確認してからだ」
「……ああ」
ダキールはそれ以上何も言わなかった。
「パトリオットについては? 彼と遊撃隊が主要経路を守っている限り、避けてコントロールルームへ到達することは困難でしょう。説得を試みるにしても、応じなかった場合の戦力が必要です」
アイゼンヴァルトが尋ねると、ヴァレリウスの代わりにドクターが答える。
「パトリオットを倒すことだけを目的にはしない。彼はタルラへ疑念を持ち、フロストノヴァの身を案じている。彼女が生存し、ロドスの保護下にあることを伝えれば、交渉へ応じる可能性がある。だが、遊撃隊が戦闘を継続した場合に備えてアスタルテスを含む部隊を向かわせる」
「アイゼンヴァルトならば、戦闘経験を利用できる。だがパトリオットはアイゼンヴァルトと互角以上の戦いを繰り広げた。パトリオットの槍と盾は、通常のアスタルテスへも致命傷を与え得る。正面から力だけで押し切ろうとすべきではない」
ヴァレリウスが言う。
「なら、俺も加わってやってもいい。アスタルテス相手に退かなかった老兵か。話が通じるなら酒を飲めそうだし、通じないなら一度斧を合わせてみたい」
ストーンファングがパトリオットの映像を見上げた。
「貴様は何故、全てを酒か戦いへ結びつける」
ヴェイルが問いかける。
「戦士を知るには、それが一番早いからだ」
「交渉前に攻撃するな」
「分かっている。俺を狂犬のように扱うな、審問庁の犬め」
ブレイズが横から小さく笑ったが、ケルシーの視線を受けて表情を戻した。
「部隊編成では、戦力の相性と平行して指揮系統も整理する」
ドクターが室内全体へ告げた。
「アスタルテスはヴァレリウスを中心に連携し、ロドスの各分隊長と情報を共有する。現地で予想外の状況が発生した場合、敵の撃破を優先するか、区域の確保を優先するかを独断で決めない。コントロールルームへの到達と都市の進路変更が最終目的だ」
今度はケルシーが言う。
「敵を無力化しても、都市が龍門へ衝突すれば作戦は失敗となる。レユニオン兵の中にはタルラへ忠誠を誓っていない者や、命令の意図を知らずに防衛へ参加している者もいる。投降者は可能な限り受け入れ、フロストノヴァから提供された識別情報を用いて部隊ごとに武装解除を促す。無差別な殺傷は避けろ」
ドクターとケルシーの言葉に、ロドスと帝国双方の者が頷いた。
ヴェイルはその方針に異議を唱えなかった。混沌の軍勢であれば殲滅以外の選択肢は存在しないが、現在示されているレユニオンは差別と迫害から武器を取った感染者を中心とする組織だった。タルラの内側にいる存在によって利用されている者まで含まれているなら、全員を同じ罪で処断する合理性はない。
「作戦の大枠を確認する」
ヴァレリウスが立体映像の前へ進んだ。
「第一段階。ヴァロクスの航空偵察によって敵の対空陣地と指揮拠点を更新し、複数の突入地点を決定、同時に航空攻撃によりこれを破壊する。第二段階、アスタルテスを中核とする部隊が防衛線へ侵入し、通信設備、精鋭部隊を排除する。第三段階、ロドスの主力が確保された経路から進入して投降者の拘束と後方の安全を確保する」
映像上で外周からコントロールルームまで複数の進路が伸びていく。
「そして第四段階。パトリオット遊撃隊への説得または無力化を行い、都市中枢への経路を開く。最終段階としてコントロールルームへ突入し、タルラを生け捕りにしたうえで都市制御を奪取する。進路変更を確認するまで、各部隊は主要設備を防衛する」
「妥当な構成だ。敵が一つの部隊へ戦力を集中させた場合、別の突入部隊が進路を開ける。アスタルテスを一か所へ集めるより、レユニオンの指揮を混乱させやすい」
トゥシャンが答える。
「ただし、分散させすぎれば互いを支援できなくなる。サンダーホークによる回収及び再配置を前提とし、各部隊の距離を航空支援可能範囲へ限定することを推奨。通信妨害が発生した場合に備え、事前に行動条件と集合地点を設定する必要がある」
すかさずヴァロクスが指摘した。
「採用する」
ドクターは頷き、立体映像の端へ複数の集合地点を追加した。
「細部はこの後、部隊ごとのブリーフィングで決める。装備の相互確認も必要だ。ロドスの通信機器をアスタルテスの装甲へ接続し、こちらの位置情報を共有できるようにする。源石を用いた妨害への対策はヴァロクスと技術オペレーターが担当する」
「私たちの役割は? アスタルテスだけが帝国側の戦力ではありません。通常の歩兵に任せられる任務があるなら、指示を頂きたい」
ハルトが尋ねると、ドクターが答えた。
「君はロドスの射撃部隊と行動し、帝国製火器とレユニオン装備の差を補う。前線でアスタルテスへ追従する必要はない。確保された区域の防衛、投降者の監視、退路の維持を担当してもらう。敵が後方へ回り込んだ場合、前線部隊が孤立しないようにすることも重要だ」
「了解しました」
ハルトは自分の役割を受け入れた。アスタルテスやエリートオペレーターほどの戦力を持たなくても、作戦全体の中で担うべき場所は残されている。
ケルシーは室内を見渡した。ロドスのオペレーター、ウルトラマリーン、サラマンダー、ブラックテンプラー、グレイナイト、スペースウルフ、スキタリ、惑星防衛軍の兵士。所属も思想も能力も異なり、本来ならば同じ指揮系統へ収まるはずのない者たちが、一つの移動都市を止めるために集まっている。
「異論がある者は、今のうちに述べろ」
誰も反対しなかった。
ヴェイルにとって、タルラの内側にいる存在を確認することは、グレイナイトとして無視できない任務だった。混沌と無関係であったとしても、他者の人格を奪い、二つの国家を戦争へ導こうとする存在を放置する理由はない。さらに、もしその力が自分たちの転移と関係しているなら、元の銀河へ帰還するためにも接触が必要となる。
ストーンファングも腕を組み、立体映像へ表示されたパトリオットとタルラを眺めていた。異端審問庁との争いは終わっていないが、フェンリスへ帰るためにはこの世界で何が起きているのかを知る必要がある。何より、都市一つを武器として数え切れない住民を殺そうとする者を見過ごすことは彼の名誉にも反していた。
「ならば、基本方針は決定とする」
ドクターが告げた。
「各分隊長は指定された部屋へ移動し、進入経路、装備、通信手順を確認してほしい。ヴァロクスは偵察情報を更新し、二時間以内に最新の敵配置を提出。医療班は負傷者の受け入れ準備を進める。出撃時刻は部隊再編成とサンダーホークの整備状況を確認した後に通達する」
室内の照明が戻り、中央に投影されていたチェルノボーグの映像が複数の小さな作戦図へ分割された。ロドスのオペレーターたちは部隊ごとに集まり、割り当てられた進路と役割を確認し始める。ヴァロクスの周囲には技術担当者が集まり、サンダーホークとロドスの通信規格を接続するための議論が始まった。
ダキールとトゥシャンは外周突破に必要な火力と装備を検討し、アイゼンヴァルトはパトリオット遊撃隊の戦闘記録を呼び出している。ハルトもロドスの射撃分隊へ向かい、自分のラスガンと携行弾薬を確認した。
ヴェイルはコントロールルーム周辺の構造図を前に、タルラへ接近した際に精神探査を行える距離と、戦闘中に使用可能なサイキック能力を整理していた。その隣ではストーンファングがパトリオットの使用する槍と盾の情報を読みながら、どの角度から斧を叩き込めば防御を崩せるかを真剣に考えている。
「先に交渉すると言ったはずだぞ」
ヴェイルが図面から顔を上げずに言う。
「交渉が失敗した時の準備だ。確認を怠るなと言ったのは貴様だろう」
「……その言葉だけはよく覚えているようだな」
「役に立つ言葉なら覚えてやる」
二人の会話を聞いたブレイズが小さく笑い、アーミヤも張り詰めていた表情を僅かに緩めた。しかし、正面の表示へ残る数字は休むことなく減り続けている。
衝突まで、二十九時間四十一分。
新たな戦力が加わり、作戦を成立させるための形は整い始めた。それでも、チェルノボーグ中枢区画へ待ち受ける敵が弱くなったわけではなく、失敗した時に龍門を襲う結末も変わらない。
残された時間の中で部隊を組み直し、互いの力と弱点を理解し、別々の世界から集まった者たちを一つの作戦へ結びつけなければならない。
ロドス艦内の各所で警報灯が点灯し、チェルノボーグ攻略へ向けた準備が始まった。