オペレーター・スペースマリーン 作:SECOND
二人への質疑応答から数時間後。
彼等は監視付きで艦内での行動を許され、職員達に施設を案内されていた。
研究区画や居住区画、病棟など。
ロドス艦内のありとあらゆるものが、帝国出身の二人にとって清潔で洗練されたものに見えた。
帝国では最大級の禁忌とされている人工知能を使った補助システム、祈祷無しで稼働する機械、先進的な医療技術、快適な居住区に豊富な食事。
特に、ハルト伍長は食堂で食べたスープが忘れられないらしく、早く信頼を勝ち取って居住区画でオペレーターとして生活することを心待ちにしているほどだ。
一通り艦内を見回ってこの世界の常識や価値観を知ったところで、Ace達と合流した二人は、彼にある提案をしていた。
「Aceよ。汝に提案がある」
オナーガードが口を開く。
Aceは腕を組んだ。
「聞こう」
「ロドスは、近いうちに大規模な作戦を行うと聞いた」
やはりそこか、とAceは内心で頷く。
二人を艦内に案内している間、何度かその様子を遠目で見ていた。
ハルト伍長は異世界の文化に純粋な興味と関心を唆られているだけなように見えたが、オナーガードはまるで情報収集の一貫と言わんばかりに分析していた。
つまり、彼には何か別の目的があるように見えた。
「……誰から聞いた?」
「案内役の職員だ。ロドスの艦内ではその話題で持ち切りだそうだが」
「はぁ…全く、口が軽いな」
「職員どころか患者達まで知っていたことを考えるに、そこまで重要な情報ではないのだろう」
「まあな」
Aceは彼の言葉を否定しなかった。
ドクターという重要人物の救出、ロドス艦内はその話題で持ち切りになっても仕方ないだろうし、作戦内容が流出しているわけでもない。
すると、オナーガードがゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言わせてもらおう。我々もその作戦に同行したい」
彼の言葉にAceの眉が動き、ハルト伍長は驚いたようにオナーガードの顔を見た。
「理由を聞こうか」
Aceが聞き返すと、オナーガードは再び話し始める。
「我々は一時的に汝らに保護されているだけ、この世界の人間ではない。我々にも守るべきもの、戦うべき場所がある」
「つまり?」
「この世界を出来るだけ知り、どんな手を使ってでも帰還する方法を探さねばならない」
Aceはオナーガードの言葉から、彼の意図を察する。
彼は利用できるものは何でも使い、元の世界へ帰るための方法を模索しようとしているのだ。それがロドスや、ロドス以外の組織であろうとも。
そんな彼にとって、自らの手で情報収集ができる今回は格好の機会なのだろう。
「なるほど、な。確かにこちらとしても、艦内に残すよりは同行させて
Aceは腕を組みながらわざとらしく笑う。
今回の作戦は戦力的にも決して有利なものではない。
チェルノボーグ市内でレユニオンと衝突するのは必至、そして相手もそれ相応の戦力を投入していることだろう。
決して二人を信用しているわけではないが、敵ではないことは明らか。彼らの世界の常識や、国家に忠実な兵士という立ち位置上レユニオン側に感化されて寝返るとも考えにくい。
むしろ、反逆者としてレユニオンを徹底的に殲滅しそうな雰囲気すらある。
もっとも、レユニオンが彼等を元の世界に帰還させられる可能性があると判断されれば話は別だが今のレユニオンにその力があるとは思えない。
「となれば、俺も強制的に連行される訳ですね」
「……悪いな」
艦内の観覧で多少は気持ちが落ち着いたのか、少し砕けた口調でハルト伍長がそう言う。Aceが申し訳なさそうに謝罪するが、彼は笑顔で返す。
「気にしてませんよ。貴方達は俺の命の恩人だ、恩返しくらいはさせてくれませんか」
彼の価値観からすれば、素性も分からない人間に善意だけで手を差し伸べる、という考え自体が理解不能だった。だが、自分の命は目の前の集団――ロドスによって救われた。
恩返しは勿論、これからこの奇妙な惑星で生き抜くためにも、彼等と良好な関係を築いておいて損はないと考えたのだ。
「そうとなれば直ぐにでも作戦準備をして貰おう。二人とも俺に付いてこい、簡単なブリーフィングを行う」
こうして、戦団長近衛兵と惑星防衛軍伍長、製薬会社という奇妙なタッグがドクター救出作戦に同行することとなった。
数時間後、Aceからブリーフィングを受け、出発前の集合ポイントにオナーガードとハルト伍長は合流した。
オナーガードはストームシールドにパワーソード、そしてサブウェポンとしてプラズマガンを。ハルト伍長はフル充電のラスガンにグレネードを3個、そして護身用のコンバットナイフをそれぞれ装備していた。
「……デカいな」
二人の姿を見たオペレーター達の視線が一斉に集まる。
当然だ、全高二メートルを超える青い巨人など嫌でも目立つ。
片方の兵士の方は多少ぎこちなく、まだ人間味がある。
だが、青い巨人の方は微動だにせず、金の紋章の入った巨大な盾に手を置きただ黙って佇んでいる。
「本当に人間なんだよな?」
「本人はそう言ってるが…信じられるか?」
「信じたくはないな」
そんな声が聞こえる。
だが、オナーガードは気にした様子もない。
戦場で向けられる視線など慣れている。
ハルト伍長は少し居心地悪そうだった。
「何か見世物になった気分だな」
「まあそうだろう。異世界から来た兵士なんて興味を持たない奴の方が珍しいさ」
彼の呟きに、Scoutが笑いながら答える。
Scoutは艦内観覧の時に様々なことをハルトに教え、そこから多少は砕けた口調で話せる程度には二人の距離感が縮まっていた。
「そのラスガンってヤツはどういう原理で攻撃するんだ?」
「俺も詳しくは知らないが、簡単に言えば熱を集めてビームみたいにして撃ち出すんだ。エネルギーの充電も焚き火や日光でできるから便利だぜ」
ハルトは予備の予備のカートリッジを指で叩きながら言う。
彼の説明を聞いたScoutや他の数人のオペレーターは感心したように頷いた。
その時、集合の警報が鳴り響きデッキの空気が一変する。
作戦開始の合図だ。
Aceが前へ出る。
「全員聞け」
その一言で場が静まる。
Aceの背後からアーミヤとドーベルマンが現れ、アーミヤがはっきりとした口調で全員に告げる。
「これよりドクター救出作戦を開始します。各チームの皆さんの動きは全てブリーフィングで伝えてありますので、到着次第その通りに動いてください。そしてその御二方、ええと……」
アーミヤが二人、特にオナーガードの呼び方に困っていると、彼はゆっくりと告げた。
「アウルス・ヴァレリウス、それが私の名だ。ここではもはや帝国内での私の地位などは無関係。好きに呼ぶと良い」
「あ、ありがとうございます――ではヴァレリウスさん、ハルトさん。御二方は先ほど伝えた通り、私達に付いてきてください」
アーミヤがそう伝えると、二人は静かに頷く。
今回の作戦で唯一ロドス側から厳命されたことは一つ。
それは、不用意な殺害は避けること。
よってオナーガード改めヴァレリウスはパワーソードやプラズマガンを使用せず、ハルトは射撃時に致命的な部位を避けてでの戦闘が求められることとなった。
帝国では考えられない特殊な作戦条件に少しばかり緊張しつつも、二人は従うことに。
すると、上空から轟音を響かせながら鉄の塊が格納庫前のデッキに着陸する。
ロドスの保有する輸送ヘリコプターだ。
だがその見た目は、ヴァレリウスとハルトを驚かせる。
「す、凄く洗練されたデザインだ……ローターが二つでどうやって飛んでいるんだ?」
「回転翼機か、珍しいな。見たのはグリーンスキンとの戦いの際に見たデフコフタといったか、其れ以来だ」
オペレーター達が後部ハッチから続々と入っていくのを見て、二人も追従するように搭乗する。
ドクター救出作戦、開始。
・グリーンスキン
ウォーハンマー40kの銀河に登場するとある種族の総称。オルクやグレッチェンといった、いわゆるファンタジーに登場するオークやゴブリンといった種族に似ている。だが彼等は性欲が存在せず、代わりに戦闘欲が存在し、さらには胞子で繁殖するというとんでもない性質を持つ。しかもオルクはWAAAGH!!という大規模な侵攻が始まると、彼等のエネルギーによって「思い込んだことが現実になる」というとんでもない現実改変能力を発揮する。もちろんオルク達本人は無自覚だが。例を挙げると、「赤いのは早い」「(どんな滅茶苦茶な構造でも)この銃は撃てる」「俺はまだ戦える」など。恐らくはウォーハンマー世界を最も楽しんでいる種族ではないだろうか。
・デフコフタ
オルクが運用する回転翼機。ウォーハンマー40kの世界のテクノロジーではわざわざ不安定な回転翼機を運用するよりも反重力装置などで飛んだほうが良いからと、だいたいの勢力は固定翼機を運用していない。だがグリーンスキンもといオルクは「デカくて回ってるのはカッケェ!!」という理由で一人乗りの攻撃ヘリを運用している。もちろん構造も見た目もガラクタ同然だが、オルク達が「これは飛ぶ」と信じているので本当に飛ぶのだ。やっぱり緑はサイコーだぜ!!