オペレーター・スペースマリーン 作:SECOND
輸送機がチェルノボーグ市内に到着し、ロドスの部隊が展開してから数十分後。ドクターが眠っているという場所に到着したロドスは、アーミヤ一行が施設の中へ、ヴァレリウスとハルト、そして複数の戦闘オペレーターが施設の外で待機することとなった。
『こちらGuard、ドクターを確保しました! これより地上に向かいます!!』
無線機から響いた報告に、その場にいた者達の緊張が僅かに緩む。少なくとも作戦の第一目標は達成されたのだ。Aceは小さく息を吐き、無線機へ応答する。
「了解した。俺達は引き続き警戒を続ける、異変があれば直ぐに報告しろ」
通信が終了する。
だが、その直後。
ヴァレリウスの巨体が僅かに動いた。
それは本当に些細な動作だった。
しかし、その場にいた者達は即座に異変を察知する。彼はゆっくりとヘルメットを持ち上げるようにして都市の奥へ視線を向けた。赤いアイレンズが暗闇の向こうを見据える。
「周囲に生体反応を感知した。かなりの数だ」
「何?」
数秒の沈黙が流れる。彼のアーマーに搭載された高度なセンサー群は、人間の感覚では到底捉えられない情報を収集していた。都市の奥深く、瓦礫の陰、地下通路、崩落した建物の内部。その全てから微弱な反応が検出されている。
「全方向からだ。備えろ、兵士達よ」
その報告を聞いた瞬間、Aceの表情が険しくなる。
「こちらAce!」
彼は無線機を掴み上げる。
「アーミヤ、聞こえるか!」
『Aceさん?』
「レユニオンだ、かなりの数が展開している。恐らく俺達を包囲するつもりだろう」
視線を巡らせる。崩壊したビル群。地下通路の入り口。瓦礫の山。その全てに潜んでいた気配が一斉に動き始めているのを感じた。
「まずはドクターを確保しろ。何よりも優先だ!」
『分かりました!』
通信が切れる。
Aceは武器を構えながら振り返った。
「ドーベルマン!」
「分かっている」
女性教官であるドーベルマンが即座に頷く。
「私の班はアーミヤ達の援護へ向かう」
「ああ、任せた。ここは俺達がやる」
「……死ぬなよ」
「お互い様だ」
ドーベルマン達が施設内部へ駆け込む。
そして、その瞬間。
瓦礫の陰から。崩落した建物の窓から。高架道路の残骸の下から。次々と人影が姿を現し始める。感染者達の軍勢。レユニオンの兵士達だった。彼らもまたロドスの存在を捕捉したらしい。
「なんだ貴様らは!! ここで何をしている!!」
怒号が響き渡る。武器が一斉に向けられる。クロスボウが構えられ、剣や棍棒が握り締められる。
だが、その時だった。
ヴァレリウスの居た地面に亀裂が入り、Ace達が何かを言おうとした時には、彼は車のようなスピードでレユニオン兵の間合いに入る。
先頭に立っていたレユニオン兵の視界を、突如として巨大な青い影が埋め尽くした。
「何だ――」
兵士の喉が震える。
言葉が最後まで続くことはなかった。
視界が反転する。
何が起きたのか理解する暇すらない。
ヴァレリウスの巨大な手が男の頭部を掴み、そのまま地面へ叩き付けたのだ。轟音と共にコンクリートが砕け散る。男の身体は痙攣し、そのまま意識を失った。
この攻撃は、彼が普段の戦場で行使する力の数十倍も弱い力で行われたものであったが、レユニオン兵の意識を飛ばすには充分な力だった。
「な……」
誰かが声を漏らす。
「ば、化け物!!!」
「数で押し込め、重装兵は前へ!! 射撃手は援護射撃!!」
指揮官らしき兵士の怒号と共に無数のクロスボウが放たれ、矢の雨がヴァレリウスへと降り注ぐ。しかし、その結果を見た瞬間、レユニオン兵達の顔から血の気が引いた。
矢は装甲へ命中する。
だが、それだけだった。
乾いた音を立てて弾かれ、地面へ転がる。傷一つ付かない。
まるで鋼鉄の城壁へ向けて木片を投げ付けているかのようだった。
「嘘だろ……」
誰かが呟く。
ヴァレリウスは歩みを止めない。
一歩。
また一歩。
パワーアーマーの駆動音を響かせながら、じりじりと後退する兵士達へ向かってゆっくりと前進する。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
振るわれた腕が一人の兵士を吹き飛ばす。衝突した身体が後続を巻き込みながら地面を転がり、悲鳴が連鎖する。続いて放たれた拳が空気を震わせる。直撃を受けた兵士の身体は人形のように宙を舞い、十数メートル先の壁へ叩き付けられた。
重装兵も、一般兵も無関係。
こちらの攻撃は一切通用せず、常識外れの圧倒的な力によって仲間が次々と吹き飛ばされていく。
その事実が恐怖となって、彼等の全身を支配した。
「下がれ!!」
「距離を取れ!!」
「何なんだコイツは!!」
怒号と悲鳴が飛び交う。
その瞬間、黒い閃光がヴァレリウスの身体に煌めく。
レユニオンの術師の攻撃が命中したのだ。
だが、爆発の煙が晴れた時、彼は身体に煤が付いただけで、微動だにしていなかった。
彼が再び一歩進むと、レユニオン兵が恐怖に駆られたように後退する。
ヴァレリウスが再び一歩前へ踏み出そうとした、その時だった。
『こちらドーベルマン!』
無線機から鋭い声が響く。
Aceは即座に通信へ応じた。
「状況を報告しろ」
『アーミヤ達と合流した! ドクターも無事確保している、これより施設を脱出する!』
その報告を聞いた瞬間、Aceは胸の内に溜まっていた緊張を僅かに吐き出した。
成功した。
少なくとも作戦の第一目標は達成されたのだ。だが、戦闘はまだ終わっていない。
Aceは視線を前方へ向ける。
そこには未だ百名規模のレユニオン兵達と、その中心に立つ青い巨人の姿があった。
「ヴァレリウス」
Aceは通信機を切り替える。
「聞こえるか」
『聞こえている』
即座に返答が来る。
「ドクターは確保、俺達の目的は達成した」
『了解した』
Aceの通信を聞いたヴァレリウスは短い沈黙の後、静かにそう言った。
ヴァレリウスはゆっくりと振り返り、赤いアイレンズでレユニオン兵達を見渡す。兵士達は思わず後退った。仲間達が吹き飛ばされる光景を目の当たりにしたばかりで、誰も攻撃に踏み切れない。
その時、ヴァレリウスの右手が腰へ伸びる。
金属同士が擦れる重い音と共に抜き放たれたのは巨大な剣――パワーソードだった。青白いエネルギーの光が刃に沿って走り、空気が微かに震える。
レユニオン兵達の顔色が変わる。
今まで使われなかった武器、それはつまり今まで本気ではなかったということだ。その事実に気付いた者達から表情が強張っていく。
ヴァレリウスは無言で剣を持ち上げ、切っ先を真っ直ぐ前方へ向ける。誰一人として動けない。崩壊した都市に風だけが吹き抜ける中、やがて低く響く声が聞こえた。
「選べ」
感情の無い声だった。怒りも憎しみも嘲りもなく、ただ事実だけを告げる声。
「退くか」
一歩、巨大な戦士が前へ出る。
「――死か」
もはや脅迫ですらなく、ただ提示された二つの選択肢。
しかしその言葉を笑う者は誰もいない。
全員が理解していたからだ。目の前の存在には、それを実行する力がある。
圧倒的に、絶対的に。
沈黙が続き、やがて誰かが武器を落とした。乾いた音が響き、それが切っ掛けとなる。
「撤退だ!」
「下がれ!」
「離れろ!!」
恐怖は一瞬で伝播した。隊列は崩れ、兵士達は瓦礫の向こうへと駆け出す。誰も振り返らず、誰も戦おうとせず、ただあの青い巨人から離れることだけを考えていた。
数十秒後、その場には静寂だけが残る。
ヴァレリウスは剣を見つめ、何事も無かったかのようにエネルギー場を停止させてゆっくりと鞘へ戻した。彼にとっては戦闘ですらなく、単なる障害の排除に過ぎない。
やがて踵を返し、Ace達の元へ歩き始める。
重い足音がコンクリートへ響く中、その姿を見ながらオペレーター達は誰も口を開かなかった。
何を言えばいいのか分からなかったのだ。
先ほどまで自分達が苦戦を覚悟していた敵集団を、たった一人で瓦解させた存在をどう評価すればいいのか。
ようやく誰かが呟く。
「……何なんだ、あれ」
誰も答えない。否、答えられなかった。
ハルト伍長だけが苦笑する。
「まあ、そうなるよな」
彼はラスガンを肩へ担ぎ、何事も無かったように歩くヴァレリウスへ視線を向ける。
だが、ハルトは知っていた。あれですら本気ではない。
戦団長直属のオナーガード、ウルトラマリーン戦団の中でも選び抜かれた精鋭。
数世紀以上に渡って敵と戦い続けてきた超人であり、帝国に居た頃でさえ彼が本気で戦う姿を見られる人間など殆ど存在しなかった。
「
帝国内でスペースマリーンに付けられた、人々による畏敬の呼称。
思わず漏れたその言葉には、畏怖と諦めが半分ずつ混ざっていた。
一方でAceは黙っていた。
視線だけがヴァレリウスを追っている。オリジムシとの戦闘を見て、強いとは思っていた。危険だとも思っていた。だが目の前で見た光景は、その想像を遥かに超えていた。
もし敵だったら。もしロドスへ牙を剥いたなら。自分達に止められるだろうか。
答えは出ない。出したくもなかった。
Aceは小さく息を吐いて思考を切り替える。今考えるべきことは一つだけだ。ドクターとの合流、そしてこの地獄のような都市から生きて脱出すること。
「全員移動するぞ」
Aceの号令が響き、ロドスのオペレーター達は頷いて崩壊した街路の奥へと歩き始めた。
異端者は殺します、混沌の火種だからです。
反逆者は殺します、皇帝の意思に背いたからです。
臆病者は殺します、敵前逃亡だからです。
民間人も必要なら容赦なく殺します、全ての命は皇帝に捧げられるべきだからです。
↑帝国のマインド
むしろこのくらい振り切ってた方が楽だよねって、アークナイツのストーリーを見てて思いました。変に良心だったり倫理観が残っているとアークナイツみたいな辛いことになるんだなって……(この前ストーリー完読した人)