オペレーター・スペースマリーン   作:SECOND

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誤字脱字報告感謝です!


襲撃者

 

 レユニオンの部隊を撃退し、Ace達はドクターと合流を果たした。

 

 どうやらドクターは記憶を失っているらしく、現状を一切理解できていないらしい。とはいえ救出対象であることには変わりないので、ヴァレリウス達の行動は変わらない。

 

 彼を護り、敵を討ち倒す。

 

 ただ、記憶を失っても天性の能力は変わらないらしかった。

 帰還ポイントに向かう途中、レユニオンの兵士に襲われている親子を助ける為にドクターが指揮を取った(ヴァレリウスの巨体では子供を怖がらせてしまう)のだが、彼の指揮はヴァレリウスを感嘆させるほどに素晴らしいものであった。

 

(記憶を喪っても尚この指揮力。ドクターは何者なのだ)

 

 ヴァレリウスはそう心の中で思いつつも、今は任務に集中することにした。

 

 ドクターとの合流を果たしたロドス一行は、崩壊したチェルノボーグの街路を慎重に進んでいた。

 

 空は相変わらず灰色だった。

 

 崩れかけた建物の隙間から吹き込む風が、街路に積もった砂塵を巻き上げる。

 誰もが神経を張り詰めていた。

 

 ドクターの救出には成功した。

 

 だが、それは任務の終わりを意味するわけではない。

 ここから脱出して初めて成功となるのだ。

 

 先頭を進むAceは周囲へ視線を巡らせる。

 

 静かすぎる。

 

 先程までの戦闘が嘘のようだった。

 そしてその違和感に気付いたのは、アーミヤも同じだった。

 

「Aceさん」

 

「ああ」

 

 二人は同時に異変を察知する。

 

 そして、風向きが変わった次の瞬間、白い霧が街路へ流れ込んだ。

 まるで生き物のように。

 地面を這い、瓦礫の隙間を埋め尽くし、瞬く間に周囲の景色を呑み込んでいく。

 

「っ!」

 

 アーミヤが息を呑む。

 

「皆さん、警戒を――」

 

 言葉は最後まで続かなかった。

 

 街を覆い尽くしていた霧の中で、何かが動いた。

 その気配を全員が察知し、武器を向けるが、視界を奪われている彼等には何もしようがない。

 

 その様子を、霧の中で静かに見下ろす者が居た。

 

 クラウンスレイヤー、奇襲と暗殺に長けたレユニオンの幹部だ。

 

 霧は順調に広がっている。

 人影がぼやけ、足音も位置も曖昧になる。

 

 これなら誰にも気付かれない。

 

 クラウンスレイヤーは確信していた。

 

 彼女は音もなく飛び降りる。着地の衝撃すら殺しながら前進する。

 

 霧は彼女の庭だった。

 

 敵は何も見えない。だが彼女には見える。呼吸、気配、僅かな動き。獲物の位置は手に取るように分かった。

 

 敵の指揮官らしき人物、ドクターまであと僅か。

 

 短剣を逆手に構える。

 あと数歩、それで終わる。

 

 その時だった。

 

 不意に背筋へ悪寒が走り、彼女の本能が警鐘を鳴らした。

 

 何かがおかしい。

 

 霧の中にいるはずなのに、誰かと目が合ったような感覚があった。

 

 あり得ない、そう思いながら視線を向ける。

 

 霧の向こうで静かに灯る二つのアイレンズ。

 その巨体は微動だにしていない。だが、しっかりとこちらを捕捉していた。

 

「……は?」

 

 一瞬だけ思考が止まる。

 

 見えている?

 

 この霧の中で?

 

 そんなはずはない。

 

 だが次の瞬間、その疑問を考える時間すら失われた。

 

 巨体が動く。

 速い。

 あまりにも速い。

 

 クラウンスレイヤーが後退しようとした時には、既に巨大な腕が目前まで迫っていた。

 

「っ!」

 

 回避が間に合わない。

 

 次の瞬間、鉄の檻のような指が彼女の首を掴んだ。

 

「ぐっ――!?」

 

 呼吸が止まる。何が起きたのか理解できない。

 

 ただ力任せではない、正確な一撃。まるで最初からそこにいると分かっていたかのような。

 

 次の瞬間、世界が反転した。

 轟音と共に地面が砕ける。

 

 クラウンスレイヤーの身体がコンクリートへ叩き付けられたのだ。

 

「がぁっ!!」

 

 肺から強制的に空気が吐き出される。

 激痛が走り、肋骨が軋み、腕が痺れる。全身へ衝撃が駆け巡り、視界が揺れた。

 

 そして、動けない。

 

 ヴァレリウスの片腕だけで身体全体を押さえ込まれていた。まるで建築機械に固定されたようだった。

 

 どれだけ力を込めても動かない。

 びくともしない。

 

「ぐっ……!」

 

 初めて恐怖が生まれる。

 

 この巨人は何だ、なぜ見えた、なぜ捕まった、なぜ?

 理解が追い付かない。

 

 ヴァレリウスは彼女を見下ろしていた。

 

 数秒、彼は周囲の霧を観察する。

 そして、頭部のヘルメットのセンサーが情報を解析した。

 

 視界妨害、発生源、謎の物質の反応、霧の密度変化。

 

「この女が原因だ」

 

 低い声が響く。

 アーミヤが驚いたように振り返る。

 

「霧はこの女の能力によって生成されている」

 

 ヴァレリウスはクラウンスレイヤーを、まるで荷物でも扱うように持ち上げる。彼女が痛みで呻くが、彼は意に介していないようだった。

 

「排除すれば視界は回復する」

 

 その言葉に、クラウンスレイヤーの身体が強張る。

 アーミヤもまた意味を理解した。

 

「待ってください!」

 

 思わず声を上げる。

 

「殺してはならないとお願いした筈です!」

 

 短い沈黙。

 ヴァレリウスは少女を見る。

 

「無力化で十分です。戦闘不能にしてください」

 

 アーミヤは続ける。

 

 再び沈黙がその場を支配した。

 やがてヴァレリウスは彼女の意図を汲み、小さく頷いた。

 

「了解した」

 

 だが、そのままでは問題があった。

 

 彼はアスタルテスだ。

 このパワーアーマーでは加減が難しく、少し力を誤れば首の骨が折れる。それを理解していた。

 

「兵士よ」

 

 呼ばれたハルト伍長は即座に前へ出る。

 

「任せてください」

 

 クラウンスレイヤーが顔を上げるが、既に遅い。

 ハルトは慣れた手付きでラスガンを握り直す。

 

 そして、後頭部へラスガンの銃床を一撃。鈍い音が響き、クラウンスレイヤーの意識が途切れる。

 身体から力が抜けた。

 

 同時に周囲を覆っていた霧もゆっくりと薄れ始め、灰色の街並みが再び姿を現した。

 

 だが既に、霧が晴れた先に別の気配があった。

 

 瓦礫の向こう側、崩れた街路の奥。

 そこから、規則性のない足音がいくつも響いてくる。

 

 ロドスのオペレーター達が一斉に武器を構えた。

 

 現れたのはまたしてもレユニオンの一団だった。

 

 その中央に、一人の少年が立っている。

 

 白い髪、細い身体。

 戦場に似つかわしくない、どこか芝居がかった笑み。

 

 メフィスト。

 

 彼は地面に倒れたクラウンスレイヤーを見ると、目を丸くした。

 そして次の瞬間、心底愉快そうに笑い出した。

 

 乾いた拍手が響く。

 

「あははははっ! 何それ、クラウンスレイヤーがやられてる! 本当に? 君、そんなにあっさり負けちゃったの?」

 

 倒れた彼女へ向けられる声には、同情など欠片もない。

 ただ面白いものを見つけた子供のような無邪気さだけがあった。

 

 アーミヤの表情が強張る。

 Aceも無言で武器を握り直した。

 

 メフィストの視線がヴァレリウスへ向く。

 彼はロドス、そして石棺の中から救い出されたドクターに興味を持って彼等に襲い掛かるつもりだった。

 

 だが、事情が変わった。

 

「君は何者? 人? それとも機械なの?」

 

 次に、ハルト伍長を見る。

 

「そっちも変な武器を持ってる。へえ……面白い。今日は本当に面白い日だ」

 

 未知の存在、明らかにこの世界のものではないそれら。

 メフィストは大いに愉快そうに嗤う。

 

 ハルトは眉をひそめながら呟く。

 

「嫌なガキだな」

 

 メフィストは聞こえていたのか、楽しげに首を傾げる。

 

「ねえ、遊ぼうよ」

 

 彼の背後でレユニオン兵達が動く。

 

「君達がどこまで耐えられるか、僕が――」

 

 言葉は最後まで続かなかった。

 

 何故なら、ヴァレリウスが動いたからだ。

 

 地面が砕け、青い巨体が弾丸のように前へ飛び出した。

 誰も反応できない。

 

 メフィストの笑みが初めて凍る。

 

「え――」

 

 距離が一瞬で消える。

 

 ヴァレリウスは迷わなかった。

 

 目の前の少年が指揮官であること。

 敵部隊の中核であること。

 そして排除すれば敵の統制が崩れること。

 

 その全てを、最初の数秒で判断していた。

 

「止めろ!」

 

 メフィストが叫ぶ。

 

 彼の命令で、レユニオン兵達が前へ出る。

 盾になるように。

 肉壁になるように。

 

 だが、それは盾にはならなかった。

 

 ヴァレリウスは止まらない。

 

 ぶつかった兵士達が、ただそれだけで吹き飛んだ。

 装甲の肩が一人を弾き飛ばし、踏み込みの衝撃が別の兵士を転倒させる。振るった腕がさらに数人をまとめて薙ぎ払い、瓦礫へ叩き付けた。

 

 攻撃ですらない。

 

 進路上の障害を押し退けただけだった。

 

「な、何で……!?」

 

 メフィストの顔から余裕が消える。

 

 彼の理解では、巨体とは鈍重なものだった。

 強いとしても、動きは読めるはずだった。

 囲めば止められるはずだった。

 

 だが、目の前の巨人は違った。

 

 大きい。

 重い。

 硬い。

 

 それなのに速い。

 

 その矛盾が、恐怖となってメフィストの喉を締め付ける。

 

 ヴァレリウスの手が届く。

 

 その寸前、鋭い音が空気を裂いた。同時に衝撃が走る。

 ヴァレリウスの肩装甲に、紫色に光る何かが直撃し、火花が散った。

 

 青い巨体が初めて足を止める。

 

 攻撃は装甲を貫通してはいない。

 だが、無防備なロドスの面々を考えると無視できる威力でもなかった。

 

 ヴァレリウスのヘルメットが、ゆっくりと別方向へ向く。

 

 遠方の崩れたビルの影。

 視線の先に、複数の狙撃手の気配。

 

「狙撃手か」

 

 低く呟く。

 

 その一言にメフィストが、嬉々とした表情反応した。

 

「ファウスト……!」

 

 狙撃手の存在を確認したAceは、直ぐに命令を出す。

 

「全員煙幕を張れ! 急いで此処から離脱するぞ!!」

 

 彼の命令と共に、オペレーター達が一斉に煙幕筒を投擲する。白い煙が全員を包み、気配が後退していく。

 

 ファウストの狙撃から身を守るには最善の判断だった。

 

 だが。

 

「逃すかぁッ!!」

 

 甲高い叫び声が煙の向こうから響く。

 メフィストだった。

 

 その声には怒りと興奮が入り混じっている。まるで玩具を取り上げられた子供のように。

 

 そして、叫びと共に異変が起きた。

 地面へ倒れていたレユニオン兵達が動き始めたのだ。

 

「……何だ?」

 

 ハルトが眉を顰める。

 ヴァレリウスも振り返った。

 

 先程まで気絶していた筈の兵士達。

 

 骨が折れ、身体中に打撲を負い、立ち上がれる状態ではない筈の兵士達。

 

 それが、呻き声を上げながらゆっくりと起き上がっていく。

 

「ころす……」

 

 濁った声。

 

「ころす……!」

 

 その目には理性が無かった。痛みも恐怖も失われている。もはや彼等はただ目の前の敵を殺すためだけの、ただの獣だ。

 

 ヴァレリウスが彼等を無力化しようと再び構えた時、更にファウストの狙撃が直撃する。アーマーにダメージは無いが、集中力を削がれるという点では致命的だった。

 

 普通であればプラズマガンで狙撃手を建物ごと蒸発させるのが最善だが、今はアーミヤから不殺という条件を課されている。

 

「こ、殺すッ!!」

 

「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 そして、理性を失ったレユニオン兵達が一斉にヴァレリウスへと飛び掛かる。

 

 両腕へ、脚へ、胴体へ。

 

 ヴァレリウスが何度振り払っても、彼等は再び立ち上がって向かってくる。例え骨が折れ内臓が潰れようとも、意に介せずに。

 

「……厄介だな」

 

 一方で、煙幕の中を突破してきた別のレユニオンの集団もアーミヤ達へ襲い掛かる。

 

「接敵!」

 

 Aceが盾を構える。

 

 直後、通りに激しい衝突音が響いた。

 先頭のレユニオン兵が盾へ激突し、激しい押し合いが起きる。

 

「止まれッ!!」

 

 Aceが全力で押し返す。

 背後では戦闘オペレーター達のアーツが炸裂し、Aceが抑えているレユニオン兵に直撃する。

 

 だが、吹き飛ばされても再び向かってくる。

 

「嘘だろ……」

 

 オペレーターの誰かが呟いた。

 

 更に、ドーベルマンの鞭が唸る。

 鞭が兵士達を薙ぎ払い、数人まとめて地面へ叩き付けられる。

 

 だが、それでも彼らは立ち上がる。

 骨が折れ脚も曲がっていても。

 

「正気じゃない!」

 

 ドーベルマンが吐き捨てる。

 アーミヤも叫ぶ。

 

「距離を取ってください!」

 

 その時だった。

 一人のレユニオン兵が煙幕を突き破った。

 

「うおおおおおッ!!」

 

 一直線。

 狙いはハルト伍長だ。

 

「ッ!」

 

 ハルトが反応する。

 

 ラスガンを咄嗟に撃とうとするも、敵が致命傷を負うことが頭をよぎり、躊躇する。

 

 その隙に、敵は勢いのまま体当たりを仕掛けた。

 二人まとめて地面へ倒れ、刃物が振り下ろされる。

 

 金属音が鳴り響く。

 

 フラックアーマーが刃を受け止めたのだ。

 

「ぐっ……!」

 

 ハルトの顔が歪む。

 

 重い。純粋な腕力が強すぎる。

 帝国兵として鍛えられていても限界があった。

 

 それもそのはず、相手はテラ人だ。しかも理性を失い全力で暴れている。アスタルテスであるヴァレリウスは難なく敵を薙ぎ払えていたが、一般的な人間であるハルトは別だ。

 

 だがその瞬間、赤い光が閃く。

 

 アーミヤのアーツがレユニオン兵を吹き飛ばした。

 兵士は瓦礫へ激突し、ようやく動きを止める。

 

 ハルトは荒く息を吐く。

 

「助かった……!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ああ!」

 

 差し出された手を掴み立ち上がる。

 

「借りができたな」

 

 そう言って苦笑する。

 しかし、状況は悪化する一方だった。

 

 一方で、ヴァレリウスは未だ包囲の中心にいた。

 

 腕を振るえば兵士が吹き飛び、脚を払えば数人が転倒する。

 だが終わらない。

 

 不殺という制約が、初めてヴァレリウスを足止めしていた。





・フラックアーマー
帝国防衛軍(アストラ・ミリタラム)の兵士や裕福な惑星の惑星防衛軍が身に付けている帝国軍の標準的なボディーアーマー。砲弾の破片や刃物から着用者を防護するために作られていて、現代の小火器程度であれば受け止めることが可能。一言で言えば未来版防弾チョッキ+破片防護装備といった代物で、40kの戦場では防御力は無いよりマシ程度ではあるが、それでも兵士の生存率を大きく引き上げる重要な装備であり、数十兆人規模の帝国軍を支える縁の下の力持ちである。
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