オペレーター・スペースマリーン 作:SECOND
ただ、シリアス展開なルートを望む声も少なからずあったので、別の小説で今度は転移の位置関係を逆(テラからウォーハンマー40kへ)にしたシリーズをどこかで書こうと思います。
「………何者だ、貴様は」
火傷を負った腕をもう片方の手で抱えながら、タルラがヴァレリウスへと問いかける。
彼はプラズマガンを下げ言う。
「私はウルトラマリーン戦団の戦団近衛にして皇帝陛下の天使、
「聞かぬ名だな」
「であろうな。だが、貴様が覚える必要は無い」
タルラがそう返すとヴァレリウスは盾を構え直し、今度はパワーソードを引き抜く。
青白く輝く刀身を目の当たりにし、周囲のレユニオン兵がざわつき、タルラが僅かに目を見開いた。
「汝よ、其方は何者だ」
「私は――」
タルラがヴァレリウスの問いに応えようとした刹那、彼が突如として殺気を放った。
「
「――ッ!?」
彼がそう言い放った瞬間、タルラの表情が一変した。
初めて見せる、動揺や困惑、怒りが混ざった表情。
ヴァレリウスはタルラ――いや、不死の黒蛇が出会った人物の中で彼の正体を一目で見破った数少ない人物だった。
「もはや少女の意識が喪われるまでに深く入り込んでいる、か」
ヴァレリウスはテラに転移してから初めて、本気で殺意を放つ。
彼から発せられる圧力に、周りのレユニオン兵は勿論、タルラさえもたじろぐ。
(混沌の堕落とは明らかに別種。だが、同等の危険性を孕んでいると見るべきか。放置すれば深刻な結果を招く可能性がある)
ヴァレリウスは心の中でゆっくりと考察する。
不死の黒蛇はコシチェイからタルラへと移り棲んだ、対象の魂に巣喰う存在だ。
そして、その力は彼の居た銀河に存在する〈歪み〉の領域に棲まう混沌の神々と、その配下の悪魔の力に非常に酷似していた。
ヴァレリウスも数世紀に渡る戦争の中で、度々混沌の勢力との交戦経験を積んでいる。
その経験を元に彼は、タルラに巣喰う不死の黒蛇を感じ取ったのだ。
「面白い――実に面白い」
タルラの口元が歪む。
彼女が嗤うと同時に、周囲の熱量が更に増し、周囲に火の粉が舞う。彼女の周囲の地面は赤熱し、瓦礫が飴細工のように溶け出していく。
異常な戦闘能力、見たこともない出で立ち、自分の正体を瞬時に見破る洞察力。
黒蛇にとってヴァレリウスは、正体不明の大男から自分の計画における最大級の脅威へと変貌していた。
「消えよ」
タルラがそう言い放った瞬間、再び炎の奔流がヴァレリウスに襲いかかった。
先ほどとは比べ物にならないほどの温度、規模、パワー。巨大な火柱が唸りを上げながら前進し、建物の壁面を焼き、舗装路を溶かしながらヴァレリウスへ襲い掛かる。
彼はストームシールドでそれを受け止める。シールドが白熱し、頭部ユニットからは温度上昇の警告音が鳴る。
外装温度上昇。
エネルギー消費率増加。
シールド出力低下。
だが、それを受けてもなおヴァレリウスは膝を付かない。
重い足が溶けかけた地面へ沈み込ませながらゆっくりと一歩づつ前進し、タルラへと近づいていく。
彼がなお止まらないことを認識したタルラは、さらに火力を強める。
街路の両脇に並ぶ建物の窓ガラスが一斉に砕け散り、内部から炎が吹き出した。
もはやロドスのオペレーターやドクターは眼中にない。あるのは目の前の脅威を確実に消滅させることのみだ。
火力を強める中で、炎の中でヴァレリウスの動きが止まっていることに気付く。
赤いアイレンズも見えない。シールドだけが燃え盛る炎の向こうで揺らめいていた。
タルラは目を細める。
もはや限界か。
そう考えた瞬間、彼の方向が一瞬だけ青く煌めいた。
先ほどのプラズマ攻撃が頭をよぎったタルラは、直ぐに後ろに飛び退く。
次の瞬間、青白いプラズマが炎を切り裂いて飛来した。直撃していた場所の舗装路が蒸発する。背後の建物へ命中したエネルギー弾は、分厚い外壁を紙のように吹き飛ばし、内部構造ごと粉砕した。
数十トン単位の瓦礫が崩れ落ちる。
「……ふん」
プラズマガンの攻撃を避けたことで、僅かながらに安堵する。
強力なアーツがあるとはいえ、あれの直撃を食らうのは非常に危険だ。
タルラは再び視線を上げた。ヴァレリウスを焼き尽くすために。
だが、そこに巨人はいなかった。
炎の中に残されていたのは、地面へ突き立てられた巨大な盾だけ。金色の装飾を纏ったストームシールドが、赤熱した街路の中央に立っている。
一瞬、思考が空白になる。
そして次の瞬間、全身の毛が逆立った。
(居ない、だと? ――まさか!?)
咄嗟に後ろを振り返る。
視界に映ったのは、青白い光を纏った剣をこちらへ振りかざす青い巨人の姿。
ヴァレリウスは既に背後へ回り込んでいた。巨大な身体とは思えない速度。パワーソードが振り上げられ、刀身を包むエネルギーフィールドが唸りを上げながら周囲の空気を歪ませている。
(青い光を放ったのは陽動、本命は後ろに回り込んで私を斬ることか……!!)
プラズマガンも、シールドも、全ては囮。本命は接近戦だった。
この灼熱地獄の中でそれを実行した事実に、タルラは初めて戦慄する。
「化け物、めッ!!」
咆哮と共に炎が凝縮した。
彼女の右手へ収束した炎は瞬く間に剣の形を成し、そのまま振り上げられる。
次の瞬間、パワーソードと炎の剣が激突した。
凄まじい衝撃が周囲へ拡散する。高周波のような甲高い音が街路に響き渡り、青い粒子と赤い火花が爆発的に飛び散った。二つの異なるエネルギーが衝突し、その閃光は周囲を昼間のように照らし出す。
分子結合を破壊して、防御を無視して対象を切断するパワーソード。だが、アーツという未知の概念によって生成されたそれは彼の世界には存在しないものであった。
「くッ……!!」
タルラの腕が震えた。力でジリジリと押されていく。
その瞬間、彼女は左手を振った。
その動きに呼応するように、炎が蛇のようにうねりながら伸びた。剣戟の最中に放たれる二撃目、常識外れの攻撃だった。
高熱の奔流がパワーソードを握る腕へ直撃する。
セラマイト装甲が瞬時に赤熱した。表面を覆う塗装が焼け、金属が軋む音と共に警告音が鳴り響いた。焼けた金属の臭いが立ち昇り、熱波が周囲へ吹き荒れる。
「そんなっ……!!」
アーミヤの口から思わず悲鳴にも似た声が漏れた。
これまでの戦闘で、ヴァレリウスはまるで難攻不落の要塞だった。レユニオン兵の武器は通じず、術師のアーツも決定打にはならない。
その腕が貫かれた。
赤熱した炎が装甲を焼き破り、その内側へ到達した光景は、ロドスのオペレーター達にとってあまりにも衝撃的だった。
一方でタルラは勝ち誇らなかった。
むしろ表情は険しさを増している。
彼女は腕を貫いた炎を消さない。
炎の束は生き物のように蠢きながらヴァレリウスの腕へ絡み付き、装甲の亀裂から内部へ侵入していく。
赤熱したセラマイトの隙間から炎が噴き出した。
「――燃え落ちろ」
彼女低く呟いた声と共に炎が膨れ上がる。
まるで鍛冶炉の中心へ腕を突っ込んだかのような高熱が装甲内部を蹂躙した。
タルラは確信する。
どれだけ強靭な肉体を持とうと、生物である以上限界はある。
今度こそ止まる、と。
だが、その声は炎の中から響いた。
「
「なッ――!?」
次の瞬間、ヴァレリウスはパワーソードを手放していた。
焼け焦げた右腕ではなく、無事な左腕。その巨大な拳が唸りを上げる。
タルラは反射的に後退しようとしたが、近すぎた。二人の距離は既に拳の間合いの内側へ入り込んでいる。アーツによる防御も回避は間に合わない。
鋼鉄の拳が腹部へ深々と突き刺さった。
鈍く重い衝撃音が響く。一瞬で呼吸が止まり、身体がくの字に折れ曲がる。衝撃は皮膚や筋肉を通り越して内臓そのものを揺さぶり、肋骨が悲鳴を上げた。胃の内容物が逆流しそうになる感覚と共に視界が大きく揺れ、その次の瞬間には身体が宙へ浮いていた。
タルラの身体が数十メートル先まで吹き飛ばされる。
瓦礫へ激突した衝撃で崩れかけていた壁面が崩落し、大量のコンクリート片と鉄骨が降り注いだ。地面を何度も転がりながらようやく停止した時には、周囲は立ち昇る粉塵によって霞んでいた。
しばしの沈黙。
やがて瓦礫の隙間から血の混じった唾液が滴り落ちる。
「……ッ」
肺が痛い。
呼吸が浅い。
胸の奥では心臓が激しく脈打ち、口腔には鉄臭い血の味が広がっていた。身体を動かそうとするだけで鈍い激痛が全身を走る。
(何故だ)
タルラは思考する。
炎は装甲を貫通し、内部へ届いた。筋肉も神経も焼かれているはずだった。
(何故、動ける?)
一瞬、痛覚そのものが存在しないのではないかという考えが脳裏を過る。だがすぐに否定した。
あの瞬間、ヴァレリウスの動きには確かに僅かな硬直があった。ダメージは通っている。効いていない訳ではない。
効いていてなお、何事もなかったかのように突進してきただけの話だった。
その視線の先では、ヴァレリウスが焼け焦げた腕を力なく下げたまま佇んでいる。装甲の亀裂からは未だに煙が立ち昇り、溶解しかけたセラマイトが赤黒く変色していた。
(目の前の男……この男は此処で排除しなければ)
周囲の炎が再び彼女の元へ集まり始める。周囲の炎が再び彼女の元へ集まり始める。
街路に散乱していた火の粉が吸い寄せられるように一点へ集束し、燃え盛る建物の炎までもが意思を持つかのように彼女へ向かって流れ込んでいく。熱気が渦を巻き、赤熱した瓦礫が軋みながら溶解を始めた。
「な、なんだ? 炎が……」
ふいに後ろのレユニオン兵が呟いた。
見れば、タルラの身体の元へ徐々に炎が集まり始めていた。炎が竜巻のように彼女の身体を包み込み、熱風を辺りに撒き散らす。
「図に乗るなよ、化け物め」
炎が晴れる。
先ほどまでのとは異なる、低く冷め切った声。
「た、タルラ様……?」
「なんだ? 奴の姿が……」
その姿にレユニオン兵もロドスのオペレーターも、等しく双方が驚いていた。
タルラの白銀の髪は先端から血を流したような深紅へ変色し、その色はゆっくりと全体へ侵食している。衣服もまた黒く染まり、ところどころに赤い光が脈動するように浮かび上がっていた。
何より異様だったのは瞳だった。
赤黒く濁ったその双眸には、人間らしい感情の揺らぎが見当たらない。
「貴様はここで確実に消す」
タルラ――否、顕現した不死の黒蛇が剣の柄へ手を伸ばし、ゆっくりと引き抜かれた刃が赤く輝く。
「――業火に焼かれて死ぬがいい」
その瞬間、まるで巨大な炉心が開放されたかのよう周囲の温度が跳ね上がる。
「うッ……!」
アーミヤが思わず口元を押さえる。
熱い。
息を吸うたびに肺が焼ける。
喉の奥へ流れ込む空気そのものが灼熱となり、呼吸をする行為自体が苦痛へ変わっていた。
「ごほっ……!」
若いオペレーターの一人が咳き込み、別の者は膝を突いた。
「こ、これは……本当に人間なのか……?」
二アールが呆然とした表情で呟く。
そんな中、ヴァレリウスは焼け焦げた右腕を下げたまま、地面に転がったパワーソードへ視線を落とした。
青く輝いている刀身を拾い上げ、片手で黒蛇の方へと構える。
本気を出した黒蛇とヴァレリウス、二人の激闘が幕を開けようとしめいた。
・混沌の神々/ケイオス
ウォーハンマー40kにおいての人類最大の敵にして諸悪の根源。現実世界とは異なる異次元空間に存在する異常存在で、謂わば地獄の悪魔である。ケイオスは感情をエネルギーとしており、この宇宙に感情が存在する生命体が存在する限り彼等が消滅することはない。ケイオスの凶悪性は後書きで書くには文字数が足りないほどにとんでもないので、前書きで予告した別小説か、この小説の今後にケイオスを仮に登場させた際に再度記す。
・パワーアーマーの耐熱性
※これらは筆者の読んだ小説やWikiなどの描写からの推察です。
描写ではアスタルテスは火山地帯や宇宙空間、溶鉱炉付近でも活動していることが示唆されていて、ホルスの大逆時にはフレイマーやメルタガンの直撃にも耐える、といった描写があることから、最低でも数千度、条件が揃えば一万度近くの温度にも短時間であれば耐えうるというのが筆者の推定となる。とはいえ内部温度の問題や戦闘で装甲に穴が空いている、物資不足での整備不良などを考慮すると数万度クラスを耐えるシチュエーションは中々稀だと考えられる。