オペレーター・スペースマリーン 作:SECOND
でもできるプロット構成がムズすぎる〜
最初に動いたのは黒蛇だった。
赫く染まった剣を携えたその身体が前へ踏み込む。直前まで静止していたとは思えない速度だった。舗装路に亀裂が走り、熱によって軟化したアスファルトが靴底の圧力に耐え切れず弾け飛ぶ。
振り下ろされた剣が空気を裂く。
ヴァレリウスは即座に反応し、片手で握ったパワーソードを迎え撃つように振り上げた。
青白いエネルギーフィールドと赤熱した炎の刃が衝突する。
耳障りな高音が周囲へ響き渡った。
通常の物質であれば分子結合そのものを破壊され切断されるはずだった。だが、黒蛇の剣は純粋な金属ではない。アーツによって維持されている異質な構造体は、パワーソードの破壊作用に抵抗し、その形状を保ち続けていた。
火花と蒸気が噴き上がり、両者は至近距離で激しく鍔迫り合う。
力では依然としてヴァレリウスが勝っていた。
黒蛇の身体が僅かに押し戻される。
だがヴァレリウスは追撃を選ばなかった。
相手が何かを狙っている。
戦闘経験によって培われた直感がそう告げていた。
彼は黒蛇の剣を横へ受け流しながら大きく後退する。
しかし、黒蛇はそれを許さなかった。ヴァレリウスが後ろへ着地した瞬間、既に追撃へ移る。
彼女は低い姿勢のまま滑り込むように接近すると、手にした剣を地面へ深く突き立てた。
瞬間、周囲の地盤が激しく隆起した。
地中を走った熱がコンクリートを内側から破壊する。赤熱した亀裂が蜘蛛の巣状に広がり、その直後、ヴァレリウスの足元が爆発した。
轟音。
砕けた路面が周囲へ吹き飛ぶ。
数トン単位の重量を支えるパワーアーマーですら、その衝撃を完全には受け流せなかった。
「………!!」
巨体が揺れ、バランスを崩す。
その一瞬の隙を黒蛇は見逃さなかった。
爆炎を突き抜けるように飛び込み、剣を突き出す。狙いは頭部。
いくら痛みを無視して突き進んでくる化け物も、生命の維持に於いて致命的な部位を破壊すれば止まると踏んだのだ。
剣先が装甲へ到達する寸前、ヴァレリウスの右腕が動く。それは、先ほど炎によって貫かれたはずの腕だった。
焼損した装甲、内部では筋繊維の一部も機能を失っている。
それでも、彼は迷わず手を伸ばした。
金属製の籠手が炎の刃を正面から掴み、灼熱が装甲を侵食する。
赤熱した刀身が籠手を焼き、溶融した金属が滴り落ちる。内部からは焦げた肉の臭いが漂い始めていた。
「なんだと……!?」
黒蛇の表情が初めて大きく揺らぐ。
彼は剣を握ったまま離さない。
炎によって肉が焼かれ、神経が損傷しているにもかかわらず、握力は僅かも衰えていなかった。
そのまま腕の筋肉が膨れ上がり、パワーアーマーの補助機構が唸りを上げる。
握り潰すつもりだった。
炎の剣ごと。
黒蛇は本能的に危険を察知する。
目の前の存在は苦痛や損耗を計算に入れていない。必要なら自らの身体を代償にしてでも敵を殺そうとする。
もはや、狂気に近い敵への執念。
黒蛇は即座に剣から手を離し、後方へ飛び退きながら距離を取る。
焼けた剣身がヴァレリウスの手の中で軋みを上げた。
「……やるな、巣喰う者よ」
ヴァレリウスは短くそう告げると、手の中で歪み切った炎の剣を投げ捨てた。赤熱した刀身は地面へ落下した瞬間、周囲のアスファルトを焼きながら転がり、やがて黒い煙を上げて停止する。
彼は視線を逸らさない。
目の前に立つ黒蛇から一瞬たりとも警戒を解くことなく、数歩後方へ移動する。
その足元には、先ほどの激突によって手放したストームシールドが未だ地面へ深々と突き刺さっていた。
ヴァレリウスは無傷な左腕でその柄を掴み、力任せに引き抜く。
砕けたコンクリートが剥がれ落ちた。
重量級の盾を持ち上げると、そのまま焼損した右腕へ固定する。損傷した関節はまともに動かない。それでも盾を保持するだけなら問題はなかった。
右腕の巨大なストームシールド。
左手のパワーソード。
再び戦闘態勢へ移行したその時だった。
「なんだ……?」
誰かの呟きが聞こえた。
「空が……」
戦場にいたレユニオン兵も、ロドスのオペレーターも、まるで示し合わせたかのように視線を上空へ向ける。
空の色が変わっていた。
灰色だった雲は渦を巻きながら膨張し、その内部では無数の雷光が絶え間なく走っている。轟音は止まらない。空気そのものが振動しているようだった。
そして雲の奥。
そこから赤い光が幾つも姿を現す。
それらは燃えていた。
空から落下する無数の源石塊が大気との摩擦によって発光しているのだ。
「お、おい……これって……」
誰かの声が震える。
天災だ。
「――全員、伏せろ!! なるべく固まらずに散会ッ!!」
ドーベルマンの怒号が響く。
その瞬間、張り詰めていた戦場の均衡が崩壊した。
レユニオン兵達が一斉に走り出す。
ロドスのオペレーター達も周囲の建物や瓦礫へ身を隠そうとする。
つい先ほどまで殺し合っていた者達が、今度は同じ災害から逃げ惑っていた。
しかし、その中で二人だけが動じていなかった。
黒蛇とヴァレリウスである。
彼女は空を一瞥しただけで、再びヴァレリウスへ視線を戻す。
まるで天災など取るに足らない出来事だと言わんばかりに。
一方のヴァレリウスは、初めて目にする現象を冷静に観察していた。
ヘルメット内部の戦術ディスプレイには膨大な情報が流れている。
「これが天災か。この惑星固有の自然現象――確かに危険だ」
呟いた直後、最初の一撃が到達する。
轟音と共に街区の向こう側で源石塊が着弾し、地面が揺れる。衝撃波が建物を薙ぎ払い、ガラスが一斉に砕け散った。
続く二発目。
三発目。
まるで砲撃が都市全体を飽和攻撃しているかのようだった。
だが、黒蛇は動じない。
上空から降下してきた大型の源石塊が彼女へ直撃しようと迫る。彼女は振り向きもせず、ただ片腕を振るった。
着弾寸前だった源石塊の軌道が強引に逸らされ、そのまま近くの建造物へ激突した。
「ぐわぁぁぁ!?」
「た、タルラ様ぁ!!」
崩落する建物の轟音と共に、巻き込まれたレユニオン兵達の悲鳴が響き渡る。
しかし、黒蛇は一切気に留めなかった。
その視線は依然としてヴァレリウスだけを捉えている。
一方でヴァレリウスは既に判断を下していた。
この戦いを続ける意味はない。
少なくとも今は。
そもそも、今回の任務の目的はドクターの救出と保護。今となっては、黒蛇よりも天災の方が、ドクターを危険に晒す可能性が高いのだ。
その時、視界の端で巨大な源石塊が落下する。
そして軌道の先にはロドスの部隊――そしてドクターの姿があった。
ヴァレリウスは即座に動いた。
爆音と共に地面を蹴り、落下地点へ飛び込む。
源石塊が目前まで迫る。
「させん」
青白い光が閃いた。
振り抜かれたパワーソードが巨大な源石塊へ叩き込まれる。落下していた塊は二つに断たれ、軌道を変えながら両脇へ落下した。
しかし、完全に防げた訳ではない。
無数の破片が散弾のように周囲へ飛び散り、それらはコンクリートを砕き、車両を貫き、人々を襲う。
「――皆さん、ここへ集まってください!!」
その時、張り裂けそうな声が響いた。
アーミヤだった。
彼女は両手を前へ突き出し、全力でアーツを展開している。
黒い光が広がり、半透明の防壁を形成する。
「この、大きさが限界ですッ……! 皆さん、真ん中へ集まって下さい……!!」
額から汗が流れる。
防壁へ源石塊が激突する度に衝撃が全身へ伝わり、空気が震えた。
それでもアーミヤは歯を食いしばり、防壁を維持し続けた。
ヴァレリウスはその前へ、ストームシールドを構えながら立つ。避難するオペレーター達を誘導し、飛来する瓦礫を弾き返し、破片を叩き落とす。
「ドクター、これではもう戦いどころじゃない。撤退ルートはあるのか?」
瓦礫が降り注ぐ中、Aceは咄嗟に振り返った。
周囲では天災によって砕かれた建物が次々と崩落し、レユニオン兵もロドスのオペレーターも等しく避難に追われている。
ドクターは粉塵に汚れた街並みを見回し、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「……ここから南西。あの瓦礫の山の向こう側に空間がある。建物の崩落で偶然できた抜け道だと思う。あそこからなら、外へ出られる可能性がある」
言葉の途中で視線が戦場へ向く。
「……だが、今の状態では」
そこには未だ二体の怪物が立っていた。
炎を纏う黒蛇と、焼損した右腕に盾を固定したヴァレリウス。
両者の周囲だけは未だ戦闘が終わっていない。
Aceは短く息を吐き、通信機へ手を当てる。
「……ヴァレリウス、聞こえるか?」
激しいノイズが混じる。天災による電磁障害か、通信状態は決して良くない。
数秒後、低く落ち着いた声が返ってきた。
『聞こえている。何があった?』
その最中にも、ヴァレリウスのパワーソードは落下してきた源石塊を斬り裂いていた。青白い閃光が降り注ぐ災厄の中で断続的に輝き、砕かれた破片が周囲へ散乱する。
「ドクターが脱出経路を見つけた。全員をそこまで移動させる。撤退支援を頼めるか?」
通信の向こうで僅かな沈黙。
『可能だ。だが――』
ヴァレリウスの目が黒蛇を捉える。
その瞬間、黒蛇の周囲で炎が膨張する。
灼熱の奔流が解き放たれ、地面が溶解しながら周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。炎は一直線にロドス側へ向かっていた。
ヴァレリウスは咄嗟に前へ飛び出し、ストームシールドを構える。展開されたエネルギーフィールドが悲鳴を上げ、白熱した炎が盾全体を包み込んだ。
だが、後方へ炎が届くことはなかった。
『奴を止めなければ此処からは動けまい。私が足止めをしている間に全員を避難させろ。それしか選択肢は無い』
「……!!」
Aceが息を呑む。
自分はここに残り、他の全員を脱出させる。
つまりヴァレリウスは、自分を犠牲に他の全員を生かすつもりだった。
『コータスの少女は私を止めるだろう』
炎の向こう側で黒蛇が歪んだ剣を構え直している。
『彼女をこの戦いに巻き込む前に急いで此処から離れるのだ』
Aceは何も答えない。
周囲では負傷者が呻き、オペレーター達が必死に仲間を支えている。
天災は激しさを増している。時間的に言えば、そろそろ第一波が終わる頃合いだろう。だが、いつ第二波が始まるのか、第三波が来ない保証があるのか。
判断に残された時間は少なかった。
「……了解した」
Aceは静かに頷き、承諾した。
通信のチャンネルのオープンチャンネルに切り替え、通信機に向かって叫ぶ。
「全員聞け!! 次の波が収まった瞬間、一斉に南西の瓦礫地帯へ向かう!! 負傷者を優先しろ、遅れるなよ!!」
恐怖に震える者、仲間を支える者、傷口を押さえる者、誰もが頷いた。
全員がアーミヤのアーツの下で撤退の準備を整え、覚悟を決める。
その頃、ヴァレリウスは再び黒蛇と向き合っていた。
落下する源石、崩壊する街、燃え盛る炎。それらすべてが二人の周囲を通り過ぎていく。
ヴァレリウスの直感は、まだ不死の黒蛇に呑まれた少女、タルラが生きていると感じていた。
もし彼が
だが、いくらベテランであってもサイキック能力を持たなければそういった芸当は不可能に近い。
となれば、ヴァレリウスが取れる行動は一つ、力ずくで黒蛇を無力化することだけだ。
たとえタルラが命を落とすことになっても。
天災。
オリジニウムによって引き起こされる異常現象、その原因や具体的な影響を今のテラにおいて完璧に知るものは居ない。
だが少なくとも、源石結晶の落下や異常気象の誘発など、人類の理解可能な範疇でその影響が留まっていることは紛れもない事実だ。
つい先日までは。
ティラニッドが〈歪み〉に落とした
そして、その繋がりは源石をはじめとするテラの人智を超えた存在によって絡み合い、増幅されていく。
テラ側で天災というトリガーが引かれ、もう片方で何かしらのトリガーが引かれれば、それは新しい繋がりをもたらすことになるかもしれない。
帝国暦999.M41年、アバドン率いる第十三次〈黒き征戦〉により惑星ケイディア陥落。
余波により、
捕捉しておきますが、これでテラが〈歪み〉に呑まれたりはしません。ご安心ください
・グレイナイト戦団
アデプトゥス・アスタルテス第666番目の戦団にして、秘匿された特殊部隊である。彼等は異端審問庁直属という特異的な立場であり、その機密性の高さから、戦場でグレイナイトを目にした市民や兵士は一人残らず審問庁により抹殺される。グレイナイトは全員がサイカーであり、〈歪み〉の悪魔を狩ることを専門とするデーモンハンターであり、聖なる刻印の刻まれた武器とアーマーで身を包んで戦う。創設から今日に至るまでの長い間、混沌に堕落したグレイナイトは殆どおらず、彼等は混沌の悪魔に対する人類の唯一にして絶対の防壁なのだ。
・
アスタルテス戦団の記録者にしてサイカーであるスペシャリスト。司書官という名前だけ見れば大したことはなさそうだが、実態は戦団内でもトップクラスの戦闘能力を誇るベテランである。ライブラリアンは戦団の中でも特例で〈歪み〉の力を使用したサイキック能力の行使が許されており、時を超えた未来視や時空間を歪めることによっての瞬間移動、精神干渉など、通常のアスタルテスでは成し得ないような技を使いこなすことができる。
・第十三次
人類を裏切り、混沌の悪魔達に心を売った大逆者達による現実世界への大規模な遠征、その13回目の戦い。この戦いで大逆者達の目標である要塞惑星ケイディアが陥落し、後述の
・
第十三次〈黒き征戦〉によって発生した、銀河を分断する時空の裂け目。キカトリクス・マレディクトゥム、呪わしき傷跡とも呼ばれる。この影響で帝国は分断され、多くの艦隊や星系が〈歪み〉に呑まれた消滅し、余波を含めると数百兆〜数京人が死亡したとされている。更に悪魔の現実世界への侵攻や時空の乱れが多発し、人類はもちろん、他の異種族さえも生存が脅かされる事態となった。