バスケットボールは何色か。 作:バレテーラ
二期始まりましたね。
大喜のリアクションが豊かななせいか、ゴーホーム先輩がマイルドに見える。
「今日からうちに入部することになった茶城くんだ。各々、顔を合わせておくように」
「茶城颯人です。よろしくお願いします」
バスケ部に入部する、そう決意を持った翌日――俺は宣言どおり栄明バスケ部へと入部し、部員の人たちの前で自己紹介をしていた。
「栄明じゃないみたいだけど、出身はどこか聞いてもー?」
「えっと……帝光です」
パチパチと拍手で歓迎される中、先輩らしき部員が質問してきたので答えると「帝光って、あの?」「マジかよ……!?」とバスケ部全体が騒めき立つ。
まぁ、そうなるよな。
予想はしていたとはいえ、みんなが思っている『キセキの世代』のような選手ではないから期待を裏切るようで少し心苦しい……。
「浮足立つのはわかるが、茶城ばかりに期待を押し付けるようなマネはしないようにな」
『は、はいっ!!!』
「……とはいえ、だ。帝光ともなれば選手としての強さはうちでも上澄みになるだろう。チームのためにも頑張ってくれ、茶城」
「はい。俺に出来ることなら誠心誠意頑張ります」
監督からそう言われ、俺もそれに応える。
それからすぐ部活の準備に入るのだが、突然部員たちが俺を取り囲むように集まってきて、俺は準備ができない状況にあってしまう。
な、何ごと……?
もしかして帝光出身だからって調子に乗んなよとか、そういう釘を刺しに?
なんて思っていたのだが、
「ところで茶城! お前昨日、鹿野さんに連れて来られてたよな!? 一体どんな関係なんだよ!」
「そうだぜ! あの栄明のマドンナ、鹿野先輩とあんな風に仲良さげに話しやがって! うらやましぃいいいいい!!」
全然、そんなことじゃなかった。
この話は今朝登校したときからあり、教室に着くなりクラスメイトの男子はおろか他のクラスの奴らまで乗り込んできて詰め寄られ、あらためて千夏先輩の人気っぷりを思い知らされた。
帝光云々で問い詰められるよりはいいんだが、なんだかなぁ。
ちなみに千夏先輩からは居候の件は隠しても隠さなくてもどっちでもいいと言われた。
とはいっても、誰彼構わず言いふらす気はないので、ひとまずそうやって聞いた来た人には大喜のときと同じ説明をすることにしている。
説明すれば、大抵の人は「成程なー」と納得してくれるので非常に助かる。
「おいお前ら! 喋ってばかりないで手を動かせ、手を! 外周追加されたいかー!?」
「やっべ!」
「すんませーん!」
そんな風に話していると監督から怒られ、蜘蛛の子を散らすように皆準備を始めていった。
「……ふぅ」
「入部早々、大人気だね」
俺も俺でモップがけをしようとすると、横から話しかけられる。
千夏先輩だった。
「俺が、というより千夏先輩がなんですけどね」
「どうして私が出てくるの?」
「無自覚なのも罪だよなぁ」
「……?」
俺の言葉が理解出来ず、千夏先輩は首を傾げる。
「お、昨日千夏が連れてきてた男子君じゃん」
「あ、渚」
そこにもう一人、背の高い女子が会話に入ってくる。
「私は船見渚。千夏のチームメイトだよ」
「どうも、茶城颯人です。今日から男バスに入部したんで、よろしくお願いします」
「先輩だからってそんなに畏まらなくていいって! それにしても昨日はビックリしたよ。千夏がいきなり知らない男子を連れてきたからさ~」
「それは今朝も説明したでしょっ」
悪びれずケラケラと笑う渚先輩。
それだけで二人が仲の良い関係であることが窺える。
というか、そっちでも昨日の件で聞かれてたんだな……。
「いや~、まさかあの千夏があんな顔するなんて。長年一緒にバスケを続けるもんですな~」
「もうっ! その話は終わり! ほら、私たちも練習するよ!」
「はいはい。じゃ、茶城君も頑張ってね」
そう言って女バスの練習へと戻っていく先輩方。
二人の背中を眺めていると、ふと千夏先輩が少しだけ後ろを向いたかと思えば、口がパクパクと動いた。
――――頑張れ。
そう言われた気がして、俺はこれからの部活により一層気合を入れてモップがけを始めた。
*
「よーし、10分休憩! 水分補給は大事だが、飲みすぎるなよー!」
部活が始めて数時間――。
監督の合図で休憩に入り、滲み出る汗を拭う。
やっぱり高校、それもスポーツ強豪校ともなると練習のレベルが違う。
まぁ、ついていけないわけではないんだが。
「休憩が終わったら最後に一年と二・三年でゲームをするからな! 誰がどこのポジションに就くか、チーム内で照らし合わせておけよ!」
スポドリを飲んでいると監督がそう言い、一年は一年で、先輩たちは先輩たちで集まり始める。
いわゆる一年との交流試合ってとこだろう。
初心者も数名いることだし、先輩たちもそこまで本気になって潰しにはこないとは思うが、それでも試合は試合……多少なりとも実力は示してくるはずだ。
話し合いの結果、俺たち一年のメンバーは、俺を含めた経験者四人プラス初心者一人のチーム構成となった。
初心者は交替で出て、全員に経験してもらうという考えだ。
今回の試合は、ミニゲームのため2Qのみ。
ちなみに俺はフルで出ることになった。
いや、いいけどさ。
「メンバーが決まったら整列しろよー!」
最初に出るメンバーで、コートに並ぶ。
同じく対面には部長を含めた練習でも上手いと感じた人たちが。
ほぼ主力メンバーじゃねえか。
うちのチームで一番背の高い奴がジャンプボールを任され、真ん中に立ち、――準備が整った。
――――ピッ!
監督がボールを放り上げ、試合が始まる。
ボールは……相手チームから。
「よぉし、まずは一本な」
先輩がドリブルをしながら歩みを進め、うちのチームメンバーはそれぞれディフェンスにつく。
何度かパスを回し、先輩の一人がボールを持つとドライブで切り込んだ。
すかさず、近くのメンバーがカバーに入る。
「よっ」
「あっ……!?」
……が、そうするとそいつがついていた先輩がフリーになり、そこを狙ってパスをされる。
練習で見た感じ、確かあの人はスリーが得意だったはず。
「初っ端の3Pいただき~」
予想通り、その先輩はスリーポイントラインからシュートを撃とうとする――――が、まだ間に合う。
バチィ!
「うおッマジか!? 結構距離あったはずなんだけど!」
「いきなり3Pは勘弁なんで」
全力で走り込んでジャンプし、なんとかシュートをブロックする。
弾かれたボールは味方がキャッチし、今度はこっちが攻撃。
先輩たちがディフェンスに備える中、ボールが俺へと渡ってくる。
「……ッ!」
「速っっ!!?」
先輩と対面し、俺はドライブで一気に抜き去りシュートを決める。
「なんだあの速さ!? 先輩をあっさり抜き去りやがった!」
「直前のディフェンスも自分の守備範囲じゃないのに届いてたし、どんなバネと反応速度してんだよ!?」
先輩はおろか味方も試合を見ているギャラリーなんかもどよめいているが、俺としてはただ体力任せに力を振り絞って動いているだけだ。
アイツらだったらこんなことは当たり前にやってのけるだろうし。
なんて、周りからの称賛の声やら驚愕の反応を内心では冷ややかに受け止めながらも試合は進んでいく。
「ナイス!」
「なっ……スクリーン!?」
時には味方がシュート決められるようにアシストし、
「……! ……ッ!」
「クソ……! こいつちょこまかと……!」
時には走り回ってディフェンスを振り回したり、
「……あ、入った!」
「ナイシューッ」
時には初心者の奴にも決めてもらう。
交流試合とはいえ、うちが勝てるように自分に出来ることを全てこなしていく。
その結果、36ー18のこっちが優勢で前半が終わった。
「マジかよ、一年が圧倒してるぞ!?」
「これが帝光の選手か、すんげぇな……」
「つか、どんな体力してんだよ……あいつ練習でもガッツリ動き回ってただろうが……っ!」
先輩たちが肩で息をしながらボヤいている。
けど、それはこっちも同じだった。
味方全員が滝のように汗を流し、初心者にいたっては過呼吸かってぐらいに全力で酸素を取り入れていた。
俺は……うん、これならまだ帝光での白金監督の練習メニューの方がキツイって思える。
あの人優しそうな顔して言うことえぐかったからなぁ……俺だけ「お前は他と同じだと意味ないからな」とか言って倍の量やらされたし……。
「……………」
「大丈夫颯人くん? なんだか遠い目をしてるけど……もしかして、けっこう疲労困憊?」
「あーいや、そんなことないですよ千夏先輩。ちょっと、昔を思い出してだけなんで……」
ボトルを片手に帝光時代を思い出していると、同じく休憩に入った千夏先輩が心配そうな顔で話しかけてきた。
「休憩はちゃんととりなよ? でも、よかった。その様子だとここでも上手くやっていけそうだね」
「……ですね。思いのほか、みんなが快く受け入れてくれたんで」
「快く、かぁ」
ちらっと千夏先輩が未だ俺の話題で盛り上がっている先輩方を見遣る。
「……でもさ、なんか思ってたほど凄くはなくね?」
すると、先輩の一人がそんな感想を漏らす。
「なんていうか、帝光出身ていうにはあんまりパッとしないっていうかさ」
「一緒の中学ってだけで『キセキの世代』じゃないんだから仕方ねえだろ」
「そりゃそうなんだけど」
「あー、でも少し分かるかも。確かに体力は異常だし実力も高いんだけど、他の強豪校にも同じような奴いそうだよなって感じ」
どうやら試合での俺のプレイを見て、落胆寄りの本音を抱く人たちがチラホラといるようだった。
「……む」
千夏先輩がちょっとだけ不機嫌そうな顔をする。
「先輩が気にする必要ないですって。あの人たちも悪気があって言ってるつもりはないと思いますし」
「そうだとしても颯人君を知ってる身としては納得できないよ」
もう完全に姉とか保護者の目線なんですが……。
「颯人君も颯人君だよ。もっと自分で点取りに行けばいいのに」
「俺もちゃんと決めれる時は決めてますよ。ただ俺ばっかり活躍しても周りがつまんないだろうし、初心者もいますから」
「それは、そうだろうけど……」
不満げな千夏先輩。
しかし、言いたいことは分かるからか先輩は否定したり咎めるようなことはしなかった。
「じゃあ、私からひとつ指令を出します」
「こっちは試合中なのに?」
「大丈夫、颯人君ならできるから――――」
千夏先輩にそれを告げられると同時に休憩が終わり、こっちはメンバーを入れ替えてコートに集合する。
俺は変わらず続投、相手チームは一人変えてのメンバーだった。
――ピッ!
相手チームがサイドからボールを入れ、2Qが始まる。
先輩として新人たちに負けるわけにはいかないためか、ペースを保ってじっくりと歩みを進めてくる。
ここで焦らず攻めてくるあたり、実力は伊達じゃない。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、と。
相手チームはが前半とは比べ物にならない速さでパスを回し始め、それに合わせてこっちのディフェンスも目まぐるしく変わっていく。
だが、初心者を含めたうちのチームがいつまでも対応し続けられるわけもなく、一人がディフェンスに遅れる。
代わりに俺が向かおうとしたのだが――
「おっと」
「……!」
別の奴についていたはずのディフェンスが俺の前に立ち塞がった。
シュパッ
「しゃあッ!!」
誰に邪魔されることなく、綺麗な放物線を描いたボールは見事にゴールネットを揺らす。
「ドンマイ、ドンマイ! 切り替えていこう!」
今度はオフェンス、俺にボールが渡る。
「……!」
だが……
「マジかよ!?」
「茶城に、ダブルチーム!?」
相手陣地に足を踏み入れた途端、俺に相手ディフェンスが二人つく。
さっきのカバー妨害といい、これといい、俺対策してるな。
となれば一人はディフェンスがいなくて自由なるわけだが……どうやら相手は自分のマークマンに加えて初心者も同時に見ているようだった。
確かに実力を考慮すれば、そこまで負担は大きくない。
「…………仕方ないか」
ここでミスって流れをもっていかれたくないので落ち着いてパスを出す……が、それでもディフェンスは二人とも離れなかった。
「ボールを持ってなくてもダブルチーム継続って、茶城に何もさせないつもりかよ!?」
「本気で潰しにきてる!」
俺が走りだそうとすれば進路を阻まれる。
味方のアシストはおろか、走ることすら許されない状況になっていた。
「ここまでされりゃ、お前でも動けねえだろ?」
「茶城の立ち回りは凄えけど、それで勝てるほど俺たちも甘くねえってな」
「……ご教授痛み入りますよ」
別に甘く見てたわけじゃないけども。
俺が抑えられていることで味方は苦い顔をしながらもパスを回す。
「隙ありだぜ一年ズッ!」
「ああっ!?」
しかしそれもいつまでも続かず、ボールを奪われ、点を取られてしまう。
そこからは同じ展開が続いた。
俺のいない味方内でなんとかして道を切り開こうとするも、それを先輩たちが簡単に許すはずもなく、主にカウンターで点を得られていく。
こっちも点を取れないというわけではないが、明らかに前半よりも失速し、見れば44ー42と逆転あと一歩というところまで迫ってきていた。
……ちょっとマズいか。
流石にこのまま逆転されるわけにはいかないため、俺も俺で動くことにする。
「へい!」
「え? あんな前でパス?」
「おいおい、ボール取られたら速攻でカウンター決められちまうぞ……」
まだ相手陣地に入ってない前の場所からボールを貰う。
周りの不安どおり、俺にはディフェンスが二人、もしボールを奪われればゴールは目前、味方も前に出ているためカウンターは必至だが――
それは、取られればの話だ。
ディフェンス二人、一人の方にドライブで切り込む。
「まだまだ……ッ!」
それにギリギリ持ち堪えたが、そこで俺はピタッ! と急停止。
そしてほんの少し体を起こして方向転換……すると思わせて、そのまま真っすぐ再加速。
「なっ……!? なんつー緩急……っ!」
体勢を立て直そうとしたディフェンスは今度こそ追いつけず、俺は相手陣地へ切り込んだ。
ダブルチームが突破されて先輩たちは驚いているが、すかさず俺を止めようと別のディフェンスが向かってくる。
そこで完全フリーになった味方にパスを出し、ボールを受け取った味方はしっかり得点を決めた。
「マジかよ……ダブルチームをぶっちぎりやがった……!」
「もしかして、今まで手加減してたのか……?」
「まさか。ただ、後半はほとんど動いてないから体力は温存出来たんで」
まぁ、余力は確かにあったけど。
そこからは基本的に俺がボールを運ぶようになったことでこっちのチームも士気を取り戻し、前半と同じとまではいかないが点を取れるようになり、残り1分で60ー52となっていた。
このままいけば一年チームは勝てるんだろうが、俺はまだ千夏先輩からの指令を達成できていない。
チラっと女バスの方を見れば、千夏先輩がじとーっとした目を向けていた。
(…………分かってますよ)
嘆息しつつ、俺は味方の一人に声をかける。
「なぁ、ちょっと頼みがあるんだけど」
「え?」
簡潔にそれを言うと、味方は了承してくれる。
――さて、やるか。
まずは今まで通り、ボールは俺が運ぶ。
ディフェンスを抜き、空いたところにパスを出し、味方がゴールに向かってボールを放った……そう、シュートではなく俺が頼んだ通り “放った” だけだ。
同時に俺はゴールに向かって走る。
「これはシュート……じゃない。まさか……!」
何人かがその意図を理解する中で、俺はは高く跳躍し、空中でそのボールを掴み取る。
千夏先輩が出した指令、それは――――
『みんなの前で、かましてこいっ!』
ガゴンッッッ!!!!
俺はボールをリングに直接叩き込み、千夏先輩の望み通りの豪快なシュートを決めてやった。
『うぉおおおおおおおおおおおお!!?』
「あ、アリウープ決めやがったぞあいつ!!」
「てか、うちでダンク決めれる奴って今までいたっけ……!?」
「すっげー! ガチで見んの初めてかも!」
その場にいた全員が度肝を抜かれて騒ぎ立てる。
(…………これでいいですか?)
千夏先輩に目を向ければ、先輩は満足したように笑みを浮かべ、指でOKサインをつくった。
ホント、無茶ぶりな姫ですこと。
その後、そのアリウープでチームが活気づいて他の味方も点を続々と決めるようになり、試合は73ー62と一年チームの勝利となった。
試合の描写って意外と書きにくい……!
専門用語は調べれば出てくるけど、説明があった方がよかったら教えてください。
注釈でいれるようにします。