バスケットボールは何色か。 作:バレテーラ
タイトル変えたい。
バスケ部に入部してから少しして、試合でのぶちかましもあって部内の空気にも馴染んできた今日この頃。
「……し、死ぬ……」
「すんげぇ、くたびれ様」
一方で猪突猛進な友人は自分の机でへろへろになっていた。
「大喜どうしちゃったの? なんか机から生えたキノコみたいになってるけど」
「今度の大会のダブルス枠で針生先輩と組むことになって、しごきにしごかれまくってるわけ」
そう、近々行われるバドの大会で大喜は先日挨拶した針生先輩と一緒に出場することが決まったのだ。
針生先輩は部内でも実力が高く、県三位という実績があるらしい。
そんな人と組むことになれば生半可な実力じゃついていけなくなるため、滅茶苦茶しごかれているというわけだ。
「ここ一週間、体力づくり重視で振り回されまくって……あの人俺のこと殺すつもりなのかってくらいで……」
「そのぐらいしないと同じ舞台には立てないってことじゃねえの?」
「そりゃ分かってるんだけどさぁ……」
はぁ~、と深く溜息を吐く大喜。
「同じメニューしてるのにあっちはスピード落ちないうえにショットは正確だし……あ~、あんなに風にバド出来たら楽しいんだろうなぁ……」
「落ち込んでんのか羨んでるのか、どっちの気持ちなんだそれ」
「バド馬鹿すぎでしょ……」
「もはやドM」
「どっちもなんだよ……てか二人にいたっては悪口だろ……」
うーん、いつもよりツッコみに勢いがない。
ガチで追い込まれてるみたいだな。
――と、しなびた大喜を中心に四人で他愛無く話していると、スマホが震える。
確認してみればL〇NEがきていた。
相手は、千夏先輩だった。
こんな時間に何だろうか??
『急にごめん。私のジャージ持ってないかな?』
千夏先輩の……ジャージ……?
「あ」
何で俺が持ってると思ったのだろうと首を傾げたが、すぐに思い当たる節を思い出す。
たしか昨日、洗濯した俺のジャージを先輩が部屋まで持ってきてくれて、先輩も自分のを持っていたはずだから、その時間違えてのかもしれない。
すぐにカバンの中にあるジャージを確認してみれば、その胸のあたりには “鹿野” と持ち主の名前が刺繍されていた。
あちゃー。
『……ありました。すぐに届けます』
返信し、ジャージを持つ。
「どうした颯人? ジャージなんて持って」
「あー……バスケ部の先輩からジャージ貸してくれって頼まれたから渡してくるわ」
正確には貸すじゃなく返すだけど。
大喜たちから「もうじき授業だから早めに帰ってこいよー」と見送られ、ジャージを片手に教室を出る……といってもどこで渡せばいいんだ?
千夏先輩の教室に直接行って渡しても、それを見られたらまた騒がれるだろうし。
『どこか目立たない場所ってありますか?』
『視聴覚室とか』
10秒もしないうちに返事がきて、成る程と視聴覚室へと足を向ける。
すぐに辿り着き、中に入るとまだ千夏先輩はきておらず、しばし待つことに。
「ごめん、遅くなって」
少しすると千夏先輩がやってきた。
「そんなに待ってないんで大丈夫です」
「そこは『今来たところ』って言わないと、女の子にモテないよ?」
「日に日に姉感が増してきてるな、この人……」
なんなら母さんも最近姉弟みたいに扱ってくるし……って、そんなことはどうでもよくて。
「これ、千夏先輩のジャージです」
「ありがとう。あ、こっちは颯人君だから返しておくね」
「ども」
代わりに千夏先輩が間違って持ってきていた俺のジャージを受け取った。
……サイズは明らかに俺の方が大きいんだけど、パッと見じゃ分からないもんだな。
俺はジャージを見比べ、先輩は本来の自分のサイズに合ったジャージを一旦机に置き、裾に手をかけて今着ている制服を脱ぎ――――
「って、ちょっと待てーいッッ!!!!」
「わ、びっくりした」
考えるよりも先に、脊髄反射で千夏先輩の手を掴んで動きを押さえつけた。
「いや、びっくりしたのはこっちなんですけど……。何いきなり着替えようとしてんですか」
「だって今から教室戻って着替えたら間に合わなくなっちゃうから、ここで着替えちゃおうと思って。大丈夫、女子はどこでも着替えられるやり方を知ってるから」
「そこじゃねえ」
羞恥心とかそういう気持ちの話してるんだよ。
「だって颯人君は弟みたいなものだし。ほら、家族だったらいちいちそういうの気にしたりしないでしょ?」
「先輩は、ね。俺の気持ちを考えてください」
「……じゃあ、気になるの?」
「これ、何言っても俺がアウトじゃん」
気になるって言えば同居人に興奮する変態みたいだし、かといって気にならないといえば延々に俺の前で無防備な姿を晒し続けることになるし。
俺は溜息を一つ。
「分かりました。じゃあ、俺は先戻ってるんで。誰も入ってこないようにちゃんと鍵かけてくださいね」
「あ、うん。届けてくれてありがとう」
「いえ。先輩も体育の授業頑張ってください」
そう言って、時間もないため千夏先輩が着替え始められるよう足早に視聴覚室を出る。
「(……たく、あの人は)」
ちょいちょい起こる気苦労に嘆息する。
家族と思ってくれるほどに心を開いてくれたことは喜ぶべきなんだろうけど、いささか馴染み過ぎるのも考えもんだな。
……なんて思う俺だった。
*
「……迷惑かけちゃったかな」
颯人がいなくなり、視聴覚室に一人残される千夏。
ここ最近茶城家に馴染んできたせいか、変に遠慮するようなことはなくなってきていたのだが、流石に今回は相手への配慮が足りてなかったかもと少しばかり反省しつつ着替え始める。
「(私は全然気にしなかったのに……)」
別に裸を見せるわけでもないため、着替えくらいで動揺するほどの信頼関係ではなかった。
男として見られていない、とも言えるかもしれないが。
「(でも……)」
手が止まり、ふと思い出す。
「……手を掴まれたときはドキっとしたな」
**
さて昼間はいろいろあったわけだが、授業が終われば部活があり、それも終われば居残り練。
とはいえ今日はそこまで練習せず、区切りのいいところで切り上げることに。
「……今日も……なんとか生き延びた……ぁ……」
「戦地帰りの兵隊か」
「もはやゾンビだろ」
ちょうど大喜と匡も帰るところだったようで一緒に並んで歩く。
大喜は今日も針生先輩にしごかれたようで、どこで拾ったのか木の棒を杖代わりにして体を引き摺っていた。
「仕方ねえからジュース奢ってやるよ。何がいい? あ、ついでに匡もいいぞ」
「マジか。じゃあ、ジンジャエールで」
「俺はコーラ……」
近くの自販機でジンジャエールとコーラを買う。
俺は……サイダーでいいか。
「はぁ、助かる――って、ギャーッ!? 溢れたーッ!!」
「偶にあるよな、ハズレのやつ」
大喜が蓋を開けた瞬間、ぷしゃーっ! と泡が噴き出して手がびしょびしょになる。
うーん、なんてツイてない奴。
俺と匡は噴き出さなかったのでわたわたする大喜を憐れに思いながらジュースを飲み、大喜も泡が収まると少しげんなりしながらもコーラを口にした。
「美味い。……けど、炭酸抜けてる」
「だろうな」
「炭酸を抜いたコーラはエネルギーの吸収効率が高いらしいし、今の大喜にはちょうどいいんじゃないか?」
「バケツいっぱいの砂糖水の方がいいかもしれん」
「バキか俺は!」
三人揃ってジュース片手に校門を出る。
すると、校門前で何人かの先輩たちが屯っており、その中にはバド部の針生先輩や女バスの船見先輩、そして千夏先輩もいた。
「大喜に匡、それに茶城もいるじゃん。今帰るとこか?」
「そうですけど……針生先輩たちはこんなところでお喋りですか?」
「おう、話してたら盛り上がってよ。もうすぐ、どの部活も大会で忙しくなるよな~って」
「ああ、なるほど」
針生先輩の言ったとおり、大体の運動部が大会が始まる時期になる。
バド部はもちろんのこと男バスも女バスも、ここにはいないが蝶野のいる新体操もあると言っていた。
大喜ばかりやたらとくたびれているが、俺や匡、蝶野も他人事のようにしてはいられない。
……と、ふいに針生先輩がニヤっと嗤う。
「そうそう。ちなみに俺、
「へー、そうなんだ」
「一年と組むなんて珍しいね」
「いやー、組んだはいいものの全然ダメでさ。打ち分けは下手だし、攻めに入ったら自爆したりで、そもそも体力が足りなさ過ぎて……」
「ちょ……!? 針生先輩!?」
突然ボロカスに駄目だしされ、困惑する大喜。
けれども言われたことは事実だと理解してるのか、文句は言わなかった。
大喜の事情を知ってる奴なら好きな人がいる前でそんなこと言うなよとも思うだろうが、多分この人は……
「――けど、大喜はこれから強くなると思うよ」
「……えっ?」
やっぱり。
「だってこいつ、俺がどれだけいじめてもめげねーの。これは無理だろうなーって予定より多いメニューやらせても最後までやりきるし」
「え゛!?」
「針生って期待してる奴には厳しいよな」
「このドS」
「鬼畜先輩」
「県三位!」
「彼女のパシリ~」
「お前ら言いたい放題言ってくれるな」
そんな先輩たちのやりとりがある中、大喜を見れば期待されていたことが嬉しかったのかちょっとだけその顔には喜色が滲み出ていた。
「ダブルス頑張ってね、いのまたたいき君。針生君のことよろしくね?」
「千夏先輩……はいっ、頑張ります!」
「何で俺がお願いされる側なんだよ……」
さらには千夏先輩にも応援され、大喜のモチベはぐんっと上がったようだった。
分かりやすいことで。
「けど、それを言うなら今年は男バスも期待できるんじゃねえの? なんたって超強豪校からの大型新人が入ったわけだし!」
すると、先輩の一人……たしかバド部の西田先輩? がそんなことを言い出し、その場の視線が俺に集まった。
「あー、確かに」
「全中三連覇を果たしたっていう強豪校だっけ? そりゃすげえわ」
「この間のダンクすごかったもんねぇ!」
その言葉を皮切りに先輩たちがやいのやいのと盛り上がり、想定外の周りの期待から俺は思わず苦笑いを浮かべるしかない。
「バスケはそこまで詳しくねえけどさ。この前の試合を見てトンデモなく強いってのは俺でもわかったし、これならIH優勝だってでき――」
「無理ですよ」
だが、その言葉に対してだけは自分でも思ってない程の冷たく低い声で否定していた。
「たしかに栄明の実力は高い方ですけど、あくまでそれは基本水準は超えてるってだけでIH出場はそう簡単なことじゃない。ましてや優勝なんて、夢のまた夢です」
予選トーナメント、決勝リーグまでなら栄明の実力なら大丈夫だろうと踏んではいるが、正直俺はまだこっちに来たばかりだから他の学校の強さを知らないため軽々しく言うことは出来ない。
油断していたら足下を救われる可能性だってある。
それに――
「仮に出場できたとしても、IHの舞台には必ず『キセキの世代』は出てきます。……そうなれば間違いなく、アイツらのいるいずれかの高校が優勝を獲ります」
優勝だけじゃない、おそらく全国上位は全てアイツらで埋まるだろう。
そう言い切れるだけの力が、確かにあるのだ。
それこそ、舞台を掻き乱す台風の目になるような学校が出てこない限りは。
……と、そこまで言ったところで我に返ると、先輩たちが少し緊張した面持ちで俺の話に耳を傾けていた。
やっば、少し熱が入りすぎた。
「とまぁ要するにこのままだと厳しいと思うんで、俺もまだまだ頑張らないとってとこですね!」
重くなった空気を断ち切るように、無理やり話を締めくくる。
「……ま、そうだよな。どの学校だって死に物狂いで優勝狙ってるわけだし、そう易々と獲れるもんじゃねえわな」
「だね」
察してくれたのか針生先輩と千夏先輩が賛同してくれる。
おかげで他の人たちも納得してくれて、なんとかこの場の空気が緩めることが出来た。
***
それから少しだけ駄弁ると解散となったのだが、俺は千夏先輩と家までの道を歩きながら雑談を続けていた。
「今日の夕飯はなんだろうね?」
「俺としてはガッツリ食いたいんで肉系だと嬉しいんですけど」
「わあ、男子って感じだ」
そりゃ育ち盛りの男子高校生ですから。
「……さっきは西田君があんなこと言っちゃってごめんね。彼も悪気があったわけじゃないから許してあげて?」
「許すもなにも、そもそも怒ってないですって。むしろあの場の空気を悪くしちゃって申し訳ないぐらいで」
「そんなことないよ。颯人君がああやって言ってくれた方が説得力があったから」
そう言ってくれると有難い、か?
「それにしても噂には聞いてたけど、颯人君があそこまで言うってことは相当強いんだね。えっと、たしか……『キセツの世代』だっけ?」
「ぶはっ!!」
話の流れを変えようと思ったんだろうが、大事な所を言い間違えた千夏先輩に思わず吹き出してしまう。
「『キセキの世代』ですね。……クク、アイツらのことをそんな風に言うの千夏先輩ぐらいですよ……っ」
「もう、そんなに笑わないでよ」
「すみませんすみません」
まだ笑いそうになるのを堪える。
こんなに笑ったのは今年初めてかもしれん。
「ふぅ……そうですね。アイツらの強さは規格外ですよ、なんたって十年に一度の正真正銘の天才ですから。正直、俺なんかが足下にも及ばないくらい」
「そんなになんだ」
信じていないわけじゃないようだが、イマイチ想像出来ていないようだった。
仕方なく、分かりやすく頭に過った一人を説明する。
「例えば先輩は今までに3Pを外したことはありますか?」
「そんなの数えきれないくらいあるけど……」
「ですよね、俺もです。――けど『キセキの世代』のシューターは、今まで撃った3Pを外したことはただの一回もありません。もちろん練習も試合も含めて」
「……一回も?」
「はい。全部決めてます」
「それは……」
流石の千夏先輩もそれがどれだけ異常か理解出来たようだった。
フォームを崩したり、シュートをブロックされない限りは100%決めており、少なくとも俺は三年間一緒にいて外したところを見たことがない。
「今上げたのは一例ですけど、他の四人も大概同じようなレベルです」
「なるほど……」
神妙な顔をする千夏先輩。
まぁ、そういう反応になるよな。
「だからこそ、俺は強くなりたい。アイツらに勝って……『キセキの世代』だけが活躍するような世界をぶっ壊してやりたいんです」
「うん。その意気だよ」
千夏先輩と出会ってまだバスケが好きだということに気付いて再び始めたバスケだったが、栄明のバスケ部に入ってからは明確な目標が出来た。
散々振り回してきたアイツらに一泡吹かせてやりたいという目標が。
傲慢かつ自分勝手な考えだが、それが強くなるための今の俺の原動力であり、勝つために進んでいく俺の指針となっていた。
「来週末に練習試合をすることになった。試合の相手は――――秀徳高校だ」
そして、その機会は意外にも早く訪れる。
大会の時系列は青箱と黒バスだと流石にズレているので、青箱基準のごちゃ混ぜでやっていきます。