英雄憧憬の少年と風精の少女   作:長夜月

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 書き続けるかは未定です。

 何となくで始めましたが多分書き続けます。
 今作のベルキュンは原作とは違ってかなり才能があり、意志の力も強くなっています。
 流石にチートというわけではありませんが、ベルキュンは更に強くなるので、その分偉業の質もかなり上がります。
 つまり何が言いたいかというと、ベル虐を原作以上に行っていきたいと思います!!!!!!これも愛が故ですね(笑)


前日譚 ベルキュン飛躍の時を迎えます!!!
quest(クエスト)1 オラリオ出陣(ベル クラネル)


 

 

 僕のお義母さんはとても怖くて優しい、灰色のロングヘアに黒のドレスを着ていて、いつも目を瞑っている人だった。

 

 なんで目を瞑るの?と聞くと、『目を開けるのが疲れるからだ』なんて言う。

 

 そんなお義母さんでも、僕と一緒にいる時は、たまに目を開けてくれる。

 

 ――僕はそんなお義母さんが大好きだ。――

 

 9歳になるまで一緒にお風呂に入っていたのは流石に恥ずかしかったけど……。

 

 

 ザルド叔父さんは大きくて見た目は怖い、でもいつも美味しいご飯を作ってくれて、僕に剣の扱い方を教えてくれる、叔父さんには一度も勝ったことはない、もの凄く強くて優しい人。

 

 どうしたらそんなに美味しいご飯が作れるの?と僕は聞いた、するとザルド叔父さんは、『飯は準備が大事だ!下準備がしっかりしてりゃあ何でも上手く作れる!』と、そう豪快に笑いながら言った。

 

 これでお義母さんに喜んで貰える、そう思って頑張って作ったご飯はザルド叔父さんの作ったご飯に比べたら美味しくないと思う、でもお義母さんはそのご飯を食べて『美味しいぞ』と笑ってくれた。

 

 いつも僕に色んな事を教えてくれる、『避妊はしっかりしろよ』と言ってきたときは流石に顔を引きつったけど…、その後しっかりお義母さんの福音拳骨(ゴスペルパンチ)がザルド叔父さんの頭目掛けて飛んでいき、ザルド叔父さんはその時、『三途の川を見た』と言っていた。

 

 ――僕はそんなザルド叔父さんが大好きだ!――

 

 

 僕のお祖父ちゃんはいつもお義母さんに怒られてる、昔は僕に色々な英雄譚や逸話を教えてくれた、でもそれと同じくらい(くだ)らないお話、つまり卑猥な話も聞いた。

 

 『覗きは男の浪漫(ロマン)だ!』などとのたまった次の瞬間にはお義母さんの福音拳骨(ゴスペルパンチ)が飛んできた、それに気づくことも出来ず、ただただ殴ったという事実だけが残った。

 

 それでも今までも僕の隣に居てくれたお祖父ちゃんが好きだ、英雄譚は僕の憧れだった、その中でもやっぱり『道化行進(アルゴノゥト)』と『迷宮神聖譚(ダンジョンオラトリア)』は僕のお気に入りだ!

 

 それを聞いたお祖父ちゃんも「いいセンスをしてる!!」と言ってくれた、くだらない事も沢山教わったけど…、それ以上に大切な事を沢山教わった。

 

 いつも僕らに笑いをくれるお祖父ちゃんは絵本の中のアルゴノゥトそっくりだった。

 僕もいつか慣れたらな…。

 

 ――僕はそんなお祖父ちゃんが大好きだ!――

 

 顔も知らない、だけど生きていたらきっとお義母さんとは色違いの白いドレスを着ていたと思う。

 

 そんな事を言うとお義母さんは『お前のその笑顔はあの子にそっくりだ』と言ってくれた。

 僕のお母さんはきっと優しい人だ、そう聞くとお義母さんは笑いながら言った。

 

 お前の母は誰よりも()()()事の大切さを知っていた。

 だからだろうな、あの子は誰からも愛される、そんな子だったよ、だけど…、食べ物の恨みは酷かった、あれは死を感じたよ、烈火のごとく怒り狂い、自分が病弱な事を忘れているんじゃないかとさえ思ったと言っていた。

 

 それを聞いた僕は、その日の夜はお義母さんに抱き着いて離れなかった。

 

 甘い物が嫌いな僕とは正反対な人だと思った。

 

 『その白髪の髪はあの子そっくりだ』、何度も聞いた事がある、そのたびに『だからこそその瞳が気に食わん』と僕に言ってきた。

 その日は涙を堪えるのと、単純に怖すぎて目を開けられなかった。

 

 ――僕はそんなお母さんに会ってみたい、お父さんは…、皆が言うには()()()()()?らしい、その話を聞くたびに僕は少し残念な気持ちになった――

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それじゃあお義母さん、ザルド叔父さん、お祖父ちゃん!!!行ってきます!」

 

 僕は今日、11年間育った村を出て英雄の都 オラリオへと向かった、お義母さんは病弱だから、残してで行くのは気が引けたけど、「それならもう一度特訓をするか?」と言われたときは流石に死ぬと思った。

 あの訓練は嫌だ!!本能が僕にそう訴えた。

 あの生と死の境を300回以上も反復横跳びさせられるのだけは勘弁だ。

 

 それに、最近になって病弱なお義母さんが更に強くなるとか言う意味の分からないことまで起きた。

 それもあって僕はお義母さんが…ザルド叔父さんも最近更に力が強くなった…気がする。

 あの二人の本気を見たことは無いから分からないけど、ザルド叔父さんの力の片鱗を見た僕から言わせれば二人が死ぬなんて想像も出しなかった。

 

 昔、僕がまだ10歳の時、お祖父ちゃんに、「錬金術師はな、なんと孤島で一ヶ月暮らした事で真理に辿り着いたんじゃ、お主もあの森で一ヶ月過ごせば真理に辿り着く!!」と言われて、それに便乗したお義母さんとザルド叔父さんが僕を中剣一本で森に放り投げた時は、帰ったら張っ倒してやる!!と誓いを立てたほどだった。

 

 ある日夢を見た、どことも知らない場所で僕は戦っていた、何度も何度も、気が遠くなるほどに…。

 

 その日だった、一つの光が…いや、一人の精霊が僕の前に現れた。

 その精霊の名前はジュピター、雷霆の名を冠すると自称していたが、確かにその力は凄まじかった、あたりのモンスターを一撃で灰に帰していた。

 

 性格はまさにお祖父ちゃん!その日は僕の幻覚でお祖父ちゃんが出てきたのかと思ったけど、その日から夢の中でジュピターさんが僕に話しかけてきた、自分の事、精霊の力の事。

 

 特に精霊の力は気になっていた、僕はその精霊を知っていた、アルゴノゥトに出てきた精霊の名前と同じだったからだ。

 

 ジュピターさんは「知らんな、悪いが契約すると前人のことは忘れるんじゃよ、じゃから知らん」と言っていた、それもそうなのかも知れない、誰にも言わなかったけど、多分三人とも気づいていた。

 

 一人で森を生き抜いていた僕にとって、お祖父ちゃんに似た()()が居たのはとても嬉しかった。

 

 だけど………相対的に見れば、夢の中で一人卑猥な話を繰り広げているジュピターさんはまさにお祖父ちゃんだった、その有り体と言ったらもう、まさしく『単独あり〜な』状態だった。

 

 それでもここまで生きてこれたのはジュピターさんのお陰だった。

 ジュピターさんとは契約したわけではない、あくまで「お主とは相性が良い、到底納得できないがな。儂はお主が気に入った、儂の力を貸してやる」と言う理由で僕に力を貸してくれた。

 

 代償はみたいなのは?と僕は聞いた、アルゴノゥトのお話では最後に失明すると言うものだったからだ、流石に失明は嫌だなと思った僕は思わず聞いた、するとジュピターさんは笑いながら言った。

 

「言ったであろう、()()()()()()。それにお主、見掛けによらず鍛えておるな?筋肉やらはそうでもないが、それでもお主のそのバネのある身体は一朝一夕では手に入らん、それは天性の才だ!大事にするんだな」 

 

 その日から僕はジュピターさんの力を借りて雷霆の力を扱うことが出来た、お義母さん達にはバレないように二人で隠れて特訓した。

 

 その力は凄まじかった、雷の力のお陰で僕の俊敏さには更に磨きがかかり、今までは大剣に振られていたのに、力を局所的に使う事で大きなパワーアップが出来た。

 

 僕はその力でお祖父ちゃんを思いっきり殴った、その姿を見たお義母さんはどこからか10点の旗を出して僕を褒めた。

 ザルド叔父さんは苦笑していたけど、その力に一瞬驚いていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「気をつけて行くんじゃぞ!!オラリオには輩の様な奴もわんさか居るからな、そんな奴らには捕まるんじゃないぞ!」

 

 お祖父ちゃんの声が聞こえた、その言葉はいつもとは違った、とても真面目で、でも温かい言葉。

 

「飯を山程食って大きくなれよ!それがガキの仕事だ」

 

 ザルド叔父さんはいつものように僕にお弁当を持たせてくれた、日持ちも腹持ちもいい携帯食とまだ温かさが残るお弁当を僕に持たせて、いつもとは違う大剣を背負っていた。

 

「これをやる、これはお前への餞別だ。大事にはしろ、ただ壊れそうになったらすぐに変えろ、命の重さをはき違えるなよ」

 

 そう警告しながら僕に大剣を渡してくれた、その大剣は純白の布にしまわれており、中身は白と金と、あと雷の装飾の入った剣だった。

 それを握り締めて僕は前へと歩き出した、その時だった。

 

「ベル、行って来い」

 

 その一言が僕の足を止めた。

 それはどこまでも優しく、その言葉を聞くのはないと思っていたから。

 

「身体には気をつけんるだぞ、ご飯はちゃんと食べるんだぞ、厄介な神にだけは捕まるなよ、それから――

 

「うん!『英雄になれ』でしょ!!もう分かってるから」

 

 

 何度も聞いた、そのたびに何度も言った言葉。

 僕の忘れてはならないもう一つの約束、それを胸に僕は今日、オラリオへと旅立つ。

 

 その姿はもう情けない子供でもなく、どこまでも輝き、眩い光を放つ少年へと変わっていた。

 

 それでもあの子は私達の可愛い息子、その最後の姿を見て三人は言った。

 

「「「忘れるな、俺達(私達)は何時までもお前の事を想っているからな」」」

 

「うん!行ってきます!!!」

 

 それを聞いた三人は優しい眼差しを向けながら一人の英雄の旅立ちを見送った。

 

 彼が見えなくなるまで、或いは彼が見えなくなっても。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それじゃあ、儂も行くとするか」

 

 そう言うとゼウスは身支度を始めた、その姿を見ながらアルフィアとザルドも支度を済ませていた。

 

「あの子も行ったしな、ここに帰ってくるのはあの子が英雄になってからか」

 

「そうだな俺らはあの丘でクソ竜の監視をしなきゃだしな」

 

「狒々爺、やはりお前はベルの教育には悪影響だったな、やはりあの時殺しておくべきだったか」

 

 ゼウスら思い返すように言った、ザルドは少し自嘲気味に言う。

 そしてゼウスを恨めしそうに見ていたアルフィアの一言にゼウスは恐怖を通り越した恐怖を感じていた。

 アルフィアのその言葉に対してゼウスは反論するように必死に弁明を図った。

 

「儂の英才教育のお陰であの子はこれからもやっていけるんだぞ!!!」

 

「んな訳あるか、貴様の施した教育の矯正にどれだけ掛かったと思っている?」

 

 女の子へと接し方、喋り方、思考回路、その全てをアルフィアがベルと出会った7年前から徐々に矯正していった(拳骨による恐育(教育))、そのおかげてベルは優しく、良い子に育ったと思う。

 

 今回はアルフィアの言っていることが100%正しいとザルドも肯定した。

 そうして仲間を失ったゼウスは長い沈黙の果てに福音拳骨(ゴスペルパンチ)を喰らっていた。

 

 

「思い出すな、あの子が泣いている所に、お前が走って向かっていったあの日のことが」

 

「私はこの選択を後悔したことはない、だがそのせいで世界が滅ぶかもしれない…」

 

 ザルドの言葉にアルフィアは少し俯きながら言う、普段のアルフィアを知るものからすればそれは何とも意外で、おおよそ拝むことの出来ない顔だった。

 

 その顔を見たゼウスは一言。

 

「あの子は()()になると言った、それを信じるのが儂ら親の仕事であり、あの子に全てを託した最強の派閥(我々)の仕事だ」

 

 その一言は普段のおちゃらけたゼウスの言葉ではなく、大神 ゼウスとしての言葉だった。

 

 「なぁに、あの子はいずれ英雄になって帰ってくるさ、才能はなかったかも知れないがな。死地を何度もくぐり抜けたお陰でその才能が開花したんだろ」

 

 ゼウスは普段の態度に戻っていた、先程までの張り詰めた雰囲気はなくなっていた。

 

「だがやはり貴様をヘラの奴に突き出すのだけはするべきだったな、奴も貴様の動向を抑えた頃だろ」

 

「じゃからこうして夜逃げの準備をしてるんだろうが!!!!」

 

 ゼウスは悲観的に言った。

 捕まったら死ぬ、原始的恐怖を想起しながらゼウスは身支度をした、その足でそのまま家のドワを開けた、木造の家はどこまでも綺麗に、ホコリ一つない部屋になっていた。

 ベルがアルフィアの体調を気遣い、献身的な掃除を毎日行なっていたお陰で家には言葉通りホコリ一つないと言えた。

 

「あの子との思い出が詰まった家を出るのは度し難いが、仕方がない、いずれあの子が帰ってくれば私達も帰ってくればいい」

 

「その時には嫁の一人や二人は連れてきてもらわんとな!」

 

「その時は私直々に出向いてやろう」

 

「「嫁が逃げるわ!!」」

 

 アルフィアは笑いながら言った。

 楽しみ半分、ベルはやらんと言った気持ち半分の言葉には笑みが溢れていた、だがその一言にゼウスとザルドは大声でツッコミを行った。

 

 

 やはりこの家には笑みが溢れていた、どこまでも子供のことを思う親のように、三人はあの日の事を、それからあの子が()()になりたいと言った日のことを。

 

 

 ベルにとってはアルフィアの涙が見たくなかったから言った一言、心の底から言った言葉だった。

 だからこそアルフィアは救われた、それを茂みの奥から聞いていたゼウスとザルドも瞳には僅かな涙を浮かべていた。

 

 

 日に日に強くなっていき、成長するあの子を。

 それでも何一つ変わらない善性に、あの子の原点に私達は魅せられていた。

 

 あの子はいつも、そいつがその時一番掛けて欲しい言葉を何の躊躇いもなしに掛ける事が出来る、そんな誰かを温かくする事の出来る子供だった。

 

 だからこそ―――

 

 

「「「あの子が、英雄なんて物に至らんことを!!!」」」

 

 

 三人はどこまでもあの子の事を思い、各々は思い出の家を出ていった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そろそろか〜、オラリオが見えてきた」

 

 遥か彼方の方に聳え立つ市壁、その欠片が見えた頃、ベルは思わず飛び上がった。

 馬車を引いていた商人はそれをなだめるように、それでいてベルの態度に笑みを浮かべていた。

 

 この商人はベルを無償で村に届けることを約束していた、その理由はかつてあの村に行き、その道中で魔物に襲われていた時に、自分よりも身の丈が小さく、それでいて自分より遥かに強いベルに魔物から守ってもらった事に恩を感じていた。

 

 ベル自身は気にしないで下さい!と言ったが、商人自身の申し出により、ベルは今、その人の馬車に揺られていた。

 

 

 そうして何時間が経っただろうか、目の前には市壁が聳え立ち、憲兵の人達が立っており、門の前には長蛇の列が出来ていた。

 

「ありがとうございました!!ここからは僕一人で行きます!」

 

 一刻も早く行きたい、その思いを辿るようにベルは大きなバックと大剣を背負い、腰に差した中剣の位地を整えた。

 

 その様子を見ていた商人がベルに何かを投げた。

 

「これは?」

 

「俺からの餞別だ、お前の勇姿を期待してるぞ!!」

 

 その人に、ベルはなんとも言えない温かさを感じていた、あの人たち以外に初めて贈られた激励の言葉、それはベルの少しの不安すら取り払っていた。

 

 先ほどまで感じていた僅かな不安すらも消え、ベルは手首にかけていた腕輪を見た。

 その純白の腕輪はベルの髪とよく似ていた、これはアルフィアが10歳の誕生日に贈ってくれた物であり、アルフィア自身が『それを肌に放さず身に着けておけ』と言っていた。

 

 何でもユニコーンの角を既存に、様々な浄化作用のある素材を使用して作られた腕輪。

 その効果はほぼ全ての状態異常を弾くに至っていた。

 

「こんな物…、僕の手には余るよね〜」

 

 そんな腕輪を見ながら馬車を飛び出した。

 最後に商人に頭を下げ、勢い良く市壁へと走り出した。

 

「やっぱり変わらないここも」

 

 1年前、お義母さんの病気の事と僕の事でオラリオには一度来た。

 その時にお義母さんの病気が完治した事を知った時は僕は泣いて喜んだのを今でも覚えている。

 【医学の眷属(デェアンケヒト・ファミリア)】のアミッドさんという方に見てもらって、その後はオラリオを散策して、その時のじゃが丸小豆クリーム味は今でも忘れられない。

 流石に甘死にするほどで僕は泣いた、そんな事を思い出していると突然声をかけられた。

 

「そこの者、止まれ!!」

 

 眼の前の憲兵とスーツの人に留められた、この人たちがオラリオの平穏を守る派閥。

 その胸には象神のエンブレムが宿っていた。

 そんな中、僕に話しかけてくる一人の大男がいた、ザルド叔父さんほどではないにしろ、その力は僕よりも強かった。

 

「なんだぁ、随分と可愛らしい子だな…が、お前さん、かなり鍛えているみたいだな?分かるぜ分かるぜ、その研ぎ澄まされた闘気っつうか、なんつうか分かんねぇけどな」

 

「へぇ~、そんなのまでわかるんですね!!」

 

「俺はハシャーナっつうんだ、食い扶持に困ったら俺のとこに来い!お前さんをうちの主神に紹介してやるよ!!」

 

 眼の前の気前の良い男性、ハシャーナさんは豪快に笑いながら僕に言った、それを見てお祖父ちゃん見たいだと一瞬思ったかすぐに"いや、失礼だな"と思いその思考をすぐさま削除した。

 その際、何かが僕の中で反論していたが聞かなかったことにした。

 

「では…、良い神様との出会いがなければそちらの…、群衆の主(ガネーシャ)様の所に行かせていただきます」

 

「おう!あの神は変神(へんじん)だか、悪神(あくにん)じゃねぇ、気が向いたら来い!」

 

「はい!行ってきます!!!」

 

 背中に特殊なランプを当てられ神の恩恵(ファルナ)の有無を測られ、安全が確認されてようやく僕はオラリオの地を改めて踏みしめた、ハシャーナさんに手を振りならも僕は()()への第一歩を踏みしめていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ここは数多の英雄達が眠る墓標、その第一墓地だった、様々な派閥の団員のお墓、その殆どが空であり、下には何も埋まっておらず、それでも子の健やかな冥福を祈る神によって行われた…、神様と言うよりは、僕たちの様な子供達の為にといったほうが良いのかな?

 

 お祖父ちゃんに言われた、『そこには儂の眷属達も埋まっておる、すまないが儂の代わりに行ってきてくれ』などといっていたお祖父ちゃん。

 元オラリオ最強の派閥で、お祖父ちゃんが主神でザルド叔父さんとお父さんの所属していた【雷霆の眷属(ゼウス・ファミリア)】と、お義母さんやお母さんが所属していた最恐の派閥【婚儀の眷属(ヘラ・ファミリア)】の二つの名前が刻まれた墓標の前で僕は立ち尽くした。

 

 

 長い思考の果てに僕は…、貴方達に想いを伝えた。

 

「僕が…、必ず黒竜を討ちます!!そんでもって必ず救済(マキア)を成し遂げます!!!」

 

 かつての最強達の前で…、彼の豪傑達や英傑達の前で、僕は一つの誓いを立てた、あの日お義母さんと約束した事と同じ事を、次はこの人達の前で。

 

 だから―――

 

「見ててねお父さん!お母さん!立派な英雄になって…、貴方達のいる所にも僕の名前が轟く様になります!!だから…、まだ僕の名前は名乗りません」

 

 そういってベルは墓地を後にした、轟々たる傑物達の前で誓った約定、それをもはや遥か彼方の空から聞いていた老父が一言。

 

「聞こえているか?お前達が遺した意志を受け継ぐ英雄が現れたぞ!!これでお前達にも山程の土産話が出来たな」

 

 この日、英雄は確かに生まれた、何者でもなかった少年が、諦めずに歩み続けた修羅の道。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ここが…、にしてもやっぱり11歳の子供が一人で来るには危ない気が…。まぁいっか!!」

 

 そんな事を考えながら街を歩いていると突然眼の前の人…いや神様に話しかけられた。

 朱色の神に眼は閉じている…お義母さんと同じなのかな?とにかく眼は見えている筈だけも…。

 

「何や少年、君みたいな子供がそないな大剣背負ってオラリオに何しに来たんや?」

 

 突然の問い、まぁこんな子供が一人で歩いていたら可笑しいか?分からないけどその問いに答えたら満足するかな?

 

「冒険者になりに来ました、これで良いですか?神様」

 

「へぇ~、何やったらウチのファミリアに入らん?」

 

 朱色の神は僕に言った、その問いの裏を考えた、ジュピターさんが言うには『こいつはガネーシャと同じじゃ』とのこと、変態ではあるが悪神ではないということ。

 入る派閥に当たりがあるわけでもないのでこの提案には素直に乗っておこう。

 

「お願いします!!僕を貴方の派閥に入れてください!!」

 

「えぇ返事やで!ほな来な、案内したる」

 

「はい、分かりま―――

 

 刹那、オラリオの中央から爆発音が聞こえた、その轟音は市壁の近くにいた僕らですら認識できる程だった。

 

「何や?!今の?」

 

「行きましょう!誰かが襲われてる」

 

「何やて?!でも、じぶんまだ神の恩恵(ファルナ)を刻んどらんし…」

 

「大丈夫です!その程度で死ぬようには鍛えられていませんから」――(いくよ、ジュピターさん)

 

『分かっている!!』

 

 眼の前の神様…いや僕の主神を抱えて、精霊の力を解放した。

 身体中に雷の加護が付与された、その力の全てを足に集約して都市の中央へと向かった。

 

「どういう事や?!じぶん恩恵を持っとったんか?」

 

「いえ、精霊と仲がいいって事ですよ」

 

 物の数分で都市の中央へと着いた、そこには多くの観衆が居た、その中には冒険者も居たがどれも下級冒険者だった、漆黒を纏った猛牛(ミノタウロス)を前に全員が怯えていた。

 

 そんなミノタウロスがたった一人に当たりをつけた、その相手は恐らく神だ。

 黒髪をサイドで纏めたツインテールに蒼の瞳の少女の神様が襲われていた。

 

「まずい?!行かなきゃ!!」

 

「あれは…ドチビ!何してん、はよ逃げろや!!」

 

 怯えている?神様の叫びが聞こえるよりも早く僕は襲われている神様の前へと立ちはだかった。

 

 漆黒のミノタウロスが一柱の神を襲おうとしていた…そう、襲う直前でそれは終わった。

 雷霆の如き速さでその神の前へと行き、ミノタウロスの土手っ腹に重い蹴りをお見舞いした。

 

「大丈夫ですか!!」

 

「とっとと逃げい、ドチビ!!」

 

「ロキ?!なんで!」

 

「この子が助ける言うたんや、そうじゃなかったらウチかてお前を助けへんわ!!」

 

 そんな主神…ロキ様と一柱の神様の掛け合い漫才を繰り広げている所だった。

 

「あの…少し離れていて下さい、あれは僕が倒しますから」

 

「出来るんか…?」

 

「駄目だ?!見た所君はファルナを持っていないだろ!!ロキ、君の眷属はどうした?馬鹿みたいに強いだろ!」

 

「アカン、今は遠征中や、もうすぐ帰ってくるかもしれへんがそれよりもあのクソミノタウロスが人をぶち殺す方が速い」

 

 それを聞いたベルは即座に背負っていた大剣の封を時、その刀身を露わにした。

 白と金の装飾を施した雷鳴を彷彿とさせる大剣を見て確かに笑った、あのミノタウロスがベルの大剣を見て笑ったのだ。

 

「ブモモモォォォォォオ!!!!!」

 

 ミノタウロスの咆哮、それは咆哮(ハウル)となって辺りの冒険者や一般人を巻き込んだ。

 後ろの神様達も例外ではなく、その異様さに呆気にとられていた。

 

「あれはどう見ても強化種、不味いな」

 

 ミノタウロスとの距離は約10M(メドル)、僕にとっても相手にとっても一歩で行ける距離、速度では勝っていても不意打ちの一撃がノーダメな辺り剣系攻撃以外じゃだけだな。

 

 ミノタウロスの外皮はとても硬い、一度村の外れに現れたことがある、僕がまだ6歳の時に襲われた…、その時はお義母さんがとザルド叔父さん、お祖父ちゃんがミノタウロスよりも恐ろしい剣幕でミノタウロスを粉微塵した、あの時のお義母さんの福音拳骨(ゴスペルパンチ)は今でも忘れない。

 

「行くよジュピターさん、あれはまじでヤバい!!」

 

『分かっておる、全力で行くぞい!!』

 

 迸る電気が雷轟と成り代わった、その変化に一瞬身じろぎしたがすぐにこちらに突撃態勢を取ってきたミノタウロスと正対し、僕も大剣構えた。

 クロスレンジは山程ザルド叔父さんと練習した、突撃の瞬間に斬りつけてチェックメイドだ。

 

 

 爆音と轟音、漆黒を纏った突進を雷霆の剣が斬りつける、激突の直前で一気にギアを上げ、速度を上げた。

 

 ミノタウロスはその身体に大きな傷を負ったがその闘気は決して揺るぐ事はなかった。

 

 刹那、ミノタウロスが先程より尚早く僕に突撃してきた、化け物の突進を直前でいなしながらカウンターを決めようとするが、体格差、力で圧倒的に負けている僕はその一撃を喰らえば一発で終わり、ゲームセットだ。

 それが分かっているからこその一撃必殺、断言できる、こいつには知性がある、本能のまま攻撃する無垢のもさ怪物(モンスター)とは一線を画している、そんなモンスターとの均衡状態、幾ら雷霆を纏っていても簡単に躱すことは出来なかった。

 

 

「ぐはぁ?!」

 

 お腹に一撃、お義母さんの福音拳骨(ゴスペルパンチ)よりかは遥かに弱かったがそれでも致命傷、今の僕ではその一撃だけでも喰らえば終わりだった。

 

 都市の民家の一部を破壊を代償に僕はその衝撃を受け止めることが出来た。

 だが、その代償はデカく、あの一撃を食らって僕は立てなくやってしまった、強制的に意識が暗転する……僕が気絶する直前にジュピターさんの声が聞こえた。

 

(ごめんなさい………もう立てません……)

 

 意識が暗転する、直前にお義母さんの顔、ザルド叔父さんとの特訓、お祖父ちゃんとの笑い合った日々……あぁこれが死にたくないって奴なのかな?―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立て、立たねば殺すぞ』

 

 

 無慈悲な一声、だけど何度も聞いた、そしてそのたびに立ち上がっては抱き締められた、僕にとっては温かい言葉。

 

「なんで…心配で着いて来てくれたの?」

 

 目の前には雷の化身がいた、ロングドレスに長い髪、眼は閉じている、もう一人は全身に鎧を着ておりその風貌は正しく武人。

 

 そんな二人を見ていると、地べたに腰を着いていた僕の首根っこを掴んで立ち上がらせてくれた老父が一人。

 

「お祖父ちゃん……」

 

 

 その三人が僕の周りを囲っていた、守るように、不思議とさっきまでの痛みはなく、お腹の傷も治りかけていた。

 

「ありがとう…、また、助けてくれたんだね?」

 

 僕がそう言うと三人は優しく語り掛けるように僕の頭を撫でた。

 恥ずかしさが勝ったがそれでも嬉しかった。

 

「ありがとう…、もう一度力を貸してくれる?」

 

 僕がそう言うと、お義母さんの幻影が「当たり前だ」と言わんばかりに僕の方を見た。

 そうして僕の額にキスをしてその幻影は消えた、ザルド叔父さんの幻影は僕の背中を思いっ切り叩いて僕を前へと向かわせた。

 改めてミノタウロスと対峙した、その時、隣でお祖父ちゃんが僕を支えてくれた、嬉しかった、もう負ける気がしない。

 

「行くよ、お祖父ちゃん!ジュピター!!」

 

 雷霆の力が一気に解放された、万雷をもってミノタウロスに肉薄し、僕の大剣を思いっ切り振り抜いた。

 

 昔ザルド叔父さんに見せてもらった、僕の村に偶々小さな竜が来た時だった、僕は少し怯えたけどザルド叔父さんは笑いながら言った、『あの黒竜の方がよっぽど強かったぜ』

 

 そう一言、刹那、竜が断ち切られた、ザルド叔父さんは僕にその技の名前を教えてくれた。

 

残光(ざんこう)

 

 その一撃は極光と成りで道を切り開き、残光となってあとに続く者たちの道標となる。

 ザルド叔父さんが僕に教えてくれた、あの日のことを僕は忘れない。

 

 

(至るんだ!!じゃなきゃこいつは倒せない)

 

 

 身体中の力を全て大剣に込めた、大剣が悲鳴を上げた、だけど止まることは出来なかった。

 

 ごめんね、僕に君を砕かせてくれ。

 

 僕は剣に謝罪をしながらその刀身を振り抜いた、その雷は天へと昇り空を穿ち抜いた。

 その技の名は――

 

「【残光(ざんこう)】ォォォォォォォォォォオオオオ!!!!!」

 

 その一撃をもってミノタウロスを殺した。

 その時、僕の周りにはお義母さんとザルド叔父さんが居た、僕の事を抱き締めて、頭を撫でてくれた。

 

 ありがとう、二人のお陰で勝てたよ――

 

 遠くにはお祖父ちゃんが居た、神様達の後ろで満足そうに僕を見ていた、やっぱりお祖父ちゃんは変わらないな、都合のいい幻影でさえやっぱりお祖父ちゃんはお祖父ちゃんだった。

 

「ありがとうお祖父ちゃん、お義母さん、ザルド叔父さん、ありがとうね、ジュピター」

 

『なぁに、当然の事をしたまでた』

 

 そうして僕の意識は暗転した、今度こそ勝利の気絶、本当に力の全てを使い果たした僕を神様が優しく受け止めてくれた。

 

「頑張ったな、少年」

 

 

 弱者は言った―――

 

「自分よりも小さい奴がミノタウロスを倒しちまった」

 

 強者は言った―――

 

神の恩恵(ファルナ)も無しにあの強化種のミノタウロスを倒しちまった、ありゃ化け物だ」

 

 神々は驚いた―――

 

「あれではまるで、(いにしえ)英雄達(バケモノ)じゃないか?!」

 

 

 英雄の意志を継いだ少年は今日、この日胎動した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 英雄を見た、自分よりも遥かに強いモンスターを相手に彼は神の恩恵を用いずに戦っていた。

 止めないと、すぐに助けないと……、そう思っても身体が動かなかった、その戦いを観ることしかできなかった。

 

 ミノタウロスの強化種、私達【道化の眷属(ロキ・ファミリア)】が上層で発見し、そしてミノタウロスは奇跡の様に、何かを求める様に地上へと這い出た。

 

「アイズ…、すごいよあの子?!アルゴノゥト見たい!!」

 

 英雄譚に出てくる一人の英雄、私も知っているし、何より隣にいる…ティオナが大好きな英雄譚だった。

 

「あれは…どこかで見たことがあるような…」

 

 私はあの子を知っている、そんな気がした。そして……

 

 

「勝ちやがった、あのミノタウロスに」

 

 ベートさんが驚いて声を上げた、推定レベル4のミノタウロスをファルナを持たない、自分よりも年下の少年が倒した。

 私は凄く悔しかった、私では勝てない相手に、あの子は…勝ったのだから。

 

 ミノタウロスを気留められず、地上への進出を許したのは私達の不手際、それは分かっている、だけど……

 

「あれが……英雄…」

 

 私は英雄が嫌いだ、私の前には英雄なんて現れてくれなかったのに……。

 

 これは私の我儘だ、あの子は私達の尻拭いをしてくれた、本来なら感謝しなければならないのに……私はそれができなかった。




今作のベルキュンは原作よりも三年早くオラリオに訪れました。
 つまり、半年でレベル5に至ったベルキュンが三年でどれだけ強くなるのか、それをお楽しみに。
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