【CERO-Z】P-LUG-MATTER (ぷ らぐ またぁ) 〈ふと気が付いたら、月で出会った少女とその運命を背負い続けることになっちゃった件〉   作:をよよ

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P-LUG-MATTER(ぷらぐまたぁ)

「背負い続ける。君と、君との運命を」

それなら「PRAGMATA」じゃなくて「P-LUG-MATTER」じゃね?
と着想を得て書き始めた、PRAGMATA本編(デフォルトエンド)を前提とした再編ストーリーです。

【あらすじ】
――墓所(CEMETERY-CLOCHE)。

そこは、月に捨てられた“死者だったモノ”たちの保管区画。

わんこBoTに導かれたポラックスとレナは、PURE計画の成れの果てと遭遇する。
そして、資源再生プラントの最深部で出会ったのは――
「ベネディクト博士の娘」を名乗る、一人の少女だった。

崩壊する隔離セクター。
閉鎖される隔壁。
迫る真空処理のカウントダウン。

その時ポラックスが選んだのは、
“誰かを救うこと”ではなく、レナを壊させないことだった。

これは、
月に遺された亡霊たちの物語。

【各種ご注意】
※PRAGMATAロスの方向け
※オリキャラ。完全シリアスです
※CERO-Z相当:極端な暴力・人体損壊・子供トラウマ描写あり
※PRAGMATA本編(デフォルトエンド)を前提とした二次創作
※独自設定・独自解釈多数
※ホラー・SFサスペンス・ボディホラー要素あり
※執筆に当たっては生成AIを活用しています


【第4話】墓所区画 〈 REAUTH 04 @ CEMETERY-CLOCHE 〉

 避難シェルター内の冷え切った空気。加水式加熱剤が放ったチキンカレーのスパイスの残り香が、かすかに漂っている。

 その薄暗がりの中で、レナは小さく身震いをして目を覚ました。

 

 ゆっくりと開けた彼女の視界に最初に飛び込んできたのは、重装甲の巨体を不器用に屈め、床の『何か』と格闘しているポラックスの背中だった。

 

「ガルルルル……、キャン、キャン!」

 

 真空に近い壁越しに、電子的なノイズの混じった小さな犬の鳴き声が漏れ聞こえてくる。

 

「……ん……。ポ……? なにしてるの……?」

レナはまだ眠気の残る目をこすりながら呟いた。

 

「レナ、目を覚ましたか。……動くな」

ポラックスは背中を向けたまま、低く硬い声で応じる。

「エリア内に未承認の自律動体が侵入した。現在、捕捉(キャプチャー)を試みている」

 

見れば、ポラックスの太い鉄の指先が、床を素早く駆ける小さな影を掴もうとしてはスカッと空を切っていた。

影の正体は、ディロス社製のペット型BoT『パル・パピー(三型仕様)』だった。経年劣化のせいか、フェイクファーの皮膚はところどころ剥げ落ち、内部の精密フレームやサーボモーターが痛々しく覗いている。それでも、尻尾のプロペラだけは健気に激しく回転していた。

 

「ウゥゥ、ワン! ワン、ワン!」

わんこBoTは、ポラックスのパワードスーツから発せられる機械用タグ(B-tag)を検知すると、警戒も露わにプラスチック製の歯を剥き、ウインウインとサーボを軋ませて威嚇する。

 

(こいつ。躾(学習)ができていないな。リセットコマンドを送信——)

ポラックスが冷徹に再び手を伸ばした、その瞬間だった。

わんこBoTは鋭く跳び上がると、ポラックスの指をガブッと力任せに噛みついた。チタン合金の外殻には傷一つ付きはしないが、ポラックスの制御サーボが驚きでカチリとロックする。

 

「……ッ! 噛みやがった!」

 

「……あ、わんわんだ! かわいい……!」

膝を抱えたまま、レナの目が一瞬でキラキラと輝き出した。

 

「危ない! 手を出すな、レナ!」

ポラックスが鋭く振り返る。

 

しかし、その警告を無視して、レナはトコトコと四足で床を這うように近づいていった。

すると、ポラックスにあれほど牙を剥いていたわんこBoTが、ピタリと威嚇を止めた。その小さなレンズアイが、まっすぐにレナへと向けられる。

 

『ピポッ!』と、小さなスキャン音が静かなシェルターに響く。

次の瞬間、わんこBoTは尻尾のプロペラを最高速度で回転させると、弾かれたようにレナの足元へ突撃した。そして、甘えるように彼女の膝へ頭を激しく擦り付け始める。

 

「あはは! あったかい!」

レナはくすぐったそうに声を上げて笑い、わんこBoTを両腕でぎゅっと抱きしめた。

「ポには怒ってたのに、私にはいい子だねぇ」

 

「キャン、キャン! クゥーン……」

わんこBoTは嬉しそうに声を弾ませ、レナの顔面をシリコン製の舌でペロペロと激しく舐め回す。

 

「…………」

差し出した手を中空で止めたまま、ポラックスは完全にフリーズしていた。

 

「ねぇ、ポ!」

わんこBoTの耳の後ろにある小さなギヤを優しく撫でながら、レナが言った。

「この子も一緒に連れていってもいい? 一人で寂しかったんだよ、きっと」

 

「却下だ。不確定要素が増える」

ポラックスは即座に立ち上がり、いつもの冷淡な軍人の声に戻る。

「……レナ、そいつから離れろ。君が『対象(ターゲット)』としてラベリングすれば、私の電磁銃(レベル3)ですぐに動作停止にできる」

 

それを聞いたレナは、わんこBoTを自らの小さな背中に隠すようにして庇い、ポラックスをキッと睨みつけた。

 

「嫌! 絶対ダメ! すぐそうやって壊しようとするんだから! ……もしこの子をいじめたら、私、もうポのこと『お父さん』って呼ばないからね!」

 

「……それは元より任務外のロールプレイだ」

 

「それだけじゃない! ポのこと、これからは【プ】って呼ぶから!」

 

「……プ!?」

想定外の音節に、ポラックスの思考がわずかに引っかかる。

 

「そう、プ! ロボットのプ!」

レナは大真面目な顔で小さな人差し指を突きつけた。

「お堅くて、冷たくて、いうこと聞かないから、プ!」

 

「……私は冷静沈着な特務警備員だ」

 

「うん」

 

「……感情的な判断はしない」

 

「うん」

 

「……よって、その呼称に傷つくことはない」

 

「じゃあ、プでいいよね!」

 

「ワン!」

まるでレナの言葉に調子を合わせるように、わんこBoTが元気よく吠えた。

 

「……好きにしろ」

ポラックスのヘルメットから、排気音のようなため息が漏れる。

 

「やったー! 物分かりがいいね、プ!」

一瞬で満面の笑みになったレナが飛び跳ねる。

 

「……私はポラックスだ」

 

「バフッ!」

わんこBoTは満足したようにレナの腕からすり抜けると、シェルターのハッチの隙間へとトコトコと走り寄った。そして、少し離れた場所で立ち止まり、首を傾げて二人を振り返る。

 

「ワン、ワン!」

こっちだよ、と呼ぶように小さな前脚を床に鳴らす。

 

「ねえ、ポ……じゃなくてプ。あの子、どこかに私たちを連れていきたいみたい。ほかのお友達がいるのかも!」

 

ポラックスは釈然としないまま、電磁銃のシリンダーを確認した。

「……ペットBoTは、基本的に“飼い主”の位置へ戻ろうとする帰巣本能がプログラミングされている。避難区画か、給電設備か……何かが先にある可能性は高い」

 

「ワン!」と、わんこBoTがもう一度促すように吠える。

 

「……わかった。先導を許可する。だが少しでも異常行動を見せたら、即座に排除する」

 

「うん! ありがとう、プ!」

 

「……行くぞ。私の後ろを離れるな!」

 

---

 

わんこBoTの軽快な金属の足音に導かれ、細長いバックヤード通路を抜けた二人。

辿り着いたのは、天井の見えない巨大な吹き抜け空間だった。

しかし、これまでの区画とは雰囲気が全く異なっていた。空気は不自然なほどに乾燥し、どこか焦げ付いたような、嫌に金属的な臭気が周囲に漂っている。

 

 `『……唄え、わたしは唄う、銀の荒野に築かれし揺籃を……』`

 `『……光を束ね、天へと返す者たちの業を……』`

 

頭上の暗闇から、激しく混線したノイズと共に、少女とも老婆ともつかない不気味な唄声が響いてきた。まるで錆びついたオルゴールのようにかすかに、そして延々と響き渡っている。

 

「……ねぇ、プ。ここはどこ? なんだか……とっても静かだけど、ヘンな匂いがする」

レナは不気味な歌声に身を縮め、ポラックスの装甲の裾をぎゅっと握り締めて周囲を見回した。

 

「……墓所だ」

周囲に環境センサーを走らせながら、ポラックスが感情のない声で告げる。

 

 `『……純粋と呼ばれしその環は、昼なき月に太陽を飼い慣らし……』`

 `『……人の手にて星の火を飼う、傲慢なる約束であった……』`

 

「ぼしょ……? お墓、なの? パパやママのお葬式をしたときみたいな、お花がある場所?」

 

「いや。現在は葬儀(プロトコル)は行われていない」

 

 `『……其の時、天は応えた……』`

 `『……燃えさかる粒子の嵐が、見えざる矢となりて降り潅いだ……』`

 

「し、死んだ人がいるの……?」

レナの声が怯えに震える。

 

「かつてはそうだった」

ポラックスはレナを背後に庇いながら、ゆっくりと中央のフロアへ進み出た。

 

 `『……導かれし光は、道を違え……』`

 `『……大地へ帰る筈の輝きは、眠れる者らの揺籃を射抜いた……』`

 

ポラックスのタクティカルライトが闇を切り裂き、照らし出したのは――整然と並ぶ、無数の灰色の『ガラス質のカプセル』だった。

それらはビタミンサプリのカプセルほどの小さな大きさで、壁面に沿って何千、何万と、まるで蜂の巣のように無数に埋め込まれている。

そして、そのすべてのカプセルの表面には、小さな電子インジケーターが埋め込まれ、一律の【真紅の文字】が虚しく明滅を繰り返していた。

 

`…… ILM: Daisy Benedict ; Apr26,2051 - Apr17,2062 ; (A10Y) RIP. ……`

 

「……これ、なぁに? 小さな文字がいっぱい動いてる」

レナがカプセルに近づこうとして、ふと足を止める。

 

「石ころだ」

 

「いしころ?」

 

 `『……見よ、静かなる焼灼を……』`

 `『……皮膚は無傷にして、内なる海は煮え……』`

 `『……臓腑は声なき炎に抱かれ、名もなき病と呼ばれ、其れを否定した……』`

 

「死者だったモノだ」

ポラックスの言葉には、一片の揺らぎもない。

 

「……これだけ? たったこれだけ?」

 

 `『……子らは先に倒れた……』`

 `『……小さき器は、光を多く宿しすぎたゆえ……』`

 

「月には墓地を作る余裕がない。全てリサイクルされる。残った物質だけが焼成され、こうして保管される」

 

「……ひどい……」

レナが小さく息を漏らす。

 

 `『……母らは唄を失い、父らは言葉を失い……』`

 `『……ただ機械のみが、正しき手順を繰り返した……』`

 

「クゥーン……」

悲しむレナの足元で、わんこBoTが心配そうに鼻を鳴らした。彼女のポンチョの裾をクイクイと引っ張る。

そして、吹き抜けのさらに奥――巨大な循環パイプが複雑に入り組んだ『資源回収再生プラント』の暗闇へと、再び走り出した。

 

 `『……ベネディクト、その名は忘れられし預言者……』`

 `『……彼は見た、光の誤りを、計算の欺きを……』`

 

「あ……わんわん、待って! ……プ! あの子、まだ奥へ行こうとしてる」

レナは涙を拭いながら叫んだ。

 

ポラックスは電磁銃を構え、ノイズまみれのHUDの最下層を睨みつける。

「……この先はプラントの心臓部だ。私から離れるな、レナ」

 

 `『……されどその声は封じられ、彼の席は遠ざけられた……』`

 `『……彼は嘆き、そして創った……失われし名を呼ぶために……』`

 

頭上から響く不気味な唄声は、二人が前進するにつれて、徐々にその音量を増していく。

二人は『死者だったモノ』の沈黙に包まれたカプセルの壁を通り抜け、さらなる深淵へと足を踏み入れた。

 

---

 

 `『……焼け落ちた魂の形をなぞり、娘に似せた器に、終わらぬ夜を宿した……』`

 `『……誰が呼ぶ、其の名を……選ばれしものでも、与えられしものでもない……』`

 

赤黒く加熱された数条の循環パイプが、巨大な大樹の根のように床や壁をのたうち回っている。アンモニア混じりの高熱の蒸気がプシュー、プシューと規則的な音を立てて噴き出していた。

 

その時、頭上から響いていたあの不気味な唄声が、突如としてプツリと途切れた。

代わりに、細く震える「少女の声」が、プラントの全方位スピーカーから直接漏れ聞こえてくる。

 

『……だれ、か……そこに、いるの……? お願い、助けて……!』

 

「プ! 今の声……! 女の子の声が聞こえたよ!」

レナが目を丸くして、ポラックスの腕を引っ張った。

 

「動体反応を検知。前方15メートル、有機物リサイクル用の高圧分解パイプ群の中心だ」

ポラックスは電磁銃を正面に構えたまま、CCDの感度を絞る。

 

ポラックスのタクティカルライトが放つ強烈な白光が、複雑に絡み合う太いパイプの隙間を射抜いた。

そこにいたのは、金属製の拘束アームと無数の太いケーブルによって、まるで巨大な蜘蛛の巣に捕らえられたかのように身動きを封じられている、一人の端正な美少女の姿だった。

彼女はレナと同じような気密ポンチョを羽織っており、突如向けられたライトの光に眩しそうに目を細める。

 

「あ……! 人間……? よかった……! 暴走した作業BoTたちの仲間かと思った……!」

 

「大変! パイプに捕まっちゃってる! 今助けてあげるからね!」

レナがポラックスの影から飛び出し、パイプの側へ駆け寄ろうとする。

 

しかし、ポラックスのHUDに流れるスキャンログは、異常な結果を弾き出していた。

(おかしい。タグが読めない。P-tagもB-tagもない……)

 

ポラックスはレナのポンチョのフードを強引に掴んで引き戻し、銃口をその少女に向けたまま冷酷に言い放った。

「待て、レナ。前進を禁止する」

 

「ちょっと、プ! なんで銃を向けるの!? 可哀想でしょ、女の子なんだよ!?」

 

「……質問する」

ポラックスの仮面が冷たくエイダを捉える。

「個体識別子(PID)、および氏名を提示しろ」

 

「私の名前は……エイダ」

少女――エイダは瞳に涙を浮かべ、弱々しく首を振った。

「ベネディクト博士の、娘です……。ここに攻めてきた『異形の化け物』たちに捕まって、タグモジュールを無理やり引きちぎられちゃったの……。だからシステムが私を認識できなくて……」

 

「……ベネディクト!?」

 

「お願い、セキュリティのおじさん……私を疑わないで。あいつらは、私をあの恐ろしいゴミ処理スロットに放り込もうとしたの。だけど、このプラントの管理AI『リンセウス』が暴走して、私を『未分別のジャンク』としてここに閉じ込めちゃった……。管理AIを止めないと、私、このパイプの中で干からびて石ころになっちゃう……!」

 

「プ! おねがい!」

レナがポラックスのヘルメットを見上げて、泣きそうな声で懇願する。

「この子、ベネディクト博士の娘さんなんだって! パバから聞いたことあるもん、すごいお医者様の名前だもん! 嘘じゃないよ、助けてあげて!」

 

(PURE計画・生命維持系主任研究員。月面適応障害により死亡……データベース上ではそうなっているはずだが……)

ポラックスは電磁銃をわずかに下げた。

「……ベネディクト博士の娘だと言うなら、証明してみせろ。その拘束アームを解除するコード、あるいは管理AIへのアクセス権限だ。お前なら何か知っている筈だ」

 

エイダは瞳の奥を妖しく光らせ、レナに向かって可憐に微笑んでみせた。

「……ええ、知っています。私をこのパイプから出してくれたら、管理AIの機能を一時的に停止(ハルト)させるための『裏コード』を、あなたたちに教えてあげる。そうすれば、基地の全ての隔壁が開いて、みんなで地球へ帰れるわ……!」

 

「本当!? すごい! プ! 早くあのパイプを壊してあげて!」

レナが嬉しそうに飛び跳ねる。

 

「……了解した。物理的に介入する」

ポラックスは電磁銃をホルダーに収め、油圧サーボを駆動させて一歩を踏み出した。

 

「ウゥゥ……」

その時、わんこBoTがエイダに向かって低く唸り声を上げる。

 

「しっ! いい子だから静かにして!」

レナがそれを宥める。

 

ポラックスが重装甲の腕を伸ばし、エイダを拘束しているチタン製アームのロック機構に触れようとした――その瞬間だった。

プラント全体の照明がパッと激しい【警告の真紅(レッドアルファ)】へと反転した。

 

――ガシャァァァン!!

 

二人が入ってきた背後の二重隔壁が、凄まじい質量音を立てて完全に密閉される。同時に、頭上のスピーカーから、ノイズまみれの、しかしおそろしく冷徹な管理AIの合成音声が響き渡った。

 

『——警告。警告。エリア内に、未承認の【動的不整合物質】の立ち入りを検知しました。当該セクターは現在、最重要危険個体の【隔離区域】に指定されています』

 

「う、わああっ!? プ! またあのヘンなAIの声がするよ!」

突然の赤い光と大音量に、レナは耳を押さえてポラックスにしがみつく。

 

『これ以上の汚染拡大を防止するため、これよりセクター04の【物理的強制閉鎖プロトコル(デトネーション・ハルト)】を執行します。……全排気弁を開放。カウントダウンを開始。30、29、28……』

 

「チッ、リンセウスの野郎、プラントの空気を抜いて空間ごと私たちを圧殺する気か!」

ポラックスは即座に腕を引き、HUDに表示される空間データをスキャンした。

「レナ、衣服の気密層を!」

 

「おじさん、早く! 早く私をここから出して!」

パイプに囚われたまま、エイダが狂ったように叫ぶ。

「私の胸のポケットの中に、管理AIの機能を止めるためのマスターキーコードが書かれたデバイスが入っているの! それさえあれば、カウントダウンを止められるわ!」

 

「プーッ! 急いで! あと20秒しかないよぉ!」

 

その時、プラントの壁面ハッチが勢いよく開いた。

リンセウス直轄の大型警備BoTが3体、アームに電磁高周波ブレードをバチバチと震わせながら躍り出てくる。彼らのセンサーは、侵入者をジャンクとして排除するための赤色に染まっていた。

ポラックスは電磁銃を引き抜こうとするが、相手が『基地の正規警備BoT(B-tag)』であるため、パワードスーツのシステムが非情なエラーを返す。

 

「……クソ! 『同士討ち』判定か?! 銃のロックが外れない!」

 

『……18、17、16……。汚染物質の清浄化まで、残り15秒……』

 

「……やむを得ない」

ポラックスは電磁銃をホルダーへ叩き込み、両拳を強固に握り締めた。

「ラベリング不要の【レベルコンマ5(対BoT拘束戦闘術)】で突破する! ──レナ、そこを動くな!」

 

「待て! 私を置いていく気!? 約束が違うわ! 私を助けなさいよ、この木偶の坊!!」

エイダの端正な美少女の顔が一瞬、おぞましい憎悪に歪み、その喉から掠れた金属ノイズが漏れた。

だが、迫り来る警備BoTのブレードが、非情にもポラックスの視界を塞ぐ。

 

「時間を稼ぐ! レナ、お前はあの子の元へ走れ! ポケットのデバイスを回収しろ!」

ポラックスは油圧モーターを最大駆動させ、突進してくる1体目の警備BoTのアームを強引に掴み取った。

 

「う、うん! わかった! わたし、やってみる!」

恐怖で脚をガタガタと震わせながらも、レナはポラックスの戦う姿を見て必死に叫んだ。

彼女はわんこBoTを伴い、警備BoTの巨体の隙間を縫って、必死にエイダが囚われている高圧パイプ群の奥へと駆け出していった。

 

カウントダウンの数字が、真紅の空間に非情に刻まれていく──。

 

『……9、8、7……』

 

プラント内の大気が急速に排気され、衣服の気密層がピキピキと音を立てる。

真空の死が迫る空間で、レナはベースの奥で必死にエイダのポケットへ手を伸ばしていた。しかし、焦りから小さな指先は滑るばかりで、どうしてもデバイスを掴めない。

 

「とれない、とれないよ! ポシェットが固くて開かないのぉ!!」

レナが泣き叫ぶ。

 

「早くしなさいよ旧型のガキ! 爪を剥いででも引きずり出しなさい! 死にたくない、私は自由になるのよ!!」

エイダは美少女の顔を醜く引き歪ませ、レナの手首を金属的な力で激しく掴み返した。

 

「痛いっ! はなして、はなしてぇ!」

掴まれた痛みに、レナが顔をしかめる。

 

『……4、3……』

 

「──そこまでだ! 退避する!」

背後で2体の警備BoTを強引に引き剥がし、限界駆動のサーボを異音とともに鳴らしながら、ポラックスが叫んだ。

 

ドスッ!というチタンの踏み込み音。

ポラックスは弾弾のように突進すると、エイダが掴んでいたレナの手首を、レベルコンマ5の非情な力で強引に引き剥がした。そのままレナの小さな身体を横抱きに抱え、猛然とダッシュする。

 

「ポラックス! レナ! 私を置いていくな! 戻れ、戻りなさい! この空っぽの人形風情がぁあ!!」

背後に残されたエイダが、狂った電子パケットと人間の生声を混線させて絶叫する。

 

『……2、1、0。……セクター04、完全閉鎖(ハルト)』

 

――ドンッ!!!

 

凄まじい風圧と衝撃音が炸裂した。

ポラックスがレナを抱えたまま、プラント外縁の緊急脱出ハッチへと滑り込むと同時に、背後の50センチ厚の鉛蒸着隔壁が猛烈な勢いで閉鎖された。

直後、ハッチの覗き窓の向こうで、資源再生プラントの全電力が一斉にカットされ、エイダの絶叫ごとすべてが暗黒の底へと沈んでいくのが見えた。

 

---

 

「エイダ! エイダぁあ!! なんで、なんで助けなかったのプーッ!」

レナはハッチのガラスを叩き、狂ったように泣き叫んだ。

「あとちょっとだったのに、わたしが、わたしがグズだったからぁあ!!」

 

極限の恐怖と、目の前で少女を見捨ててしまったという底なしの罪悪感。レナの小さなバイタルサインが危険域(レッドゾーン)を突破し、過呼吸によって衣服の酸素インジケーターが激しく点滅し始める。

 

「……レナ! 見るな! 聴くな!」

 

「いやだ、放して! あのこが、あのこが中で石ころになっちゃうよぉお!!」

 

(錯乱状態。これ以上の視聴覚刺激は危険だ……!)

ポラックスは泣き暴れるレナの身体を、自らの白い重装甲の胸へと強引に抱き寄せた。

冷たい鉄の装甲。しかしそれは、外界のあらゆる衝撃を遮断する、絶対的な盾だった。

 

そして、ポラックスの太いチタンの掌が、レナのヘルメットを左右からそっと包み込む。

次の瞬間――。

 

……ゴォォォォォォォォォ……

 

ポラックスの胸部排気ファンの低い駆動音が、ヘルメット内部を満たした。

基地の不快な警報音も、エイダの呪詛の言葉も、レナ自身の泣き声さえも、その重い排気音の奥へとかき消されていく。

 

(……え……?)

世界から、恐ろしい音だけが綺麗に消えた。

残されたのは、規則正しい排気音と、額越しに伝わってくる油圧モーターの静かな振動――まるで心臓の鼓動みたいな、「トン、トン」という確かなリズムだけだった。

 

「……目を閉じろ。口を閉じろ」

ポラックスは音声遮断(ミュート)を維持したまま、インカムの低周波だけを彼女へ直接流し込む。その声は、驚くほど静かだった。

「……ゆっくり鼻で息を吸え。……息をした数を、それだけを数えるんだ」

 

レナは排気音と胸の振動だけが残った静かな世界で、涙をぽろぽろと零し続ける。

 

「……お前は悪くない」

ポラックスの低周波が、彼女の耳条を優しく震わせる。

「……レナ。次の避難先を確保した。そこは、明るく、安全な場所だ」

 

ポラックスはレナの小さな身体を抱えたまま、ゆっくりと立ち上がった。

足元では、生き残ったわんこBoTが「クゥーン……」と小さく鼻を鳴らしながら後を追う。

 

ハッチの向こうの暗黒へ背を向け、ポラックスは冷たいチタンの床を踏み締めた。

向かう先は、かつてPURE計画の栄華を展示していた『ディロス社・広報展示ホール(PURE展示館)』――。

 

静まり返った薄暗い回廊へ、二人と一匹の影がゆっくりと消えていった。




【Pixivからの転載です※】
転載元: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28201966
※転載に当たっては、文体等を変えています
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