火属性貴族の俺、ステータスオープンしたら適性値が「ふぃっしゅ数」だったので追放されました 〜ふぃっしゅ数がクソデカ巨大数だと痛感したらもう遅い〜 作:元近ちか
成人の日。
それは、この世界に生まれた者が、初めて己の価値を数字で突きつけられる日である。
王都の大聖堂には、今日も15歳を迎えた少年少女たちが列を作っていた。貴族も平民も関係ない。神の前では皆平等──という建前のもと、神父が水晶球に手をかざし、淡々と声を響かせる。
「次。フィッツ・フレイムベル」
呼ばれた少年が、一歩前に出た。
赤毛。整った顔立ち。いかにも火属性の名門貴族です、という顔をしている。
代々、強力な火属性魔法の使い手を輩出してきた名家、フレイムベル家の長男である。
背後では、父パッパーロが腕を組み、厳しい目で息子を見ていた。
「分かっているな、フィッツ」
「はい、父上」
「我がフレイムベル家は炎の名門。お前には、最低でも火属性適性80以上を出してもらわねば困る」
「はい、父上」
「100ならば宴だ。120ならば王宮に報告する。150ならばその場でお前を次期当主と認める」
「はい、父上」
「70以下なら親子の縁を考え直す」
「はい、父上」
最後だけ重くないですか、とは言えなかった。
フィッツは水晶球の前に立つ。
この教会で1番に偉い神父が片手を掲げた。
「では、神の御前にて、汝の才を開示する。心を静め、己の内なる力を受け入れなさい」
大聖堂が静まり返る。
フィッツは深呼吸し、水晶球へ手を置いた。
次の瞬間、水晶球が赤く輝いた。
「おお……!」
誰かが声を漏らす。
赤い光。
それは火属性の証。
しかも光は強い。水晶球の中で炎のように揺らめき、天井に赤い反射を走らせた。
パッパーロの口元がわずかに緩む。
「ふん。当然だ」
神父が水晶球に命令する。
「ステータスオープン!」
筋力:32
素早さ:29
耐久:35
知力:31
魔力:40
炎適性:ふぃっしゅ数バージョン1
水適性:22
土適性:19
雷適性:33
風適性:28
光適性:81
闇適性:30
「……ん?」
誰もが目を細める。
もう一度見る。
しばらく、誰も喋らなかった。
しかし、誰からともなく囁き始める。
「……ふぃっしゅ数……?」
「魚……?」「誰それ……?」「外人……?」「歌……?」
その炎適性を見て、わなわなとパッパーロが震えた。
そして、手近な壁をドン! と叩き、神父に怒鳴った。
「ふざけるな!」
「い、いえ、ふざけてなどいません! これが神からのお告げでして……」
「ウソをつくな! なんだこのふぃっしゅ数などというふざけた名前を! こんな数字があるものか!」
パッパーロがツバを飛ばして糾弾する。
「ええい、お前では話にならん! 別だ! 別の神父を呼べ!」
「は、はぁ……」
すごすごと1番目の神父が引き下がり、別の神父が出てきた。
その胸には、「1/2」と刺繍されている。
「1/2番目神父です」
「その1/2番目はなんだ!?」
「パッパーロ様。教会では神父ごとに階級があるのです。
先程の神父様は1番目に偉い方でした。私は1/2番目に偉いのです」
「順位づけは整数じゃないのか!?」
怒るパッパーロをよそに、1/2神父が言葉を放つ。
「ステータスオープン!」
筋力:32
素早さ:29
耐久:35
知力:31
魔力:40
炎適性:ふぃっしゅ数バージョン1
水適性:22
土適性:19
雷適性:33
風適性:28
光適性:81
闇適性:30
「同じではないか!」
「はい。セカンドオピニオンで最初の診断と一致するのは7,8割ほどとされていますので」
「なんの話だ!? ええい、貴様もアテにならん!」
パッパーロが叫ぶと共に、大聖堂の奥から扉が開く。
胸の刺繍は「1/4」と縫われていた。
「1/4番目神父です」
「だから何故分数が出る!? そして何故半分になっていく!?」
「ステータスオープン!」
「ええい貴様もアテにならん! 次!」
「1/8番目神父です」
「次!」
「1/16番目神父です」
「次!」
「1/32番目神父です」
…………。
「1/2ⁿ番目神父です」
「ぜえ……ぜえ……」
パッパーロは肩で息をしていた。
大聖堂には無限の神父が小さくなりながら存在しており、1/2ⁿ番目神父は針の先で1/2⁽ⁿ⁻¹⁾番目神父や1/2⁽ⁿ⁻²⁾番目神父などと踊っていた。
「くそう、どうして整数ではないのだ……!」
「もしやパッパーロ様……整数番目の神父をお望みなのですか?」
「ワケのわからん番号の神父など信頼できん! 理解できる神父をよこせ!」
「承知いたしました」
すると神父たちはカッ! と光に包まれた。
全ての神父たちが
「2番目の神父です」
「さあ! 今度こそマトモな数字を出してみろ!」
「ステータスオープン!」
筋力:32
素早さ:29
耐久:35
知力:31
魔力:40
炎適性:ふぃっしゅ数バージョン1
水適性:22
土適性:19
雷適性:33
風適性:28
光適性:81
闇適性:30
「…………」
パッパーロはその場にうずくまった。
周囲がざわざわと騒ぐ中、パッパーロはゆらりと立ち上がる。
「火属性適性とは……普通は整数で出るものだろう! 80とか、100とか、120とか!」
「はい。通常はそのように表示されます」
「ではこれは何だ!」
「ふぃっしゅ数バージョン1です」
「説明になっておらん!」
「私にも分かりません」
「分からんのか!」
「はい」
「分からんものを神託として読むな!」
「しかし、表示されていますので」
2番目の神父は申し訳なさそうに言った。
その態度が、余計にパッパーロの怒りを煽った。
周囲の貴族たちがひそひそと囁く。
「フレイムベル家の長男が……ふぃっしゅ数などというおかしな数値を……」
「火属性の名門なのに……」
「お気の毒に……」
フィッツは顔を真っ赤にした。
火属性だからではない。恥ずかしいからだ。
「父上、あの、これはきっと何か意味が──」
「黙れ」
パッパーロの声は冷たかった。
フィッツの言葉が喉で止まる。
父はゆっくりと振り返った。
その目には、失望と怒りが混じっていた。
「フィッツ」
「はい」
「私はお前に期待していた」
「はい……」
「幼い頃から剣を教え、礼儀を教え、貴族としての振る舞いを教えた」
「はい」
「火属性の名門にふさわしい男になれと、何度も言ってきた」
「はい、父上」
「それがなんだ! ふぃっしゅ数とはなんだ!」
パッパーロは水晶球を指差した。
「ふぃっしゅ数バージョン1とは何だ!」
「僕にも分かりません!」
「分からんでは済まされん!」
パッパーロは一喝する。
「フレイムベル家の歴史に、こんなふざけた数値を出した者はいない」
「父上……」
「我が家は炎の家系だ。炎とは誇り。炎とは力。炎とは王国を照らす栄光の象徴だ!
お前のような分からんものを家に置けるか!」
パッパーロは深く息を吸った。
「フィッツ・フレイムベル」
父の声が、聖堂に響く。
「お前は今日限り、フレイムベル家の者ではない」
フィッツの顔から血の気が引いた。
「父上……?」
「そのような意味不明な適性を持つ者に、我が家の名を名乗らせるわけにはいかん」
「お待ちください! 僕はまだ何も──」
「何もせずにこれなのだ!」
パッパーロはマントを翻した。
赤い裏地が炎のように揺れる。
そして、断罪するように指を突きつけた。
「出ていけ、フィッツ」
一拍置いて、彼は叫んだ。
「お前は追放だ!」