火属性貴族の俺、ステータスオープンしたら適性値が「ふぃっしゅ数」だったので追放されました 〜ふぃっしゅ数がクソデカ巨大数だと痛感したらもう遅い〜   作:元近ちか

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第4話 ついに唸るぜ! 火属性魔法!

「クックック……」

 

 魔王が、不敵に笑った。

 崩れたはずの黒い霧が、玉座の前でゆらゆらと揺れる。

 

「なっ……まだ生きてやがるのか!」

 

 大剣男が剣を構え直す。

 

 だが、黒い霧はもう人の形を保っていなかった。

 魔王の肉体は、確かに滅びかけている。

 

「見事だ……人間ども……。まさか、この我が……光で討たれるとはな……」

「悪いけど、もう終わりだ」

 

 フィッツが光の残滓をまとった手を下ろす。

 魔王の霧が笑った。

 

「終わり……? クックック……愚かな……」

 

 その瞬間。

 床の赤い紋様が、再び光った。

 

「なにっ!?」

 

 天井に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣は天井を突き抜け、魔王城を突き抜け、夜空へと広がっていく。

 

「まさか……!」

 

 回復術師の女性が青ざめた。

 

「最後の魔法、メテオ……!」

「その通りだ」

 

 空が震える。

 遠くで、轟音が響いた。

 

 玉座の間の崩れた天井から、夜空が見えた。

 そこに、赤い点がある。

 

 小さな赤い点。

 それは徐々に大きくなっていく。

 赤く燃えながら、尾を引いて落ちてくる。

 

「隕石……!?」

 

 カシコーイが割れたメガネを握りしめたまま、呟いた。

 

 彼には分かった。あれは、避けられる規模ではない。

 この世界の地図そのものが、意味を失う規模だ。

 

「クックック……もう遅い……。我を倒しても……星は止まらぬ……」

 

 黒い霧が薄れていく。

 

「この世界は……我と共に……滅びるのだ……!」

 

 魔王の声が消えた。

 今度こそ、黒い霧は完全に散った。

 

 だが、誰も勝利を喜べなかった。

 空には隕石がある。

 

「おいおいおいおい!

 どうすんだよ、あれ!」

「逃げる?」

「どこへよ!」

 

 逃げてどうにかなる規模ではない。

 

 カシコーイの手は震えた。

 あの大きさの隕石、計算するまでもない。

 

 世界滅亡。

 

 フィッツは空を見上げていた。

 

「フィッツ……?」

 

 カシコーイが、嫌な予感に顔を上げる。

 フィッツは静かに言った。

 

「このままじゃ、世界が滅ぶ」

「そうだ」

「だったら、止めるしかない」

「やめろ!」

 

 フィッツは振り返った。

 

 その顔には、迷いがあった。

 だが、決意もあった。

 

「このまま隕石で世界が滅ぶより――俺は可能性に賭ける」

「賭けるな! やめてくれ!」

 

 カシコーイが叫んだ。

 

「火属性魔法だけは駄目だ! 何度言えば分かる!」

「でも、他に方法がない!」

「ない方がマシな方法というものがある!」

 

 カシコーイはフィッツに駆け寄ろうとする。

 だが、魔王から負った傷により、立ち上がることすらできない。

 

「そうさ!」

 

 時には匍匐(ほふく)前進で、ずるずると近寄る。

 フィッツの足をつかんで揺さぶった。

 

「聞いてくれ、フィッツ。

 隕石は確かに危険だ。世界はたぶん滅ぶだろう!」

「なら!」

「でも君の火は、その"たぶん"を消す!」

「消せるなら――」

「違う!」

 

 カシコーイの声が裏返った。

 

「世界を救う可能性じゃない! 世界以外も巻き込む可能性だ!」

 

 隕石が近づく。

 

 魔王城の壁にひびが入る。

 崩れた石が、玉座の間に落ちてくる。

 

 その隕石を止める為に、フィッツは詠唱していた。

 そしてカシコーイが穏当に制止しても、フィッツを止められなかった。

 

 カシコーイは腰の短剣に手を伸ばした。

 

 フィッツの詠唱を止める方法。

 ひとつだけある。

 今なら、間に合う。

 

 背中から刺せばいい。

 喉を裂けばいい。

 

 友人を殺せば、世界は――いや、世界以外も助かるかもしれない。

 

 カシコーイの指が震えた。

 短剣の柄を握る。

 フィッツの背中が見える。

 無防備だった。

 

 彼はカシコーイを信じている。

 だから、背中を向けている。

 

「……っ」

 

 カシコーイは歯を食いしばった。

 短剣を抜けなかった。友人を、自分の手で殺すことができない。

 

 たとえそのせいで、何もかもが滅ぶとしても。

 

「フィッツ……!」

「ごめん、カシコーイ」

 

 フィッツは右手を掲げた。

 

 初めて使う、本式の火属性魔法。

 成人の儀で開いた属性回路に、魔力が流れ込む。

 

 落ちてくる隕石すら、一瞬だけ動きをためらったように見えた。

 フィッツの掌に、小さな火が灯る。

 

 カシコーイが叫ぶ。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 フィッツの火属性魔法が、放たれた。

 

「ブレイズ・ブレイド!」

 

     *   *   *

 

 へぇい。

 皆さんはこちらの巨大数、ふぃっしゅ数をご存知でしょうか?

 

 ふぃっしゅ数とは、ネット掲示板「2ch(現:5ch)」で発表された巨大数である。

 ふぃっしゅっしゅ氏が考案したものであり、「意味のある何かを導出する」為ではなく、「ただ、巨大である」為に追求された数だ。

 

 フィッツが今放った火属性魔法の威力は、炎適性:ふぃっしゅ数バージョン1に基づいている。

 皆さんは、大きな数と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

 その数……500億かもしれない。

 

 それよりも、この世界の概念は、とんでもなく多い。

 観測可能な宇宙の星の数は、7×10²²個。

 地球上の水分子の数は、10⁴⁷個。

 観測可能な宇宙の原子の総数は、10⁸⁰個。

 

 しかし、それでもなお、ふぃっしゅ数には届かない。

 では、日本語の単位で考えてみよう。

 

 無量大数。

 

 大きい。

 名前からして、かなり大きそうである。

 

 では、無量大数に無量大数を掛けてみよう。

 

 まだ足りない。

 もっと詳しい人は、不可説不可説転を思い浮かべるかもしれない。

 

 では、不可説不可説転に不可説不可説転を累乗してみよう。

 まだ足りない。

 

 かなり詳しい人は、グラハム数を思い浮かべるかもしれない。

 

 では、グラハム数↑↑グラハム数してみよう。

 まだ足りない。

 

 ふぃっしゅ数バージョン1とは、そういう数である。

 

 ここで日常生活の中で大きな数字を表す時によく用いられる、「天文学的数字」という言葉を使いたくなるかもしれない。

 しかし、やめた方がいい。天文学的数字は、ふぃっしゅ数バージョン1を指すにはあまりにも過大評価だ。

 

 天文学はよく頑張っている。

 宇宙は広い。

 星は多い。

 銀河は途方もない。

 

 だが、ふぃっしゅ数バージョン1の前では、天文学は町内会の回覧板くらいの規模感になる。

 

 では、そのふぃっしゅ数バージョン1とは、いったいどのようなものなのか。

 どのように定義され、どのような形で膨れ上がっていくのか。

 

 次話で、その中身のほんの一部を見てみましょう。

 

 

 

 あっ、次話は数式だけです。

 話だけ追いたい方は、第5-n話を飛ばして第6話を直接読んで大丈夫です。

 

 

 

▼第6話

https://syosetu.org/novel/414211/8.html

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