火属性貴族の俺、ステータスオープンしたら適性値が「ふぃっしゅ数」だったので追放されました 〜ふぃっしゅ数がクソデカ巨大数だと痛感したらもう遅い〜 作:元近ちか
お分かりいただけただろうか。
お分かりいただけずとも、直接この6話に飛んだ人も大丈夫です。
第5-n話は、合計33万文字ほどの数式が羅列されているだけです。
それだけ理解していれば問題ありません。
では、あの数式の結果、どのような数字が得られるのか。
それほどの文字数を使って展開した数式。
その答えは──61。
42ではなく、61。
第5-3話を最後までスクロールすると分かる通りに、61。
弱い。
あんなに数式を書いて、61。弱くない?
そう思った方もいるだろう。
安心してほしい。
弱い。それは、まだ第一歩だからである。
より正確に言うなら、あの61は、ふぃっしゅ数バージョン1という巨大数の体の一部の舌の味蕾の先端の一細胞の原子よりも小さい。
第5-n話に書かれているのは、ふぃっしゅ数バージョン1を巨大にするための装置、S変換の第一段階だ。
では、その先に何があるのか。
さらなるS変換である。
そして、SS変換である。
1回のSS変換は、第5-n話でやったようなS変換を4回繰り返す。
なお、SS変換は、63回適用される。
「なんだ、4回と63回? 4×63で252回しかやんないんだ」
と思った方。
私も最初そう思いました。
ここで問題になるのは、SS変換というものが、単純に「S変換を何回やるか」を固定しているわけではないという点である。
SS変換がS変換を適用する回数は、入力値によって変動する。
入力が大きくなれば、当然、適用回数も大きくなる。
ここで「指数関数的に増える」という表現を使いたくなる。
だが、やめた方がいい。
指数関数はよく頑張っている。
増え方としてはかなり立派である。
人類が「うわ、増えすぎ」と言う時、だいたい指数関数は現場にいる。
しかし、今回の相手はふぃっしゅ数バージョン1である。
指数関数は、まだ町内の子ども会で風船を膨らませている。
第一段階は、まだ10進数で「4」と書ける。
かわいい。手で書ける。
しかし、第二段階になると、もう怪しい。
この回数をここで10進数で書こうとした瞬間、私はハーメルン運営から追放されて暁へと流される事になる。
そして、SS変換はこれを63回適用する。
回数そのものが、次の回数を生み、次の回数がさらに次の回数を生み、その過程で「大きい」という言葉の背骨をへし折っていく。
ふぃっしゅ数バージョン1とは、そういう数である。
なお、バージョン1とあるように、上位版がある。
バージョン2。
バージョン3。
さらにその先。
ふぃっしゅ数シリーズで最も大きいものは、バージョン7とされる。
バージョン7の大きさについて知りたい方は、私ではなく別の専門家に聞いてほしい。
私はバージョン1でもごま塩程度も分かってないから。
さて。
ここで、フィッツの火属性魔法に話を戻そう。
仮に、炎適性1の者が放つ火属性魔法の仕事量を、1
炎適性1で、1
炎適性100なら、100
炎適性ふぃっしゅ数バージョン1なら──、
ふぃっしゅ数バージョン1
宇宙中の物質すべてをインクにしても10進数表記が不可能な数の熱量が、一点に発生する。
熱量である。
エネルギーである。
そして、世界一美しい式が示す通り、エネルギーは質量と等価である。
E=mc²
巨大なエネルギーが十分小さい領域に押し込められれば、それは重力源として巨大な質量と同じように振る舞う。
巨大な質量が一点にあると何が起こるか、みんなは分かるかな?
そうだね、ブラックホールだね。
ブラックホールには、シュヴァルツシルト半径というものがある。
ざっくり言うと、それより内側に入ったら光すら逃げられない半径である。
公式はこうだ。
R = 2GM / c²
Rがシュヴァルツシルト半径。
Gが万有引力定数。
Mが質量。
cが光速。
ここに、ふぃっしゅ数バージョン1に対応する質量をぶち込む。そんなもんぶち込むな。
すると何が起こるか。
我々の観測可能宇宙のサイズを、遥かに超えるクソデカブラックホールが出来上がる。この珍妙クソデカブラックホールのほかには全然誰もマジで全くいない。
フィッツは火属性魔法を唱えるべきではなかった。
隕石と直撃した方が、まだ生存率が高かった。
ただ、そこに黒い点が生まれた。
黒い点は、空間を噛んだ。
光を飲んだ。
隕石を飲んだ。
魔王城を飲んだ。
大地を飲んだ。
海を飲んだ。
雲を飲んだ。
空を飲んだ。
地球を飲んだ。
太陽系を飲んだ。
銀河系を飲んだ。
銀河群、銀河団、超銀河団を飲んだ。
観測者はいない。
観測者も飲まれたからである。
我々の宇宙は、より高次元な時空に埋めこまれた膜のような時空である、という説だ。
それらは、より高次元な時空──バルクの中に、互いに隔てられて浮かぶように存在している。
養蜂用の巣箱を思い浮かべて欲しい。
巣箱の中には複数の木枠が並び、その枠内に薄い巣板が作られている。
巣板と巣板との間には、間隔が空いている。
巣箱がバルク、巣板が
さながら、我々は宇宙という巣板に住まう蜂であろうか。
この物語で採用するブレーン多元宇宙モデルでは、バルクの中に無数のブレーン宇宙が存在している。蜂たちの無限ホテルだ。
そんな多元宇宙の中で、とある一つの
宇宙という膜を貫いて現れた、より高次の深淵。
その重力半径は、
地平面は一つの宇宙に閉じず、バルク内を横断し、隣り合う
はじめ、別宇宙の観測者たちは、空の異常としてそれを記録した。
銀河の赤方偏移が狂い、重力波背景にありえない低音が混じり、遠方の星々が、見えない一点へ向かってわずかに傾き始めた。
だが、やがて彼らは理解した。
それは空の一点にあるブラックホールではない。
彼らの宇宙を支える
星が砕けるより先に、星々を隔てていた空間が歪んだ。
時間の向きが、宇宙のあらゆる場所で少しずつ同じ終点へ傾いていった。
光は逃げなかった。外側へ向かう未来が、もはや存在しなかった。
そしてその歪みは、一つ二つの
ある宇宙では、それは突然現れた暗黒の地平面として観測された。
別の宇宙では、余剰次元の安定性が揺らぎ、物理定数の微細なずれとして現れた。
また別の宇宙では、まだ誰も気づかないほど弱い、宇宙膨張率の誤差として現れていた。
しかし、それらはすべて同じ現象だった。
一つの宇宙で生まれたはずの熱は、一つの宇宙に収まらない穴を開けた。
その穴は、宇宙を飲み込むのではない。
宇宙というものが存在する足場そのものを、静かに沈ませていく。
この影響は、我々の宇宙にも届く可能性はある。
我々のブレーンとの距離と角度によっては、暗黒の地平面が我々の宇宙全体に及ぶかもしれないし、あるいは観測の誤差程度になるかもしれない。
しかし、安心してほしい。
我々は日々、隕石が頭に落ちてくる可能性をあまり心配していない。
完全にゼロではない。
だが、十分に小さいので無視して生きている。
同じように、ふぃっしゅ数バージョン1
その影響が、たまたま我々の宇宙へ届く可能性も、極めて低い。
極めて……低い……?
いや、正直なところ、測度論を持ち出すと面倒になる。
無限個の宇宙がある場合、確率の扱いはかなり厄介である。
そもそも、これまでの理論もこれからの理論もAIにほとんど任せっきりのバカなので、ここはアホに「極めて低い」とさせていただく。
無限とは何か?
観測可能な宇宙の星の数。
地球上の水分子の数。
観測可能な宇宙の原子の総数。
無量大数に無量大数を掛けた数。
不可説不可説転に不可説不可説転を累乗した数。
グラハム数にグラハム数をテトレーションでぶつけた数。
ふぃっしゅ数バージョン1。
それらは確かに大きいが、しかし無限ではない。
それらすべてが、無限の前では頭を垂れる。
無限はなによりも大きく、途方もない。
巨大数がどれほど巨大であっても、有限である限り、無限には届かない。
無量大数以上の宇宙が死んだとしても、無限にある宇宙全体から見れば、それはまだ有限である。
だから我々の宇宙が、この破滅的ブラックホールによる死を迎える可能性は、
1を「ふぃっしゅ数バージョン1」で割った数よりも小さく、充分に無視できるくらいなのだ。
どのような巨大数であっても、無限の前では頭を垂れるしかない。
故に皆さん、
パクパク食べられるからといって、「無限に食べられる」と言わないようにしましょう。