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B級ランク戦ROUND2、転送開始。市街地A時刻朝
若村麓郎は転送の光が消えたとたん、バックワームを起動させ、周囲の状況を素早く確認した。
市街地A――見慣れた建物が立ち並ぶ、多くの隊員にとって最も戦い慣れたステージの1つだった。
そして、自分の現在地は、マップ上、南西の一角だった。
すぐにレーダーを展開する。
『麓郎くん、西と北西、あと中央で敵の反応が出てるから、まず南で雄太と合流して』
オペレーターの染井華の落ち着いた声が耳に届いた。若村は胸の奥がわずかに高鳴るのを感じながら答える。
「……了解です」
自分と同じ隊員の三浦雄太の場所は南東方向、比較的近い。一方、隊長の香取葉子の場所は北東……かなり離れていた。
(クソ……先走るなよ、ヨーコ)
作戦会議の記憶がよぎった。
香取はテーブルに足を投げ出し、いつもの不機嫌な顔で吐き捨てるように言っていた。
「適当に暴れてくるわ。あんた達は後ろから適当にフォローしなさい」
ROUND1で影浦にタイマンで完敗したことが、彼女の機嫌を最悪にしていた。
若村が連携の重要性を指摘しても、「うるさいわね、私より弱いやつが指図すんな」と一蹴された。
「もっとチームワークを良くするべきだ」「お前の個人プレイが香取隊の停滞の原因だ」——言葉にしなかったが、胸の奥でぐらぐらと揺れる思いが、彼を苛立たせていた。
その後熱くなりやすい性質の彼は、つい必要以上に香取を追及してしまう。結果、隊室の雰囲気はいっそう悪くなり、三浦は困り果て、染井はただ黙って見ているだけだった。
控えめに言っても、香取隊の雰囲気は最悪だった。
(葉子に言葉を響かせるには、俺が点を取って認めさせるしかない……。犬飼先輩との練習の成果を見せてやる)
若村は小さく息を吐き、三浦に通信を取った。
『雄太、聞こえるか?』
『ろっくん、聞こえるよ。今南東からそっちに向かってる』
『わかった。俺も今向かってる。合流したらそのままヨーコの方に向かうぞ!』
『了解!』
若村は周囲を警戒しながら、建物の影を縫うように移動を開始した。
今回ステージを選んだのは若村だった。若村が「市街地Aにしたい」と最初に提案し、香取は興味なさげに「いいわよ」と了承した。
彼が市街地Aを選んだ理由は、自分たちが一番戦い慣れているステージだからだった。王子隊には過去に凝った地形を選んで勝負したところ逆に利用され、負けた苦い記憶があった。
(ヨーコさえ本調子なら、真正面からいけば王子隊にも漆間隊にも勝てるはず……!)
漆間隊には新加入の潮田渚という要素があった。ログを見る限り、近づかれたら弱い狙撃手にうまく近づけたに過ぎないと若村は分析していた。
(たしかに隠密能力は本物だったけど、奇襲さえされなければ大丈夫なはずだ……!)
そんな時、再び染井から通信が入った。
『葉子が東で樫尾くんを見つけて、戦闘を開始したわ。……一旦合流は諦めて、東に向かって』
若村の表情が強張った。
『なっ……! わかった!』
染井の通信は、彼が最も案じていたことだった。
香取は合流を待たずに一人で戦闘を開始してしまった。
若村は唇を噛み、スピードを上げた。
三浦との合流を急ぎながら、東方面へ向かう。
胸の内で、焦りと苛立ちが渦巻いていた。
(頼む……今は無茶すんなよ、ヨーコ……!)
数分後、染井から通信が入る。
『麓郎くん、そのルートは危険かもしれないわ。今からでも南東を経由した方がいいわ。』
若村は香取が戦闘を初めたことへの焦りからか南東を経由して東に向かうルートではなく、中央を通るルートを選択していた。
『すまない華さん……ヨーコがもう戦闘しているなら絶対最短で行ったほうがいいと思うんだ』
若村は南西の位置から、中央の広い通りへ向かって急いだ。中央にスポーンした誰かが留まっている可能性はあるが移動している可能性も高いと思った。
むしろ、三浦は南東から東へ向かっているはずなので、このまま行けば同時に合流、もしくは樫尾を挟み撃ちできるかもしれない。
染井は少し間を置いてから、静かに言った。
『……わかった。気をつけて』
(葉子……待ってろ。今向かう)
若村は建物の死角を活用しながら中央方面へ急いだ。
中央ルートは確かに危険だった。他の隊に見つかる可能性が極めて高い。だが今は一分一秒が惜しい。
中央付近の交差点に差し掛かった瞬間——
複数のアステロイドが彼を襲った。
「っ!」
若村は咄嗟にシールドを展開して受け止めた。
攻撃の主は王子隊のシューターの蔵内だった。
(蔵内先輩……樫尾の援護に向かおうとしてるな)
染井の声が切迫する。
『麓郎くん、逃げた方がいいわ。正面から打ち合うのは不利よ』
しかし若村は足を止めなかった。
『いや、ここで蔵内先輩を止めないと、ヨーコの方に行っちまう……!』
若村は突撃銃を構え直し、蔵内に向かって反撃を開始した。
激しい銃撃戦が始まる。徐々に蔵内は後退していくのに思った以上の手応えを若村は感じる。シールドを何度も張り替えながら、徐々に距離を詰めようとした。
そして、数分にわたる撃ち合いに夢中になっていた若村の背後で——
『後ろ!』
染井の警告と同時に、王子隊隊長王子一彰が弧月を振りかぶる。若村は遅れて気づきなんとかシールドを貼るが間に合わない
(く…右腕を切られた)
「ジャクソン……腕を上げたけど、まだ君1人で戦えると思うのは早かったかな。」
王子が弧月を振り上げたところに――
「旋空……弧月!」
その瞬間、三浦が追いついて割り込んだ。
三浦の延長された弧月が王子を狙うが、王子はそれを軽く躱した。
「ミューラー、早かったね」
「雄太……!どうしてここに……」
若村は自身の隣に来た三浦に疑問の声をあげる。確か三浦は香取の援護に南東から向かっていたはずだ。
「途中で華から、ろっくんの方が危ないって通信が来たんだ。だから最速で来たんだよ」
三浦が冷や汗を流しながら答える。その顔は真剣に王子を睨んでいた。
若村は自分の選択がチームに迷惑をかけたことを痛感した。
「すまねえ……ここから挽回する……!」
若村と三浦が態勢を整えたその時、放物線を描いてトリオンの弾丸が降り注いだ。
二人は咄嗟にシールドを展開したが、それは普通の弾ではなかった。
シールドを突き破った直後、爆発した。
「な……! サラマンダーだっ!」
強烈な爆発が起こり、衝撃波で若村と三浦は分断された。
吹き飛ばされた三浦に、王子が即座に追撃を仕掛ける。
弧月とスコーピオンが閃き、三浦の左足と右腕が切断された。
「三浦!」
若村は即座に突撃銃で王子を牽制しながら、三浦を庇うように位置を変えた。
(クソ……!どうすりゃいいんだよ……!)
香取隊の2人はまるで詰将棋のように追い詰められていくの実感していた。
ーーーー
三浦と若村に、アステロイドを牽制で打ちながら蔵内は冷静に周囲を確認していた。
(そろそろ、来るはずだ……)
王子隊は当初の
これで、香取隊は大丈夫だ…あとは――
『そろそろ来るはずだよ。警戒して』
王子からの通信を聞きながら蔵内は射撃態勢を取る。大きめのキューブを両手に広げフルアタックの構えだ。
王子隊には今回の試合に置いて2つの作戦を立てた。1つは香取を囮にして、援護に来た香取隊の二人を倒す。そしてもう1つは――
その瞬間後方から漆間恒の銃撃が蔵内を襲った。
だが、蔵内は動じなかった。彼が両手に置いていたキューブは全てシールドに切り替わり、漆間の射撃を完璧に防ぎきった。
(横取りにきた漆間隊を返り討ちにする――だ。)
そして、シールドを展開したまま、トリオンのキューブを展開して漆間に向けて放とうとした瞬間――
遠くのビルから放たれた一筋の光が、蔵内の腹部を深く貫いた。