漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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11話  B級ランク戦ROUND2 ②

  蔵内先輩にイーグレットから放たれた弾丸が当たった瞬間、ぼくは思わず息を漏らした。

スコープ越しに、遠距離から放った一撃が、蔵内先輩の腹部に深く突き刺さるのを、ぼくは息を殺して見届けた。

大穴が開き、蔵内先輩の体が大きくよろめく。

……当たった。

蔵内先輩が漆間くんの追撃をシールドで受け止めたところを、ぼくは狙っていた。

香取さんと樫尾くんが戦い始めた直後、漆間くんから通信が入り、作戦を決めた。

シールドで足が止まり、遠距離狙撃への警戒が薄かったのが幸いした。

腹部に開いた穴から光の粒子がゆっくりと漏れていく様子が、スコープ越しにはっきりと見えた。

中央では漆間くんが素早く追撃を仕掛けた。

漆間くんはバックワームを解除しながら間合いを詰め、突撃銃を容赦なく連射する。

蔵内先輩のシールドはすでにぼくの狙撃で大きく割れており、容易に銃撃が隙間を縫った。

肩、胸、脇腹——正確に撃ち抜かれるたび、蔵内先輩の体がひび割れていく。

「…………」

蔵内先輩は一瞬、ぼくがいる方向を振り返ったような気がした。

その表情は驚きよりも、どこか納得したような——静かで、諦めにも似たものだった。

やがて蔵内先輩の体が光の粒子となって崩れ落ちた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

 

ぼくは小さく息を吐いた。

一人、落とせた。

この前はできなかった漆間くんの援護が成功した。

しかし、喜んでいる暇はなかった。

すぐ近くで、王子隊の隊長の――王子さんが漆間くんに向かって弧月を振り上げて突進してきた。

 

 漆間くんは咄嗟にシールドを展開したけど、王子さんの動きは速く、重かった。

ぼくはそれを見て即座にイーグレットを構え直した。

動く標的に当てる自信はまだない。

でも、牽制なら——

照準を王子さんに合わせ、狙撃する。

高速の弾丸が王子の脇を掠め、地面に激しい火花を散らした。

王子さんは一瞬動きを止めたけど、ぼくの狙撃はあまり脅威に思ってくれなかったみたいだ。すぐに弧月を振り上げて漆間くんに迫る。

その時、中央東付近で誰かがベイルアウトした。

六田さんからすぐに通信が入る。

『渚くん、恐らく樫尾くんだと思います! 香取さんが倒したみたいです』

 恐らくすぐに中央に向かって来るだろう。

王子さんもそう思ったのかすぐに退却の判断を下したようだった。

彼は漆間くんへの攻撃を中断し、姿を隠すようにバックワームを起動し後退していく。

漆間くんもそれに合わせ、バックワームを起動して姿を消そうとする。

そこに——

突然、突撃銃の連射音が響いた。

確か……若村先輩だったと思う。

彼は漆間くんの背後の西側に先回りして待ち構えていたらしい。

その人に向けてぼくはイーグレットで狙撃を放った。しかし、近くにいたもう1人の香取隊……三浦先輩が素早くダブルシールドを展開して守りきってしまう。

来る方向がわかってしまった狙撃は、トリオン体にはほとんど脅威にならないようだった。

 

その瞬間、香取さんが東側の建物の影から飛び出してきた。

「邪魔よ!」

香取さんのスコーピオンが漆間くんの左足を深く切り裂いた。

「ぐっ……!」

 

ぼくは慌ててイーグレットを構え、香取さんに向かって狙撃を放った。

弾丸が香取さんのすぐ近くを掠め、彼女の動きを一瞬止める。

その隙に漆間くんはなんとか距離を取った。

 漆間くんは若村先輩と三浦先輩、そして香取さんに挟まれる形になった。

しばし、漆間くんと香取さんの睨み合いが続いたその時――

 

 若村先輩の首が裏から現れた王子さんの弧月で宙を舞った。

 

 

ーーーー

 

 王子一彰は姿を消した直後、近くの建物の陰に留まり、静かに状況を観察していた。 

 

(……いいね。予想通りだ)

弧月の刃先を、指の腹でそっと撫でながら、王子は微かに唇を緩めた。

蔵内が落ちたのは非常に痛かったが、良いこともあった。

漆間隊の新加入——潮田渚という少年の居場所がわかったことだ。

あの隠密能力は非常に厄介で、王子は今回の試合で香取隊隊長、香取葉子の戦闘力と同等に――注意すべき事柄として認識していた。だが、今は居場所が特定できている。狙撃を撃ってくる以上、位置は固定されているに等しい。

隠密の駒としては、すでに死んでいる。

王子はゆっくりと移動を始めた。

若村と三浦が東側の香取と漆間を挟み撃ちにするため西側から徐々に中央へ近づいてくる気配を感じ取っていた。

彼らはまだ、自分たちが狩られる側だということに気づいていない。

「ふふっ……」

王子は建物の死角から滑るように移動し、若村の背後に回り込んだ。

若村が漆間に向かって突撃銃を構えた瞬間、王子は弧月を一閃させた。

若村の首が、きれいに宙を舞う。落ちた首に映るその顔は、まだ自身に起きたことに気付けていない気の抜けたものだった。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

三浦が即座に反応し、弧月を振り上げて王子に斬りかかってくる。

しかし左腕と右足を失っている三浦の動きは鈍く、脅威には程遠かった。

王子は軽く弧月で受け流し、手のひらから生やしたスコーピオンを三浦の左胸に突き刺した。

三浦の目が見開かれる。

「ぐ……!」

「ミューラー、君はもう十分に頑張ったよ」

三浦の体が光の粒子となって崩れ落ちた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

その直後、遠距離からイーグレットの狙撃が飛んできた。

王子はそれを見越したかのように体をわずかに捻り、弾丸を紙一重で避けた。

(ナギササは……まだ移動してないみたいだね)

王子は静かに笑った。

蔵内と樫尾は既にいないが、渚の最大の武器である隠密が無力化された今、まだ戦いの目はある。あとは香取をどう攻略するかだった。香取はこちらを憤怒の形相で睨んでいるように見える。

西側に自分、中央に漆間、東側に香取。

三竦みの戦いが、ようやく本格的に幕を開けようとしていた。

王子は弧月を肩に担ぎ、キューブをいくつか展開させる。

彼の唇には、いつもの余裕ある微笑みが浮かんでいた。

 

ーーーー

 

【B級ランク戦 ROUND2 夜の部 実況中】

 

小佐野:「おおっとー! 若村隊員、三浦隊員ベイルアウト! 王子隊長の完璧な奇襲が決まった! 現在、中央付近は大混戦になってまーす!」

風間:「……蔵内と樫尾が落ち、続いて若村、そして三浦もベイルアウトか。漆間隊は全員残っているから状況的には少し有利か」

荒船:「狙撃の一発目で蔵内を落とせたのは大きいな。王子の作戦はうまく嵌っていたが、最終的に香取に2人以上当たるのが前提で作戦が組まれていたはずだ。ここからの挽回をどうするのかに注目したい」

小佐野:「潮田隊員のイーグレットには驚きましたねー。2発目以降は避けられてしまっているみたいだけど……」

荒船:「狙撃手としての腕はまだまだだが、一発目から蔵内に当てたのは称賛に値するだろう」

風間:「だが、潮田の隠密能力は今、事実上死んでいる。狙撃を撃つ以上、位置が固定されてしまうからな。潮田や漆間の『どこにいるかわからない駒』という最大の脅威がなくなったのは、王子や香取にとって大きいはずだ」

小佐野:「なるほどー。確かに王子隊長は余裕の笑みを浮かべてますね。蔵内隊員を失った痛手はあったけど、王子隊はまだ十分に戦えるってことですか?」

風間:「いや、香取はまだ無傷だからな。香取の調子次第だが、ここから全員香取が取り切ることも十分にあり得る」

荒船:「西に王子、中央に漆間、東に香取……完全に三竦みだな。潮田がどう動くかが鍵だと俺は思うぞ。今後も目が離せない展開になるぞ」

小佐野:「中央の混戦はまだまだ続きます! イーグレットを装備した潮田隊員がどう動くのか、王子、香取隊長がどう返すのか……夜の部、このまま続けていくよー!」







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