漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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高評価ありがとうございます。オレンジバーになれてほんとに嬉しいです(泣)


12話 B級ランク戦ROUND2 ③

 

 漆間恒は失った左足に違和感を感じながら、建物の陰に身を寄せ、状況を確認した。

西に王子、中央に漆間、東に香取——完全に三竦みだ。

左足がない今、動きは大幅に制限されている。前方では仲間を失った怒りを前面に出した香取が今にも突撃してきそうで、後方では王子がシュータートリガーで中距離攻撃の態勢を整えている。

状況は、はっきり言って良くなかった。

 

(……あの時か)

転送直後の記憶が、頭をよぎった。

中央付近に自分がスポーンした瞬間、漆間はすぐにレーダーを確認した。

渚は西端にスポーンしたようだった。

この市街地Aの中央は、西側から射線が通りやすい地形だった。

彼は即座に渚へ通信を入れた。

『チビ、西側から狙撃できるならやれ。俺はここで粘る』

渚は少し緊張した声で即答した。

『……わかりました』

あの声には、まだわずかに迷いがあった。

近くの建物に潜伏しながら、状況を静かに見守る。

運が良かった。若村と蔵内が中央付近で戦い始めていた。

ダミービーコンを使う必要がなくなり、六田をその分渚の支援に回せた。

——そして、渚の狙撃が決まった。

蔵内がシールドを張って足を止めた瞬間、遠距離から放たれたイーグレットが腹部を貫いた。

その隙を突いて漆間は追撃をかけ、蔵内をベイルアウトに追い込んだ。

一瞬、安堵が胸をよぎった。

渚の土壇場の強さを実感した。

渚に狙撃を依頼したのは正解だった——そう思った。

 

 だが、今この状況で漆間は自分の判断の浅はかさに気づいた。

(……馬鹿か、俺は)

渚の最大の長所は隠密と奇襲だ。

遠距離から狙撃をさせることで、その強みを自ら封じてしまった。狙撃は最後の最後のお守り代わりに使う程度の物で良かったのだ。

渚が隠密の駒としては死んだも同然になったのは、自分のせいだった。

自分が安易に「楽をしよう」と考えた結果だ。

(……ちっ)

漆間はすぐに通信を入れた。

『チビ……狙撃はもうやめとけ。こっちに来い』

『……え?』

『奴らにはもう狙撃は当たらねえ。さっさとこっちに来て隠密に戻れ』

『……わかった。漆間くんも気を付けて』

渚を頼ったことを、漆間は内心で強く後悔していた。

渚の価値を損なったのもある。

だがそれ以上に——自分の力でB級上位から点を取れなければ、意味がない。

早い話、渚におんぶに抱っこはごめんだった。

 

(……柄にもなく頼るなんてな。弱気になってたのかもしれねえな。だがここからはいつも通りやるだけだ)

 

 漆間は冷たい笑みを浮かべた。

左足がない今でも、彼の目は鋭く、戦場を捉えていた。

 

(この2人を、俺一人で倒す)

 

『六田先輩……これから色々使うんで切り替えフォローお願いします』

『……わかりました! 気を付けてね、漆間くん』

六田の通信を聞きながら、漆間はメテオラのキューブを展開し始めた。

 

 

ーーーー

 

 

 

王子一彰は迫り来るメテオラの弾丸を冷ややかな目で捉えていた。

(来たね)

彼は慌てることなく、あらかじめ展開しておいたハウンドを起動させた。

ハウンドの弾丸をメテオラに命中させ、なるべく自分から遠い位置で誘爆させる。

複数の爆発が連続して起こり、視界を白く染め上げ、耳をつんざく轟音が響いた

 

そのわずかな猶予の中で、王子は冷静に状況を分析した。

レーダー上にはまだ反応がある。

しかし、これはおそらくダミービーコンだ。

本体はレーダーから消え、どこかに移動しているはず——漆間恒の常套手段。

(ウルティマのいつものやり方だね……ならやるべきは)

王子は即座にハウンドを四方へ展開させた。

誘導性能の高いハウンドが、煙と瓦礫の中を縫うように飛び回る。

ハウンドのトリオン反応による索敵で、隠れた敵を探る。これならダミービーコンには反応しないはずだ。

すると——一つが明確な手応えを返した。

「ふふっ……」

王子は弧月を構え、その方向へ一気に切り込んだ。

しかし、弧月が切り裂いたのただの瓦礫で、近くには壊れたダミービーコンだけだった

(やられた……ハウンドにダミービーコンを投げたのか)

内心で舌打ちした瞬間、後方から鋭い殺気が迫った。

香取葉子だ。

香取のスコーピオンを振り下ろしてくる。

王子は咄嗟に身を捻って斬撃をいなしたが——爆発の煙と瓦礫で視界が悪い中、香取の戦闘センスが恐ろしいほど冴えていた。

一瞬の隙を突かれ、左腕と右足を深く切り裂かれた。

「っ……!」

大量のトリオンが漏れ出ていく。

王子が態勢を整えようとしたその時――

背後から漆間が音もなく現れた。

サイレンサーを起動した突撃銃の連射に王子は反応できず、胴体や首を正確に貫かれる。

《伝達系損傷――戦闘体活動限界――緊急脱出》

王子の戦闘体の意識はそこで途絶えて行った。

 

ーーーー

 

 香取葉子は苛立ちを感じながら漆間を睨む。漆間も王子もいつも香取隊がうまく行きそうなときに邪魔をしてくる目障りなやつだった。

 漆間はあらかじめ周囲に置き玉にしておいたメテオラのキューブを起動させてくる。四方から大量のメテオラが香取に向かって飛んでくる。

 しかし、香取は自分の中にある激情とは裏腹に頭は恐ろしいほどに冷静だった。

彼女はメテオラの着弾地点を冷静に見極めて爆発が起こる1コンマをすり抜ける。

グラスホッパーを起動させ鮮やかに飛び抜けていった。

(お前ら全員……大嫌いよ!)

グラスホッパーの跳躍で一気に間合いを詰め、彼女はスコーピオンを右腕から生やす。

「終わりよ!」

香取のスコーピオンが、煙の中から漆間恒の首を一閃で切り裂いた。

漆間の目が見開かれる。

首から大量のトリオンが噴き出し、彼の体がぐらりと傾いた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

 

 

 香取は苛立ちを抑えきれず、漆間が光の粒子となって消えていくのを睨みつけていた。

(こいつらのせいで…)

漆間が消えた後も、香取の胸の奥には黒い炎がくすぶり続けていた。

 

 影浦、二宮、生駒、弓場……上位の連中には何度挑んでも、結局は勝てない。

トリガーを変え、スタイルを変えても頂きには一向に手が届かない。かと言って、これまでその圧倒的なセンスでなんとなくこなせてしまった香取には、『努力』をどうすればいいのかわからない。

それだけでも腹が立つのに、隊員の若村はいつも「もっとチームワークを」とか「連携を重視すべきだ」と自分の考えを押し付けてくる。

実力も伴っていないくせに、偉そうに。

日々増えていく苛立ちが、香取隊の雰囲気を最悪にしていた。

 

 樫尾を見つけたときは、楽に点を取れるカモだと思った。最初に右腕を落とせたときは、すぐ落とせると感じた。しかしその後、樫尾は逃げに徹し、なかなかトドメを刺せなかった。

今思えば、あれは王子の作戦だったのだろう。

香取を囮に使い、援護に来た若村と三浦を分断して倒す——完璧な罠だった。

そして、若村と三浦はなす術もなくやられた。

その王子も漆間に横取りされた。

香取の胸に渦巻くのは、ただ純粋な怒りだけだった。

(みんな……大嫌いよ!)

彼女はスコーピオンを握りしめ、荒々しく息を吐いた。

 

 不意に——背後に、冷たい殺気が這い上がってきた。

「……!」

香取は即座に振り返り、スコーピオンを展開した。

そこに、潮田渚が静かに立っている。

小柄な体躯。穏やかな顔立ち。

しかしその右手にはナイフ型のスコーピオンが握られ、左手には拳銃型のトリガーが展開されている。

少年の瞳は、底知れぬ暗さを湛えていた。

それはE組の頃の——獲物を仕留める直前の、冷徹な暗殺者の目だった。

香取は一瞬、息を飲んだが、すぐに苛立ちが爆発した。

(このチビが……!)

彼女は即座にスコーピオンを振り上げ、怒りを乗せて渚に斬りかかった。

高速の斬撃が風を切り、渚の首を狙う。

香取の戦闘センスは本物だった。一瞬で間合いを詰め、渚の死角を突く完璧な軌道。

だが——

渚は微動だにせず、右手のスコーピオンを静かに突き出した。

香取は当然それを避けようと体を捻る。

しかしその瞬間、渚はナイフを静かに手放す。

殺気の籠もったナイフが、くるりと回転しながら香取の視界を横切り、彼女の注意を一瞬、強く引きつける。

——それは、極めて巧妙な心理的なフェイントだった。

香取の戦闘センスが、この後自身に降りかかる危険を察知し、体をさらに捻ろうとする。

しかし、その刹那——

渚の左手が動いた。

アステロイドの銃口が、香取の眉間にぴたりと向けられる。

香取は咄嗟に頭を振り、弾道を逸らそうとする。

だが、渚の方が一瞬早く、かつ正確無比だった。

高速の弾丸が、香取の眉間を貫いた。

「——っ!」

 

香取の体が、大きく後ろにのけぞった。

(……撃たれた……? このチビに……?)

一瞬の驚愕と屈辱が、香取の胸を焼いた。

渚の動きは、まるで予期していたかのように自然で、隙がなかった。

ナイフを手放す動作で注意を逸らし、その隙に拳銃で致命傷を与える——

それは、冷徹で効率的、かつ心理を突いた一連の動作だった。

香取の視界が急速に揺らぐ中、渚の小さな姿が静かに立っているのが見えた。

少年の表情は、相変わらず穏やかで、まるで何事もなかったかのようだった。

しかし、その瞳の奥には——暗く、底知れぬ闇が静かに渦巻いていた。

その背後には赤く窪んだ瞳をもつ骸骨の影が、少年の肩越しにぼんやりと笑っているように見えた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

 

香取葉子の体が、光の粒子となって飛び立っていった。

 







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