漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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13話 ランク戦を終えて

【B級ランク戦 ROUND2 夜の部 実況中】

 

小佐野:「……! 中央の激闘、決着したー!! 王子隊長が漆間隊長により撃破、漆間恒隊長が香取隊長により撃破、そして香取隊長も潮田隊員により撃破され、ベイルアウトしましたー!! 現在、エリア内に残っている隊員は……潮田隊員ただ一人になるのでこれにて終了になります」

風間:「……激しい試合だった」

荒船:「香取が最後にあそこまで持って行ったのはさすがだが……まさか、潮田にやられるとはな」

小佐野:「漆間隊には生存点2点が加算され、最終結果は漆間隊5点、王子隊2点、香取隊2点になります!」

小佐野:「それではこの試合を振り返りつつ、解説をお願いします。特に最後、香取隊長が潮田隊員にやられたシーンについて……どう思われますか?」

風間:「……恐らくフェイントの一種だろう。スコーピオンから手放すことで一瞬香取の注意を引くことに成功している。ただそれだけのことだが、香取相手にそれをできる隊員はほとんど居ないだろう」

荒船:「生駒の旋空や弓場の早撃ちに近い物を感じたな」

小佐野:「うーん?頭でわかっていても再現できない技術ってことですか?」

風間:「そうだな。潮田渚の動きにはやつ自身のたゆまぬ研鑽が見える。あの攻撃が今後も通用するかも含めて注目していきたい」

荒船:「香取の油断もあっただろうが……それだけでやられるようなやつじゃない。あのフェイントには香取本人にしかわからない、何かがあったんだろうな」

小佐野:「なるほどー、潮田隊員の技術が、香取隊長のセンスすら上回ったっていうことですかねー。それでは各隊の総評をお願いします」

風間:「漆間隊は新加入した潮田の影響が大きい。序盤は無警戒の狙撃により蔵内を落とした。最後の香取との一騎打ちも制している。漆間自身もしっかり王子を落とせているので隊として十分にB級上位の実力があったと言えるだろう」

荒船:「王子隊は作戦がうまく嵌っていたな。中盤で蔵内がやられたことで作戦が破綻したことは間違いないが、うまくリカバリーはしていたと思う」

小佐野「潮田隊員の狙撃は完全に初見だったので蔵内隊員はしょうがなかったと言えそうですよね。香取隊はどう思われますか?」

風間:「香取は序盤の王子隊の作戦に嵌ったことと、最後の潮田との一騎打ちに負けたことは痛いが、結果としては仕事をしたな。」

荒船「若村と三浦がほとんど何もできずに落とされたのは残念だったな。2人の成長に期待したい」

小佐野:「ありがとうございますー。以上、B級ランク戦 ROUND2 夜の部、終了いたします!実況の小佐野でしたー! お疲れ様でした!」

 

 

 

ーーーー

 

 

 漆間恒は隊室のソファに深く腰を下ろし、実況の解説を聞きながら天井を睨んでいた。

ROUND2は勝利した。

しかし、その勝利の味は複雑だった。

蔵内を落としたのも、香取を落としたのも、結局は渚の力によるところが大きかった。

自分一人では到底届かなかった高みだ。

ドアが静かに開く音がした。

入ってきたのは渚だった。

小柄な体躯、穏やかな顔立ち。

いつものように、静かで控えめな様子で隊室に入ってくる。

漆間は口の端を少し上げて、軽く言った。

「凄いじゃねーか、チビ。香取をあんな風に仕留めるとは思わなかったぜ」

渚は少し困ったように微笑みながら、いつもの控えめな調子で答えた。

「ありがとう……たまたま、うまく行っただけだよ。漆間くんが王子さんを落としてくれたのと六田さんのサポートのお陰だよ」

「いえ、私なんて……すごいわ、渚くん。かっこよかったよ」

六田が優しく微笑みながら言うのを、漆間は上の空で聞いていた。

渚の答えは、予想通りだった。

いつも通り、褒められても素直に受け取らない。

でも、漆間はもうわかっていた。

あの「たまたま」の裏側に、何があるのかを。

(……底が知れない)

漆間は内心で小さく息を吐いた。

挑発的な態度を取るわけでもなく、ただ淡々と、必要なときに必要なだけ力を発揮する。

獲物を仕留めることに一切の躊躇がなく、冷たく、効率的で、予測不能。

近づけば近づくほど、得体の知れない怖さが増していく。

今日の香取を倒した一撃は、特にそう感じさせた。

あの少年の瞳の奥には、底知れぬ暗い湖のようなものが静かに沈んでいる。

近づけば、飲み込まれるような——そんな怖さがあった。

漆間は胸の奥で、初めて自分でもはっきりと認めた。

渚は、ただの便利な駒なんかじゃない。

相棒として、十分以上に価値がある。

いや、それ以上だ。

表面上、漆間はいつもの調子で続けた。

「まあいいや、折角だしなんか食べに行こーぜ、六田先輩……」

一瞬、言葉を詰まらせた。

チビ、と言うのが急にためらわれた。

「……渚」

初めてその名前を口にした瞬間、妙な照れくささが胸に広がった。

渚が少し驚いたように顔を上げる。

六田が二人の様子を暖かく見つめていた。

彼女の目には、ほんのわずかな心配の色が浮かんでいた。

しかし、六田はいつもの優しい笑顔のまま、何も言わなかった。

ただ、渚の顔をそっと見つめ続けるだけだった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 家に帰ると、玄関の明かりが優しくぼくを迎えてくれた。

「おかえり、渚! 勝ったんでしょ? 大丈夫? 疲れてない?」

母さん——潮田広海がエプロン姿で台所から顔を出し、いつもの明るい笑顔を見せてくれる。

少し神経質で、ぼくのことを心配しすぎる母さんだ。

「うん、大丈夫。全然疲れてないよ」

「そう? よかったわ! でも、勝つなんて凄いわね! ほら、あなた! 渚が帰ってきたわよ!」

母さんがリビングに向かって大きな声で呼ぶと、父さんが少し慌てた様子で顔を出した。

「お、おう……おかえり、渚。よく頑張ったな」

母さんがぼくの顔を見て、ふと思い出したように言った。

「そういえば、夜ご飯いらないんだっけ? 食べて帰るって言ってたわよね」

「食べたけど……少し食べたいかも」

ぼくがそう言うと、母さんが嬉しそうに笑った。

「ふふっ、じゃあ少しだけ温め直すわね。今日は特別に、渚の好きな卵焼きも追加で作っちゃおうかしら」

 

 夕飯の席で、今日のことを話していると、漆間くんが連れて行ってくれた牛丼屋の話になった。

「漆間くんが『腹減ったから牛丼食おうぜ』って言って、近くのチェーン店に連れてってくれたんだけど……」

父さんが箸を止めて目を丸くした。

「祝勝会で牛丼屋か……なかなか豪快だな」

母さんがすぐに突っ込んだ。

「あなた、初デートの時に『牛丼でいいよね』ってケチ臭いこと言ってたくせに、よく言うわよ!」

「う、うるさいな! コスパがいいんだよ!」

父さんが少し赤くなって言い返すと、母さんが楽しそうに笑った。

その笑顔が、今日の疲れを全部溶かしてくれるみたいだった。

ぼくもつられて笑ってしまう。

中学まで——E組で殺せんせーと出会うまでは、こんな穏やかな夕食の時間なんてほとんどなかった。

母さんは当時はヒステリックにぼくをコントロールしようとしていたけど、今は殺せんせーのお陰で少しずつ変わってくれた。

 

 ぼくは箸を動かしながら、ふと思い出した。

隊室で、漆間くんが初めてぼくの名前を呼んだこと。

「渚」——あの短い呼び方が、まだ耳に残っている。

そして、六田さんが温かい目でぼくを見てくれていたこと。

 

 母さんの笑顔があの2人と重なり、胸の奥がじんわりと温かくなった。

この力で、みんなを守れている。

ぼくはそう思い込むことで、自分を納得させることにした。

殺す才能を、守るために使えている——そう信じれば、心が少し軽くなる気がした。

でも、その思いの裏側で、静かに何かがざわついている。

まるで、どこかで笑っている影が、ぼくの心をじっと見つめているような——

 

 

 

夜、布団に入って目を閉じると、すぐに眠りが訪れた。

——夢の中で、ぼくは暗く湿った長い通路に立っていた。

薄暗い照明が、壁に不気味な影を落としている。

空気は冷たく、重く、肺の奥まで湿気が染み込んでくる。

最初に現れたのは香取さんだった。

彼女は怒りに満ちた目でぼくを睨みつけ、スコーピオンを振り上げる。

ぼくは左手の拳銃を構え、容赦なく引き金を引いた。

弾丸が眉間、胸、腹部を次々に貫く。

香取さんの体が激しく痙攣し、口から黒く粘つく血が溢れ出す。

「この……チビが……!」

彼女の最後の呪詛が、耳の奥にこびりつき、いつまでも響き続ける。

香取さんが光の粒子となって消えた直後、通路の奥に蔵内先輩の姿が見えた。

ぼくは即座に右手に持っていた狙撃銃を構え、照準を合わせた。

引き金を引くと、弾丸が暗い通路を高速で飛び、蔵内先輩の頭部を深く貫いた。

彼の目が驚きに見開かれ、頭から大量の血が噴き出し、壁を赤黒く染める。

通路の先から、笑顔で近づいてくる影があった。

半崎くんと穂刈さんだった。

二人は合同訓練の後でよく見せていた、穏やかな笑顔を浮かべている。

ぼくも自然に笑顔を返しながら、半崎くんの腹にナイフを深く突き刺した。

半崎くんの笑顔が凍りつき、恐怖と裏切りに歪む。

その隙に穂刈さんに飛びつき、喉にスコーピオンを深く突き刺した。

穂刈さんの体が硬直し、どす黒い血がぼくの顔や胸に大量に降りかかる。

温かく、粘つく感触が、皮膚に染み込んで離れない。

そして——

通路の最奥に、殺せんせーが立っていた。

ぼくはナイフを握りしめ、彼の心臓に深く突き刺した。

温かく、どろりとした血が、ぼくの顔面に大量に降りかかる。

殺せんせーは、いつもの笑顔のままだった。

その瞳が、ぼくを静かに、哀しげに見つめている。

「……渚くん」

殺せんせーの声が、耳の奥で響く。

 

 

「……っ!」

ぼくは青い顔をして飛び起きた。

額に冷たい汗がびっしょりと浮かんでいる。

体が激しく震え、息が荒い。

部屋は暗く、時計は午前3時を指していた。

(……また、夢か)

ぼくは震える手で顔を覆った。

指の間から、血の匂いがするような気がした。

温かく、粘つく、拭っても拭いきれない感触が、まだ手に残っていた。

 

 





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