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転送の光が消えた瞬間、ぼくは即座にバックワームを起動させた。
体が地面すれすれに沈み、気配を殺しながらゆっくりと移動を始める。
市街地A。見慣れた景色が広がる中、ぼくはまずレーダーを確認した。
ぼくはは北東の端。
漆間くんは南西、中央よりの位置だった。
六田さんが付けてくれた初期位置のマーカーを見て、どの隊も比較的、中央に固まった転送だと思う。
ーーーーーーーー北ーーーーーーーーーー
丨 丨
丨 潮田丨
丨 ? 丨
丨 丨
丨 ? ! 丨
丨 丨
西 ? 中央 ? 東
丨 ? 丨
丨 漆間 丨
丨 丨
丨 丨
丨 ? 丨
丨 ? ! 丨
丨 ! 丨
ーーーーーーーーーーーーーーー南ーーーーーーーーーーーーー
(?=転送後バックワーム !=レーダーで見える)
すぐに六田さんから通信が入った。
『渚くん、近くに敵の反応が二つ。北の真ん中くらいと、北東の中央寄りにスポーンしています。北の方はバックワームを起動したみたいだから気を付けてね』
『……了解です』
ぼくは小さく返事をして、北の方角に意識を向けた。
もしその人が狙撃手なら、こちらをスコープで捉えられないようにしないといけない。なるべく建物を伝ってっていこう。
ぼくはさらに身を低くし、北へ寄るように移動した。
少し遅れて、北東の中央寄りにいた反応が中央に近づくにつれ——レーダーから忽然と消えた。
ぼくは漆間くんに短く通信を入れた。
『漆間くん、そっちに誰か向かってるよ。動きからして最初に隠密してなかったから強い人かも……気を付けて』
すぐに返事が来た。
『わかった……こっちは任せろ。渚は隠れんのか?』
ぼくは一瞬だけ間を置いて、静かに答えた。
『そうだね……。北側に向かいつつ、チャンスがあれば仕留めようかな』
『了解』
短い通信を終えて、ぼくは再び息を潜めた。
中央付近では、すでに大量のトリオン反応が激しくぶつかり合っている。
銃声と爆発音が遠くから聞こえてきて、大混戦の予感がした。
ぼくはゆっくりと、北に向かって移動を続けた。
まだ、動くべきタイミングは来ていない。
ーーーーー
中央の通りで、乾いた銃撃音が連続して響いている。
二宮隊の犬飼澄晴はアステロイドの突撃銃を軽く構えながら、東隊の小荒井登を追い詰めていた。
口元にはいつもの薄い笑みが浮かんでいる。
(……うーん。守りが堅いな。)
内心とは裏腹に、犬飼は余裕の表情を崩さない。
小荒井はシールドを張りながら後退を繰り返していたが、徐々に動きが鈍くなってきた。
犬飼は銃を軽くぶらりと下げたまま、角度を変えて連射した。
弾丸は小荒井のシールドに当たったかに見えたが、次の瞬間、シールドの下端をすり抜けて足を深く削った。
「っ……!」
小荒井が片足を崩し、体勢を崩す。
犬飼は小さく笑った。
「足、削れたね」
転送後、犬飼は西側中央よりに転送された。
他の隊員は、東端に辻、南端に隊長の二宮で少し距離が離れていた。
二宮からの指示は短くシンプルだった。
『犬飼と辻は中央で合流してそのまま制圧しろ。南側の敵は俺が中央に追い立てる』
犬飼は小荒井を弾幕で牽制しつつ、通信を入れた。
『辻ちゃんー、どれくらいかかりそう? 早く来ないと、こっちにも他が来そうだよ』
『あと少しで……すみません、今南沢がバックワーム着て中央に向かってるのが見えました。仕掛けますか』
辻の報告に、犬飼は軽く肩をすくめた。
『海くんかー。一発入れてちょっと足止めしといて貰っていい? こっちヤバくなったらすぐ来れる様にできる?』
『了解です』
生駒隊の南沢は普段は抜けている部分も多いが弧月のマスタークラスに行ったこともある実力派だったため、無視はできない。
(まずいね……北東側が海くんなら、北西か南西から来るのは……)
小荒井をさらに追い詰め、距離を詰めようとしたその瞬間——
背後に鋭い気配が迫った。
犬飼は咄嗟にシールドを展開しながら身を捻った。
奥寺の弧月が、わずかに空を切る。
「……やっぱ、来たね」
犬飼は笑みを崩さず、崩れた態勢のまま、銃を片手で乱射する。奥寺は堪らず距離を取り、小荒井と合流した。
なんとか距離を取れた犬飼だったが、内心では舌打ちをしていた。
小荒井と奥寺は一人一人はそれほど強くないが、連携すれば格上を食える使い手に変わる。
片足を失った小荒井がどの程度の連携ができるのかは未知数だが、数的有利は向こうにある。
『辻ちゃん、すぐ来れる? 東隊が合流しちゃった。東さんも狙ってるかも』
『わかりました、すぐ行きます』
辻に通信を入れた後、オペレーターの氷見から通信が入る。
『生駒隊と東隊の動き的に南西で転送されたのは漆間隊の可能性が高いわ。奇襲に注意して』
『了解、ありがとう氷見さん』
(うーん、四方八方敵だらけだね。でも足だけでも削れて良かったかな)
犬飼は軽く息を吐き、再び銃口を向け直した。
ーーーーー
生駒隊の南沢海は激しい衝撃と共に地面を転がり、瓦礫に背中を打ち付けた。
「くそ……!」
二宮隊のアタッカー、辻新之介の弧月の一撃をまともに受け、大きく吹き飛ばされたのだ。
追撃を警戒し、体勢を立て直そうとした瞬間、南沢は気づいた。
——辻の反応が、レーダーから完全に消えている。
(あちゃあ……逃げられちゃったか)
南沢は舌打ちをしながら体を起こした。
その時、通信が繋がる。
『海、どうしたん? 無事か?』
水上の関西弁が響いた。生駒隊の参謀格である彼は、いつも冷静に状況を整理してくれる。
「うーん、辻先輩が消えちゃった。キツイ一撃だったなー」
『ほーん、犬飼の方に向かったんやろ? 隠岐がさっき中央で犬飼と小荒井がやり合っとるって言っとったしな。今、レーダー見とるけど、反応3つあるから東隊も合流したんとちゃうか?』
水上の声の後ろから、突然、爆発音が連続して聞こえてきた。
ハウンドやアステロイドが炸裂する重い響きが、通信越しにもはっきりと伝わってくる。
南西に転送された水上と南側真ん中よりに転送された隠岐は今まさに二宮の爆撃を避けている最中なのだった。
『……っと、危ないわ。とりあえず隠れとけ。漆間隊と東さんも狙っとるかもしれん。気ぃ付けや。勝手な行動すんなよ』
水上が釘を刺したことに南沢は不満げに唇を尖らせた。
『ええー。せっかくいい感じだったのに』
しかし、水上は淡々と続けた。
『うちは今、海以外南に固まってるんや。隠岐と俺は二宮さんの爆撃避けるので手一杯で、イコさんの到着を待ってる状況なんやぞ? お前まで死んだら挟み撃ちにされて地獄にされんで。ええか? 絶対に余計なことすんなよ』
南沢はため息をつきながらも、素直に返事をした。
「……了解でーす」
通信を切った後、南沢はバックワームを起動させたまま、ゆっくりと潜伏を始めた。
しかし——
(……中央、楽しそうだなー)
レーダー上では、中央付近で四つのトリオン反応がぶつかり合っている。
辻が犬飼と合流して、小荒井・奥寺と2対2で交戦しているのだろう。
南沢の足が、自然と中央の方角に向かっていた。
水上の指示は頭に残っている。
でも、戦いの音と気配が、胸の奥をざわつかせて離さない。
(……ちょっとだけ、様子見るだけなら……)
南沢は自分に言い訳をしながら、ゆっくりと中央に近づいていった。
ーーーーー
中央の通りは、激しい銃声と刃のぶつかる音で埋め尽くされていた。
小荒井登は左足を失いながらも必死にシールドを張り続けていた。
小荒井は、左足を失った瞬間を思い出していた。
犬飼は最初、まるで胴体を狙うかのような素振りを見せたが、その直後に銃口を一気に下げ、左足を撃ち抜いた――典型的なガンナーの小技だった。
(……くそ、やっぱ犬飼先輩うめえな……普段ならあんな小技に引っかかんねーのに)
奥寺と完璧な連携が取れず、動きがどうしても遅れる。いつもはピタリとあう息が合わない。左足がないことにより、思うように動けなかった。
また、遅れて参戦した二宮隊の辻 新之助も弧月のマスタークラスであり、二宮隊の連携の前に小荒井と奥寺は苦戦を敷いられていた。
(……押され気味だ)
小荒井は焦り気味に奥寺に話しかける。
「奥寺、どうする? このままじゃやばいぞ……」
奥寺は短く、しかし冷静に返した。
「なんとか耐えるしかないだろ。『東さん、そっちはどうですか?』」
北側の見晴らしのいいビルに潜伏している東に奥寺が通信を入れる。東からの返事はすぐに返ってくる。
『こっちは既に狙撃地点に着いている。南沢と漆間隊のどちらかが中央にいるはずだ。奇襲に気をつけろ』
東の声はいつも通り落ち着いていた。
『俺も北東の奴が来たらヤバそうだから、一発撃ったら逃げに徹する』
小荒井は思わず顔を歪めた。
「うげ、一発だけかよ……行けるかな、これ」
奥寺が苦笑混じりに返す。
「一発でも貰えるだけ感謝だろ」
東は淡々と続けた。
『二宮隊は隙がない。他の隊が仕掛けてきた時が勝負だぞ。俺もタイミングを合わせる』
小荒井は通話を切りながら、犬飼と辻 の次の動きに備える。
足が思うように動かない今、連携が崩れれば一気に崩されるのは目に見えていた。
(……くそっ!……早く誰か……しかけてくんねーかな)
中央の混戦は、ますます激しさを増していった。
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