漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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17話  B級ランク戦ROUND3 ②

 

 中央の通りは、激しい銃声と刃の衝突音で満ちていた。

犬飼澄晴は仲間の辻と共にアステロイドの突撃銃を軽く構えながら、小荒井・奥寺の東隊二人をじわじわと追い詰めていた。口元にはいつもの薄い笑みが浮かんでいる。

「東さんが全然撃ってこないね。他の隊が乱入するのを待ってるのかな?」

軽い口調で揺さぶりをかける。小荒井の表情がわずかに強張るのが見えた。

(確かに、横取りのチャンスだね……。いつでも来ていいけど、早く来ないと落としちゃうよ?)

心の中で呟きながら、犬飼は辻に通信を入れた。

『辻ちゃん、仕掛けるよ』

『了解』

次の瞬間、辻の旋空弧月が大きく弧を描いた。延長された刃が小荒井と奥寺の間を強引に切り裂き、二人の連携を強制的に分断する。

犬飼は即座に小荒井へ突撃した。突撃銃を連射しながら距離を詰め、手から生やしたスコーピオンで小荒井の広めのシールドを削っていく。シールドがひび割れる感触が指先に伝わってくる。

「終わりだね」

小荒井が驚愕の表情を浮かべ、慌てて弧月で受けようとしたその刹那——

後ろから、音もなく漆間恒が現れた。サイレンサーを起動した突撃銃が、容赦なく連射される——

しかし、犬飼はそれを予想していた。

即座にシールドを後方へ展開し、漆間の射線を全て受け止める。前後を同時に捌く。それが犬飼には当たり前の様にできた。

「やっぱり来たね」

その直後、北側から鋭い光が飛んできた。東のアイビスだ。

「っ……!」

反射で犬飼はシールドを展開する。しかし、シールド単体ではアイビスは止められない。そのままシールドを貫通するはず——だった。そこで、辻が素早く集中シールドを射線上に展開した。アイビスの威力が大幅に減衰し、犬飼のシールドで受け切る。

そこに——

「旋空弧月」

奥寺の拡張されたブレードが、犬飼のカバーに入っていた辻の左足を切り飛ばした。

「くっ……!」

犬飼・辻が態勢を崩したのを見て、小荒井が犬飼に反撃に転じる。弧月を振り上げてきたが、それを犬飼はスコーピオンで軽くいなし、距離を取った。

そこで漆間恒が静かに動いた。

メテオラのキューブを4分割で展開し、即座に四方へ射出する。事前に仕掛けてあった置き玉も爆発に連動し、中央一帯を飲み込む大爆発が巻き起こった。

「——メテオラ」

漆間の低い声は、爆音にかき消された。

白い閃光が視界を焼く。犬飼は咄嗟に固定シールを展開し、爆風を耐える。

(……ち、これはウザいな。辻ちゃんと離れちゃったか)

 

煙と炎が立ち上る中、犬飼は小さく息を吐いた。

——その瞬間だった。

南側から、冷たい光が飛んできた。

爆煙の中、軌道の読み切れない一射。それでも犬飼の反射が動いた。固定シールドを割っていきながら頭部へ向かう弾道を瞬時に察知し、極小の集中シールドを頭上に絞り込む。

銃弾は、シールド上で止まった。

(頭狙い……。外れたら死んでたね)

隠岐か、と犬飼は瞬時に判断した。南側にいるのはなんとなく読んでいた。

だが——

ズドン。

北側から、光が来た。

反射で動いた。咄嗟に集中シールドを展開する。完璧なタイミングだった。

それでも、貫かれた。

アイビスだ。集中シールドごと、胴体を一直線に撃ち抜かれた。位置を変えた二発目——爆発の混乱の中で、東が北側の別ビルへ移動していたことを、犬飼は読み切れなかった。

(……やるね、東さん)

一瞬の間に、犬飼の頭は状況を整理していた。隠岐が南側から撃ったということは——位置が割れた。南西側中央の廃ビルの上。ずっと霧の中にあった座標が、今この瞬間に確定した。

犬飼は二宮に通信を入れた。

『二宮さん、すみません。隠岐が釣れました。南西側中央の廃ビルの上です』

『わかった』

短い返答。それで十分だった。

薄く笑みを浮かべたまま、しかし若干の悔しさをにじませて犬飼澄晴の体が光の粒子となって崩れ落ちた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

 

 

ーーーーー

 

中央はまだ煙と炎がくすぶっていた。

小荒井は固定シールドを展開したまま、爆風の余波に耐えていた。隣では奥寺も同じくシールドを張り、身を低くしている。メテオラの爆発は凄まじかったが、なんとか凌ぎ切った。

(足が……動きづらい)

犬飼に削られた足が、じわりと重さを主張する。得意の機動力が半分以上殺されていた。それでも、小荒井は顔を上げた。

その直後——

犬飼が光の粒子となって消えるのが見えた。

(——隠岐先輩か?!)

生駒隊の狙撃手が仕留めたのだと、小荒井は咄嗟にそう思った。しかしオペレーターの人見から通信で訂正される。

『小荒井くん、犬飼を落としたのは東さんよ。北側ビルから位置を変えて二発目を当てたの』

『……マジ?!……さすが東さん!』

小荒井は一瞬だけ北側を見た。煙の向こう、どこかのビルの上に東がいるはずだった。

「よし……!」

喜びを噛み締める間もなく、頭が切り替わった。今だ。

「奥寺、行くぞ!」

二人は一気に移動する。狙いは左足を失って手負いの辻だ。二人で襲いかかる。辻は左足の失っているのを感じさせない動きで、二人を捌くが、防戦一方であった。

奥寺から通信が飛ぶ。

『小荒井、漆間が絶対近くにいる。気をつけろ!』

「わかってる!」

小荒井は歯を食いしばった。漆間恒。さっきのメテオラを仕掛けた張本人がまだ動いている。どこかで息を潜めているはずだ。

それでも今は辻を一刻も早く落とさなければならない。

南で暴れている二宮がいつこちらに来てもおかしくないからだ。

(足が思うように動かなくても……やれる)

小荒井は元々身軽な事もあってか、片足がない状態での体捌きを段々と掴んで来ていた。奥寺との連携も、じわじわと噛み合い始める。

「今だ!」

小荒井はグラスホッパーを起動し、足の不自由さを逆手に取るように辻の懐へ飛び込んだ。弧月が閃き、辻の残った右足を切り飛ばす。

「く……!」

辻が崩れ落ちながら弧月を杖代わりに後退する。しかしその先には奥寺が待っていた。弧月を振り上げ、とどめを刺しにいく——その時。

背後から南沢が飛び出してきた。

生駒隊のアタッカー。どこに潜んでいたのか、気配すらなかった。

咄嗟に反応する奥寺。しかし——

「遅いよ!」

南沢の弧月が奥寺の右肩を深く切り裂く。奥寺は堪らず後退した。

そしてその背後に、漆間恒が音もなく現れた。

サイレンサーを起動した突撃銃が、間を置かず連射される。奥寺の体が蜂の巣になり、光の粒子となって消えた。

「奥寺——!」

そこに——

北側から光が走った。先ほどとは違う場所からの狙撃が、漆間の腹を消滅させた。東だ。移動を終えた東の狙撃が、正確に漆間を仕留めたのだ。

漆間が膝をつき、崩れ落ちる。

『すまん……一瞬遅かったな』

『ナイス、東さん!』

東の通信に答えながら、小荒井は即座に南沢へ斬りかかった。鍔迫り合いになる。押し込もうとするが——じりじりと押し負けていく。片足のハンデを差し引いても、南沢の方が一枚上手だった。

(くそ、このままだとやばいな)

そこに——

「旋空弧月」

両足を失い屈んだ態勢のまま、辻が静かに放った。拡張された刃が低い軌道を描き、南沢の片足を削る。

(……マジかよ!)

小荒井は紙一重で身を躱した。このチャンスを生かすしかない。南沢がよろめく——そこに小荒井は追撃の弧月を繰り出す——が、その瞬間。

小荒井の腹を、狙撃が貫いた。

(南西側……! 生駒隊か!)

意識がひび割れていく中、小荒井は南西へ視線を向けた。廃ビルの屋上で爆炎が上っているのが見えた。隠岐が二宮のサラマンダーとハウンドのコンボを食らいながら、それでも引き金を引いたのだ。

(……すみません、東さん。せっかくフォローしてもらったのに)

三発。犬飼に二発、漆間に一発。東はリスクを承知で引き金を引き続けた。だが結局自分達は落ちてしまった。

心の中に申し訳なさが湧き上がる中、意識は静かに途切れた。

 

 

ーーーーー

 

 小荒井が脱落した直後、東に通信が入った。

『……すみません、東さん。やられちゃいました』

「大丈夫だ。俺もすぐに移動す——」

東は言葉を途中で止めた。

視線を動かさず、気配だけを研ぎ澄ます。

ビルの内部から、わずかな空気の流れを感じた。常に意識している室温と気流の差——それが、ほんの少しだけ乱れていた。

東はゆっくりとスコープから目を離した。

(……来ていたか)

扉を確認する。金属の蝶番が、数センチだけ開いている。閉めた記憶がある。確かに、閉めた。

(北東から来た奴か……。一度もスコープに映らなかったわけだ)

こまめに移動を繰り返し、隠密に細心の注意を払ってきた。それでも気配を掴まれた。東は純粋にそのことに驚いていた。怒りでも焦りでもなく、相手の技量への、静かな驚嘆だった。

(大したものだ)

東は小荒井への通信を再開した。

『すまない、これから戦いになる。読み違えた』

返事を待たず、通信を切った。

スコープを構え直す。扉の方向に意識を向けながら、東は小さく息を吐いた。

(やはり、一発撃ったら大きく移動しておくべきだったか……いや、それは言い訳だな)

 

扉の隙間から、気配が滲み出てくる。殺気ではない。もっと静かで、もっと深いもの。

——来る。

《東春秋、交戦開始》





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