漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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いつも感想ありがとうございます。毎日の励みになっています。少し忙しくなってきたので、中々返せないかもしれませんが、内容は毎回読ませて頂いてます。




20話 潮田渚③

【B級ランク戦 ROUND3 昼の部 実況】

武富桜子:「おぉー!! 生駒隊長と潮田隊員が同時にベイルアウト——! これにて生存している隊員が居なくなりましたので、 試合終了になります!  最後は潮田隊員と生駒隊長のダブルベイルアウトという劇的な幕切れとなりました! ダブルベイルアウトの場合、同時撃破扱いになりますので生存点は入りません!」

出水:「最終結果は生駒隊4点、漆間隊と二宮隊が3点ずつ、東隊が2点だな」

米屋:「生駒隊が1点差で逃げ切った形か。接戦だったな」

武富:「本当に最後まで目が離せない試合でしたね! では各隊の総括に移りましょう! まず漆間隊からお願いします!」

出水:「漆間隊は潮田の動きが良かった。東さんと生駒さんにサシで渡り合ったのはほんとにスゲーと思うよ。最後のダミービーコンは六田ちゃんが動かしてんのかな? えげつない動きしてたね」

米屋:「レーダー上だと人間としか思えない動きがいくつもあったな。爆風の中で視界が悪いし、生駒さんはやりにくかったと思うぜ」

出水:「漆間もなんだかんだ一人落として、メテオラとダミービーコンも仕込めてるから仕事してるよな」

米屋:「そうそう、東さんに落とされてなければもっと点を伸ばせた可能性は高いと思うぜ」

出水:「その東さんだけど、潮田に落とされたのは驚きだったな。俺もしかしたら東さんがあんな風に捕捉されて落とされるの初めて見たかもしれねー」

米屋:「最後の銃身を叩いた?やつは何だったんだ? あれで動き止まってたよな」

出水:「わかんねー。見たことない動きだったけど、とにかく東さんを誘導できるのはすごいと思うね」

武富:「結果は惜しかったですが、次回も楽しみな部隊ですね!!」

米屋:「二宮隊は犬飼先輩が東さんに落とされたのが痛かったな。あそこまでうまく立ち回ってたんだけどなー」

出水:「けど、あんだけ囲まれて粘る二宮隊はさすが元A級だと思ったね。しっかり機動力削ってるし」

米屋:「二宮さん自体は最後落とされちゃったけど、しっかり1人で3点取ってるからすごいよな」

武富:「元A級部隊の実力が節々で感じられる試合でしたね! 続いて東隊はどうだったでしょうか?」

出水:「東隊は序盤から苦しかったね。犬飼と辻の二人に小荒井と奥寺が押されて、東さんも潮田にずっと狙われてたからな。」

米屋:「東さんじゃなかったらもっと早く見つかってそうだよな。狙撃した後小まめに移動して、しっかり漆間と犬飼先輩を落としてるのは流石だと思うぜ」

武富:「では最後に今回勝利した生駒隊はいかがでしょうか?! 生駒隊は今期初勝利になります!」

米屋:「生駒隊は今回は配置が良かったな。前回に続いて二宮さんを落とせたのはすごいと思う」

出水:「水上先輩は射手の基本の味方に取らせる動きが上手いな。射手のお手本として参考になるいい試合だったと思う」

武富:「生駒隊と二宮隊長の戦いは非常に見応えのあるいい試合でしたね! 以上、B級ランク戦ROUND3昼の部、終了なります! 今回も非常に見応えのある名勝負でした!! 次回もお楽しみに!!」

 

 

ーーーーー

 

 

 隊室を出た後、ぼくは一人で夜の道を歩いていた。

試合終了直後の隊室は、少し気まずい空気だった。

漆間くんはソファに深く腰を下ろしたまま、ほとんど口を開かなかった。

彼は不満げな顔で腕を組み、時々ため息をついていた。

六田さんは冷や汗をかきながら、必死にフォローしようとしていた。

「漆間くん、今日は本当に頑張ったよ……! 特にメテオラのタイミングとか、すごく良かったと思う……」

「……ふん」

漆間くんは短く鼻を鳴らしただけで、それ以上何も言わなかった。

一瞬だけ、漆間くんの視線がぼくの方に向いた。何かを言いかけて、やめたような気がした。

結局、簡単な反省だけして、すぐに解散になった。

ぼくは六田さんに小さく頭を下げた。

「六田さん、今日はサポートありがとうございました。おかげで動けました」

「ううん……私こそ、ごめんね。もっとちゃんとフォローできてたら……」

六田さんは申し訳なさそうに微笑んだ。

その優しい笑顔を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなった。

家路を歩きながら、ぼくはさっきの漆間くんの表情を思い出していた。

不満。苛立ち。そして、どこか複雑な——自分自身への苛立ちのようなもの。

波長の乱れから、ぼくにはだいたいわかった。

自分が1点しか取れなかったこと。

ぼくが生駒さんと引き分け、東さんを倒したこと。

それらが、漆間くんの中で複雑に絡み合っているんだと思う。

……そっとしておいた方がいい。

漆間くんは、きっと一人で消化するタイプだ。

あの表情は、ぼくがE組で見てきたものに似ていた。

挫折して、復活する時の顔——苛立ちと、静かな決意が混じった瞳。

心配する必要はない。

むしろ、あの表情を見ると、ぼくは少し安心してしまう。

漆間くんは、きっとこれから、もっと強くなる。

ぼくも負けないように頑張らないといけない。

夜風が冷たい。

ぼくはコートの襟を立てて、空を見上げた。

東さんを倒したときの高揚は、もう完全に引いていた。

残っているのは、ただ静かな疲労と、胸の奥に残る小さなざわめきだけ。

ぼくは小さく息を吐き、ゆっくりと家路を歩き続けた。

 

ーーーーー

 

 その夜も、夢を見た。

暗い場所で、誰かを刺している。手が、止まらない。

目が覚めた時、ぼくは天井を見つめたまま、しばらく動けなかった。

心臓が速く打っている。指先が、微かに震えている。

……また、だ。

深呼吸を一つして、ぼくはゆっくりと体を起こした。

カーテンの隙間から、街の明かりが差し込んでいる。時計を見ると、深夜の二時過ぎだった。

眠れそうにない。

ぼくは静かにベッドを抜け出し、リビングに向かった。

電気をつけずに、窓際に腰を下ろす。街の灯りだけが、部屋をぼんやりと照らしていた。

——今日、夕食の時、父さんが笑っていた。

他愛もない話だった。仕事で失敗した話、昔の恥ずかしい思い出、母さんとの馴れ初め。母さんは最初呆れた顔をしていたけれど、やがてつられて笑い出した。

ぼくも笑っていた。

作り物じゃない笑顔で。

子供の頃、ぼくはいつも何かを演じていた。

母さんが望む「ぼく」を。怒らせない「ぼく」を。できるだけ空気になれる「ぼく」を。

「女の子だったらよかったのに」

その言葉を、何度聞いただろう。呪いみたいに、毎日。

だから自然と、人の感情の揺れを読むようになった。母さんの機嫌が悪くなる前に察して、嵐が来る前に身を縮める——それがぼくの生き方だった。

父さんは優しかった。でも、逃げた。

それが一番、怖かった。

優しい人でも、逃げる。ならばぼくは誰を信じればいい——そう思っていた時期が、確かにあった。

でも今は違う。

父さんはもう逃げない。母さんは少しずつ、ぼくをぼくとして見てくれるようになってきた。

三人で食卓を囲む。笑い声が部屋に満ちる。

——ずっと、これが欲しかった。

 

今日のランク戦のことを思い出す。東さんとは読み合って、生駒さんは連携して倒した。漆間くんと六田さんはE組のみんなに似ていて、居心地がいい。

 

でも今夜は、それよりも大切なものが胸を占めていた。

ぼくの頭の中は、今日の夕食の光景でいっぱいだった。

父さんが笑っていた。母さんが笑っていた。ぼくも笑っていた。

それだけのことが、こんなにも——胸に響く。

子供の頃のぼくが知ったら、信じないかもしれない。

あの頃のぼくにとって、家は戦場だった。

母さんの機嫌を読んで、嵐が来る前に身を縮める。父さんがいなくなってからは、もっとそうなった。

でも——父さんは戻ってきた。

逃げた人間が、もう一度向き合う勇気を持って。

それがどれだけ難しいことか、ぼくにはわかる気がした。

母さんも変わってきている。ゆっくりと、少しずつ。

三人で笑える夜がある。

——それだけで、充分だった。

この幸せを守りたい。

この力を使うのは、そのためだ。

ぼくは膝を抱えて、窓の外を見つめた。

胸の奥で、何かが小さく疼く。

この力は——正しいはずだ。

そう思い込むことで、ぼくは今夜も、自分を保っていた。

 






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