漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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漆間目線の三人称になります。




3話 漆間恒①

 

  模擬戦が始まった。

市街地Aの仮想空間に転送されるなり、漆間恒は即座にアステロイドの突撃銃を右手に展開した。迷わず前方へ連射しながら距離を取る。

(……今まで戦ってきた時の負けパターンは、全て後ろからの奇襲だった)

漆間は渚と隠密戦になった時の厄介さをよく知っていた。気配を殺し、相手の行動を先読みして死角から一気に仕掛けてくる。渚を倒すには、常に間合いを保ちながら視認し続ける必要があった。幸い、奇襲さえ警戒していれば渚の単純な戦闘力はそこまで高くない。ただし、スコーピオンと突撃銃では接近戦での取り回しの良さが違うため、漆間は適度に距離を保ちながら戦う必要があった。

漆間は突撃銃を連射しながら建物の間を移動した。視界に渚の姿を捉え続けようとする。渚の小柄な体躯が、瓦礫の影にちらりと見えた。

だが、次の瞬間——

渚は弾幕の隙を縫うように建物の影に滑り込んでしまった。途端にレーダーから姿が消える。バックワームを起動したようだ。

「ちっ……」

漆間は即座に判断した。隠密合戦に持ち込まれたくなかったが、先手を取るための行動に移す。

メテオラを起動。四分割したキューブを建物の影に向かって射出する。爆発が連続して起き、コンクリートが砕け散り、大量の煙と瓦礫が舞い上がった。視界を奪う煙幕を利用して、漆間もバックワームを起動させて移動する。

(当初の作戦とは違う展開になったな)

漆間自身、正面戦闘より隠密戦闘で真価を発揮するタイプだったため、この変化を悪いものとは捉えていなかった。渚の接近戦の技術は確かに優れているが、昨日B級に上がったばかりだ。経験値とトリガーの運用精度ではまだ自分が上のはずだ。

(それに、仕込みはもう終わっている)

漆間はあらかじめ建物の間に仕掛けていたダミービーコンを一つ起動させた。通常のダミービーコンは規則的な動きしかできないが、人間らしい不規則な動作をプログラムしておけば、相手を十分に騙すことができる。漆間は自身をダミービーコンから見て反対側に潜ませた。

渚が近づいてきた。ダミービーコンに反応して動きを止める。どうやらダミービーコンの存在を知らなかったらしい。隙だらけだった。

(よし……後ろを取った)

漆間は無防備な渚の背後に完全に回り込んだ。

 

 

ーーーー

 

 その時、ふと頭の中に過去の記憶がよぎった。

――六田梨香と出会ったのは、入隊して数ヶ月後のことだった。

本部の一角でC級の隊員たちが大声で話していた。

「あの六田ってオペ、並列処理が致命的に苦手らしいぜ。誰とも組めねえって本部で話題だ」

漆間は不快感を覚えながら通り過ぎ、訓練場で彼女を見つけた。気づいたら声をかけてしまっていた。

「……本当のことですから、言い返す資格がないんです」

控えめな六田の態度が癪に障った。事情を聞き出した後、漆間は気まぐれか、柄にもなく提案した。

「六田先輩と俺が組むのはどうですか。俺は一人でポイントを稼げる。六田先輩は俺1人をしっかりサポートしてくれればいい。」

彼女は最初戸惑っていて漆間に悪いと断ろうとしていたが、漆間が更に、『自分も嫌われていて隊を組めそうにない』や『隊員が少ない方が金が稼げるから嬉しい』などと発言したことで最終的に頷いた。

こうして漆間隊は結成された。

B級初参戦で8位という結果は上々だった。その戦い方故の他のチームからの大量の罵声は聞き流した。だが、二宮隊、影浦隊、弓場隊、生駒隊……上位の壁は厚かった。真正面からの戦闘は圧倒的に不利で、連携の取れた複数人隊から効率よくポイントを奪うのも想像以上に難しかった。

(……一人では限界がある)

そして潮田渚。

学校で初めて会ったとき、虫も殺せなさそうな小柄な少年だと思った。女の子のような顔立ちで、放っておいても害にならない存在。

なのに。

訓練場でバムスターを5秒で倒す姿を見たとき、漆間は思わず声をかけてしまった。人と関わるなど、珍しいことだった。

そして初めて本気で敗北した瞬間、漆間は強い印象を抱いた。静かに獲物を狙うヘビのような、冷徹で予測不能な捕食者の影。

(……あいつを入れたら、A級が見えてくるかもしれない)

そんな考えがよぎる。

だが同時に強い抵抗もあった。

自分の力で六田との夢を叶えたい。何より、潮田渚に頼るのが癪だった。

 

ーーーー 

 

 背後に回り込んだ漆間は反対側に用意していたもう一つのダミービーコンを起動させる。渚の意識がそちらに向いた瞬間、漆間は十メートルほどに距離を一気に詰めた。サイレンサーを発動し、突撃銃を構える。

(終わりだ)

引き金を引こうとした、その刹那——

渚の左手から、拳銃型のトリガーが現れた。

アステロイド。その銃口は、渚の視線とは逆方向——漆間の額に向けられていた。極めて正確な一撃が放たれる。

眉間を、冷たい光が貫いた。

【模擬戦終了。勝者:潮田渚】

仮想空間から隊室に転送され、漆間は天を仰ぐ。

「……は?」

頭の中で、さっきまでの展開がぐるぐる回っていた。

(拳銃……? いつから使えたんだ、あいつ。というかなんで俺の方を見ずに当てられたんだ?……俺の動きを、完全に読んだのか?)

気づいたら、潮田渚が静かに横に立っていた。相変わらず小柄で、女の子のような顔立ちの少年が、漆間を見下ろしていた。

「……おい、チビ。お前、どうやって俺に当てたんだよ」

渚は少し申し訳なさそうに、でもはっきり答えた。

「……運だよ。正直、身代わりに騙された時は負けを覚悟した。でも、僕ならあの配置であの角度で奇襲すると思ったから」

六田梨香がモニター室から慌てて飛び出してくるのが見えた。彼女は目を丸くして二人を交互に見ていた。漆間はゆっくりと立ち上がり、渚をじっと見つめた。

(こいつの土壇場の強さは、俺の想像を遥かに超えていた)

潮田は小さく頭を下げた。

「漆間くん……約束、守ってくれるよね?」

漆間は深いため息をついた。漆間としては渚に頼るのは未だ不満ではあったが、ここまでされて断ることはできなかった。

「……ああ、約束は約束だ。だが人数を増やすからにはA級を目指すぞ。A級には固定給があるからな」

漆間は不満そうな顔をしながらもその口の端は、少しだけ上がっていた。

B級ランク戦開始まであと3日






初めて投稿したけど意外とお気に入りしてくれる人が多くて感謝感激
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