漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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誤字報告ありがとうございます。助かってます。





6話 B級ランク戦ROUND1 ②

 村上鋼は柿崎隊の銃撃をレイガストでいなしながら戦況を分析する。

(……すみません、来馬さん、太一……)

村上は、北西方面から不審な銃撃を受けていたことを思い返した。

——自分があのとき、「柿崎隊の可能性がある」と来馬たちに進言したのが、すべての始まりだった。

その判断ミスが、彼らを挟み撃ちの危機に陥れてしまったのだ。

 

急いでモール内に突入したが、すでに来馬も別役も足や腕を欠損した後だった。一連の動きはダミービーコンを所持する漆間が起こした可能性が高い。村上は胸の内で強く歯噛みした。

 

(俺のせいで……来馬さんと太一を危険な目に遭わせてしまった)

鈴鳴第一のエースとして、隊を護るのが自分の役目だというのに、判断を誤った。来馬や別役に顔向けできない。申し訳なさで胸が熱くなった。隊のみんなが信じて頼ってくれているのに、自分のミスで皆を危機に晒してしまった。

 

その時、視界に柿崎と照屋の姿が入った。二人ともシールドを展開して応戦している。

一刻も早くこの2人を廃除して隊に戻らなければならない。

 

「……スラスターオン」

スラスターを全力で噴射させ、盾を構えたまま照屋に体当たりを仕掛ける。照屋は咄嗟にシールドで受け止めたが、村上の突進力に耐えきれず大きく吹き飛ばされた。

その隙に村上は一気に柿崎に肉薄した。

柿崎は突撃銃を連射して応戦するが、村上はレイガストをシールドモードに展開して全ての弾を弾き返す。そして右手に持った弧月を振りかぶる。

「させるか……!」

柿崎が弧月を構え直すが、村上の動きは速かった。左手のレイガストをブレードモードに切り替える

「スラスターオン」

一閃。

 

村上の放った弧月の横薙ぎを柿崎は弧月を両手で持つことでなんとか受け切る。その瞬間、がら空きになった胴体をシールドごと、村上のレイガストが真っ二つに切り裂いた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》 

 

「隊長……!」

照屋が叫ぶ声が響いた。

村上は息を整えながら弧月を構え直した。その胸には目の前の敵を一刻も早く廃除する強い意志があった。

その直後——

ホール全体に複数の爆発が連続して起こった。

メテオラだ。

大量のキューブが爆発し、炎と衝撃波がモール内を飲み込んでいく。

「……!」

村上は咄嗟にシールドを展開して身を守ったが、爆風に体が煽られる。

(誰だ……この爆発は!?)

 

 

ーーーー

 

 漆間恒は左足を失い、片膝をついた状態で荒船を睨んでいた。

(……ちっ、状況はあまり良くねえな)

 

先ほどまで、ダミービーコンによる陽動が上手く決まり、狙い通り柿崎隊の巴を取り切ることができた。しかし突然現れた荒船の旋空弧月により左足を失ってしまい事態は急変した。漆間は強い苛立ちを感じながら冷静に頭を回転させる。

(チビが外側でちゃんと働いてんのに、俺がここで終わるわけにはいかねえ。それに……仕掛けはもう終わってる)

 

漆間は荒船がこちらに迫ってくるのを無視して突然銃を放つ。放たれた銃撃は荒船に簡単に回避されたが、その先にはメテオラのキューブが置いてあった。銃弾によりキューブは爆発し、連鎖的に爆発するよう付近や上階に仕掛けてあったキューブも爆発。3階全体が炎と衝撃波に包まれた。

 

六田が計算した【爆発を喰らわない位置】に移動した漆間はその爆発に合わせて、ダミービーコンを起動し荒船に向かって投擲する。自身はバックワームで煙にまみれた。

向かってくるレーダ反応に荒船は即座に反応し、弧月を振る。しかし刃が切り裂いたのは、漆間が投擲したダミービーコンだった。

 

「っ……!」

漆間は背後からサイレンサーを発動した突撃銃で荒船を狙い撃つ。しかし、荒船は素早くシールドを展開して急所を防ぎきった。

(堅えな……だが足は削れた)

 

漆間はすぐにカメレオンを展開して姿を消した。荒船はダミービーコンを警戒し、迂闊に攻撃を仕掛けてこない。その隙に、漆間は素早く移動を開始した。目標は鈴鳴第一の残党だ。荒船の目線を切ったところでバックワームに切り替え、接近する。

 

鈴鳴第一はメテオラの爆発をシールドで防いでおり、移動ができずに足止めされていた。来馬と別役が必死に守りを固めている。

漆間は来馬の後ろに落ちるようダミービーコンを緩く投げる。落ちる瞬間にダミービーコンのレーダーをオンにする。

「っ!?」

来馬が反応した瞬間、漆間はカメレオンを発動し、距離を詰める。鈴鳴は複数のレーダーに反応できず、漆間は容易来馬の背後に忍び寄った。背中に銃口を当てる。そのまま至近距離からアステロイドを叩き込んだ。

「なっ……!」

 来馬は背後から突然現れた漆間の銃撃を避けることができず、戦闘体が限界を迎えた。

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

 

「来馬さん!!」

別役の叫び声が響く。続けて漆間は別役にも銃口を向ける。そのまま引き金を引こうとした瞬間――

村上鋼の弧月が漆間の側面を襲った。

避けきれなかった。

村上の強烈な一撃が漆間の体を捉え、上半身と下半身を真っ二つに切り裂いた。

(……くそ、やってくれたな)

 

漆間のトリオン体がひび割れ、急速に崩れていく。体が光に包まれていく中、漆間は近くに仕掛けておいたメテオラの置き玉に銃口を向ける。

「……これで……終わりじゃねえ……」

引き金を引く。

 

《戦闘体活動限界――緊急脱出》

漆間がベイルアウトするのと同時にメテオラのキューブが爆発し、ホール内に連鎖的な大爆発が巻き起こった。炎と衝撃波がモール内を飲み込み、視界を遮る煙と瓦礫が飛び散る。

その瞬間、モール外から一発の狙撃が村上の腹部を貫いた。

村上の腹に大きな穴が開く。

「ぐ……!」

村上は無表情のまま、即座に弧月を構え直した。

荒船哲次が別役に向かって弧月を振り下ろす。村上は咄嗟に飛び込み、レイガストで荒船の攻撃を弾き、別役を守った。

しかし——

 

後ろから照屋が突撃銃を連射した。

別役のシールドをすり抜け何発かの弾が命中し、すでにトリオン漏出過多だった別役の体が限界を迎える。

《戦闘体活動限界緊急脱出》

別役が光に包まれ、べイルアウトした。

 

ーーーー

 

 作戦室のモニターが激しく点滅していた。

六田梨香は息を詰めて画面を見つめていた。漆間恒の反応が突然途切れ、「べイルアウト」の文字が浮かび上がる。

「……漆間くん……!」

 

指が小さく震えた。、村上の一撃で倒された瞬間だった。

しかし、すぐ隣のポイント表示が彼女の目を引いた。

漆間隊 3点

 漆間が左足を失いながら懸命に戦った結果だった。

だが、その液晶を見るたびに六田の胸の奥は重く沈んでいく。

(私が……もっと、ちゃんとサポートできていたら……)

——並列処理の弱さ。

——敵と味方の動きを同時に追えない、自分の限界。

「ただ見ているだけ」——その言葉が、胸の奥で鋭く抉った。

 

 勿論六田はダミービーコンのオンオフやメテオラのキューブを撒く位置など、1人に特化してサポートすることで漆間の戦闘力を最大化することには成功していた。その感謝を漆間は不器用ながら伝えているのだが六田はそう思えなかった。六田にとってそんなことはオペレーターの通常業務であり、本来なら他の様々な仕事と平行して行われるべきものだと思っていた。六田の中で申し訳なさが、胸の奥から込み上げてくる。

 

 (漆間くん……ごめんなさい。私がもっと役に立てていたら、こんなに無茶をしなくて済んだのに……)

六田は唇を噛んだ。

 

 漆間との出会いを思い出す。あの時、本部で陰口を叩かれていた自分に、漆間はぶっきらぼうに声をかけた。

「俺と組まないか。六田先輩は俺だけに最高のサポートをしてくれればいい」

 

 あの言葉に救われた。自分が抱える『ある事情』にはどうしてもお金が必要だった。利害の一致から始まった2人の関係だがいつしか六田にとって漆間は大切な存在になった。だが、六田は考える。今の自分はあの時の約束を十分に果たせているだろうか、と。

 

 潮田渚が入ってきてからも、同じだった。

渚が隠密で素晴らしい働きをしてくれているのに、彼女はただ位置情報を伝えることしかできていない。漆間が渚を認め、少しずつチームとして動くようになってきても、自分はその橋渡し役として十分に機能できていない。

(私……本当に、漆間くんの力になれているのかな……)

申し訳なさと無力感が、六田の胸を締め付けた。モニターを見つめる視線が、少しぼやけた。

 

 その時、漆間から通信が入る。

「……落ちてすみません。この後はチビがいるから大丈夫だと思います。六田先輩は……チビのサポート、よろしく頼みます」

六田は一瞬、言葉を失った。漆間がそんな風に「頼みます」と言うのは、初めてだった。

 

 (ごめんなさい、漆間くん……。私、もっと頑張らないと……)

六田梨香は静かに深呼吸をした。先程の狙撃の弾道から居場所を解析する。漆間が諦めずに作ったチャンスを活かさなければならない。

『渚くん、これから穂刈さんの位置を伝えます』

 

自分の弱さを、今日も痛いほど感じながら。

 

 

 

 

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