漆間隊の暗殺者   作:気高き犬

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ワートリ最新話今回も最高ですね。読んでると自然とモチベ上がります。




8話 半崎義人①

 半崎義人は基地の屋外訓練場で、イーグレットを構えながら静かに息を整えていた。

スナイパーの合同訓練。B級以上の狙撃手が集まる定期的な場だ。今日はいつもより参加者が多く、遠くに荒船隊の他の2人の姿も見えた。

(……集中しろ)

半崎は照準を合わせ、仮想標的を撃つ。正確に命中する感触が手に伝わる。しかし、集中しているはずの頭の片隅に、前回のランク戦の記憶がよぎった。

──何もできなかった。

高層ビルの屋上で、気配を殺した潮田渚に背後を取られた瞬間の背筋が凍るような冷たい気配。気づいた時にはすでに光の粒子になっていた。

あの小柄な少年の動きは、半崎がこれまで体感したことのない動きだった。これまでのランク戦で半崎は当然何度も斬られたり撃たれたりしてきた。しかし前回のランク戦で渚にされた奇襲は悪夢として半崎の脳裏にこびりついていた。

(……潮田渚、あいつは一体……)

半崎は軽く頭を振って集中を戻そうとした。その時、訓練場の端で小さな人影を見つけた。

潮田渚だった。

イーグレットを構え、基礎的な狙撃の練習をしている。半崎は一瞬、動きを止めた。気まずさが胸に広がる。話しかけるべきか迷ったが、結局足が勝手に動いていた。

「……潮田」

声をかけると、渚はゆっくりと振り返った。小柄な体躯と、女の子のように柔らかい顔立ち。戦場で見せた冷徹さとはまるで違う、穏やかな表情だった。

「あ、半崎くん……こんにちは」

渚の声は静かで、優しかった。半崎は少し警戒心を保ちながらも、毒気を抜かれるのを感じた。自然と口元が緩む。

「合同訓練に来てたのか。……この前のランク戦凄かったな」

「いえ、こちらこそ。急に後ろから……すみませんでした」

「……マジでダルかったよ」

 

 渚が小さく笑うと、半崎もつられて苦笑した。気まずさは残っていたが、渚の柔らかい雰囲気に、半崎の肩から力が抜けていく。

やがて、半崎は自然と口を開いた。

「なあ、潮田。お前アタッカーだろ? なんでスナイパーの合同訓練に来てるんだ?」

渚は少し照れくさそうに答えた。

「前回の戦いで……遠くからでも漆間くんを助けられたらと思ったんです。一応狙撃は前に少しやったことがあって」

半崎は少し驚いた。渚の目には、純粋にチームを想う気持ちが宿っていた。

「そっか……。でもどうせやるなら誰かに教わった方がいいよ。潮田がいいならうちの隊長に会わせてやるよ。隊長は元アタッカーでちょっと前にスナイパーに転向した人だから、何かヒントになるかもしれない」

半崎は渚を連れて訓練場の奥へ移動した。隊長の荒船哲次は一人で黙々と練習をしていた。

「隊長、潮田渚です。アタッカーですが狙撃を学びたいと言っています」

 

「……半崎を倒した奴じゃないか。いいぞ、構えてみろ」

荒船は渚をじっと見てから、イーグレットを構える渚の姿勢を観察した。数秒後、わずかに目を見開いた。

 

「……だいぶ基礎ができてるな。どこで習ったんだ?」

渚は少し困ったように微笑んだ。

「中学が……特殊で……」

荒船は冷静に頷き、渚に基本的なアドバイスをし始めた。渚が練習する姿をしばらく見つめ、静かに言った。

「この分なら地道にやれば上達するはずだ。もし本気で狙撃の練習をしたいなら、俺に声をかけろ。半崎と一緒にしごいてやる」

 

「すみません……ありがとうございます」

そこへ、聞き覚えのある声が飛んできた。

「よっ、荒船! 新入りに教えてんのか? てかこの前のチビじゃねえか!」

「来たか、スナイプ界に新しい波が」

当真勇がリーゼントを揺らして近づいてきた。横には半崎と同じ隊の穂刈篤もいる。

荒船は少し照れくさそうに肩をすくめた。

「ただの基礎だ。……お前らも邪魔すんなよ」

荒船が少し照れくさそうに言うと、渚が小さく笑った。その笑顔は柔らかく、戦場で見せた冷徹さとはまるで別人のようだった。

当真が渚を見て、ふと目を細めた。

「そういえばお前、忍者か何かか? この前の隠密の動き、普通じゃねえぞ。忍者学校とか通ってたんじゃねーの?」

穂刈が冷静に横から突っ込んだ。

「漫画の見すぎだろ、当真。」

渚は少し困ったように首を傾げた。

「忍者じゃないです……ただ、中学で訓練をしていただけで……」

当真がさらにからかい気味に笑った。

「訓練ってなんだよ。お前の中学ってスパイ養成所かなんかか?」

みんながどっと笑った。渚も照れくさそうに小さく笑って流した。

「そんな大げさな……」

その言葉に、場は一瞬和やかな空気に包まれた。

 

 しかし、渚と半崎が少し離れたところで練習を再開した後、荒船と当真の間に少し沈黙が落ちた。

荒船が静かに呟いた。

「……あいつは何者だ?」

当真は肩をすくめ、にやりと笑った。

「荒船、あいつはガチだぜ。本物だ。半崎を一瞬で仕留めた動き……ただの高校生じゃねえよ。俺も背後に回られたらヤバいと思うぜ」

 

 荒船は無言で渚の背中を見つめ続けた。その視線には、少しの興味が混じっていた。

合同訓練の場は、穏やかな空気の中に、静かな緊張を残したまま続いていった。

 

 

ーーーー

 

 

 合同演習が終わり、ぼくは隊室に戻った。

いつものように六田さんが温かいお茶を用意してくれていたので、椅子に座ってホッと息をつく。漆間くんはソファに腰を下ろしており、こっちに視線を向けて来た。

「で、結局狙撃はできそうなのか?」

漆間くんが待ちきれないといった様子で聞いてきた。ぼくは湯飲みを両手で包みながら、小さく首を振った。

「いや、ちょっと考え中かな……」

E組の頃から、ぼくはいつも「近距離」が得意だった。

トリオン体になっても、その感覚は変わらなかった。

指先で風の流れを感じ、足音の間隔を数え、相手の息遣いを感じ取る。 それこそが、ぼくの「暗殺」だった。

「一応、半崎くんに荒船先輩を紹介してもらったから、その人に教えてもらうつもり。でも試合で使えるのはまだ先かなー」

漆間くんはため息をついた。

「なんだよ、次の相手に狙撃手かいないからってわざわざ訓練に行ったんだろ?」

その言葉に、ぼくは少し動揺する。そして、漆間くんを援護するためだとは何故か言いたくなかったのでそう誤魔化したのを思い出した。

「まあ……そうなんだけど、基礎からやり直した方がいいかなって思って」

六田さんがお茶を注ぎ足しながら、柔らかい声で話題を振った。

「次のランク戦は香取隊と王子隊が相手だよね……」

漆間くんが少し身を乗り出した。

「ああ。あの二隊は上位陣の中では点が取りやすい部隊だ。ここでしっかり点を取りきりたい。マップ選択権は香取隊にあるから、今回も俺たちには選べないけどな」

ぼくは静かに二人の会話を聞きながらビデオで見たランク戦を思い出す。

香取隊は隊長でエースの香取葉子さんが強力なチームで、よくも悪くも香取さんの調子に左右されることが多いようだ。逆に王子隊は突出して強い人はいないけど連携が固く機動力が高い。ぼくらは今B級4位。この人達に勝てればA級昇格も見えてくる。

 漆間くんが「点を取りに行きたい」と言うぐらい今はチャンスだと思う。

ぼくは漆間くんに今回の作戦を確認する 

「今回も連携はしなくていいんだよね?」

 

「ああ、その場の流れでターゲットは変えればいい。六田先輩は、一応メテオラとダミービーコンを使った時はすぐにマーカーをしてもらう感じでお願いします」

 

「わかりました。渚くんが間違えないように頑張ります」

六田さんが柔らかく微笑んだ。

ぼくは小さく頷き、湯飲みを両手で包んだ。

 

――B級ランク戦第2戦まであと1日

 

 

 

 

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