ブサイク得点王だった俺、最強スペックでサッカー人生やり直し〜今度こそ美女も世界一もすべてを奪い取る〜 作:クズ吉
2014年9月 愛知県
横浜MS戦を終えて2日後、今日は茉那の部活が休みである月曜日。
俺と茉那は定期的に月曜日に逢瀬を重ねていた。
いつもの近所の公園でサングラスと帽子をつけて茉那を待つ。
「お兄ちゃん!お待たせ!」
「俺もいま来たとこだよ茉那」
公園に着いてそう時間が経たないうちに、制服姿の茉那が現れた。
「ねぇ今日は相談乗ってほしい事あるんだけど、お兄ちゃんの家行っていい?」
「俺の家?別にいいけど母さん居るよ?」
「いいの。真面目な話だからちょっと長くなるかもしれないんだ」
「そっか。分かった」
俺達は俺の自宅に移動する。
・・・・・・
ガチャッ
「ただいまー」
「あれ?早かったね。…茉那ちゃんも一緒?」
玄関のドアを開けると丁度廊下に母さんがいた。
「うん、ちょっとそこで会って。何か相談したいことがあるんだって」
「すいません。進路相談を大雅お兄ちゃんにしたくて…おじゃましていいですか?」
茉那が母さんに聞く。
「もちろんいいよー。大雅、ちゃんと聞いてあげるんだよ」
「うん、分かってる」
「後でお菓子持ってくね〜」
「ありがとう」
母さんはリビングに戻ろうとする。そこへ茉那が話しかけた。
「ありがとうございます。あ、あと私が来たこと家族に言わないで貰ってもいいですか?」
「ん?別にいいけど…」
「家族に中々相談しづらい事があって…大雅お兄ちゃんなら相談しやすいんです。でもそれを知られたくないと言うか…」
「分かった。責任重大だねー大雅?」
母さんはあまり茉那に突っ込むことはしなかった。
茉那が家族に相談しづらい原因は俺にあると思うので、なんか母さんを騙してる気になるがしょうがない。
「ちゃんとできる限りの事はしまーす」
「お邪魔します」
俺は階段を登り2階の自室へと向かう。茉那も俺の後ろについてくる。
・・・・・・
「ふぅ…」
自室に入り、俺はベッドに、茉那は勉強机の椅子に座る。
「相談したいことって進路相談だったんだ。でもまだ茉那って中2だよね?」
「うん。まだ中2だけど、もう中2というか、高校だけじゃなくて高校卒業後もどうしようかなって」
「確かに中2っていうと一番大事な時期かもしれないね。うーん。何から話そうか。とりあえず高校に入ることは決めてるんだ?」
「うん勿論。中卒じゃ後々困るだろうから」
人の進路相談に乗ることは前世も含めて初めてだ。彼女の悩みを上手く解決してあげられたらいいけど。
「茉那は将来何をしたいの?それによっては中卒でも困らない場合はあるんじゃない?」
「将来何したいかは分からない。分からないからとりあえず高校は卒業しておきたいって気持ちがある」
「そっか。まぁでもやりたいことが明確じゃないなら最低高卒の資格はあったほうが良いのは確かかもね。茉那は将来仕事するの?」
「何その質問。そりゃ仕事するでしょ。仕事しなきゃ生きていけないじゃん」
茉那は当然でしょといった顔で俺にそう言う。
茉那の考えはある意味では正しい。でもそれだけが正解ではない。
俺はそれを茉那に知ってほしかった。
「うーん。俺はそうは思わないかな。世の中には無職って呼ばれる人達がいて家族からの援助だったり、生活保護を受けたり、過去の貯金とか投資で生きているよ」
「それは…元々お金持ちだったか、他の人だったり過去の自分が結局働いてるでしょ」
「うん。でも働かずに生きてくことはできるよ」
「そんなの一握りの人だけだよ」
確かに働かずに生きていくことは難しいのかもしれない。でも俺は茉那の選択肢を狭めたくはなかった。
「茉那がその一握りの人間だとしたら?」
「え?」
茉那は驚いた顔をした。
「例えば俺が一生茉那の事養ってあげるよって言ったら茉那はどうする?それでも仕事がしたい?」
「ん、ん〜?」
茉那は悩んでいる。先生にも家族にもこんな事を言われる機会はきっとないだろう。
「私は…私はそれでも仕事がしたいかな」
「どうして?」
「だってお兄ちゃんにおんぶに抱っこで一生生きていくのはカッコ悪いと思うから。それにお兄ちゃんが明日もし死んじゃったら養ってもらうこともできなくなるし」
「茉那は…自立心が高いんだね。それに現実的でもある。良いと思うよ。でもそういう生き方もあるってことは知っておいてほしいかな。仕事だけが人生の全てじゃないし」
俺が茉那の立場だったら喜んでぐーたら人生を送るというのに。なんていい子なんだろう。
俺は前世でサッカー選手を引退してから死ぬまで個人投資家という名の無職だった。
若い頃から投資をしていて自分一人くらいは面倒見ることができたのだ。
毎日食っちゃ寝、アニメゲーム見放題し放題の日々だった。
しかし健康診断や人間ドックは面倒臭くてやらなかったら、肺がんにかかっていて既に手遅れの状態でお陀仏になった。
まぁでも無職でいることは気楽で良かったな。友人はいなかったがそれが逆に精神を安定させる事に繋がる。
他人と関わると良くも悪くも影響を受けるものだ。
きっと茉那にとって俺という存在は焦燥感を生む源泉になっていることだろう。
なにせ俺は16歳にしてサッカーで飯を食えている。そして将来もサッカーをしていることが予想されるのだ。
茉那は「進路相談」といったが俺の進路は明確に決まっている。
そんな人物を間近に感じながらも、自分の進むべき道が分からない。
俺が逆の立場だったら苦しくて離れたくなるかもしれない。
「よし、じゃあ仕事はするとして、茉那は子供欲しいとかそういう欲求はある?あるんだったら出産と子育てがあるからそれによって仕事も考えなきゃだけど」
俺はとりあえずパズルのピースを散りばめるように茉那の将来の可能性を広げる事にする。
「子供…うーんどうなんだろう。今はお兄ちゃんの側にいられればそれでいいけど、将来は子供欲しいって考えも浮かんでくるのかも」
「そっか。茉那は俺の側にいたいんだね。俺は2年後にヨーロッパに行く予定だけど、茉那もヨーロッパ来る?」
「行けるならそりゃ行きたいけど…私でも行けるのかな」
「行く気とお金さえあれば世界中のどこへだって行けるよ。茉那は女の子だから行ってほしくない国も沢山あるけど」
茉那は「お金さえあれば・・・」と呟く。
引っ掛かるのはやっぱりそこか。
「茉那は出来る限り俺に頼らず俺の側で生きていきたいんだよね?」
「うん」
「じゃあさ、まずお金を稼ぐ事から考えたら?」
「お金を稼ぐ事から?」
茉那は俺に聞き返す。
「そう。例えば高校生がお金を稼ぐ方法といえば一般的にはアルバイトだけど、アルバイト禁止の高校には行かないって決めるとか」
「なるほど」
「俺みたいに通信制の高校にすれば高卒の資格も取れて暇もあるからお金を稼ぐ時間もできるし」
「うーん」
茉那は迷う素振りを見せる。
「通信制は嫌?高校でも友達が欲しいなら確かにおすすめはしないけど」
「嫌ではないんだけど…何かを選ぼうとすると何かを手放さなきゃいけないんだなぁって」
「うん。確かにそうだね。今茉那の眼の前には無限の選択肢があってそのどれかを選ばなきゃいけない。辛いと思うけど、お兄ちゃんは茉那が見えてないと思う選択肢を教えることしか出来ない。最後に選択するのは茉那だから」
「分かった…ありがとうお兄ちゃん」
コン、コン、コン
自室のドアをノックする音が鳴る。ドアを開けると母さんがお菓子を持ってきてくれたようだ。
「どう?順調?」
「うーんさらに悩ませちゃったかも」
「えー?どういうことよ」
「えーっと大雅お兄ちゃんは私の可能性を広げようとしてくれるんですけど、可能性が広がれば広がる程どれか一つの道を選ぶのが怖くなるみたいなそんな感じです」
事情を聞く母さんに茉那が自分の言葉で説明してくれた。
「なるほどねー。茉那ちゃんの年齢だと本当に何にでもなれるし、何でも出来るからねー」
「お母さん何か同じ女性としてアドバイスない?」
「女性としてー?それならやっぱり女の子にはタイムリミットがあるってことかな」
「タイムリミットですか?」
茉那が母さんに聞く。
「うん。子供を産む事が出来るタイムリミット。遅くても35歳くらいかな〜。それまでに自分が子供を産む人生を歩むのか、子供を産まない人生を歩むのか決めなきゃいけない。
私は子供…大雅がお腹にできた時に仕事を辞めたんだけど、子供を持つなら仕事をどうするのかも決めなきゃならない。子供を持たないなら仕事をずっと続けられるけどね。」
「大雅お兄ちゃんのお母さんはお仕事続けたかった気持ちはありますか?」
「あったよ。私はプロバレー選手だったんだけど子供が出来る前は一生バレーしたいと思ってた。だけど大雅が生まれた後はそんな考えはパーよ。私が大雅の側にいなきゃっ!って私の脳が大雅に全部作り替えられちゃったの」
「そんなに変わるんですね…」
茉那は母さんの体験談に感心している。
俺は母さんがバレー選手を続けたかった事を知らなかったので複雑な気持ちだ。
「まぁ世の中には自分の子供を放置する親もいるから皆が皆そうとは限らないんだけどね。
でも一つ言えるのは、出来れば30歳を迎える前に行きたいところには行き、食べたいものを食べ、好きな人には好きと言うこと。それが子供を産むとしても産まないとしても女の子としておすすめする生き方かな」
「はい…」
茉那は神妙な面持ちで返事をする。
「あっ、言い忘れたけど私今ママさんバレーやってるんだ。結構楽しく今もバレーやれてるよ。えーっとね、一度一つの道を選んだら、それで他の道は閉じてしまうかもしれない。
だけど進んだ道の先に似たような道をもう一度選ぶチャンスが来ることもあるんじゃないかな」
それは母さんからの精一杯の励ましだったのだろう。茉那にも意味は通じたようで感銘を受けた様子だ。
「焦らせるようなことばっかり言っちゃった気がするけど、焦りすぎも楽しくないから程々にね」
「はい、ありがとうございます!」
「どういたしまして。それじゃおばさんはここらで去りますねー」
「ありがとう。お母さん」
母さんは部屋を出ていく。
「さてと母さんが来る前は何を話してたっけ」
「ごめんお兄ちゃん、私帰る」
「え?」
「私、お兄ちゃんに甘えてた。もうちょっと自分で何をしたいか、どこへ行きたいか、どんな事を仕事にしたいかまとめてくる!」
よくわからないが茉那の心に火がついたようだ。目が爛々としている。
これは母さんのおかげかなぁ。
何にせよ茉那の気持ちが上向いたなら良いことだ。
しかし母さんに負けた気もして少し落ち込む俺だった。
俺は人生2度目の男・・・